題名:ヒモ、募集中    劇団:劇団ぼるぼっくす    作者:上野 小夜  ---------------------------------------------  著作権について  ・本ページで公開されている作品の著作権をはじめとするすべての権利は   全て作者が保有いたします。  ・このページからダウンロードできる脚本は全て無料で読んでいただいて   結構です。ただし、舞台等で御利用の際は、作者からの上演許可を取っ   ていただくようお願いいたします。  ・必要に応じての改編等も、作者への許可の上行って下さい。  ・著作権料が発生する場合、指定された額を作者へ送金を忘ないように   お願いいたします。本作品おける著作権料は、下記に示す通りです。  ---------------------------------------------   小学校、中学校、高校、その他学生の無料公演・・無料   アマチュア劇団の公演、学生の有料公演・・・・・5000円   プロの劇団の公演・・・・・・・・・・・・・・・全チケット収入の1割     (全チケット収入の一割が5000円に満たない場合は5000円)     [2]の場合、公演の2週間前までに、     [3]の場合、公演後2週間以内にお支払いください。  ※本作品は作者の許可無く準上演を行うことが出来ます。  ※準上演についての詳細は、http://haritora.net/copyright.html をご参照ください。  【追記事項】 近ければ見に行きたいので上演の際は必ずご連絡ください。  --------------------------------------------- ヒモ、募集中〜三食昼寝小遣いあり〜 美樹(女性、31歳)……テレビ局勤務。毎日忙しく働いている。はっきり物をいうタイプ。 菜々子(女性、28歳)……絵本作家としてそこそこ売れている。家にいることが多い。ややふわふわしている。 詩織(女性、30歳)……建築士7年目。しっかりしているが、物事を荒立てたくないため、あまり積極的に発言しない。 高梨(女性、20代後半)……ハローワークの職員。 小平(男性、20代)……役者志望。売れる気配はない。 野村(男性、40代)……ヒモになりたくて仕方ないが、あきらかにヒモに向かない。イグアナの物まねが好き。 修二(男性、30代)……松岡修三風。暑苦しい。 池田(男性、30代)……菜々子の編集担当。 坂谷君(男性、10代)……家出少年。 住谷(女性、20代)……風水好きな女性。 第1場  美樹、菜々子、詩織のルームシェアしている部屋の中。三人で詩織の誕生日祝いをやっている。三人ともどんどん酒を飲みながらしゃべっている。 美樹 ではでは、詩織の三十路を祝して、かんぱーい。 三人 かんぱーい。 詩織 あー、おいしい。 美樹 ほんと。いやー、私は詩織が三十路になってうれしいけどね。 詩織 そんなに三十路三十路言わないでよ。 美樹 だって一人だけ30代ってさびしかったんだもん。 菜々子 美樹さん、気にしすぎですよー。 詩織 学生と会う機会なんてほとんどないもん。 美樹 それは、そうか。学生が家建てないもんね。 詩織 うん。親についてきて設計にめっちゃ口出す子とかたまにはいるけどね。 美樹 うっざ。 菜々子 私なんて学生どころかほとんど人に会いませんからねー。 美樹 あー、あんたは池田さんにくらいしか会わないでしょ。 菜々子 はい。だって、それで仕事としては成り立つますしー。 美樹 いいよねー、池田さん温和だし。あーあ、じゃあ、結局学生と会って傷つくの私だけじゃん。 菜々子 あ、その話まだ続いてたんですか? 美樹 続いてます―。 詩織 まぁ、確かにテレビ局だと観覧客とか若い子多そうだよね。 美樹 そうなんだよねー。だから、毎日、あのおばさんとか思われてるのかなぁと思うとさ。 菜々子 そんな1回しか会わないような人にどう思われたっていいじゃないですか。 美樹 あんたと違ってこっちは意外と繊細なのよ。 菜々子 ひどいですね。私だって繊細だからあんまり人と会わないんですよ。 美樹 それもどうなのよ? 詩織 菜々子のはあんまり洒落になんないから。 美樹 そうそう。あんたはもっと人に会った方がいいんじゃない。たまには一緒に合コンとか行かない? 菜々子 遠慮しときますー。私、そういうの得意じゃないので。 美樹 ノリ悪いなぁ。 菜々子 大体美樹さん、彼氏作ったってどうせ忙しくて会えないじゃないですかぁ。 美樹 うるさいなぁ。人の古傷をえぐらないでくれる?私は3年もルームシェアを続けるつもりはなかったんですー。 菜々子 すみませーん。 詩織 まぁでも私はこの感じ好きだけどね。サークルの延長みたいで。 美樹 悪くはないんだけどね。ちょっとマンネリじゃない? 詩織 あー、それは確かにわかるかも。何か変化欲しい感じ。 菜々子 変化ですかー?例えば? 詩織 んー、例えば新しいルームメイト募集してみるとか? 菜々子 えー、今さら一人増えたら絶対バランス悪くなりますよ。 詩織 まぁ、たしかにそうだよねー。 美樹 いや、それありかもよ。 詩織 え? 美樹 だってさ、私と詩織は夜中に帰ってくるし、菜々子は引きこもって絵書いてるし、何かさ、家に帰っても癒しがないじゃん。 