題名:楽しい樹海    劇団:劇団ぼるぼっくす    作者:上野 小夜  ---------------------------------------------  著作権について  ・本ページで公開されている作品の著作権をはじめとするすべての権利は   全て作者が保有いたします。  ・このページからダウンロードできる脚本は全て無料で読んでいただいて   結構です。ただし、舞台等で御利用の際は、作者からの上演許可を取っ   ていただくようお願いいたします。  ・必要に応じての改編等も、作者への許可の上行って下さい。  ・著作権料が発生する場合、指定された額を作者へ送金を忘ないように   お願いいたします。本作品おける著作権料は、下記に示す通りです。  ---------------------------------------------   小学校、中学校、高校、その他学生の無料公演・・無料   アマチュア劇団の公演、学生の有料公演・・・・・5000円   プロの劇団の公演・・・・・・・・・・・・・・・全チケット収入の1割     (全チケット収入の一割が5000円に満たない場合は5000円)     [2]の場合、公演の2週間前までに、     [3]の場合、公演後2週間以内にお支払いください。  --------------------------------------------- 楽しい樹海〜2、3人の迷える大人たち〜 代田……29歳。真面目な女性。社内恋愛で付き合っていた彼氏が行方不明。樹海に行ったらしいが…… 早坂……樹海付近の土地持ち。金はあるがやることはあまりない。レジャー施設を作ろうとしているが、イメージが良くないのでとりあえず自殺者を減らしたがっている。 秋田……基本的に三日坊主だが、現在は自殺防止活動に熱心な大学生。早坂の自殺防止活動に共感してやってきたが、あまり役に立つことはしない。 坂谷(声のみ)……秋田に一緒に連れて来られた友達。秋田にいいように使われている。方向音痴なのでいつも樹海で迷っている。 伊藤……大学生。埋蔵金サークルに入っていて、埋蔵金オタク。基本的にだまされやすいので埋蔵金の地図とかをすぐ信じちゃう。 雅……樹海の中で静かに何かを作っている人。不登校で高校には通っていない。作っているもの のクオリティは高いが、気が弱いので、秋田にいいように使われている。 遺言屋……死にたそうな人を見つけると遺言を書くことを勧める。料金は遺産の15パーセント。 キノコ売り……樹海に住み着くホームレス。キノコを採っては売っている。 樹海の神……物を落とすと出てくる。樹海の神様。 第1場 樹海の中。お花とかがいっぱい書いてありそうなやる気のない自殺防止のポスターを張っている早 坂と秋田。 早坂 じゃあ、秋田ちゃん。そっちはよろしくね。 秋田 任せてください!これで自殺者激減です! 早坂 そうね。 秋田 はい!本当に早坂さんの企画は素晴らしいと思います。明るい樹海にテーマパーク!楽しみですね! 早坂 それはいいんだけど、このチラシ、もう少し、デザイン何とかならないかな? 秋田 えっ?だめですか?徹夜で書いたんですけど。 早坂 うん。それはありがたいんだけどね。 秋田 あ、でも今、雅君にもデザインお願いしているんですよ! 早坂 そうなの? 秋田 はい!いつも絵を描いてて暇そうなので頼んでみました。雅君ならきっとすっごいチラシを作ってくれると思って。 早坂 暇そう、ね。まぁたしかに、雅君ならきっとちゃんとした物を書いてくれるわね。(疲れたように)あれ、そういえば坂谷君は? 秋田 え?さっきまでその辺に……あれ?いない。またあいつ迷ってる。 坂谷 (声だけ)早坂さーん、秋田ちゃーんどこですかー? 秋田 もう、仕方ないなぁ。ポスター貼りつつ探してきます!  秋田、元気に下手へ。途中で代田に会う。 早坂 よろしく。 秋田 あ、代田さん。死んじゃだめですよ。はい、これ(ポスターを渡す)。 代田 え? 早坂 ……はぁ、もう少し使える奴いないのかしら。  そこにやってくる代田。手には秋田に渡されたのか下手なポスターを持っている。 代田 (ポスターを見ながら)大変そうね。 早坂 まだいたんですか?いい加減諦めて帰ったらどうですか? 代田 別に私がどこにいようと自由でしょ。 早坂 一応ここから先2万坪は私の土地なもので。 代田 あなたの土地広すぎてどこからどこまでかわからないのよ。 早坂 覚えてください。もう2週間くらいいるでしょう? 代田 ほっといてよ。 早坂 まぁ関係ないのでいいですけど、私の邪魔だけはしないでくださいね。 代田 それ、どういう意味? 早坂 言葉通りの意味です。それでは、この辺は迷いやすいですし、気を付けてくださいね。あ、あとゴミとか 絶対に落とさないでくださいね。 代田 感じ悪っ。  早坂去る。そこにやってくる伊藤。 伊藤 (代田に)あ、すみません。 代田 はい。 伊藤 洞窟とかがある方はこちらであってますかね? 代田 さぁ、私もこのあたり詳しくないもので…… 伊藤 あ、そうですか。すみません。 代田 旅行? 伊藤 あ、はい。そんなもんです。じゃあ、すみません。失礼しました。  地図を隠して慌てて去っていく伊藤。 代田 気を付けてね。(見送ってから)何か暗い子。(手元のポスターを見て)あれ?もしかして自殺者!?  音楽入る。慌てて去っていく代田。歩いている早坂に伝える。代田、早坂手分けして探す。ポスターを貼っている秋田。芸術家と会釈。伊藤、代田、早坂がぐるっと一周舞台を回って、前面に。ダンス。音楽フェードアウト。 第2場 雅一人で絵を描いている。そこにやってくる秋田。 