題名:暗殺は計画的に    劇団:劇団くるめるシアター    作者:上野 小夜  ---------------------------------------------  著作権について  ・本ページで公開されている作品の著作権をはじめとするすべての権利は   全て作者が保有いたします。  ・このページからダウンロードできる脚本は全て無料で読んでいただいて   結構です。ただし、舞台等で御利用の際は、作者からの上演許可を取っ   ていただくようお願いいたします。  ・必要に応じての改編等も、作者への許可の上行って下さい。  ・著作権料が発生する場合、指定された額を作者へ送金を忘ないように   お願いいたします。本作品おける著作権料は、下記に示す通りです。  ---------------------------------------------   小学校、中学校、高校、その他学生の無料公演・・無料   アマチュア劇団の公演、学生の有料公演・・・・・5000円   プロの劇団の公演・・・・・・・・・・・・・・・全チケット収入の1割     (全チケット収入の一割が5000円に満たない場合は5000円)     [2]の場合、公演の2週間前までに、     [3]の場合、公演後2週間以内にお支払いください。  --------------------------------------------- 「暗殺は計画的に」 斉藤タカシ…害虫駆除会社社長。適当。のんき。 高野ケイコ…害虫駆除会社経理。しっかり者。いつも社長に小言を言う 酒井キョウヘイ…依頼人。善人だがちょっと頼りない。 山内エイジ…消費者金融の二代目社長。横柄。甘やかされてきたため苦労を知らない。 秘書…山内の秘書。誠心誠意社長に仕えるいい人。 中島…用心棒。仕事は出来るが、ちょっと冷たい。 第一場  酒井がパソコンに向かっている。 殺し屋 (声だけ)我々のサイトへようこそ。初めに断っておくが我々のサイトは法に触れるものである。あなたは犯罪者となる覚悟があるか? 酒井  はい。 殺し屋 (声だけ)そうか。では、早速だが相手を教えてもらおう。 酒井 相手は山内エイジ。消費者金融の社長です。 殺し屋 (声だけ)わかった。尚、依頼金は前金で100万円。その後成功報酬として1000万円をもらうことにしている。 酒井 はい。 殺し屋 (声だけ)では、早速明日事務所の方に来てもらおう。なお、依頼に来る際はアボカドを忘れないことだ。これが暗殺依頼の目印となっている。 酒井 アボカド… 殺し屋 (声だけ)これから事務所の場所を説明する。注意して聞くように。まず高田馬場駅を出て東に35歩進み、正面にある横断歩道を渡ってくれ。そこに電柱がある。電柱には必ず黒猫がいるから、その黒猫の向いている方へ20歩進み、右折しろ。すると、87歩進んだ先にカラスの住み着いたビルが見える。その8階が我々のオフィスだ。表向き害虫駆除会社を装っているが、アボカドを持っていれば大丈夫。安心して入ってきてくれ。尚、このメールはセキュリティの関係から5秒で消滅する。では、健闘を祈る。 酒井 5秒!?ちょっと!?ええー!!! 殺し屋 (声だけ、ちょっと楽しげに)5、4、3、2、1、0−!  オープニングBGM。音楽に併せて無声演技。 第二場 害虫駆除会社のオフィス。斉藤が机に座り、寝ている。電話の音。斉藤電話に出る。 斉藤 もしもし、こちら斉藤イレイザー…あ、はい。いつもお世話になっています。えっ今月の賃料? だからそれは来月お支払いするという約束では…?ええっ先月分!?先月分は支払いましたよ ナレーター (声だけ)今日の占いカウントダウーン 斉藤 あ、占いが始まっちゃう。いえ、その。仕事が来たのではい(電話を無理矢理切る) ナレーター おめでとうございます。今日の1位はカニ座のあなた。  高野、部屋に入ってくる。 斉藤 (同時に)ぬおっ!おし!よっしゃあー!! 1位だぁ! 高野 (喜びようにびくっとする) ナレーター (声だけ)今日初めて出あった人がきっとあなたに幸運を運んでくれるはず。ラッキーアイテムはアボガド… 高野 (遮って)社長!!びっくりさせないでくださいよ。なんなんですか、占いごときで…。大体今 月もこの赤字… 斉藤 (メモに夢中で聞いてない) 高野 社長!!人の話を聞いてください(帳簿ではたく) 斉藤 うっ、痛っ。(振り向いて)なんだよー、ケイコちゃんか。何するんだよ。 高野 私を無視するからです。それよりこれを見て下さい。 斉藤 もう、何だよ。 高野 いいですか?今月の依頼はゴキブリ駆除が3件だけ。締めて15万円の 収入なり。で、こちらが出費。賃料が月8万円、社長のお小遣いが3000円、 私のおやつ代が1万円… 斉藤 (遮って)あぁ、もうやめやめやめ。 全く君は何てタイミングが悪い娘なんだ。折角今日はカニ座が1位でハッピーな気分になっていたのに…君のせいで中年男のささやかな幸せは脆くも崩れ去りました。 高野 知りませんよそんなこと。大体たかが占いでしょう? 斉藤 たかがとか言うな!!しかも今日はただの1位じゃない。3週間ぶりの1位だったんだー!! 高野 どーでもいいですね。それよりこの赤字はどうするおつもりなんですか? 斉藤 そんなの何とかなるって。今年は暑いからイナゴが大量発生するかもしれないし、後は…(考えて何も思いつかない)とにかくなんとかなるって。 高野 はぁ…やっぱり何も考えてないんですね。そうだと思いました。じゃあ、とりあえず、これ(チラシを手渡す) 斉藤 えーと、害虫駆除何でも承ります!ますはご相談から… 高野 依頼が無いなら宣伝するしかありません。とにかくこれを配りましょう。 斉藤 なるほど、それはいいアイディアだ。 高野 じゃあ、行ってらっしゃい! 斉藤 えっ!?僕が行くの?君じゃなくて? 高野 当たり前じゃないですか。自分の会社のことでしょう。 斉藤 はぁ今日は依頼もないしゆっくりする予定だったのに… 高野 毎日ゆっくりしてるじゃないですか! 斉藤 わかったよー。じゃあ、準備してくるから… 高野 さっさとしてください。  斉藤「あ、でも外回りだからサボり放題!?」とか言いつつはける。高野適当に片付けたりしている。 第3場  前の通路で酒井が不安そうに事務所の方を見つめている。 酒井 このビルでいいんだよな。斉藤イレイザー。ううん…。(迷いながら中へはける)  部屋の中に斉藤が準備をして戻ってくる。 高野 じゃあそのビラはけるまで帰ってきちゃ駄目ですからね。 斉藤 わかったよー。要はなくなればいいんでしょ。なくなれば。 高野 社長?まさかチラシを捨てようとか考えていませんよね? 斉藤 いやいやいや、まさかそんなことは… 高野 私が徹夜で作ったんですからね。捨てたら…  ドアの前に立つ酒井。緊張の面持ちでなかなかドアを開けない。躊躇い、一度止めて聞き耳を立てる。 斉藤 わかった、わかったからケイコちゃん殺さないでー。  酒井、中の声が聞こえて驚く 酒井 殺さないでってまさか!?  酒井更に聞き耳を立てる 高野 利用価値がある間は殺しません。だからさっさと仕事して下さい! 斉藤 わかったよー。行きます、行きます、すぐ行きます。  斉藤勢いよく部屋を飛び出す。酒井と斉藤衝突する。