詩織 まぁね。 菜々子 別に引きこもってはいませんけどー。 美樹 (菜々子を無視して)だからさ、家でご飯作って待っててくれる人とか欲しくない? 詩織 何それ?専業主夫? 美樹 いや、いっそヒモ。 菜々子 ヒモ? 美樹 だって、同じように働いている人にご飯作って待っててなんていえないじゃん。だからさ、夢追い人とかで全然稼がないけど、気が向いたらご飯位作ってくれる的な人がいっかなって。 詩織 なるほどね。 菜々子 なるほどって納得しちゃうんですか? 詩織 うーん、それなら何か夢に対する投資と思えばいいかなって。しかもこっちがお金払うって割り切れば嫌なら追い出せばいいんだし。 美樹 だよね!!どうせお金余ってるんでしょ、詩織。 詩織 余ってはいません。 菜々子 ちょっと待ってください。だって、私は割と家にいるんですよー。 美樹 部屋にこもってるんだから関係ないじゃん。 菜々子 そういう問題じゃないですよー。リビングだって使いますし。 美樹 じゃあ、とりあえず募集してみて、菜々子も気に入ったらでいいよ。 詩織 でもさ、冷静に考えてどこで探すのそんな人? 美樹 たしかに。でもさー、お金払ってご飯作ってもらうんだからちゃんとした仕事でしょ。だったらハローワークじゃない? 菜々子 えー、ハロワで出すんですか!? 詩織 斬新な求人ね。職種は何なんだろう。 美樹 いいんじゃない?わかりやすくヒモで。 菜々子 そんな求人みたことないですよ。 美樹 いいじゃん。何事にも第一号はあるよ。ヒモ、募集中!三食昼寝小遣いあり! 盛り上がる雰囲気の音楽入る。三人で机を片付けダンス。三人部屋に帰る。高梨が入ってハローワークになる。小平と住谷も求人のメモをとっている。住谷が小平を突き飛ばしたところで野村入る。高梨と野村が挨拶してダンス。高梨、野村、住谷いったんはける。音楽F.O。 第二場  ハローワーク。野村、高梨出てくる。 野村 こんにちは 高梨 あぁ、野村さんこんにちは。今日の新着求人はこれですよ。 野村 なかなかいい仕事ってないですよねー。 高梨 そうですねぇ。不景気ですから。あ、でもこれなんてどうですか。野村さん経理経験ありましたよね? 野村 細かい数字嫌いなんです。 高梨 じゃあ、システム系はどうですか? 野村 残業が多いのはちょっと。 高梨 野村さん、気象予報士の資格も持ってましたよね。 野村 天気に興味ないんですよね。 高梨 ……では、どういったお仕事をご希望ですか? 野村 できれば楽してガッポリ稼ぎたいんですけど。そういう仕事ないですかねー。 高梨 (冷たく)ないですね。 野村 そうですかぁ。 高梨 野村さん、そろそろちゃんと就職活動していただかないと雇用保険の給付も厳しくなってきますよ 野村 (あんまり聞いてない)はい。 高梨 野村さん、長年お勤めだったところをお辞めになることになってショックなのはわかりますが、資格もおありなんですから一緒に頑張りましょう。 野村 (あんまり聞いてない)はい。(ヒモの求人を見て)え?なんですか、これ!? 高梨 あー、それですか。何か、よくわからないんですよね。さっき確認したら家に帰って癒しになるような人がほしいっていってましたけど。 野村 …すばらしい! 高梨 は? 野村 いや、私1回ヒモやってみたかったんですよね。 高梨 はぁ。 野村 これ、直接この番号にかければいいんですか。 高梨 たぶん。 野村 …フジサンロクニオームナク 高梨 ルート5? 野村 …じゃあ、さっそく電話してみます。ありがとうございます!  野村、意気揚々と出て行く。 高梨 (ぼそっと)あんなヒモは絶対いらない。  高梨、出て行く。コミカルな音楽入る。ハローワーク片づける。 第3場 三人部屋から出てきて、机を出し、座布団を並べ、履歴書を並べる。美樹たちの部屋の中。三人で履歴書を見ながらだべっている。 詩織 意外と応募あるね。 美樹 (得意げに)だからやっぱハロワに求人出してみるもんでしょ。 菜々子 びっくりですよー。でも、本当に雇うんですか? 美樹 まぁ、いいじゃん、とりあえず会ってみようよ。嫌なら断ればいいんだからさ。 菜々子 まぁ、それはそうですけど。 詩織 でも、美樹、何も面接会場うちにしなくても良かったんじゃない? 美樹 え、ダメ?住む場所も見てもらえるしちょうどいいかなって。 菜々子 女子三人で暮らしてるのに不用心ですよー。 詩織 うん、普通は自宅で面接しないと思うよ。 美樹 じゃあ、次回からは近くの喫茶店とかにするよー。 菜々子 次回もあるんですか!? 美樹 だって今回決まらなかったら次回でしょ?  インターホンが鳴る。 美樹 あ、さっそく一人目。(玄関の方にはける)(声のみ)はーい、少々お待ちくださーい。 菜々子 一人目はどんな人ですかぁ? 詩織 (履歴書を見つつ)役者志望みたいよ。 菜々子 それはまたヒモとしてはべたですね。  美樹と小平が戻ってくる。 美樹 どうぞー。こっちこっち。 小平 どうも、失礼します。 美樹 こっちが詩織でこっちが菜々子。 詩織 こんにちは。 菜々子 どうも。 小平 小平太一と言います。よろしくお願いします。 美樹 じゃあ、そこ座ってください。 小平 はい、失礼します。 美樹 さて、じゃあ、何聞こうか。 詩織 ちょっと、考えてないの? 