秋田 あ、今日も描いてるんですね。 雅 えぇ、まぁ。 秋田 見せてくださいよ。 雅 まだできてないので…… 秋田 ケチですね(絵を取る)。 雅 ちょっと、取らないで下さいよ 秋田 すごい緑ですねー あ、この前お願いしたものはできてますか? 雅 あ、はい。できてますよ。うまくできているかわからないんですがこんな感じでいかがでしょう?(素晴らしく芸術的な自殺防止ポスター。ただし、樹海の絵がきれいすぎて自殺防止なのか何なのか既によくわからない。) 秋田 さすがですね!これもらっていいですか? 雅 はい。大丈夫です。それでいいですか? 秋田 完璧です! 秋田 そうだ。私もこんなの作ったんですよ。自殺防止メッセージ。ほら、(ICレコーダー的な何かのボタンを押す) (以下音声と同時並行) (雅 これって坂谷君ですか?) (秋田 はい、そうですよ。この前撮ったんです!) (雅 これ使うんですか!?) (秋田 樹海内に流そうと思って!) (雅 はぁ) (秋田 ちゃんと聞いてくださいね。) (雅 ここまで使うんですか?) (秋田 はい!もちろんですよ。) (雅 編集した方がいいと思いますよ) (秋田 あ、それもそうですね。坂谷君にやってもらいます。) (雅 それがいいと思います) 坂谷 (声のみ)あ、あの自殺はよくないと思います。だって、死んじゃうと、生きられない!!!これでいい?秋田ちゃん?停止ボタンどこだっけ、やっべ携帯鳴っちゃった。 秋田 ちなみに別のバージョンもあるんですよ。 雅 ……熱心ですね。 秋田 はい、私こんなに一生懸命何かをやるの初めてだと思うんです! 雅 それは良かったですね。いつもは春休みとか何してたんですか? 秋田 去年は動物愛護運動をやってました。動物実験とかやっぱりよくないと思うんですよね。 雅 ならどうしてやめたんですか? 秋田 それは、ほら、何かやっぱりお肉食べたいじゃないですか?野菜生活には飽きちゃって。 雅 はぁ…… 秋田 その前の年はトトロの森保護運動とか渋谷農村運動をしてました! 雅 渋谷農村運動? 秋田 はい、渋谷を農村にする運動です! 雅 ……そうですか。それも坂谷君と一緒に? 後ろを通って行く伊藤 秋田 はい、もちろんですよ!あ、そうだ。忘れてた。坂谷君探してこないと。あと、自殺者っぽい人がいたら ちゃんと引き留めてくださいね。また、お願いしますね。 雅 気を付けてくださいね。 いうだけ言って秋田、去ろうとして伊藤とぶつかる 秋田 ごめんなさい 秋田、去ろうとする。そこにやってくる代田。 代田 あ、秋田ちゃん。 秋田 なんですか?あぁ、代田さん、(偉そうに)死んじゃだめですよ! 代田 いちいちそれ言うのやめてくれない? 秋田 えー、だって早坂さんも心配してますよ。 代田 余計なお世話。私はあんたの人生の方が心配だと思うけどね。 秋田 どういう意味ですか? 代田 そういう意味よ。あぁ、そうじゃなかった。ちょっと暗い感じの大学生くらいの男の子見なかった? 秋田 うーん、見てないですよ。 代田 そう。じゃあいいの。ちょっと気になったから。 秋田 えっ!?もしかして自殺者ですか?私、探してきます!    言って勢いよく走っていく秋田。下手にはける 代田 特徴とかほとんど言ってないけど大丈夫かしら?? 雅 ……お疲れ様です。  見送っているところに雅がやってくる。 代田 こんにちは。聞こえてたかもしれないけど、大学生くらいのちょっと暗い感じの男の子見なかった? 雅 いえ。残念ながら見てないです。 代田 そっか、邪魔しちゃってごめんね。 雅 いえ、大丈夫です。 代田 いつもこの辺りにいるのね。今は、春休み? 雅 えぇ、まぁ。 代田 そっか。ねぇ、ここで絵を描いてるの楽しい? 雅 そうですね。 代田 そう。 雅 ……代田さんも最近、ずっとこの辺りにいらっしゃるんですね。 代田 そうね。 雅 ……(心配そうに見る) 代田 大丈夫、もう少ししたらちゃんと帰るわよ。いつまでもここにいたって仕方ないし。私は絵が描けるわけでもないしね。さて、じゃあさっきの男の子探しに行ってくるね。 雅 そうですか。気を付けてくださいね。 代田 ありがとう。  音楽入る。代田、去る。雅も絵を描こうとするが、気分が乗らない感じで 去る。 第3場 下手から早坂が人を探している感じでやってくる。そこに通りかかる遺言屋。 遺言屋 遺言はいかがですか?通常、相続財産の20パーセントのところ、今なら相続財産の15パーセントでお作りしますよ! 早坂 またあなたですか? 遺言屋 そんなに嫌な顔しないでよ。 早坂 遺言の押し売りされて嬉しそうな人がいたら見てみたいもんですけど。 遺言屋 そう?結構いるわよ。そういえば書くの忘れてたって。ほら、つい二週間前にもあっちの方で 早坂 (遮って)別に聞きたくありません! 遺言屋 随分余裕ないのね。どうしたの?また死にそうな人でも出た? 早坂 あなたに関係ないでしょ。 遺言屋 大ありでしょ。ビジネスチャンスだもん。 早坂 (ぼそっと)死ねばいいのに。 遺言屋 あなたがそれを言っちゃうの?うわべだけの自殺者ゼロ運動と樹海テーマパーク化は順調? 早坂 あなたにかまっている暇はないので。 遺言屋 ふーん。ま、死んでからじゃ遅いしね。精々頑張って。 早坂 ……(無言で遺言屋を睨み付け去る) 遺言屋 後悔しないようにね。いつかみたいに。  遺言屋も去る。入れ替わりに秋田が下手から、伊藤が上手からやってくる。 秋田 坂谷くーん。あ、もしかしてこの辺に…いるわけないかー…どこいっちゃったんだろー。あ!すみません。 伊藤 はい。何ですか? 秋田 私と同じくらいの身長の男の子見ませんでしたか? 伊藤 いえ、見てないです。 