斉藤は無事で酒井が倒れる。 斉藤 うわっ。 酒井 痛っ。 斉藤 あ、すみません。大丈夫ですか。 酒井 いえ、こちらこそすみません、失礼しましたー。  酒井は焦ったまま走り去っていく。 斉藤 えっ!?ちょっと!お客さん?お客さん!? 高野 お客さん!?社長、捕獲!?  音楽あり。斉藤、高野、酒井を追って走り去る。ツラで酒井に謝る斉藤高野。部屋の中では社長はウキウキとダンボールを抱えて入ってくる。 第4場 消費者金融会社社長室  山内が受話器を手に話している。手には。 山内 はいはい、何?(ノックの音)高橋が金を返さない?(ノックの音) 秘書 (山内の声を遮って)社長。山下です。 山内 (秘書の存在に気付かず)そんなこと俺に言われても知らないって。自分で何とかしろ。 (秘書に気付いて)あ、ちょうどいいや。田中来た。ああ、代わるからー。  山内、無理やり秘書に電話をおしつける。 秘書 ちょっと、何ですか!?いえ、ああ橋本さんですか。ご苦労様です。それで?高橋氏の件で…ああ、はい。では後ほど改めて電話させて頂きます。ちょっとただ今取り込んでおりまして、はい。失礼します。(山内に)いきなり人に電話を押し付けないで下さい。 山内 今、忙しいんだよ。 秘書 えー、具体的に何がどう忙しいのでしょうか? 山内 見ればわかるだろう。ほら、この間雑誌に載ってた幸運のグローブついに届いたんだって。これでキャッチボールをすると今日にもきっとステキな出会いが… 秘書 (遮って)ありません。それより、大変なことが起こりました。こちらをご覧下さい。 山内 何だ? 秘書 週刊夕日と週間古代に我が社の取立て方法に関する記事が掲載されました。 山内 えーと、何だって?「今月末まで待ってくださいと泣いて頼むと、借金取りはだったら生命保険で払えと迫り…」よく働いているじゃないか、うちの社員。 秘書 真面目に聞いてください!実際にその記事が出てから我が社の株価は徐々に下がっているのです。また、テレビなどに取り上げられれば警察も動き出すかもしれません。 山内 大げさだな。これくらいの取立てどこもやってるじゃん? 秘書 ですが、最近は弁護士などもうるさいですし… 山内 それで俺にどうしろって言うんだよ。 秘書 それは…やはり、うちの会社の取立ては厳しすぎると思います。さすがにこのご時世に内臓や角膜を売らせるのはいかがなものかと…。この際取り立て方法の見直しを図るべきではないでしょうか? 山内 はい?お前何言ってるわけ?それじゃ儲からないだろ。 秘書 しかし物には限度というものが…。それに最近脅迫状の類いも増えております。本当に刺されたりしたらどうするんですか? 山内 金貸しがそんなに弱気でどうするんだよ。金を返さないやつが悪いんだ。 秘書 まぁそれも確かにもっともなのですが…お坊ちゃまの身に何かありましたら私が会長から叱られてしまいます。 山内 おやじっ…ああもう仕方ないな。じゃあ警備を増やせばいいだろ。 秘書 併せて取り立て方法の見直しも… 山内 (遮って)めんどくさい。あ、警備は使える奴一人にしてくれよ。たくさんいても邪魔だからな。じゃあ、そういうことでよろしく。あ、ついでに橋本にも電話しといてやれよ。  山内、さっさと部屋から出て行く。 秘書 ですからそれは、私の仕事では…はあ…  音楽あり。秘書、雑誌を片付けてはける。 第5場  斉藤イレイザーの事務所内。酒井と高野と斉藤が入ってくる。斉藤、酒井がいすに座り高野はお茶の準備を している。 斉藤 どうぞ。お入り下さい。ケイコちゃん、お茶入れてー。 高野 今、入れてます! 斉藤 まぁ、どうぞお座り下さい。 酒井 ありがとうございます。 斉藤 いやー、それにしても失礼致しました。お客様なんか珍しくて。失礼ですがどちらでうちのことを? 酒井 はっはい。その、昨日サイトで見て… 斉藤 そうですか。ケイコちゃんさすがだねぇ、いつの間にサイトなんて…どんな感じなんですか?いやー、僕はパソコン系にはどうも疎くて…  高野がお茶を持って出てくる。 高野 何がさすがなんですか? 酒井 どうもありがとうございます。 斉藤 あれ?ケイコちゃん僕の分は? 高野 経費削減です。 斉藤 褒めて損した。 酒井 (徐にアボカドを取り出し)あっ、これ。例の… 高野 まぁ、アボガドですか…??はぁ、ありがとうございます。 斉藤 アボガド?アボガド。アボガド。(プロジェクトX風)そのとき、斉藤ははっとした。今日の占いだ。 ナレーター (声のみ)ラッキーアイテムはアボガド! 斉藤 もしかして僕がかに座と知ってお土産に? 酒井 はい? 斉藤 素晴らしい!!しかもあなたは今日初めて出会った人。 酒井 (高野に)あの、大丈夫ですか?何かいけなかったんでしょうか? 高野 あぁ気にしないで下さい。この人この年で占い好きで…あ、もちろん仕事はしっかりするので大丈夫ですよ。 酒井 (心配そうに)はぁ… 高野 社長、ほら落ち着いてください。酒井さんびっくりしてるじゃないですか。 斉藤 あぁ、すみません。つい興奮してしまって。そういえば自己紹介もまだでしたね。遅ればせながら私ここの会社の社長をやっております斉藤タカシというものです。 酒井 あ、どっどうも。 高野 ちなみに私は経理の高野です。 酒井 あ、どっどうも。ご丁寧に。 斉藤 あの。失礼ですがお名前は? 酒井 あっ、はい私ですか?酒井キョウヘイと申します。 斉藤 酒井さんですね。それでは酒井さんはどのようなことでお困りなんですか? 酒井 あの、大変なんです。本当に大変なんですよ。 斉藤 はぁ、まぁうちに来る方はみんなそうですよ。 酒井 やっぱりそうですよね…。私はもう寝ても覚めてもあいつのことばかり考えてしまうんです。 高野 (斉藤に)随分、焦ってますねぇ。 斉藤 きっと羽音とかが煩くて眠れないんだよ。何の虫だろうね。 酒井 (二人の言葉を聴いてない)もうすぐにでも殺してやりたいんです。あの人を人とも思わぬ虫けらを… 高野 そりゃ、虫ですからねえ。 斉藤 うーん、本当に困らされてるみたいだねぇ。それで、その害虫の姿というか形状はどのようなものなんですか? 酒井 えっ害虫?あっあぁ害虫…。まぁ、そうですね、あんな奴害虫ですよね。実は直接姿を見たことはないんです。 斉藤 あ、そうなんですか?うーん、困ったなぁ。 高野 じゃあ、具体的にどのような被害が出ているんですか?こう刺されるとか、うるさいとか… 酒井 刺される?そこまで直接的ではありません。でもうるさいのはうるさいですね。それにあいつに苦しめられている方はたくさんいます。命を落としてしまった方も多いのではないでしょうか? 斉藤 タッターイム。(咳払いをして)酒井さん、ちょっと我々は二人で打ち合わせがありますので…  高野、斉藤端の方へ行く。 高野 これはさすがにやばくないですか?上手く断りましょうよ。 斉藤 うーん、そのほうがいいかなぁ。でも幸運のアボガドを持ってきた人なのに… 高野 社長―、そんなこと言ってる場合じゃないですよ。 酒井 (お茶を飲みながらきょろきょろして)ここ、本当に殺し屋なのかなぁ?  斉藤、高野端から戻ってくる。 斉藤 お待たせいたしました。お話の腰を折ってしまって申し訳ありません。それで、その危険な害虫が出るのはご自宅ですかそれとも職場の方に? 酒井 あっはい。