美樹 だって、会社じゃないんだし、適当でいいかなって。 菜々子 美樹さん。 小平 あ、何か僕自己PRとか志望理由とかそういうのいった方がいいですか? 美樹 えー、いいよ。そういうの履歴書に書いてあったし。そうだなー。小平君、役者志望なんだよね。 小平 はい。 美樹 今、実際どういう活動してるの? 小平 劇団で3〜4か月に1本、小劇場で芝居をやってます。あとは、声優の専門学校とかも通ってるんですが、なかなかオーディションが厳しくて。 美樹 所属劇団はどういう話やってるの? 小平 創作ですけど、アングラ系ですかね。 美樹 珍しいね。最近エンタメ系の方が主流じゃない?あと2、5次元系とか。 小平 (ちょっと食いついて)お詳しいんですか。 美樹 いや、まぁ一応テレビ局勤務だし。 小平 そうだったんですか!?(目を輝かせる) 美樹 (ちょっと引いて)あ、詩織は何か聞くことない? 詩織 あー、じゃあ家事で何が得意ですか。 小平 そうですねー、一人暮らし長いので比較的なんでも好きですけど、しいていうなら料理ですかね。 詩織 得意料理は? 小平 肉じゃがです。 詩織 菜々子は、何かある? 菜々子 あ、私は別に。 美樹 じゃあ、こんなとこですかね。今日はお忙しいところありがとうございました。選考結果につきましては、合格の場合のみ明日中にご連絡したいと思います。何か、質問はありますか。 小平 大丈夫です。 美樹 では、ありがとうございました。 小平 ありがとうございました。 美樹 じゃあ、こちらに。 小平 はい、失礼します。  美樹、小平を玄関まで送る。 菜々子 予想外のことが一つもなかったですね。  美樹が戻ってくる。 美樹 没。 詩織 だよねー。 菜々子 ですよね。 美樹 面白みがない。ヒモの型にはまりすぎている。 詩織 しかもテレビ局に食いついちゃったからね。 菜々子 あれはダメですよねー。家で営業されたら癒されないですもんね。 美樹 ほんと、それ。まぁ次に期待しようよ。 菜々子 次はどんな人なんですか? 美樹 次はねー。  インターホンが鳴る。 美樹 あ、来ちゃった。まぁじゃあ会ってみてのお楽しみにということで。  美樹、玄関の方へはける。 詩織 ちょっと、どれ?もう、完全に面接を楽しんでるね。 菜々子 まぁ、これで美樹さんが満足してくれればそれはそれで私はいいんですけど。 詩織 やっぱり人が増えるのはいや? 菜々子 いやっていうか。まぁ、(歯切れの悪い感じ)  美樹、野村を連れて戻ってくる。 美樹 どうぞー。 野村 失礼します。 美樹 どうぞ、おかけください。 野村 (かしこまった感じで)ありがとうございます。初めまして。私、野村一郎と申します。この度は、面接の機会をいただきまして、誠にありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。 美樹 どうもどうも山本美樹です。 野村 よろしくお願いします。 詩織 (怪訝な感じで)南詩織と申します。 野村 よろしくお願いいたします。 菜々子 (怪訝な感じで)よろしくお願いします。 野村 よろしくお願い申し上げます。 詩織 (怪訝な感じで)あのー、野村さん、自分たちで求人出しといてなんですけど、本当にヒモ志望で間違いないですか? 野村 はい、間違いありません。私、ずっとヒモにあこがれてたんです! 菜々子 ヒモってあこがれるものですか? 野村 だって、よくなくなくなくないですか?会社にこき使われず楽して暮らしていけるんですよ! 詩織 失礼ですけど、野村さん、おいくつですか? 野村 青田典子と同い年で48になります。 美樹 ……ちなみに料理は? 野村 好き嫌いなく何でも食べます。 詩織 いや、作る方は? 野村 カップヌードルは得意です。袋めんも最近覚えました。 菜々子 今回の求人って家事全般が前提じゃなかったんですか? 野村 大丈夫です。3日で覚えます! 美樹 うーん、なんとも嘘くさい。ちなみに、野村さん、なんか特技はありますか? 野村 あ、私イグアナの物まねが得意です。 詩織 イグアナ? 野村 はい、イグアナです。 菜々子 なんでまたそんなかわいくないものの物まね。 美樹 まぁ、いいんじゃん。じゃあ、やってみてください。 野村 いいんですか。じゃあ、ちょっと失礼して(物まねを始めようとする)  そこにインターホンが鳴る。 美樹 あ、ちょっと待ってください。  玄関へ出ていく。 美樹 (玄関で)はーい。 野村 えー、とイグアナは? 詩織 とりあえず間に合ってます。 菜々子 そうですね。  美樹、修二を連れて戻ってくる。 美樹 どうぞー。 修二 どうも、初めまして。修二です!特技は応援することです! 美樹 ごめんなさい。次の人が来ちゃって。ちょっと時間詰め詰めで入れすぎましたね。あ、野村さん。イグアナお願いします。 野村 あ、じゃあ失礼して。(イグアナの物まねを始める) 修二 それイグアナの物まねですか?そんなんじゃだめですよ!もっと腰入れてやらないと、ほら。こうです!こうなんです!(よくわからない熱血指導が始まる) 野村 えーと、こうですか? 修二 違います!こうです!ちなみにナマケモノはこうです!(なんか全然違う動物の物まねを始める)…動き、早いです! 