秋田 そうですか。どこいっちゃったんだろう?あ、じゃあ、すごい死にそうな人見ませんでした? 伊藤 は? 秋田 あ、もしかしてあなた自殺とかする気じゃないですよね!?(ものすごい勢いで迫る) 伊藤 いえ、僕は別に。 秋田 ほんとですか!?嘘じゃないですよね!? 伊藤 ほんとです。 秋田 なら良かったです。もし死にたそうな人がいたら止めてくださいね。はい、これ(ポスターを渡す) 伊藤 なんですか、これ? 秋田 自殺防止ポスターですよ!年間自殺者がどれくらいいるかご存知ですか?三万人ですよ、三万人。これは 止めなきゃだめでしょう!自殺!ダメ!絶対!です。大体自殺なんてしても周りのみんなが悲しむだけで すよ。 伊藤 はぁ、あの、熱心ですね。NPOとかの方ですか? 秋田 いえ、ここの地主の方が自殺防止活動に熱心なんですよ。ビラ配りとかポスター貼りとか地道な活動をやってるってmixiで見てぜひお手伝いしたいなぁと思って。 伊藤 ミクシー…意識高いんですね。 秋田 そんなことないですよ。春休みの間だけですから。あなたも大学生ですか? 伊藤 あ、はい。 秋田 じゃあ春休みですよね。観光ですか? 伊藤 まぁ、そんなものです。じゃあ、僕急いでるんで。 秋田 (伊藤の手に持っている地図に目を止め)あれ、それ、何ですか?もしかして宝の地図とか。 伊藤 (急に怒って)ちょっと!触らないでくださいよ。高いんですから! 秋田 ごめんなさい。でもそんなに怒らなくてもいいじゃないですか! 伊藤 あ、ごめんなさい。初対面の人にすみませんでした。本当にどうお詫びしていいか。 秋田 いや、そんなに謝られても困るんだけど。 坂谷 (声のみ)秋田ちゃーん。 秋田 あー、忘れてた。私、人捜してるからじゃあね。あんまり謝りすぎない方がいいよ。  音楽入る。秋田は上手へ、伊藤は下手へそれぞれ去る。 第4場 早坂、上手から逃げるようにやってくる。下手よりで立ち止まってため息。遅れて坂谷君を探して秋田がやってくる。 秋田 坂谷くーん。(早坂を見つけて)あ、早坂さん! 早坂 (笑顔を作って)あぁ、秋田ちゃん、代田さんから聞いた? 秋田 はい!なんかすごい自殺しそうな人がいたって。 早坂 ものすごくアバウトね。まぁいいけど。それでいた? 秋田 いえ。見てないです。あ、ちゃんと代田さんにもチラシ渡しておきましたよ。 早坂 そう。ありがとう。でも「死んじゃだめですよ」っていうのはどうかと思うわよ? 秋田 だめですか?わかりやすくていいと思うんですけど。だって、死んじゃだめですよね? 早坂 ……秋田ちゃんはきっと一生死にたくなることなんてないんだろうね。 秋田 私だって落ち込むことくらいあるんですよ。漢検3級落ちた時とか… 早坂 そっか、もう一回受ければ? 秋田 でも、漢字には飽きちゃって。次は明石タコ検定受けようと思ってます! 早坂 まぁそこまでいけば、一つの長所だとは思うわよ。みんな秋田ちゃんみたいだといいんだけどね… 秋田 そういえば、代田さんって、何があったんですか? 早坂 さぁ。聞くようなことでもないしね。 秋田 …自殺、しないですよね。 早坂 そこは、ほら、秋田ちゃんが頑張って止めてくれないと。秋田ちゃんの腕の見せ所でしょ。 秋田 はーい。じゃあ、今度会ったら坂谷君のとっておきのメッセージを聞かせてあげます! 早坂 あの、「死んじゃうと、生きられない!」ってやつ? 秋田 ほかにもあるんですよ。 早坂 そうなの?それは聞いたことないわね。 秋田 まだ内緒です。今度代田さんがいるときに流します! 早坂 楽しみにしておくわ。さて、じゃあとりあえずは代田さんの言ってた男の子を探そうか。あと、坂谷君もね。 秋田 あ、そうだ。坂谷君。確かこっちの方から声がしたような気がしたんですけど。 早坂 こっちには来てないと思うわよ。(下手を見て)この先は行き止まりだし、一度戻ろうか。 秋田 はーい! 早坂 じゃあ、秋田ちゃんは西の方をお願いね 秋田 え?西ってどっちですか?  秋田、元気に上手へはける。早坂も一緒に戻る。音楽入る。 第5場 代田、遺言屋が出てくる。 代田 はぁ。 遺言屋 どうしました?ため息なんかついちゃって。人生疲れてるなら遺言でも書きますか?今ならなんと、料金そのまま、万一の時には遺族にもお届けしちゃいます。 代田 またあんた? 遺言屋 そんな嫌な顔しないでくださいよ。皆私には冷たいですね。 代田 そりゃ遺言の押し売りなんて非常識にもほどがあるからでしょ。 遺言屋 需要あるんですよー。 代田 どこらへんに? 遺言屋 えー、あなたも必要じゃないんですか? 代田 何で私が…… 遺言屋 ここから帰る気あるんですか?もう2週間くらい経ちますよ。 代田 余計なお世話。あんたに関係ないでしょ。 遺言屋 それは確かにそうですけど。でも、どこがよかったんですか、あんな優柔不断男? 代田 そりゃ優柔不断かもしれないけど、いつも困ったら一緒に悩んでくれる人だったから!ってあなた彼のこと知ってるの!? 遺言屋 困ってたら一緒に悩んでくれるねぇ。誰にでも優しいっていうのはいい人なんですか? 代田 質問に答えて。 遺言屋 何でしたっけ? 代田 だから、あなた彼を見たの? 遺言屋 見ましたよ。 代田 本当に!? 遺言屋 信じないんですか?まぁ、別にいいですけど。 代田 いつ見たのよ? 遺言屋 あ、そうそう忘れてた。遺言いりません?彼の。渡しても渡さなくてもいいって言われたんだけど。いります? 代田 !……消えて。 遺言屋 お望みなら消えますよ。でも、考えといてくださいね、これ。じゃあ、また。  遺言屋、去る。 代田 遺言?バカじゃないの。あいつ。  音楽、入る。落ち込む代田。