いるのは主に新宿本社ビルの最上階と田園調布の自宅だと聞いています。 斉藤 最上階って…しかも田園調布!? 高野 (斉藤に小声で)もしかしてこの人すごいお金持ちなんですか? 斉藤 (高野に小声で)でも、全然そう見えないよ。 酒井 あの、私が何か? 高野 いえ、大丈夫ですよ。(斉藤に)きっとこの人は運転手とか下っ端なんですよ。 斉藤 ということはこの人のバックにはうなるような金が… 高野 ここは特別料金と称して上手くお金を… 斉藤 お主も悪よのぉ 高野 いえいえ、社長ほどでは… 酒井 あのー、大丈夫ですか?何かあくどい顔になっている気が… 斉藤 (酒井のほうに向き直って)いやいやいや、そんなことはないですよー。えーとですねぇ、大体お話は伺いましたので、次は料金のことなんですが… 酒井 はい… 斉藤 えー、今回は危険が伴う駆除であること、またオフィスと会社の二箇所ですから大体… 酒井 すっすいませんでした! 高・斉 はっ? 酒井 あの!すいません!!これしか用意できませんでした。(カバンを二人に押し付ける) 斉藤 は、はぁ(カバンを開ける)えっ?えぇー!(札束を持って驚く) 高野 たっ束ですよ(話も聞かずに札束を数えだす) 酒井 あっあのどうしても依頼金の100万円に及ばず…。もうどこにも預金なんてありませんし。これでも必死にかき集めたんです。足りない分は後で何とか!!ですからこれで私の依頼を引き受けて頂けないでしょうか?(頭を下げる。そのままずっと上げない) 斉藤 (高野に)いっいくらあった? 高野 71、72、73…あ…73万円です。い…いつもの10倍くらいのお金です…。 (がばっと立ち上がり)社長!この依頼受けたほうがいいです!というか受けましょう!お願いだから 斉藤 でも、毒を持っているかもしれない害虫だし… 高野 何言ってるんですか社長!大丈夫ですよ!社長にもしものことがあっても社長の保険金は私が有意義に使わせていただきます。(斉藤を揺する) 酒井 (頭を上げる)あの、お二人とも?どうされました?やっぱり…、少な過ぎますか? 高野 いいえ、この依頼、確かに引き受けさせていただきます。 酒井 え?でも… 斉藤 簡単な仕事とはいえませんが、酒井さんのために頑張りますのでよろしくお願いします。 酒井 でも…お金のことは… 高野 何言ってるんですか。これで十分ですよ。ねぇ、社長? 斉藤 あぁ、もちろんだとも。 酒井 あ…ありがとうございます。私なんかのために…何とお礼を申し上げたら良いのか。 斉藤 顔を上げて下さいよ、酒井さん。まぁ後は我々がしっかり仕事しますので。 酒井 よろしくお願いします。 高野 では、実際に駆除を行う日ですが、酒井さんはいつなら立ち会って頂けますか? 酒井 私も行くんですか? 斉藤 そりゃあもちろん、不法侵入するわけにも行かないしねぇ… 酒井 しないんですか? 斉藤 いや、勝手に入っていいなら入らせていただきますが…まぁ出来れば酒井さんのご都合の良い時間帯の方が… 高野 でも、そんなに危険な虫なら早いほうがいいですよね?えーと、そうですね(スケジュールを確認して)明日の午後にでも伺いましょうか? 酒井 あっはい。では、それでお願いします。 斉藤 これで無事契約成立ですね。ところで、酒井さん今夜は空いてらっしゃいますか? 酒井 ええ、空いてますが… 斉藤 飲みにでも行きませんか? 酒井 はっ? 斉藤 祝杯ですよ、祝杯。今夜はぱーっとやりませんか?僕が奢りますよ。 高野 社長―。まだ害虫の正体もはっきりしないのにそれはないでしょう。大体、酒井さんにもご迷惑じゃないですか。 酒井 いえ、私は別に。 斉藤 ほーら、酒井さんもこういっていることだし。いやー、最近の若いもんは酒を飲まなくてねぇ…この娘だってすぐに何とかミルクとかカシスなんとかばかり注文するんですよ。ほんと飲む相手が出来てよかったー。 高野 ちょっと、社長ビラ配りはどうしたんですか? 斉藤 (もう聞いてない)それはケイコちゃんがやっといてよ。日本酒♪焼酎♪ウイスキー♪ 斉藤、歌いながらはけていく。 酒井 (高野に)あの、ありがとうございます。本当によろしくお願いします。 高野 すみません。本当に社長がご迷惑を。 酒井 いえ、飲むのなんて久々ですから… 斉藤 (声だけ)酒井さーん、早くー。 酒井 じゃあ、行って来ます。  酒井、はける。 高野 お気をつけて。飲み過ぎないように注意してくださいね。 高野、お茶などを片付けてからはける。 第6場(その日の夜) 舞台前方に酒井と斉藤が肩を組んで上手からふらふら出てくる。 斉藤 (酔っ払いの口調で)いやー、酒井さんもなかなかいける口ですねぇ。 酒井 飲みすぎですよ、社長さん。ほら、真っ直ぐ歩いてください。 斉藤 何の何の。まだまだ何軒でもいけますよー。おーっと、うぅ…(バランスを崩して座り込む) 酒井 ああ、もう…大丈夫ですか?社長さん。 斉藤 ハハハハ、ちょっときゅうけーい。 酒井 ちょっと、社長さん。ほら、もう。歩けないならタクシーで帰りますか? 斉藤 歩けるよ、歩けるって。(立ち上がろうとするが立ち上がらない) 酒井 わかりましたから、もうじっとしててください。(きょろきょろとタクシーを捜す) 斉藤 大丈夫だよ、駅まで行くから。 酒井 何言ってるんですか?もうとっくに終電行っちゃってますよ。 斉藤 あれ?もうそんな時間? 酒井 そんな時間です。 斉藤 ごめんねー。酒井さん、奥さんに怒られちゃうんじゃない? 酒井 残念ながら怒ってくれる人はもういませんから。 斉藤 何―?喧嘩でもしたの? 酒井 (寂しそうに)喧嘩?そうですね。そうそう、ちょっと借金が嵩んだら喧嘩して出ていっちゃいました。それより社長さんこそまた、あの社員の方に怒られるんじゃないですか? 斉藤 ん?ケイコちゃんのこと?あの子はいつもああだからいいの。仕事はちゃんとやってくれるしね。 酒井 何か、いいですね。楽しそうで。 斉藤 楽しいよ、うん。お金ないけど、大家さん怖いけど、ケイコちゃんお酒呑んでくれないけど、でも楽しいよ。あ、なんなら酒井さんもうちで働く?給料出ないけど… 酒井 いや、それはちょっと… 斉藤 絶対、金持ちの運転手よりいいって。あれ、警備員だっけ? 酒井 どっちでもないですよ。全く、誰と混ざってるんですか? 斉藤 違うの?まぁ何でもいいや。とにかくうちに来ればいいんだよ。 酒井 (少し笑って)考えておきます。(手を挙げて)あ、ほらタクシー。乗りますよ、社長さん。  酒井、斉藤を支えながら下手へはける。 第7場 山内のオフィス。山内は何かを振って飲んでいる。秘書が中島を連れてドアの前に来る。 秘書 (コンコン)失礼いたします 山内 入れ。 秘書 坊ちゃま、何をされてるんですか? 山内 あぁ、この前言ってただろ。ほら、幸運の双眼鏡。 秘書 これで通行人を眺めていると運命の相手が見つかるんだってさ。 山内 見つかりませんね。で、先日お話していた警備強化の件ですが有能なSPが見つかりました。挨拶に連れて来たのでしっかりしてください。 山内 めんどくさい。 秘書 そのようなことをおっしゃらずに。部下の教育は初めが肝心です。きちんと社長らしく威厳のある態度で接してください。 山内 わかった。煩いな。呼べばいいだろう。その代わり5分で済ませろよ。 