修二 そうそう、いいじゃないですか。 野村 ほんとですか!ありがとうございます。 修二 あなた、筋いいですよ。じゃあ、次は修行のために本物のイグアナを見に行きましょう。 野村 はい、コーチ!(言ってから気づいた感じで)あ、と面接はどういたしましょう? 美樹 あー、まぁ大体わかったから大丈夫です。ね? 詩織 そうですね。 野村 では、ありがとうございました。ぜひともよろしくお願いいたします。  野村、修二出ていく。 菜々子 まぁ、あとから来た方全く面接してないですけどね。 詩織 まぁ、あれはいいんじゃないかな。 菜々子 それをいうなら野村さんも相当でしたよ。 美樹 でも、今の二人の方が最初の子より意外性はあったよね。 詩織 まぁね。意外性はね。 菜々子 今日はこんなとこですか? 美樹 うん。だって、詩織午後事務所行くんでしょ? 詩織 うん。 菜々子 相変わらず忙しいんですねぇ。 美樹 建築ラッシュ? 詩織 まぁ、おかげさまで。じゃあ、そういうことで私は。  詩織、自分の部屋へ戻る。 美樹 お疲れー。さて、今日の三人はどうしようか? 菜々子 えー、あれどれか採用するんですか? 美樹 退屈しのぎにはなりそうじゃない? 菜々子 いやですよー。家にイグアナとかポニーとかいるの。 美樹 まぁ、それもそうかぁ。じゃあ、また次回かなぁ。 菜々子 ほんとに次回あるんですかぁ? 美樹 だって、まだ履歴書いっぱいあるし。 菜々子 まぁ、いいですけど。  詩織がハンドバックをもって戻ってくる。 詩織 じゃあ、行ってくるねー。  詩織、部屋を出ていく。 菜々子 いってらっしゃーい。 美樹 行ってらっしゃい。じゃあ、私もちょっと出かけてこようかな。 菜々子 そうですか。  美樹、自分の部屋に戻る。菜々子、なんとなく履歴書を見ているところにインターホンが鳴る。 菜々子 はーい。  菜々子、出ていく。池田を連れて戻ってくる。 菜々子 どうぞー。 池田 どうもどうも。 菜々子 ちょっと原稿持ってきますね。 池田 はーい  そこに美樹が戻ってくる。 美樹 ちょっと行ってくるねー。あ、池田さん。こんにちは。 池田 どうもいつもお世話になってます。ちょっと、打ち合わせさせていただきますね。 美樹 どうぞどうぞごゆっくり。  美樹、出ていく。 菜々子 いってらっしゃい。 池田 これ、確認しますね。 菜々子 お願いします。 池田 (イラストを確認して)これ、挿絵の方ですよね?うん、いいじゃないですか。 菜々子 ありがとうございます。 池田 こちらお預かりしていきますね。(スケジュール帳を確認して)じゃあ、ゲラが上がるのが8月末くらいですかねぇ。 菜々子 わかりました。 池田 (口調を変えて)で、この前の話だけど、考えてくれた? 菜々子 考えた、考えたんだけど、うーん、どうしようかなぁ。 池田 ダメ? 菜々子 いや、一緒に住むのは全然いいんだけどね。急に引っ越すと二人の家賃負担がなぁ。 池田 まぁ、その辺は、ルームシェアだからね。 菜々子 うーん、だからタイミングうかがう感じかなぁ。 池田 あれは?新しい人入れるみたいな話は? 菜々子 あぁ、今日面接やってた。でもそもそもあれ募集してるのヒモだからなぁ。家賃増えないしなぁ。 池田 それもそうか。まぁ、こっちも別に急いでるわけじゃないしね。さて、お昼どこ食べに行く? 菜々子 うーん、あれは?駅前にできたグルメバーガー的なとこ。 池田 あぁ、アボカドバーガーとかの? 菜々子 うん、ちょっと気になってて。 池田 行ってみよっか。そういや、面接どんな人きたの? 菜々子 なんか変なのばっか来たよ。イグアナとか。 池田 イグアナ? ゆったりした音楽入る。二人、話しながら出ていく。菜々子、出かけに電気を消す。 第4場  美樹たちの部屋の中。美樹が部屋に戻ってくる。履歴書を見ている。音楽FO。詩織が帰ってくる。 詩織 ただいまー。 美樹 あぁ、お疲れ。 詩織 次の面接選んでるの? 美樹 うーん、どうしよっかなぁって。これなんかどう? (声のみ・坂谷君で)趣味は路上ライブです。音楽には自信あるんで癒しのソングを作ります。 詩織 役者の子の二の舞になる気がする。 美樹 あぁ、それはあるかな。じゃあ、こっちは?   (声のみ)趣味は人間観察です。色々な人間を観察して独自の分類でジャンル分けをしています。ぜひ皆様にも私の観察ノートを見ていただきたいと思います。 詩織 絶対に友達になれない。 美樹 こっちもっとやばいよ。   (声のみ)人生にヒモなんて必要ありません。そんなことをいう方は素敵な男性に出会っていないからです。私がぜひ皆様の考えを変えて差し上げます。 詩織 うざ。ってかその考えで履歴書送ってくるってどんだけ暇人。 美樹 だよねー。なかなかいいヒモっていないよねー。 詩織 いいヒモってどうなのよ。 美樹 まぁね。 詩織 …実際、どの程度本気なの? 美樹 え、それなりに? 詩織 ほんとー?(ちょっと聞きづらそうに)なんか三人じゃやりづらいとか? 美樹 あぁ、いやいや全然そういうんじゃないんだけどさ。菜々子も外出るようになったし新しい人とか入れてみるのもいいかなって。 詩織 そういうこと? 美樹 それだけじゃないけど。まぁほら外出るようになったとはいえ、うちらとしかしゃべらないじゃん? 