そこに上手から早坂がやってくる。音楽フェードアウト。 第6場 早坂 見つかりました? 代田 ……いえ。 早坂 大丈夫ですか? 代田 なにが? 早坂 いえ、なんとなく。 代田 あの遺言女に会ってね。 早坂 あぁ、テンション下がりますよね。私もさっき会いました。 代田 何なのよ、あれ。「人生疲れてるなら遺言でも書きますか?」って 早坂 特徴とらえてますね。 代田 褒められてもうれしくないわよ。あれ、どういうことよ。 早坂 私もわかりません。 代田 あんたの土地でしょ。 早坂 広すぎて管理できないんですよ。 代田 嫌味? 早坂 いえ、実際、不法占拠者多いですし。物とか落とすと大変ですし。 代田 それ、前も言ってたわよね。何が大変なの? 早坂 (鬼気迫る感じで)いえ、大変なんです。 代田 (気圧されて)そ、そうなの?  下手からキノコ売りがやってくる。 キノコ売り キノコ―キノコ―美味しいキノコはいりませんか? 代田 は?何あれ? 早坂 ホームレスですよ。その辺でキノコ採って売ってるんです。 キノコ売り これはこれは地主の御嬢さん。キノコはいりませんか。 早坂 いりません。大体、それ毒キノコですよね。 キノコ売り そうですか?これなんか、ほら、マツタケに似てて美味しそうですよ。土瓶蒸しにも最適。食べたらハッピーな気分になれました。 代田 それってマジックマッシュルーム? 早坂 人の土地で非合法な物を売るのは止めてください! キノコ売り 美味しいんですけどね。そっちのお姉さんはいかがですか?プリンにも合いますよ。 代田 いりません! キノコ売り そうですか。残念ですねぇ。 遺言屋 あ、キノコ売りのお兄さん、ベニテングダケ売ってる? キノコ売り ベニテングダケですか。ちょっと手持ちを切らしてますが、あっちにいっぱい生えてましたよ。今、ご案内します。 遺言屋 ありがとう。お礼に遺言一通サービスしてあげるわね。 キノコ売り それは助かります。私が死んだ後、このキノコたちがどうなるか不安ですからねぇ。  遺言屋、キノコ売り、和気あいあいと去る。 代田 何なの今の。 早坂 だから、自称キノコ売りのホームレスです。 代田 何か、土地持ちも大変ね。 早坂 ほんとに。たぶん思ってるよりあんまり楽しくないですよ。 代田 でも、お金はあるでしょ? 早坂 まあ、恵まれているとは思うんですけどね。でも、娯楽もないし。同級生はみんな出ていっちゃったし。 代田 …… 早坂 だから、せっかく土地も広いし、遊園地でも作ろうかと思ったんですけど。こう自殺者が多いとね。 代田 ごめんなさい。 早坂 別にあなたが悪いわけじゃないですよ。 代田 でも……。 早坂 彼氏さん、見つかるといいですね。 代田 ……そうね。 早坂 会いたくないんですか? 代田 よくわからない。言いたい文句はいっぱいあるけど。 早坂 それだけ好きだってことじゃないんですか? 代田 それももうわからない。でも、今のままじゃすっきりしなくて。 早坂 …… 代田 ま、けじめは自分でつけないとね。さて、探しに行きますか。万一のことがあってからじゃ遅いしね。 早坂 そうですね。  音楽入る(ラクダ)。早坂と代田、下手にはける。 第7場 雅が上手からやってくる。絵を描くのによさげな場所を探している。そこにやってくる伊藤 伊藤 すみません。洞窟ってこっちですかね? 雅 あぁ、風の洞窟ですか? 伊藤 あ、それだと思います。 雅 この先を行ったところですよ。 伊藤 ありがとうございます。 雅 この辺りは迷いやすいので気を付けてくださいね。あと、ゴミとか落としちゃだめですよ。 伊藤 あ、はい。気を付けます。  伊藤、上手に去る。入れ違いに遺言屋がやってくる。伊藤は遺言屋が見えてない。 遺言屋 つまんない。ねぇ、遺言はいかが? 雅 間に合ってます。帰ってください。 遺言屋 ここは私の家なんだけど? 雅 それは失礼しました。では、僕が場所を変えます。 遺言屋 そんなに逃げなくてもいいじゃない。皆私には冷たいのよね。 雅 自殺を煽るような真似をされるからじゃないですか。 遺言屋 TPOにあった商売だと思うんだけど。あなたも本当はいるんじゃない? 雅 …… 遺言屋 ねぇ、ここで絵を描いてるのそんなに楽しい? 雅 楽しいですよ。 遺言屋 本当に?学校に行くのが嫌なだけなんじゃないの? 雅 あなたには関係ありません。 遺言屋 それもそうね。今は他に面白いこともあるし。そうそう、彼女死ぬと思う? 雅 不謹慎なこといわないでください。それに、死ぬつもりなんてないと思いますよ、代田さんは。 遺言屋 ふーん、つまんないの。あ、じゃあこの人は?  早坂と代田、下手からやってくる。 早坂 またあなたですか? いい加減にしてください。 遺言屋 別にいいじゃない。ここは私の家よ。私がどこにいようが自由でしょ? 早坂 ここは私の土地であってあなたの家じゃありません。 遺言屋 細かいことは気にしないでよ。で、自殺者は見つかったの? 早坂 まだですけど。 遺言屋 翌日後悔しても遅いわよ。まぁ、今回は自分が見てないからいいのか。 早坂 (顔色を変えて)消えてください! 遺言屋 また言われちゃった。消えればいいんでしょ、消えれば。  遺言屋去る。 雅 大丈夫ですか?早坂さん、顔色悪いですよ。 早坂 大丈夫です。 代田 大丈夫って感じじゃないけど…… 雅 僕、ちょっと冷たいものでも取ってきますね。 代田 ありがとう。お願い。 早坂 大丈夫ですって。  芸術家、去る。 第8場 代田 まぁ、飲み物来るまで少しその辺にかけてなさいよ。 早坂 すみません。 代田 あの女、ほんと嫌よね。 早坂 そうですね……。 代田 ……。 早坂 聞かないんですか? 