秘書 ありがとうございます。(ドアに向かって)中島さん、お入り下さい。 中島、感じ悪そうな感じで入ってくる。 中島 中島です…よろしくお願いします… 山内 何だ、女か。 中島 …(無言で秘書を見る。この人やっぱり駄目じゃない?的な感じで) 秘書 いえいえいえ、この中島、見かけはこの様ですが、用心棒ポータルサイトYOH!JINBOH!.comにおいて7ヶ月連続お客様レビューで首位に立っており、その道ではもっとも信頼のある人物だといわれております。 山内 へー?こんな華奢なくせに?(中島に近づく) 秘書 (焦って)では、申し訳ありませんが中島さん、早速今日からお願い致します。 中島 わかったわ。 秘書 (山内を無視して)あの記事が出てからどうにも騒がしいので…今日もこんなに脅迫状が…中島さんもお読みになりますか。 中島 大丈夫よ。もう確認済みだから。あなたが読んだほうがいいんじゃない? 山内 知るか!こんなもの。(といいつつ気にはする) 中島 そう。じゃあ、私はとりあえず今後のために社長室周辺の警備状況を教えて頂けるかしら? 秘書 もちろんでございます。 中島 (歩き出すが、唐突に)あ、イナゴ。 山内 イナゴ!?イナゴ!?イナゴ!?ふざけるな!何で、社長室に虫が出るんだ。始末しろ!?今すぐ始末しておけよ!!(偉そうだがものすごい逃げ腰ではけていく) 秘書 えっ、社長?社長―。 中島 どこをどう取っても駄目ね。 秘書 すみません。お手数おかけして。 中島 いえ、仕事ですから。あなたこそ大変ね。 秘書 私は慣れていますから。 中島 同情するわ。じゃあ、私は一応社長を追いかけるわね。 秘書 あ、ご案内… 中島 いらないわ。 秘書 そうですね。じゃあよろしくお願いいたします。  中島、はける。秘書、脅迫状を見つめ、ちょっと心配そうにしながら去る。 第8場  斉藤イレイザー。高野が忙しそうに仕事をしている。そこに酒井が入ってくる。 酒井 (部屋の中から出てくる)あ、高野さん。おはようございます。あの、社長さんは? 高野 社長なら、仕事に行きました。あ、でもちゃんと12時頃には戻ってくると思うの、安心してお待ちください。(何か作業を始める) 酒井 ありがとうございます。すみません、こんな遅くまで寝てしまって… 高野 いえ、終電逃すまで飲ませる社長が悪いんです。酒井さんはお気になさらないでください。 酒井 いえ、そんなことは…でも楽しかったです。何かあんなに楽しかったの久しぶりです。 高野 それならいいんですけど… 酒井 ところで、今日は随分忙しそうですね。 高野 そうなんですよー。昨日の夜から急に仕事の依頼が増えだしちゃって。何かイナゴが大量発生しているみたいなんですよね。だから、近所の店から引っ切り無しに電話かかってきちゃって…。 ナレーション 今日の占いカウントダウーン! 高野 あ、占い。えーと、かに座は… 酒井 あの…高野さんも占いを見られるんですか? 高野 いや、社長の代わりにメモしておくだけですよ。全くいい大人が… ナレーション 今日の6位はかに座のあなた。前方にはよく注意してください。ラッキーアイテムはトマトジュース。  電話が鳴る。 高野 あっ、酒井さんちょっと取ってください。多分社長ですから。 酒井 ええ!?はい。えっと、こちら斉藤イレイザーです。  前方に斉藤が出てくる。 斉藤 ああ、もしもしケイコちゃん? 酒井 いや。酒井ですが… 斉藤 えっ?酒井さん?あ、あぁすみません。ケイコちゃんに代わってもらっていいですか? 高野 はい、お電話代わりました。高野です。占いの結果ですね? 斉藤 うっ…どうしてわかったの?それでかに座は? 高野 (すっごくやる気無く)今日の6位はかに座のあなた。前方にはよく気をつけてくださいとのことです。 ラッキーアイテムはトマトジュース。 斉藤 何かテンションの下がる占いだなぁ。 高野 それより社長、仕事はちゃんと終わらせたんですか? 斉藤 ああ、あんなのちょろいもんさ。でもねぇ、困ったことがあってねぇ。先月駆除に行った中山さんの家だけど、またイナゴが大量発生して困ってるらしいんだよね。 高野 えっ?死んでなかったんですか? 酒井 んっ?死んでなかった? 斉藤 ああ、そうなんだ。どうやらこの間の駆除で生き残っていた奴らがいたらしいんだ。 高野 しぶとい奴らですねぇ。あれだけ苦労したのに… 斉藤 だから今度また駆除に行こうと思うんだ。 高野 そうですねぇ…今度は完璧に殺して下さいね。 酒井 かなりやばい会話な気が…これは聞かないフリを…  酒井、高野の方を気にしてる 高野 ん?酒井さん? 酒井 いえっ!何も聞いてません。 斉藤 それでさぁ、今回は殺虫剤であらかた殺した後、毒エサで残ったゴキブリをじっくり減らしていこうと思うんだけど… 高野 そうですねぇ。やっぱり毒ですかねぇ。中途半端に生き残りがいると厄介ですからねー。 斉藤 うん、そうなんだよね。じゃあ、まぁ詳しいことはまた帰ってから。ばいばーい。  電話を切る。斉藤はける。高野、振り返る。酒井、明らかにおびえている。 高野 大丈夫ですか?酒井さん?寒いんですか? 酒井 はっはい。いや、ちょっと。 高野 さっきからちょっと変ですよ? 酒井 あのですね、そのちょっと聞こえてしまったんですが…そのぉ毒殺とか、されるんですか? 高野 毒殺?ああ、まぁ毒殺といえば毒殺ですねぇ。あんまりそう呼ばないですけど。(笑顔で)毒は楽ですよ。勝手に死んでくれますし。 死骸確認がいやですけどね。 酒井 死骸確認… 高野 あ、ごめんなさい。何か生生しいこと言っちゃって… 酒井 ああ、いえ大丈夫です。こちらこそ変なこと聞いてしまってすみません。 高野 あ、私、お茶でも入れてきますね。 部屋の中。落ち着きなさそうな酒井。窓の後ろにはトマトジュースまみれの斉藤。 斉藤 いやー、まいったなぁ…これはしみになりそうだぁ…またケイコちゃんに怒られるよ。ただいまー、おっ酒 井さん。 酒井 あっ社長さん。(血に気づいて)血、血がー!!!  叫び声にびっくりして出てくる高野。 斉藤 はっ?あ、そういえば返り血に見えますね。はははは、これは愉快。 酒井 返り血!?。 高野 どうしたんですか、社長それ? 斉藤 いやー、このトマトジュースを飲みながら歩いていたらついよそ見してしまって、おじさんとぶつかってしまって、それでこうドバーってなったんだよね。 酒井、おびえて斉藤の話を聞いてない。  高野 もー、そんなことより早く酒井さんの仕事に取り掛かりましょうよ。 斉藤 ああそうか。すいませんでしたねぇ酒井さん(酒井に近づいていく) 酒井 いえ、そんなことは…(明らかに怯えている) 高野 大丈夫ですか、酒井さん?さっきからちょっと変ですよ? 酒井 いえ、いえ、大丈夫です。そうですよね。ここは暗殺会社ですもんね。そういうこともありますよね。 高野 へっ酒井さん、今なんて? 酒井 えっ?だから暗殺会社だからそういうこともありますよねって… 高野 暗殺? 酒井 えぇ、最初に言ったじゃないですか?借金の取立てに悩まされて憎くて憎くて仕方ないって。それにアボカドも出しましたよね…? 高野 ……… 酒井 (不安そうに)違うんですか? 高野 …(とりあえず取り繕った感じで)いや、違わないですよ。嫌ですねぇ。