詩織 まぁ、もとからそういう子だしね。でも仕 事も続いてるし、池田さんともいい感じだしもう大丈夫じゃないかなぁ。 美樹 それはたしかに。編集さんいい人で良かったよね。 詩織 あれ、元々美樹の紹介じゃなかったっけ? 美樹 いや、出版社はそうだけど池田さんは知らなかったよ。 詩織 そうなんだ。 美樹 まぁ、だから今はいいと思うんだけどさ、うちらもずっと一緒にいられるわけじゃないし。今のうちにコミュ力上げとかないと。 詩織 ほんと、いい先輩ですねー。 美樹 別にそんなんじゃないけど。私が変化が欲しいのも事実だしね。 詩織 変化ねぇ。 美樹 何よ、歯切れ悪いな。もとはと言えば詩織が変化って言い出したんでしょ。 詩織 いや、実はさ、変化ありそうでさ。 美樹 え?何々彼氏? 詩織 いや、そういうんじゃなくて。実はさ、先週、事務所の先輩から一緒に独立しないかって誘われてさ。 美樹 へー、独立かぁ。なんかかっこいいね。するの? 詩織 うーん、迷ってる。独立したら給与制じゃなくなるし。 美樹 確かにね。 詩織 あと、事務所渋谷辺りに置こうと思ってるらしくてさ。 美樹 あー、こっからだと結構遠いね。 詩織 うん、だから独立するなら正直引っ越しかなぁとか考えてて。 美樹 そっかぁ。寂しくなるなぁ。そうしたらヒモじゃなくてルームメイト募集した方がいいのかな。 詩織 いや、まぁ、まだわからないんだけどさ。家のこともあるからちゃんと決めたら二人には一番に報告するから。 美樹 うん、でも家のことは気にしないでよ。私だって別にそんなにお金厳しいわけじゃないし、何とかはなるからさ。 詩織 ありがとう。 美樹 じゃあ、やっぱりどっちにせよ次の面接考えないとな。 詩織 そだね。でも、まともなのあるの? 美樹 うーん、これなんかどう? コミカルな音楽入る。二人で楽し気に履歴書を見てから机を片づけて履ける。高梨出てくる。音楽FO。 第5場 ハローワーク  高梨が掲示板を見ていると野村がやってくる。 野村 おはようございます。 高梨 あぁ、おはようございます。今日の求人はこのあたりですかね。 野村 (見ながら)なかなかいいのないですよねぇ。 高梨 野村さん、贅沢言わないでくださいよ。なかなか元のお勤め先に匹敵するところはないですよ。 野村 なんせ超大手優良企業ですからね。 高梨 自分で言ってて悲しくならないですか。 野村 いえ。 高梨 はぁ。あ、そういやこの前のヒモどうでした? 野村 あぁ、あれはなかなか有意義な経験でした。 高梨 どんなこと聞かれたんですか? 野村 イグアナとポニーの物まねを指導されました。 高梨 は? 野村 いや、ぜひ採用していただきたいんですけどね。まだ、求人残ってます? 高梨 (ちょっと確認して)そうですね。まだ締め切ってはないですね。 野村 そうですかぁ。じゃあ不採用かなぁ。 高梨 まぁ、そんな胡散臭いのじゃなくこっちとかどうですか?野村さん、英語もできましたよね? 野村 はい、とりあえず国連英検A級ですけど。でも、語学系は大変そうなんでちょっと。 高梨 そうですか。 野村 じゃ、Have a break, Have a KitKat.  高梨にKitKatを見せて、野村去る。 高梨 …はぁ、もうあの人早く就職するかあきらめるかどっちかにしてくれないかな。  コミカルな音楽入る。高梨はける。美樹、菜々子机を出す。音楽FO。 第6場 美樹たちの部屋  二人で履歴書を見ながらだべっている。 菜々子 でも何でまたうちで面接やるんですか。 美樹 考えたんだけどわざわざ会議室とかとるのめんどくさいしさ。喫茶店とかでヒモの面接するのもどうかと思うじゃない? 菜々子 そこの常識はあるんですね。 美樹 うん。 菜々子 そうですか…。あれ、そういや今日詩織さんは? 美樹 なんかねー。休日出勤。なるべく戻るとは言ってたんだけどいなくてもやっててってさ。 菜々子 そうなんですか。  そこでインターホンが鳴る。 美樹 あ、やっぱ先に来ちゃったな。  美樹、ドアの方へ行く。 美樹 はーい。 坂谷 (声のみ)すみませーん。 美樹 (声のみ)はいはーい、ちょっと待ってください。え?ん?(慌てた感じで)ごめん。準備がまだだからちょっとそのまま待ってて。 菜々子 どうしたんですか? 美樹 (戻ってきて小声で)ちょっと見てほしいんだけど、あれ、どう思う? 菜々子 (小声で)どうしたんですか?何かやばいんですか? 美樹 (小声で)いや、やばいはやばいんだけど意味が違うんだよね。いいからみてみてよ。  菜々子、仕方なくいって戻ってくる。 菜々子 (小声で)あれ、未成年じゃないですか?制服着てますし。 美樹 (小声で)だよね。高校生? 菜々子 (小声で)美樹さん、完全に犯罪になりますよ。 美樹 (小声で)だよね。  美樹、菜々子、ドアの方へ行く。 美樹 すみません。あの、坂谷さん、未成年ですよね? 坂谷 (わかりやすく)ぎく!い、いやそんなことないです。22歳ですよ。 美樹 干支は? 坂谷 虎、いや、違います。パンダ、パンダです。笹! 美樹 西暦は? 坂谷 (開き直ったように)忘れました! 美樹 (小声で)この子、馬鹿なのかな。 菜々子 (小声で)そうですね。バカなんですね。 坂谷 そんなことより面接のために作ってきたヒモの歌聞いてくださいよー。 