代田 聞いてほしいなら。人間誰だって言いたくないことの一つや二つあるだろうし。言いたくなけりゃ言わなくていいわよ。 早坂 代田さんは聞いてほしいんですか? 代田 痛いところついてくるわね。 早坂 ごめんなさい。 代田 …… 早坂 高校生の頃、この辺りで黒い服の女の人を見たんですよ。 代田 何それ、怖い話? 早坂 (流して)こんな暑いのに真っ黒な長袖なんて着込んで変だなとは思ったんですよ。でも、受験近かったし、関わり合いにならない方がいいかなって思って。でも、翌日新聞で見つけちゃったんですよね。 代田 ……その人だったの? 早坂 今でも夢に見るんですよ。でも顔だけは一切思い出せないんですよね。 代田 ……だから自殺防止運動を? 早坂 罪滅ぼしとかそんな大層なものじゃないんです。ただ、自分の土地で人が死ぬのは後味が悪い。自殺の名所なんて呼ばれないようなバカみたいに明るいテーマパークにしたいなと思ったんですよ。 代田 そう。金持ちの道楽かと思ってて悪かったわね。 早坂 (ちょっと笑って)正直ですね。代田さんは、お仕事は? 代田 貿易関係だった。 早坂 だった? 代田 まだ辞めてないけど。社内恋愛だったから。 早坂 あ…… 代田 仲人とかも上司に頼んでたからね。いろいろ気まずくて…… 早坂 それは、そうですよね。 代田 色々考えたのよ。あいつの結婚式にウエディングドレスでいってやろうかな、とか。相手をいびりぬいて退社させてやろうかな、とか。 早坂 えっ? 代田 でも、婚約者取られた上にそんなことしたらますますみじめになるだけじゃない?だからいい先輩のふりして後輩と接して、家帰ってから毎晩不幸の手紙書いてた。 早坂 …… 代田 引くよねー。自分でもこんなことすると思わなかった。何やってんだろ、とか思ってもやめられなくて。後輩に彼氏取られるなんてよく聞く話なのにね。 早坂 ……その後輩も行方不明なんですか? 代田 そ。二人仲良く連絡なし。でも、周りには樹海に行くって言ってみたいで。 早坂 それで、ここに? 代田 バカでしょ?でも、ちゃんと終わりまで確かめたくて。 早坂 ……たぶん全然わかってないんでしょうけど、でも、気持ちは、わかるような気がします。 代田 ありがとう。何か、こんなちゃんと喋ったのひさしぶりかも。 早坂 私もです。樹海にはまともな人がいないもので(笑)  ちょっと空気が和らいだところに、秋田が急いで帰って来る。 秋田 あー、早坂さん!大丈夫ですか?倒れたって聞いて心配しましたよ!はい、これお水です!(ペットボトルを落とす) 早坂 あ! 代田 えっ?  謎の効果音。女神とか出てきそうな感じの。下手から樹海の神が出てくる。 樹海の神 あなたが落としたのはこの金のボルビックですかそれとも銀のボルビックですか?(あからさまに金と銀の色水の入ったペットボトルを持っている) 秋田 えっ? 代田 ちょっと何こいつ? 早坂 あぁ、二人とも会った事ないんでしたっけ?自称神様のゴミ拾いのボランティアのおじさんですよ。 落し物を拾ってくれます。それはそれは熱心に。 代田 だから、あんなに物を落とすなって…… 早坂 そうです。何故かどこにいても絶対、金のものと銀のものを持って出てくるんです。 秋田 すごい!本当に神様なんですかね。 樹海の神 そこ、無視しないように。もう一度お聞きします。あなたが落としたのはこの金の 秋田 私が落としたのは普通のボルビックですー。 樹海の神 お前はなかなかの正直者だ。褒美にこの金のボルビックと銀のボルビックもやろう。次からは落し物をしないようにな。 秋田 ありがとうございます。  謎の効果音とともに下手へ去っていく。 秋田 えっと、早坂さん、金のボルビックいりますか? 早坂 いらないわ。 秋田 あ、じゃあ返しますね。(ペットボトルをわざと落とす) 代田 えっ? 早坂 返す?  謎の効果音。下手から樹海の神が出てくる。 樹海の神 あなたが落としたのはこの…… 秋田 (遮って)ダイヤモンドのボルビックです。 樹海の神 この嘘つきが!罰としてこの金のボルビックと銀のボルビックは回収させてもらう。 秋田 はい、ありがとうございます。  樹海の神、去る。 早坂 秋田ちゃん、斬新ね。 秋田 だって、私も金のボルビックはいらないです。あ、はいこれ普通のお水です。 早坂 ありがとう。 代田 今のも不法占拠? 早坂 (憮然として)そうです。 代田 土地持ちもほんと大変なのね。  雅、やってくる。 雅  秋田さん、歩くの早いですよ。あぁ、早坂さん大丈夫ですか? 早坂 えぇ、ありがとう。 秋田 (気を取り直すように)あ、そうだ。雅君に新作描いてもらったんですよ!見てください!(芸術的な自殺防止ポスターを見せる) 代田 素晴らしく芸術的ね。 早坂 そうですね。 代田 なんかのパクリみたいだけど。 雅  ごめんなさい。 代田 あ、いや。そういうつもりじゃないんだけど。 秋田 そうだ!あと、坂谷君の新作あるんですよ!聞いてください!(ICレコーダーのスイッチを押す) (自殺防止ラップ流れる。以下音声と同時並行) (代田 ラップ?) (早坂 新鮮ですね。) (雅 そうですね) (秋田 ちゃんと聞いてください。) (代田 終わった?) (秋田 まだですー) (秋田 (拍手)ここまでです!) 代田 これはまた、素晴らしくやる気が失せるわね。 早坂 いいんじゃないですか。自殺する気も失せますよ。 秋田 どうですか?樹海内にスピーカーを設置してこれを流しておいたら絶対自殺者減りますよ! 雅  たしかにそうかもしれませんね。 代田 (ちょっと笑いながら)観光客も減りそうだけどね。 秋田 えー、名案だと思ったんですけど。だめですか?早坂さん? 