ほら、最近依頼が多くてこんがらがっちゃって…。そうですよね。酒井さんはイナゴの駆除じゃないですよね? 酒井 何言ってるんですか?しあわせ金融の社長の駆除ですよ。ってまぁそんなに自信を持って言うことでもないんですけどね。…依頼をしておいて何ですけどまだ迷ってる部分もあるんです。これでいいのかなって… 高野 ……… 酒井 あ、今更こんなこと言われても困りますよね。すみません。 高野 いえ、そんなことは 酒井 でも、昨日みたいに久しぶりにお酒がおいしかったり、そんな風に楽しく過ごしてると、やっぱり普通にいきたいって思うんですよ。人殺しなんてしちゃいけないって。 高野 …そうですよね。じゃあ今日のところは止めにしますか? 酒井 はっ? 高野 いや、ほら社長もあんな格好ですし、今日のところは止めにして計画を明日にしませんか? 酒井 はぁ、それは別に構いませんが… 高野 すみません。お願いします。あの、明日にはきちんと準備しておきますので。 酒井 (ちょっと高野の態度に不審を抱きながらも)では、私は今日は失礼した方が? 高野 本当にすみません。 酒井 いえ、じゃあまた明日伺いますね。  酒井、はける。高野一人で考え込む。パソコンを打ち始める。暗くなる。  前方が明るくなり山内と中島登場。 山内 イナゴはいなくなったか? 中島 そんなにすぐに駆除できないでしょう?大体何で狙われてるのにわざわざ外に行くの?あの、秘書さん心配してたわよ。 山内 お前はとっても優秀な用心棒なんだから構わないじゃないか。 中島 つまり嫌がらせなわけね。 山内 失礼だな。それがお前の仕事だろう。 中島 (唐突に床を指差し)あ、イナゴ。 山内 わぁー、だから無理!?ホント無理!イナゴとか虫なのに食うとかありえねーよ!?(と言いつつはける) 中島 嘘なのに。外にまで出ないわよ。 山内 (急に戻ってきて)嫌な女だな。まさかさっきのも嘘じゃないだろうな! 中島 さっきのは本当よ。 山内 じゃあ、しばらく社には戻れないな。暇だから買い物にでも付き合え。 中島 はぁ…(山内に聞こえないように)やっぱり無理ね。こいつ。  中島、山内はける。高野がパソコンをやっている部屋の方に明かりがつく。斉藤が入ってくる。 斉藤 やっと落ちたよー。いや、トマトはしつこいねぇ。 高野 ああ、社長。良かったですね。 斉藤 あれ、酒井さんは? 高野 (社長のほうに向き直って)社長、実はその酒井さんのことでお話があります。 斉藤 ん?なんだい改まって… 高野 落ち着いて聞いてくださいね。酒井さんは、暗殺の依頼で殺し屋のところに行くつもりが間違えてうちに来てしまったんですよ。 斉藤 はぁ?何言ってるの? 高野 だから、暗殺の依頼で殺し屋のところに行くつもりが間違えてうちに来てしまったんですよ。 斉藤 ケイコちゃん、疲れてるんじゃない? 高野 さっき、酒井さんから聞いたんです!しあわせ金融ってあるじゃないですか?酒井さん、あそこに借金を背負わされたらしくって、それでしあわせ金融の社長を殺害しようと思い立ったそうなんです。 斉藤 えっ!酒井さんが?本当に? 高野 これを見て下さい(パソコンを指差す) 斉藤 (最初はやる気なさそうに)なんだよ、これ。暗殺承ります。殺したいほど憎い奴いませんか? …我々は害虫駆除会社を装っている…必ずアボカドを持ってきてくれ。…依頼金は100万円…まさか… 高野 はい、酒井さんがうちに間違えてきたのは、多分このせいです。 斉藤 そんな馬鹿な… 高野 で、どうします?社長? 斉藤 どうするもこうするも勘違いしてたことを伝えた事を伝えて、もう復讐とか考えないように説得するしかないだろう。 高野 そうですよね。 斉藤 そうだろう? 高野 でも、何かかわいそうですね。酒井さん。 斉藤 うーん、そうだね。借金っていくらくらいあるんだろう。僕らで何か協力出来ることとかないかなぁ。 高野 まぁ、うちも自転車操業ですしねぇ。 斉藤 そうだけどさ…ほら、仕事困ってるならもう一人くらい従業員いてもいいかな、とか 高野 そういうのはもう少し依頼が増えてからにして下さいよ。そもそも問題は、借金よりも殺したいほど思いつめてるってことじゃないんですか? 斉藤 うーん、でも昨日飲んでるときは普通に見えたんだけどなぁ… 高野 それは…楽しかったんじゃないですか、本当に。 斉藤 じゃあ、また飲みに行って説得してみるとか… 高野 まぁ、悪くないですけどそれで納得しますかねぇ。暗殺まで考えてた人が。 斉藤 そうだよねぇ。  電話の音。 高野 はい、こちら斉藤イレイザー。えっ?しあわせ金融杉浦様!?イナゴの全館駆除!?はい、ではとりあえずお見積もりをFAXで送らせていただきます。03−1234−5678.はい。失礼致します。 斉藤 まさか… 高野 噂をすれば何とやらってやつですね。しあわせ金融ですよ。 斉藤 ねぇ、ケイコちゃん僕イイコト思いついちゃったんだけど聞いてくれる?    音楽あり。高野に何かを話す斉藤。嫌そうな高野。でも結局二人は事務所の奥へ。 第9場 会社の前。高野、斉藤がやってくる。 斉藤 さすが大きな会社だねえ。 高野 本当にやるんですか?今ならまだ間に合いますよ? 斉藤 僕はやると決めたらやる男だからね。 高野 はぁ…とりあえず私は警察沙汰にはなりたくないですからね 斉藤 大丈夫だよ、別に危害を加えるわけじゃないし。 高野 いやー、十分通報されるレベルだと思いますよ。 斉藤 まぁ、そんときはそんときだって。だってちょっと楽しそうじゃん。 高野 全く、社長は。(時計を見て)あ、もうすぐ酒井さん来るんじゃないですか?  そこに酒井がやってくる。何故か白装束。 高野・斉藤  は!? 酒井 覚悟を固めて参りました!よろしくお願いします! 高野 いや、酒井さん、その格好はどうされたんですか? 酒井 復讐に迷いが出ないように、死んだ気で行こうかと思いまして 斉藤 いや、酒井さん迷ってるときは止めていいと思いますよ。 酒井 いえ、これがあればもう大丈夫です。 高野 私はそれよりその格好がすごく目立ちそうで心配なんですが… 酒井 壁に同化するので大丈夫です。 高野 (めんどくさくなって)えーと、じゃあとりあえず通用門に行きましょうか? 酒井 えっ、そんな普通に入って大丈夫なんですか? 斉藤 そりゃあ、もちろん僕らちゃんと依頼を受けているか… 高野 (遮って)そこはプロだから大丈夫なんです。酒井さんは安心してついて来てください。 酒井 はっはい!がんばります! 斉藤 でも、止めたくなったらいつでも言ってくれていいですからね。 酒井 はい。わかりました。でも、いいんですか?キャンセル料とかかかるんですよね? 斉藤 いやー、うちは返品ok。キャンセルok。良心的経営だから大丈夫だよ。 酒井 殺し屋なのに? 斉藤 うっ… 高野 (同時に笑顔で)そうです。 酒井 そうなんですかぁ。親切な殺し屋なんですね。 高野 (笑顔で)はい 斉藤 (小声で)ケイコちゃんって実は嘘つきだよね。 高野 社長が正直すぎるんです!酒井さん私たちのこと殺し屋だって信じてるんですからね! 3人はける。社長室の中。山内がわら人形をもってくる。「橋本」と書いて釘を刺す。中島は窓からのぞい ている。 秘書 (ノックをして)失礼します。 山内 入るな! 秘書 (既にドアを開け)どうしたんですか? 