美樹 ヒモの歌? 菜々子 美樹さん、犯罪者になっちゃだめですよ。 美樹 そう、そうね。(厳しく)申し訳ないけど未成年は対象外ですのでお引き取り願います。 坂谷 (間髪入れず)嫌です。ひもひもハート。「養われるためーそのために生まれてきたんだー呆れる程にーそうさ傍に居てあげるー」ビートが俺に追い付いてきた。 美樹・菜々子 はあ? 坂谷 絶好調だ!  坂谷君、退場。 美樹 結局帰った。 菜々子 そうですね。 美樹 はぁ、まったく。 菜々子 でも、美樹さん、ちょっと面接くらいしてみてもいいかな、とか思ったでしょ。 美樹 ちょっとね。 菜々子 もう、だめですよ。 美樹 さて、仕切り直して次はどうかな。  インターホンが鳴る。 美樹 はーい。  美樹、ドアの方へ行く。  美樹が住谷を連れて帰ってくる。 美樹 どうぞどうぞ。 住谷 あ、どうも、住谷と申します。どうぞよろしくお願いします。 美樹 はい、どうぞこちらへおかけください。 住谷 大丈夫です。マイ座布団、持ってますので。 美樹 珍しいですね。 住谷 そうですか? 菜々子 女性ですか? 美樹 意外性あるでしょ。 菜々子 意外性ありすぎますよ。え、ヒモですよね? 美樹 だって、別にどっちでもいいじゃん。彼氏探してるわけでもないし。 菜々子 まぁ、それはたしかに。 住谷 大丈夫ですか? 美樹 大丈夫です。お待たせしました。えーと、気を取り直して。住谷さんは趣味とか特技は? 住谷 一応、風水をたしなんでおります。 美樹 風水ってあの、赤いものを東に置くと金運が上がるとかそういう感じの? 住谷 (間髪いれずに)違います。金運は、西に黄色いものを置くんです。 美樹 (思わず)はあ。 住谷 ここには、全然黄色がたりません。とりあえずこれを置くといいと思います。さしあげますので。(菜々子に黄色い招き猫を出してくる)。 菜々子 (思わず受け取って)どうも。 美樹 何これ、飾ってみる? 菜々子 いやぁ、ちょっと。 住谷 あとは、おやつは基本的にバナナですね。(バッグからバナナを出してきて食べ始める)。 菜々子 ここで食べるんですか。 住谷 定期的に黄色いものを食べないと運気が下がるので。 菜々子 はぁ。 美樹 ちなみに家事で一番得意なものは? 住谷 全部得意ですが、掃除ですかね。ついでに、運気が上がるような配置にもしますよ。 菜々子 配置は代えないでほしい。 住谷 ちなみに得意料理はカレーです。 美樹 黄色ですね。 住谷 そうですね。 美樹 最後に、住谷さんの方から質問とか言っておきたいことはありますか。 住谷 無いです。ありがとうございました。 美樹 では、合否につきましては、採用の場合のみ明日中にご連絡させていただきますのでよろしくお願いします。 住谷 ありがとうございました。失礼します。あ、どうぞこれ、差し上げます。金運が上がるので(座布団を渡す)。 美樹 ……ありがとうございます。 住谷 失礼します。  住谷出ていく。美樹、菜々子に座布団をあげようとするが、断られる。 菜々子 また新しいパターンでしたね。 美樹 確かにね。 菜々子 あの人にしたら部屋がまっ黄色になっちゃいますよー。 美樹 まぁ、それはそれで金運が上がっていいんじゃない。 菜々子 ダメですよ。 美樹 ダメか。さて、気を取り直して次は、野中次郎さん。35歳で英会話教師? 菜々子 あれ、ちょっとまともそうですね。でも、この人写真貼ってないんですね。 美樹 そうなんだよね。まぁ、書式フリーだからいいっちゃいいんだけど。  インターホンが鳴る。 美樹 はーい。まぁ、とりあえず呼んでみましょう。  美樹と野村がやってくる。野村は眼鏡をかけてあまり顔を上げない。 美樹 どうぞー。 野村 ……失礼します。 菜々子 あれ、この前の? 美樹 やっぱそうだよね。 野村 なんのことですか? 菜々子 イグアナさんですよね? 野村 いやだなぁ。僕は英会話教師の野中次郎ですよ。ナイスツーミーツーユー(ものすごく流暢かものすごく片言で)。Is this a pen?…No, that is a table.…Oh,dynamite! 美樹 うそくさい。 菜々子 だから写真貼らなかったんですね。 美樹 元電機メーカーにお勤めの野村一郎さんですよね。 野村 そこまでいわれたら仕方ないです。いかにも野村一郎です。やっぱりヒモになりたいんです。本気です本気です本気なんです! 美樹 たしかに並々ならぬ情熱は感じますけど。 菜々子 得意料理がカップラーメンの人はちょっと。 美樹 ね。大体、野村さん、実は資格とかめっちゃ持ってますよね? 野村 持ってますよ。国連英検A級、上級シスアド、気象予報士、ひよこ鑑定士。境港妖怪検定上級とか鳥取砂丘検定上級とかもありますけど。 美樹 何で鳥取押しなんですか。 菜々子 絶対普通に働いた方がいい給料もらえるじゃないですか。 野村 いや、でもヒモにあこがれてるんですよ。人間できるからってやりたいわけじゃないんですよ。 菜々子 嫌味ですか!? 野村 いえ、全然。こんなに情熱があってもダメですかぁ?また、イグアナします?今度はアフリカアマガエルの鳴き声も練習してきましたよ。 二人 それは結構です。 野村 そうですか。残念です(ちょっとしゅんとする) 美樹 じゃあ、再度検討するので、今日はこんなところで。 