早坂 (代田を見て、楽しそうに)いいんじゃない。秋田ちゃんが来てくれてほんと良かったわ。 秋田 やったー! 雅 よかったですね 代田 いいの!? 早坂 いいじゃないですか。何か生きるの死ぬのがばかばかしくなってきますよ。観光客がへるくらいなんですか。私、お金はありますから。 代田 やっぱりあんた嫌な女ね。 早坂 褒め言葉と受け取っておきます。さて、で、秋田ちゃんもその後、自殺者っぽい人見てない? 秋田 あ。 代田 あんたポスター貼りに夢中になって忘れてたでしょ。 秋田 そんなことないです!ちゃんと探してましたよ。でも今日あったのは、早坂さんと代田さんと雅君だけです。 代田 あんたは遺言屋にも会ってないのね。 秋田 (初めて聞いたように)ゆいごんや? 代田 えっ?知らないの?あんなによくいるのに。 雅 (遮るように)まぁまぁ、それより探すのが先じゃないですか?ついでに坂谷君も見つかってないみたいですし。 坂谷 (声だけ)秋田ちゃーん、早坂さーん、どこですかー? 秋田 坂谷君はそのうち出てくるからいいですよ。 代田 あんなにけなげなのにね。 早坂 片思いって辛いですね。 秋田 どういう意味ですか? 早坂 とりあえず、一度情報を整理しましょうか。代田さん、もう一度男の子の特徴を教えていただけますか? 代田 特徴っていうほどでもないんだけど。大学生くらいの身長はこれくらいの男の子。割と猫背な感じ。 雅 もしかしてリュックしょってたりしますか? 代田 あー、確かにリュックだった気がする。うん。 秋田 あれ、何か地図持ってたり? 代田 地図、確かに何か 芸術 古い、宝の地図みたいな 秋田・芸術家 あー!! 早坂 なんなんですか、二人とも。 秋田 さっきその人見た! 雅 僕もです。洞窟に行こうとしていました。 秋田 でもその人自殺者じゃないですよ。 代田 なんでわかるのよ。 秋田 だって、自殺とかする気じゃないよねって聞いたら「いや、僕は別に」って…… 早坂 代田さん、今の話聞いて安心できました? 代田 いや、全然。 秋田 えっ?何でですか? 代田 死にたい人間が初対面の人に死にたいですか?って聞かれてはいそうですっていうわけないでしょ!このばか! 早坂 前言撤回。やっぱり秋田ちゃん使えないわ。代田さん、行きましょう。 代田 ええ。  代田、早坂足早に去る。 秋田 私、バカですか? 雅 ちょっと。 秋田 そんなぁ 雅 す、すいません、そんな落ち込まないでください。秋田さ〜ん。 秋田 よしこうなったら自殺者をちゃんと止めて見返してやる!!ほら、行きますよ! 雅 え、僕もですか? 秋田 もちろんです  秋田、雅を引っ張ってはける。 第9場 地図を片手にうろうろする伊藤。そこに代田と早坂がやってくる。 代田 いた!早まっちゃダメ! 伊藤 はい? 早坂 そうですよ。生きていればいいこといっぱいありますよ。 代田 あなたがいってもあんまり説得力ないけど。 早坂 あなたに言われたくありません。 伊藤 あの 早坂 あぁ、ごめんなさい。悩みはなんですか。お金ですか?お金ならそんなに悩まなくても、ほら、あげますから(バッグからお金を出す)。 代田 すごい雑な止め方ね。 伊藤 いや、その困ります。 代田 お金じゃないんじゃない?失恋?かわいい子なんていくらだっているわよ。大体ね、こっちは結婚式の1ヶ月前にフられたのよ。それに比べりゃたいていのことなんて大丈夫よ 早坂 一ヶ月だったんですか?じゃあ、キャンセル料とかも。 代田 そうよ。婚約者に逃げられるわ。お金なくなるわ仕事無くなるわ散々よ。もう死にたくもなるわよ。 伊藤 何か、大変だったんですね。 代田 そうなの、わかってくれる!?だからあなたも生き抜いて! 伊藤 はい?あの、何か誤解が……  秋田と雅がやってくる。 秋田 あー、さっきの。嘘ついちゃだめですよ。やっぱり自殺するんじゃないですか。 伊藤 いえ、だから、その 秋田 自殺!ダメ!絶対です!  音楽入る。秋田は雅にお菓子を持ってこさせる。秋田は、早坂と秋田にチラシを渡す。お札のよ うに伊藤にも貼ろうとして逃げられる。早坂、代田に止められる。雅がお菓子を持ってくる。お菓 子を配る何か違うといわれる。雅が、ポスターを持ってきましょうという。雅、秋田はける。早坂 が大金を持ってくる。おびえる伊藤。代田が吊り書きを持ってくる。キノコ売りがキノコを持って 通りかかる。秋田と雅がポスターを持ってくる。貼る。秋田自慢する。 伊藤 何なんですかさっきから!大体これ、さっきと全然クオリティが違くないですか? 秋田 (自信を持って)力作ですから! 雅  僕が描いたんですが…… 秋田 どうですか。私の自殺防止キャンペーンは。やる気なくなるでしょう。 代田 全部自分の手柄みたいに言ったわね。 早坂 もはや一種の才能だと思います。 秋田 (目をキラキラさせて伊藤に迫り)どうですか?思いとどまってくれました? 伊藤 あのですね。 秋田 はい。 伊藤 皆さん、勘違いしているようですが僕自殺者じゃないんです。 早坂 えっ? 伊藤 だから、僕、そもそも自殺する気なんてないんです! 代田 じゃあ 伊藤 だからそんなに一生懸命止められても困ります。 早坂 ただの勘違い? (以下同時並行) (雅 よかったですね) (秋田 私の活動のおかげですね!) (雅 そうですね) (秋田 また、チラシお願いしますね!) (雅 がんばります) (秋田 次はピンクでお願いします) (雅 ピンク、ですか。わかりました。) 代田 なんだ。良かったー。 早坂 すみません。自殺者が多いのでこちら側の早とちりでした。こちらへは観光ですか? (以下同時並行) (秋田 あ、観光みたいですね!) (雅 そうみたいですね) (秋田 あ…あの地図…) 伊藤 あ、はい。 