山内 入るなって言ったじゃないかぁ。せっかく呪ってたのに。効果なくなっちゃうよー 秘書 また通販ですか。好きですねえ。効かないですよ、こんなもの。 山内 だよなぁ。俺もそう思ってさっきクビにした。 秘書 はっ? 山内 だから、呪いじゃ即効性が無いからクビにしといた。 秘書 誰をですか? 山内 橋本。あいつ煩いんだよ、こっちはイナゴが出てイライラしてるのに。しかもあいつ貧乏人から取立てできないし。うちの会社のやり方が悪いって文句言うし。 秘書 冗談ですよね? 山内 いや、本気。さっき人事課に言っといた。 秘書 ………橋本さん、確かマイホーム買ったばっかりですよ? 山内 ふーん、そうか。そんなことより、お前は何か用があったんじゃないのか? 秘書 ………(感情をださずに)そうでした。3時から役員会議が始まります。本日は会長もいらっしゃいますので必ずご出席下さい。 山内 何でおやじが来るんだよ!? 秘書 あの記事の件で今期は減収ですから坊ちゃまに釘を刺しにいらっしゃるのではないでしょうか。 山内 全く、仕方ない。行くか。  山内、さっさとはける。中島、入ってくる。 中島 最低ね。 秘書 本当ですね。私もあの性格には慣れていたつもりだったんですけどね。 中島 橋本さん、同期でしょう。 秘書 知ってらっしゃったんですか?坊ちゃまは知らないみたいですけどね。 中島 大丈夫よ。人事もそんなに馬鹿じゃないわ。 秘書 そうだといいのですが…。中島さんは今日はご報告ですか? 中島 ええ、私も行って来るわ。 秘書 行ってらっしゃいませ。  中島、はける。秘書、わら人形を片付けてはける。照明前を照らす。下手から高野、斉藤、酒井がやってくる。 高野 順調ですね。 斉藤 うん、びっくりするほど簡単に入れたね。 酒井 さすが、お二人ともプロなんですねぇ。私はさっきから心臓がバクバク言ってますよ。 斉藤 まぁ、僕も酒井さんを見るとちょっとヒヤッとするけどね。 高野 私もです。  そのとき、足音がして秘書がやってくる。 斉藤 わっ、誰か来た!? 酒井 どうするんですか? 高野 とりあえず逃げましょう! 3人上手へ一旦はけて部屋の中へ。秘書が入れ替わりにイライラとやってくる。心を落ち着け、物音に気付く。 斉藤 何かひたひたと迫り来る足音がー。 高野 社長、怪談じゃないんですから。大丈夫ですよ、冷静に冷静に。 酒井 でも、確かに近づいてきてます!どうしましょう、高野さん。 高野 えーと、あなたの方がよっぽど怖いんですが…仕方ない!とにかく隠れて!とくに酒井さん! 3人隠れるが完全に見えている。酒井は壁に張り付く。斉藤は銅像のフリ。高野はいったんはける。そこに秘書が入ってくる。 秘書 誰かいるんですか?(斉藤を見て)どうしたんですか? 斉藤 いや、これはその。 秘書 害虫駆除の方ですよね。遊んでもらっていては困るのですが… 斉藤 えっと、これはその… 高野 (急いで出てくる)あのですね。調査をしていたんです。 秘書 はぁ、調査ですか?(斉藤を指差し)で、これは何かの意味があるんですか? 高野 いや、これはその…うちの社長の趣味です。 秘書 はぁ… 高野 すみません、本当に怪しくて。何かこういうポーズを取らないと気分が乗らないらしいんです。あの。仕事はちゃんとしますんで。 秘書 それでしたら私としては特に問題はないのですが…。 高野 すみません。本当に。(深々と頭を下げる) 秘書 いえ、上司は選べないですからね。(思い出して顔をしかめ)害がなければいいですよまだ。 高野 ……… 秘書 あ、すみません。返答に困るようなことを。 高野 いえ、ご苦労されてるんですね。 秘書 外部の方に言うことではありませんでした。すみません。それでは、害虫駆除の方はきちんとお願いしますね。 高野 はい。速やかに終わらせますので。  秘書、はける。 高野 大丈夫でしたね 斉藤 やばいことやってないのに思わず慌てちゃったよ。ってかケイコちゃん人のこと頭のおかしい人見たいに言っちゃってひどくない? 高野 仕方ないでしょう。事実なんですから。 斉藤 僕は完璧に銅像になりきってただけなのに。 高野 それがおかしいんですよ。 酒井 そうですよ。私は見つかりませんでしたよ。 斉・高 えっ!?  二人、今まで壁に張り付いていた酒井に気づく。 高野 酒井さん、ずっとそこにいたんですか? 斉藤 よく気づかれませんでしたね? 酒井 だから壁に同化するって言ったじゃないですか。 斉藤 (高野に)この人、一人で暗殺できるんじゃない 高野 (斉藤に)そうかもしれないです。 酒井 お二人ともどうかしましたか。先に進みましょうよ。 斉藤 うーん、社長室ってどこにあるんだろうねー。 高野 やっぱり最上階じゃないですぁ?とりあえずエレベーターを探しましょう。  3人はける。秘書、出てくる。3人を追いかける。  3人今度は通路側に出てくる。 高野 さっすが見晴らしいいですね。うちのオフィスとは大違いです。 斉藤 (なぜか旨を張って)売上が違うからね! 高野 えばらないでください。 斉藤 いやー、でもやっぱ社長室って感じだね。いよいよだな。あ、そうだ忘れてた。酒井さん台詞とか考えてきました? 酒井 台詞?台詞って何ですか?  この辺りから秘書が立ち聞き。 斉藤 そりゃもちろん社長に会ったときの台詞に決まってますよ。「俺の顔を忘れたとは言わせないぞ」とか「この極悪人め、天に代わって俺が成敗してやる!」とか何かないですか? 酒井 さぁ…とくには。元々ここまで来るつもりもありませんでしたし。 斉藤 うーん、でも折角だから言いたいことは言っておいた方がいいと思うよ。 酒井 そうですねぇ…じゃあ(すごいおどろおどろしく)「この恨みはらさでおくべきか」とかですかねぇ。 高野 怖すぎます!じゃあ、もうシンプルに「死ね!」とかでいいんじゃないですか?ほら、これを復讐相手だと思って(斉藤を前に突き出す) 斉藤 えーぼくー? 酒井 えっ、えーとえーと(弱弱しく)「死んでくれませんか」 斉藤 (何も感じない顔で) 高野 弱い! 酒井 (強く)「死んでください」 斉藤 (ちょっと落ち込む) 高野 もう一息 酒井 (強く)「死ね!社長!」 斉藤 (強くうなだれる) 高野 そんな感じ、そんな感じ。 斉藤 うん。僕はちょっとショックを受けたよ。 高野 社長が本気でショックを受けてどうするんですか? 秘書 あの、すみません。  酒井、慌てて反対側の端に行き壁に張り付く。高野はそのまま。斉藤は逃げようとして高野に捕まる。 高野 ああ、先ほどの。よくお会いしますね。 秘書 そうですね。3人で何のご相談ですか? 斉藤 なんでもないですよ。何でもない何でもない。そうあなたは何にも見ていない。 高野 すみません。本当にうちの社長は怪しくて。 秘書 それは先ほどからうすうす感じていたので大丈夫です。それより他に言うことがあるんじゃないですか? 高野 ……… 秘書 失礼かとは思いましたがお話を伺わせて頂きました。単刀直入にお聞きします。あなた方はうちの社長に危害を加えるつもりがあるのでしょうか? 斉藤 … 秘書 あなた方が人殺しなら私はもちろんすぐに通報しなくてはいけません。しかし、あなた方がそうは見えません。失礼ですがこんなに怪しい人殺しはいないと思いますので… 斉藤 (高野に)ケイコちゃん?