菜々子 検討するんですか? 美樹 だってちょっとなんかかわいそうだし。 菜々子 美樹さんだまされちゃだめですよ。実はこの人、全然かわいそうじゃないですよ。 美樹 まぁ、いいじゃない。とりあえず今日はお引き取り下さい。連絡先は変わっていませんよね。 野村 はい。じゃあ、よろしくお願いします。失礼します!  野村、出ていく。 菜々子 すごいですね。あのひと。 美樹 ほんと。ヒモって絶対あこがれるもんじゃないよね。 菜々子 でも、試しに採用してみてもいいかな、とか思ったんじゃないですか。 美樹 まぁねー。だってやる気はぴか一だよ。 菜々子 やる気だけ、ですけどね。 美樹 やる気は大事だよ。でもなかなかヒモ探すのって難しいねー。菜々子、今まででどれがいい? 菜々子 えー、全体的におかしかったですよ。まともなの、最初の役者の子くらいじゃないですか。 美樹 たしかに。でも、あれはもう不採用にしちゃったしなぁ。悩むなぁ。 菜々子 ちなみに、美樹さんは? 美樹 うーん、風水かイグアナか? 菜々子 そこですか? 美樹 でもまぁ、菜々子が家にいる時間長いしね。菜々子が気にいる人見つかったらでほんといいよ。 菜々子 あのーその話なんですけどー。えーと(言いづらそうに) 美樹 どうしたの?やっぱそもそも人増えるのいや?やなら全然いいんだけど。 菜々子 いや、そうじゃなくてですね。あの、引っ越そうかなって思ってまして 美樹 え!?面接そんなにやだった? 菜々子 あぁ、いやいや全然そういうんじゃないんです。あのですね、実は彼氏から同棲しようかと言われてまして。 美樹 彼氏いたの!? 菜々子 池田さんなんです。 美樹 マジで? 菜々子 で、一緒に住まないかって言われてて。 美樹 ご結婚されるんですか? 菜々子 いや、とりあえずそこまでは考えてないんですけど。 美樹 そっかぁ、そっかぁ、そうだったのかぁ。 菜々子 そうなんです。 美樹 そっかぁ、じゃあみんないなくなっちゃうのかぁ。 菜々子 え?詩織さん出ていくんですか? 美樹 (しまったという顔をして)あ、まだ決めてないらしいんだけど、なんか事務所の立ち上げに誘われてるっぽい。ごめん。聞かなかったことにして。 菜々子 そうなんですか。でもそうしたら美樹さん、ここに一人になっちゃいません? 美樹 そうだよねー。いっそ、私も引っ越すかなぁ。それかやっぱルームメイト募集するか。 菜々子 私、全然急がないので区切りいいときとかで大丈夫ですよ。 美樹 でも、区切りって言っても難しいし。いつでもいいよ。引っ越し先決まったら教えてよ。 菜々子 すみません。 美樹 それより、今度池田さんも呼んで飲み会しようよ。聞きたいことがいっぱいある。 菜々子 (不服そうに)えー、いいですよー。 美樹 ダメダメ。ちゃんと予定聞いといてよ。あ、ついでにヒモ候補も呼んじゃう? 菜々子 えー、本気ですか? 美樹 だって、なんか面白そうだし。気があったら私一緒に住んでもいいし。 菜々子 でも、ヒモですよ。 美樹 まぁね。でもそこは交渉次第でちょっと経費負担とか。 菜々子 しないと思いますよー、あの人たち。 美樹 かなー?まぁ、いいじゃん。とりあえず声かけてみようよ。選考会ということで一人一つ余興をやってもらうとか。 菜々子 まぁ、いいですけどね。でも、一人はどうせイグアナですよ。 美樹 まぁね。じゃあ、いつにする?(カレンダーを見て)三人とも空いてるのは再来週の土曜とか? 菜々子 はい、大丈夫です。 美樹 私野村さんとかに伝えとくわ。(電話をかけ始めて)あ、もしもし山本美樹です。ヒモ募集の。はいはい。  照明転換。手前に野村出てくる。 野村 え!?採用ですか。あ、違う。…再来週の土曜ですか!……空いてます空いてます。毎日空いてます。はい、喜んで! 楽し気な音楽入る。二人履歴書を片づけつつはける。野村も喜びながらはける。詩織、カレンダーをめくり、机を中央に出す。菜々子飲み物を持ってくる。美樹、座布団を片す。三人、部屋に飲み物とかもってやってくる。机を真ん中にする。音楽FO。 第7場  机を囲む三人 美樹 そろそろ来るかなぁ。 菜々子 ですね。ってか。美樹さん、食料買いすぎじゃないですか? 詩織 うん、誰があんなに食べるの? 美樹 まぁ、いいじゃん。足りないより余るくらいの方がいいよ。  インターホンが鳴る。美樹、出ていく。 美樹 はいはーい。あ、どうもこんにちはー。 お酒かケーキの箱か適当な手土産をもって池田がやってくる。 池田 あ、どうもどうも今日はお招きありがとうございます。これ、どうぞ(手土産を渡す) 美樹 どうもお気遣いありがとうございます。その辺に座ってください。 池田 ありがとうございます。今日は、他には? 美樹 ヒモ候補も来ますよ。 池田 結局、呼んだんですね。 詩織 一応、ヒモの最終面接も兼ねてるみたいですよ。 菜々子 そうそう一人一つ余興持ってきてねっていってあるの。 池田 じゃあ、噂のイグアナさんに会えるんですね。  インターホンが鳴る。 詩織 噂をすれば、来たんじゃないですか。  詩織、出ていく。 詩織 あぁ、お二人とも来たんですね。ちょうどよかったどうぞどうぞ。  住谷、野村が入ってくる。 住谷 本日は、お招きいただきありがとうございます。