早坂 どこかお探しでしたらお詫びにご案内しますよ。その地図は? 伊藤 あ、これは。その。 秋田 さっきそれ触ったらすっごい怒られたんですよ。宝の地図ですよ、きっと。 伊藤 ごめんなさい。 代田 宝の地図ってそんな。 伊藤 宝はありますよ! 代田 え? 伊藤 ガンジー埋蔵金ですよ! 皆 は? 代田 ガンジーってあの非暴力不服従の? (以下同時並行) (秋田 ガンジー埋蔵金ですって!すごいですね!) (雅 そうですね) (秋田 ガンジーって中華人民共和国の人ですよね?) (雅 それって鑑真じゃないですか?) (秋田 え?ガンジー…鑑真…ガンジー…) 伊藤 そうです!ご存知じゃないですか。そうなんです!そのガンジーが実はお金を結構ため込んでいたんです!でも、莫大な遺産は争いを生むと思ったガンジーはそれをすべて隠したんです。ガンジーの隠し財産、これはお金の価値以上にプレミアもつきます!夢があると思いませんか? 秋田 すごいですね!それはロマンですよ! 伊藤 わかってくれますか?(その後秋田と話してる) 代田 ガンジーの隠し財産なんて聞いたことある? 早坂 いえ、全く。デマじゃないですか? (以下同時並行) (秋田 埋蔵金ですって) (雅 すごいですね) (秋田 ここに埋まってるみたいです!) (雅 そうみたいですね) 伊藤 デマじゃありません!確かに今まで見つかっていないです。でもそれは誰にも見つかってないだけで、これから見つかるんです!この地図によればこの風の洞窟に埋まってるはずなんですよ。 早坂 その地図、どうしたんですか? 伊藤 ヤフオクで買いました! 早坂 ちなみにいくらで? 伊藤 8万円です! 代田 高いのか安いのか微妙。 雅  あの!言いにくいんですけど、それ偽物だと思いますよ。 伊藤 (芸術家に迫り)えっ、どうしてですか!? 雅  これ、絵の具で色を付けて古ぼけさせているだけですよ。 伊藤 えっ? 雅  色はそれっぽいんですが、紙質が、新しい物です。 伊藤 そんな。まただまされた!!はぁ、ショックすぎる。せっかくバイトして貯めたお金で買ったのに。また偽物かぁ……もう、死んでやるー。 秋田 ダメです!それより、ガンジー埋蔵金について詳しく教えていただけないですか!?それ、何か楽しそうです! 伊藤 えっ?あ、はい。歴史、好きなんですか? 秋田 今まで興味はありませんでしたが、これから、はまるかもしれません! 伊藤 僕、歴史サークルじゃなくて埋蔵金サークルなんですが、それでもいいですか? 秋田 はい、埋蔵金!ロマンです! 伊藤 あなたとは気が合いそうです!じゃあ、帰りながら説明しましょうか? 秋田 はい、よろしくお願いします!あ、じゃあ早坂さん、お先に失礼しますね。 早坂 あぁ、うん。気を付けてね。 伊藤 では、まずは最近流行りのベートーベン埋蔵金から行きましょう。 秋田 運命! 二人 ジャジャジャジャーン! 秋田と伊藤ハケ 代田 あの二人、ちゃんと帰れるのかしら。 早坂 何か、色々不安ですね。 雅 僕、途中まで送ってきます。 早坂 よろしく  雅、はける。 第10場 代田 あーあ、なんだか気が抜けた。何かお騒がせしてごめんなさい。 早坂 勘違いで何よりですよ。終わりよければ、すべてよし、です。 遺言屋がやってくる。 遺言屋 何かいらっとするほど平和な空気ね。 代田 せっかくまとまりかけたのにまたあんた? 遺言屋 だって、あなたの答えをまだ聞いてないわよ。彼の遺言、いらないの? 早坂 遺言って 代田 ……。 遺言屋 ねぇ、どうするの?彼からお金もらってるし、あなたからは一銭ももらわないわよ? 代田 …… 早坂 代田さん。 代田 ……そうね。折角だからいただこうかしら。 遺言屋 そうこなくっちゃ(おもむろに遺書を取り出す)。 代田 ありがとう。(遺書を受け取り、それを見つめた後びりびりに破く) 早坂 えっ? 遺言屋 あーあ、読まずに破いちゃった。もったいない。 早坂 それ、彼からの最後の…… 代田 いいのよ。どうせぐだぐだいい訳が書いてあるんでしょ。君には悪いことをしたと思ってる。俺は会社を去るから君は仕事をがんばってくれとかなんとか。 遺言屋 あら、さすが。 代田 伊達に婚約してたわけじゃないわよ!一緒に住もうと思うくらい好きだったんだから言いたいことくらいわかるわよ。 早坂 代田さん 代田 遺言書けば死んだことになると思ったら大間違いよ。 早坂 えっ? 代田 死んでないでしょ、あいつ。どうせ「俺は大変なことをしてしまった」とか思って樹海でナルシズムに浸って遺言書いて女とどっかに逃げたんでしょ? 遺言屋 なんだ、気付いてたの。つまんない。 早坂 じゃあ。 代田 そう。別にあいつは行方不明でもないし死んでもない。そんなことは知ってたわよ。でもね、私もきつかったの。何もかもから逃げてここで不幸に浸ってたのよ。 早坂 気は済んだんですか? 代田 えぇ。同情されるのにも飽きたわ。ここにいるとうっとうしいくらい人に話しかけられるし。 早坂 それはあなたが…… 代田 (遮って)わかってるわよ。それにもう有給も切れちゃうしね。すっぱり会社を辞めて仕事を探そうと思って。 早坂 何ならうちで働いてもいいですよ。 代田 テーマパークの企画? 早坂 はい。 代田 それも楽しそうだけど遠慮しとくわ。 早坂 そうですか。残念です。まぁ、気が向いたらいつでも来てください。 代田 そうね。たまには自殺防止のボランティアくらい来てもいいわね。  雅が戻ってくる。 雅 分かりやすいところまで送ってきましたよ。 早坂 ありがとう。これ以上、迷子が増えたら困るしね。 雅 そうですね。