どうするの? 高野 酒井さんを連れてちょっと隠れていてくれませんか?多分すぐに通報されることはないと思いますから。そうですよね? 秘書 あくまであなた方の目的次第ですが。 高野 とにかくお願いします。他の人に見つかると面倒ですから。特にあれ。完全に見えてますから 斉藤 わかったよ。  斉藤、端の酒井に声をかける。高野は秘書にこれまでの経緯を説明。 斉藤 酒井さん。 酒井 折角隠れてるんですから話しかけないで下さい。 斉藤 もうばれてますよ。酒井さん。 酒井 そんな!それで、計画は大丈夫なんですか? 斉藤 わからないけど…今、ケイコちゃんが説得してくれてるみたい。 秘書 そういうことですか… 高野 本当です。なんなら持ち物を調べていただいても結構です、バッグの中にもナイフなどはありませんから。あるのは害虫駆除の道具だけです。 秘書 ……… 高野 あの、もちろんこんなことあなたに頼むのは筋違いだってわかっています。でも、協力してもらえません? 秘書 私が?何故ですか? 高野 だって、ここまで通報せずに話を聞いてくれたってことは少しは酒井さんに同情したんじゃないですか?それとも元々社長のやり方に疑問を持っていたか。 秘書 都合のいいように解釈しないで下さい。 高野 でも、だったらすぐに通報すればいいじゃないですか。 秘書 ……… 高野 お願いです。じゃあ、協力してくれとはいいません。せめて見逃してください。ちゃんと害虫駆除もします。社長にも絶対危害は加えません。万一物を壊したら損害賠償もしますから。 秘書 ………これは私の完全な愚痴なんですが聞いてもらえますか? 高野 はい。何でしょうか? 秘書 私は、ずっと社長のためを思って尽くしてきました。実際、彼は駄目な社長です。でも、甘やかされて育った人ですし、まだ若いですし、仕方ない部分も多いと思っていました。それでも許せないこともあるんです。 高野 …あの、 秘書 すみません。何の関係も無い害虫駆除の方に。そうですね。社長室はここですよ。最初にイナゴが出たのもここですから丁寧にしっかり駆除してください。よろしくお願いします。では、私はこれで。 高野 ………  秘書、社長室の方へはける。 斉藤 あの人、なんだって? 高野 何か、大丈夫みたいです。 酒井 まさか!?どんな手を使ったんですか? 高野 秘密です。とにかく、やっぱりそこが社長室らしいです。 3人、秘書と同じ方にはける。部屋の中に戻ってくる山内と中島。 山内 はぁー、疲れた。あいつら何の話をしているんだか全くわからなかったな。 中島 ……… 山内 全く、データばかり並べやがって、わかりやすく日本語で喋れよ。 中島 ……… 山内 おい、返事くらいしろよ。 中島 一応社長なら経営状況くらい知っておきなさいよ。 山内 余計なお世話だ!  秘書、入ってくる。 秘書 失礼します。中島さん、ちょっとよろしいですか? 中島 はい。  秘書、中島を端に呼ぶ。そこに斉藤が一人で「スターウォーズ」をかけながら入ってくる。 斉藤 ひとーつ(後適当なせりふ)… 山内 うわっ!?何だ、一体。曲とキャラが全然一致してないぞ!大体誰だお前は!! 斉藤  僕たちは…(言いかけて周りを見て)あれ、ケイコちゃん?酒井さん? 山内 なんなんだ、一体。  斉藤、高野を引っ張ってくる。 高野 だから、私はその選曲は嫌だって! 斉藤 わがままいわないの! 高野 社長が一人でノリノリなだけじゃないですか?大体酒井さん外でまだ手に「人」って書いて呑んでましたよ。 山内 お前ら、人の部屋に勝手に入ってきておいて人を無視するな! 高野 あぁ、気付きませんでした。ごめんなさい。失礼ですが、社長さんですよね? 山内 失礼だ。ものすごく失礼だな。良く見たら、その格好は害虫駆除の奴らか。(秘書に)全くもっとマシなのを雇え! 高野 (無視して)酒井さーん?ターゲット見つかりましたよ。  斉藤が酒井を引っぱって来る 酒井 ………(緊張しすぎて何もいえない) 山内 何だ、また怪しいのが出てきたな。 高野 (酒井を見て)駄目だ。固まってる。じゃあ、もう社長でいいや。社長、ほら(斉藤に) 斉藤 えええ、僕―?えーっとえーっと(急に偉そうに)悪徳業者供め、ここにいる方の顔を覚えているか? 山内 今度は唐突になんだ?害虫駆除会社の分際で失礼な。 斉藤 とにかく応えろ。 山内 知らん。(秘書に)おい、こいつら大丈夫か? 酒井 やっぱり私ってそんなもんですよねぇ…。この人にとってはどうでもいい存在なんですよね。 斉藤 あああ、大丈夫だよ酒井さん。僕らは1度で覚えたよ。とにかく!お前らは忘れたかもしれんが、こちらはお前らしあわせ金融に借金を背負わされてひどい目にあった酒井さんだぞ! ほら、酒井さんも何とか言ってやって。 酒井 えっいやっあの、その…あの… うちの妻と娘を返してください! 山内 はぁ?何の話だ? 高野 酒井さんはここの借金の取立てがひどいから離婚しちゃったんです! 山内 知るか、そんなこと!中島、何をぼさっとしてるんだ!明らかに不審者だろ?何とかしろよ。 中島 ………(無視) 山内 おい! 仕事をしろ!誰が金を払ってると思ってるんだ!! 中島 少なくともあなたじゃないわ。 山内 何!ああ、もういいお前でいい!(秘書に)警察を呼べ警察だ! 秘書 はぁ…(歯切れが悪い) 山内 何だ、その返事は。 秘書 いえ、警察沙汰はちょっと…。特にその人が本当にうちの顧客だと週刊誌騒動の後ですし。 中島 ああ、確かに面倒なことになるのはこっちも同じよねぇ。 斉藤 おおー、敵は見事に内部分裂してるぞ。 高野 でも、全然反省してないですね、あれ。 斉藤 任せてくれ。そんなときのために僕が趣味で開発した…「ゴキブリコイコイ」!! 高野 なんて物開発してるんですか!? 斉藤 この機械は…(適当に喋ってください) 山内 ゴキブリ!? 斉藤 スイッチ、オン!ほら、寄ってきた寄って来た(カサカサカサカサという音) 山内 無理!!虫はイヤー! 音楽CI。「パニックシーン」山内、逃げる。威勢良く中島を捕まえようとして一瞬で倒れる斉藤。斉藤に駆け寄る高野、 酒井。「あっやっちゃった」的な感じの中島。注意する秘書。無理矢理高野に虫取り網を持たされる酒井。仕方なく秘書を捕まえようとするがうまくいかない。仕方なく秘書は面倒になり自分で虫取り網をかぶる。酒井は捕まった秘書に向かって 土下座している。高野は逃げた山内を連れ戻してくる。そこに斉藤が起き上がり大きな虫を持ってくる。山内おびえる。 斉藤 捕獲成功 高野 やりましたね、社長。 山内 ああ、もう何なんだよお前らいい加減にしてくれよ。 斉藤 で、どうする酒井さん? 酒井 えっ、どうするって… 高野 どうせなら自分でやったらどうですか、今なら煮るなり焼くなり好きにできますよ。 山内 おい、お前ら人の話を聞けよ!何だ目的は?金か?金ならいくらでもやるぞ。 高野 あなたに聞いてません。 斉藤 僕らは酒井さんに雇われてるだけだしさ。どうするかは酒井さんが決めていいんだよ。 酒井 えっ。でも… 斉藤 どうしたの?酒井さん? 高野 折角憎い相手が目の前にいるんですよ? 酒井 … 高野 酒井さん、本当は迷ってるんじゃないですか? 酒井 えっ? 高野 ほら、昨日も言ってたじゃないですか?普通に生きてたいって。 酒井 … 斉藤 どうする?今ならまだ間に合うよ? 酒井 けど、ここまで来ておいて。 高野 別にいいじゃないですか。今止めたって。 斉藤 どうするの本当にやるの?それとも止める? 酒井 ………(弱弱しく)止めます! 斉藤 えっ? 酒井 依頼、取り下げます。 高野 本当にそれでいいんですか? 酒井 はい、殺したいことには違いありませんがそんなことしたって何にもなりませんし…それに、元々こんなとこにお金を借りた私も悪かったんですよね。 斉藤 酒井さんがそう思うならそれでいいんじゃないですか。 酒井 (晴れやかな感じで)はい。 高野 ………やりましたね、社長! 斉藤 ほーら、僕の言った通りだろう。 高野 いやー、でも結構冷や冷やしましたよ。色々。 酒井 えっ?どういうことですか? 高野 ごめんなさい!実はですね。私たちただの害虫駆除業者なんです。 酒井 はっ? 斉藤 だからですね、ただの害虫駆除業者で暗殺とかそういうのはやってないんです。 酒井 えっ、だってじゃあこの状況は…? 高野 たまたまね、依頼が入ったんですよ。しあわせ金融から。それで、社長がだったらついでにって 斉藤 まぁ、酒井さんはうちの数少ないお客様だしね、暗殺は無理でも何かやってみようかと… 高野 ほとんど勢いだけですけどね。 酒井 まさか、そんな…ありがとうございます。本当にありがとうございます。 斉藤 いいんですよ、困ったときはお互い様です。ほら、また飲みにでも付き合って下さいよ。 酒井 はい、喜んでお付き合いします! 山内 お前ら、人のこと無視して話をまとめるんじゃなーい。 高野 あ、そういえばいた。 山内 だからいたとか言うな、失礼だ! 高野 あ、えーと流れ聞いてたらなんとなくわかると思うんですけどごめんなさい!私たちただの害虫駆除業者なんです。イナゴ駆除していくんで見逃してもらえませんか? 山内 見逃すわけないだろう! 酒井 あああ、すみません。何か元はと言えば私が暗殺の依頼なんかをしたからで 斉藤 いや、僕がノリでこんな計画を立てたから… 高野 そうですね。じゃあ悪いのは全部社長ということで、 斉藤 えー、ケイコちゃん。 山内 あー、もうだからお前らはすぐに俺を無視するな!もういい!煩い!お前らさっさと駆除に行け! 斉藤 えっ?それって? 高野 ありがとうございます!ほら、そうと決まれば本業の続きですよ!酒井さんも手伝ってください。 酒井 えっ、私もですか? 斉藤 もちろんだよ。酒井さんは有能だからね。  斉藤、高野、酒井を真っ先に部屋から出し、続いて部屋から出て行く。 高野 失礼しました。 斉藤 これからもSAITOHイレイザーをよろしくお願いします。     ドアのところで秘書、中島と出会う。 秘書 こちらこそよろしくお願いいたします。 中島 ご苦労様です。 山内 お前ら!!いつの間に!?今までどこにいた!?まさか…あいつらとグルか!? 秘書 滅相もございません。 山内 そうか、そうなんだな! 秘書 そんなことより、少しは反省していただけましたか? 山内 するわけないだろう!?全く、ひどい目にあった。 秘書 では、通報致しましょうか? 山内 いや、いい。また週刊誌に書かれても面白くないからな。 秘書 だ、そうですが中島さん会長への報告はどうされるんですか? 中島 そうね。様子見かしら?猶予期間は半年ほど。 山内 会長!?報告!?何だそれは? 秘書 中島さんは会長の第一秘書ですよ。会長から坊ちゃまの監視をするように言われたそうです。 山内 なっ!?用心棒じゃないのか?お前!?スパイ!? 中島 失礼ね。こんなに華奢な用心棒がいるわけないでしょう。大体、会長のところで会ったこともあるわよ。本当に社の人間のことを何もわかっていないのね。 秘書 もう少し人間を大切にしてください。 山内 ああ、もうどいつもこいつも腹の立つ。とにかく虫の出ない部屋に行くぞ。ここじゃ落ち着いて仕事も出来ない! 秘書 仕事するんですか!? 山内 お前らがしろって煩いんだろう!? 秘書 では、社長の気が変わらない内にとりあえず移動しましょうか。そして、まずは橋本の解雇処分を取り消して下さい。 山内 はいはい、わかったよ。 秘書 あ、中島さんも一緒に行きませんか?何だか疲れましたし、お茶でも入れますよ。 中島 いいわね。じゃあ、お茶請けにイナゴでも食べましょうか 山内 いい加減にしてくれ!!  文句を言いつつ、3人はける。 第10場 斉藤イレイザーのオフィス。高野は事務処理。斉藤は電話に出てぃる。 斉藤 (電話に)はいすみません。今月も家賃払えなさそうで…いや…お言葉ですが大家さん、貧乏人にきつく当たってばかりだといつか何かありますよ。 高野 社長!! 斉藤 (咳払いをして)いえいえこちらの話です。はい、それでは失礼いたします。ふー、あー家賃どうしようケイコちゃん? 高野 私が聞きたいですよ。大体、見て下さいよ。今月もこの赤字!!収入は10件で折角35万もあったのに、社長の無駄遣いがひどいから。何ですか?この接待費3万円って二人で飲む金額じゃないでしょう? 斉藤 それはその…いろいろと事情が  酒井、入ってくる。 酒井 失礼しまーす。 高野 あ、酒井さんお疲れさまです。 酒井 チラシ全部はけましたよ。 高野 ありがとうございます。 酒井 あ、それと久留米豆腐店とレストラン加藤で駆除の依頼を取り付けてきました。 高野 すごいじゃないですか、酒井さん。全く社長とは大違いですね。 斉藤 何だよ、一応ここの社長は僕なんだぞ。 高野 そろそろ本気で下克上狙いましょうかねぇ。あ、それとも酒井さん社長になります? 酒井 いえいえ、私は遠慮しておきます。高野さんがなればいいじゃないですか・ 斉藤 何だよー、皆して冷たいなぁ。僕だって仕事頑張ってるのに 高野 (遮って)はいはい、あ、ほら占い始まりましたよ。 ナレーター 今日の12位はかに座のあなた。予想外のトラブルに巻き込まれるかも。ラッキーアイテムはアボカド… 斉藤 アボカド! 酒井 アボカド! 高野 アボカド!  音楽FI 斉藤 まさかまた!? 高野 まさかまさかそんなこと… 酒井 でも、本物の暗殺業者も確かにこの辺に住んでるはずなんですよね… 高野 止めて下さいよ!!酒井さん。 斉藤 どうしよう。また暗殺の依頼だったら。僕ら転職する? 高野 しません。  その時、チャイムの音。 全員 出た!!!  音楽、大きくなる。みんなで押し付けあってドアに出ようとしない。様子をうかがったり色々している。最終的にあける瞬間に照明が落ちて客の姿は見えない。 (おわり)  ---------------------------------------------   以上、いかがでしたでしょうか?   よろしければ下記のページより、感想を御記入下さい。   もちろん、叱咤激励なんでもかまいません。   作者の方の励みにもなりますので・・・    http://haritora.net/bbs/?type=6681   また、下記ページから作品の評価登録も可能です。(要登録)    http://haritora.net/critic/member/look.cgi?script=6681  それでは、今後とも『はりこのトラの穴』をよろしくお願いいたします。