代田さんは、お帰りですか? 代田 うん。いい加減帰らないとね。 雅 そうですか。お気をつけて。 代田 あなたも身体に気を付けてね。いい絵だと思うわよ。 雅 ありがとうございます。 代田 こっちこそいろいろありがとう。 坂谷 (声のみ)秋田ちゃーん、どこだよー。 早坂 あ、 代田 忘れてた。そういえば坂谷君、まだ迷ってたんだ。 早坂 探しに行きますか。 代田 そうね。坂谷君にも挨拶して帰りたいし。 樹海の神 (声だけ)あなたが落としたのは金の坂谷君ですか?それとも銀の坂谷君ですか? 代田 えっ!? 早坂 坂谷君、落し物にカウントされちゃったんですね。 代田 どうしよう。だれも引き取りにいかないと金の坂谷君になっちゃう。 坂谷(声のみ)やめて〜!金箔貼らないで〜! 早坂 急ぎましょう!あっちですかね。 代田 そうね!じゃあ。 雅 お願いします。  代田、早坂去る。 雅 いつまでいじけてるんですか。いい加減、成仏したらどうですか? 遺言屋 うるさい。知らないの?自殺者は成仏できないのよ。 雅 あれって本当なんですか。体験談は初めて聞きました。 遺言屋 嫌味? 雅 そういえばずっと思ってたんですが、あなたは何で 遺言屋 (遮って)死んだかって?すごいこと聞くわね、あなた。 雅 聞いたことがなかったので 遺言屋 忘れたわ、そんなこと昔のこと。 雅 その割に早坂さんのことは根に持ってるんですね。止めてほしかったんですか? 遺言屋 何の事? 雅 たとえ止めてくれなくても最後に話しかけてほしかったんですか?誰かに。 遺言屋 うるさい。 雅 すみません。いろいろ余計な物が見える性質でして。 遺言屋 そんなんだから学校でいじめられてるんじゃないの? 雅 そうですね。でも、僕には絵がありますから。 遺言屋 あ、そ。あんたと話してもつまらないわ。また、別の自殺者でも探すわよ。 雅 そうですね。誰かいたら話しかけてあげてください。 遺言屋 ばかじゃないの?  遺言屋去る。 雅 お気をつけて。さて、僕も帰りますか。  音楽入る。芸術家、帰る。早坂入り、秋田&伊藤手をつなぎながら入り。早坂に挨拶をしてハ ケ。早坂ハケ。照明暗くなる。 第11場 3か月後。照明、明るくなる。絵を描いている雅。それを見ている早坂。暇そうな遺言屋。 早坂 今日もここで書いてるんですね 雅 ついここに来ちゃって 早坂 あなたが描くと、なんかいい景色に見えるんですよね。 雅 ありがとうございます 早坂 あ、そうそう、あなたのポスターは本当に素晴らしいですね。ついに今月の自殺者がゼロになりました。 雅 いや、僕は何も。早坂さんの努力の成果ですよ。 早坂 いえ、これもあなたのセンスと坂谷君の努力のおかげです。  代田がやってくる。 代田 こんにちは。 雅 こんにちは。 代田 あっち見回り行ってきたわよ。 早坂 代田さんもいつもありがとうございます。 代田 まぁ、どうせ彼氏もいなくなっちゃったし夏休みは暇ですから。 早坂 それフォローしにくいんで止めてください。 代田 いいじゃない。それくらい。他で言えないんだし。 早坂 あ、じゃあ坂谷君とかどうですか。秋田ちゃんあの大学生と付き合いだしちゃったらしいし失恋した者同士で。 雅 いいじゃないですか 代田 あんたたち相当失礼ね。大体子供に興味はありません。あんたが付き合ったら? 早坂 遠慮しておきます。あ、それよりテーマパークのアトラクションを考えているんですけど 代田 何々?やっぱりテーマパークといえばお化け屋敷? 早坂 そうです。しかも、企画書を書いたんですけど、地域性を活かして樹海をさまよう亡霊が襲ってくるリアル肝試しです! 代田 ……その企画は大丈夫なの? 遺言屋 襲ってやろうかしら。 早坂 徹夜で考えたんですけど。 雅 (遺言屋に)平和ですね。 遺言屋 えぇ、嫌になるほど。 代田 そうね。あ、そういえば、最近あの女見ないわね。遺言遺言うるさい女。 早坂 あぁ以前よりは見なくなりましたね。でも時々いますよ。 代田 相変わらず遺言売ってるの? 早坂 はい。この前は3通で15パーセントオフでした。 代田 何その割引。遺言三通もいらないでしょ。 早坂 その前はお金いらないから今年の六法買ってきてって言ってましたよ。 代田 それくらい自分で買いにいきなさいよ。 遺言屋 地縛霊なんです! 早坂 大体落ち込んでる時に出てくるんですよね。あの女。 代田 ほんと嫌な女よね。 雅 まぁ見えないなら何よりですよ。 早坂 えっ? 雅 いえ、姿が見えないのは平和で何よりですね。 代田 そうね。  にわかに警報みたいな音が鳴る。。 坂谷 (声だけ)緊急事態ですー。東南地区に自殺者らしき女性を発見。至急応援願います。  音楽入る(スーパースター) 早坂 もう。 代田 また? 遺言屋 よし、仕事仕事! 雅 僕も様子を見に行きますかね! 早坂 とりあえず行きましょう! 代田 ええ。  音楽上がる。みんな、ポスターとか遺言とか持って走り去っていく。幕。  ---------------------------------------------   以上、いかがでしたでしょうか?   よろしければ下記のページより、感想を御記入下さい。   もちろん、叱咤激励なんでもかまいません。   作者の方の励みにもなりますので・・・    http://haritora.net/bbs/?type=10697   また、下記ページから作品の評価登録も可能です。(要登録)    http://haritora.net/critic/member/look.cgi?script=10697  それでは、今後とも『はりこのトラの穴』をよろしくお願いいたします。