これ、金運上がるので西に飾ってくださいね(よくわからない黄色い絵を渡す)。 美樹 どうも。これ、芸術的なの? 菜々子 よくわかんないです。 住谷 飾った方がいいですよ(といいながら飾る)。 野村 あのー、これ、今日食べられなくても日持ちしますので(洋菓子の箱を渡す) 菜々子 (びっくりして)野村さん、意外とそういうところはまともなんですね。 野村 一応、これでも会社勤め長かったですから。 詩織 じゃあ、後でいただきますね、ありがとうございます。 美樹 みなさん、お気遣いいただいてありがとうございます。じゃあ、始めますか。 菜々子 そうですね。じゃあ、みなさんコップを……(適当に飲み物の手配をする)。 美樹 住谷さん、お酒ー。そういや、お二人余興の準備は? 野村 私は、いつでも準備ばっちりですよ。 住谷 私もきちんと準備してきましたよ。 美樹 期待してます。ではでは、お酒いきわたってます? 全員 はーい。 美樹 じゃあ、とりあえずかんぱーい! 全員 かんぱーい! 楽し気な音楽入る。楽しく飲んでいる感じ。住谷が野村にレモンを渡す。美樹が池田、菜々子に絡む。野村レモンに困る。詩織レモンを回収。野村がイグアナを始める。住谷が何かやれ、みたいな感じでいわれてゆるく踊り出す。住谷に乗せられてみんなでゆるくダンス。 美樹 はぁー。楽しかった。 菜々子 たまにはこういうのもいいですね。 池田 そうだね。あれ、意外といい時間ですね。私はそろそろ失礼させていただきますね。片づけ……(近くのものを片づけようとする)。 美樹 あぁ、いいですよ。まだもう少し飲みたいし、こっちでやっておきます。 池田 何から何まですみません。 菜々子 じゃあ、駅まで送ってくよー。 池田 ありがとう。ではでは、今日はほんとありがとうございました。 詩織 いえ、こちらこそありがとうございます。 菜々子 ちょっと行ってきまーす。  池田、菜々子出ていく。 美樹 さて、なんか飲み物とかいります? 詩織 あ、私お茶がほしい。 美樹 分かったー。 住谷 私も手伝いますよ。ついでに先ほどのお二人のも片づけちゃいますね。  美樹、住谷多少片づけてはける。 野村 いやぁ、なんかこういうの学生以来ですね。 詩織 職場で飲んだりしなかったんですか。 野村 飲みますけど。そういうの楽しくないじゃないですか。 詩織 まぁ、付き合いですからね。 野村 だからクビになってちょっとほっとしたところもあるんですよね。 詩織 そんなに嫌だったんですか? 野村 そんなに嫌じゃないですけど、飽き飽きしていました。 詩織 そうなんですか。 野村 このまま一生これを繰り返していくのかな、と思うと気がめいってたんですかね。 詩織 あぁ、ありますね。そういうこと。 野村 朝のラッシュとか乗ってると、このまま釧路湿原に行きたいなあとかって思いません? 詩織 いや、そこまでは思わないですけど。 野村 そうですか?いや、だから辞めてから意外と楽しいですよ。 詩織 ほんとですか? 野村 毎日、今日何しようかな、何食べようかなって思います。 詩織 ま、確かに勤めてると大体決まってますからね。 野村 ですよね。 詩織 でもそういうのって変な安心感もあるじゃないですか。 野村 ああ、それもそうですね。 詩織 そうですよね…私、今独立しないかって誘われてて。 野村 そうなんですか。 詩織 でも、この家とか給料とかそういうのに安心してるところもあって。 野村 うん。 詩織 そういうの全部変わっちゃうのそれはそれで不安なんですよね。 野村 ……でも、独立してみたいんですよね。 詩織 …そうですね。たぶん、そうなんでしょうね。 野村 まぁ、無責任な発言ですけど。やってみたらいいんじゃないですか。だめでも手に職があるんだから、大丈夫ですよ。 詩織 …… 野村 なんて、無職のヒモ志望に言われてもあれですけどね。 詩織 ほんとですね(笑)  住谷、美樹戻ってくる。 美樹 まだ、食べ物いっぱいあったよー。 詩織 でしょうね。 住谷 でもソフトドリンクないんですよね。 詩織 あ、たしかにあんまり買わなかった。 美樹 そうだね。 詩織 じゃあ、私買ってくるわ。 美樹 ごめんね。あとで清算するから。 詩織 大丈夫大丈夫。私が飲みたいんだし。  詩織、財布を持って出ていく。 詩織 いってきます。 美樹 いってらっしゃい。じゃあ、とりあえず、もう少し飲みます? 住谷 ありがとうございます。取っていただいても宜しいですか? 野村 あ、コップ。 住谷 すみません。ありがとうございます。 美樹 (住谷に)どうぞどうぞ。野村さんも飲みます? 野村 あ、私、注ぎますよ。…で、結局面接の結果はどうなるんですか? 美樹 どうしましょうかね。 住谷 私がいた方が運気が上がりますよ。 美樹 うーん。 野村 私、なんでも頑張りますよ! 美樹 うーん。そもそも、菜々子も詩織も出ていくことになりそうなんですよねぇ。 野村 そうみたいですね。 美樹 そうすると、私一人でこの広さのマンションに住むのはちょっとねぇ。 住谷 そうするとヒモの話自体なしってことですか? 美樹 せっかくだし、そうしたくはないんだけど。 野村 そうですよ。癒しは必要ですよ。 住谷 うんうん。 美樹 ……癒されないですけどね。ちなみにお二人少し家賃入れる気とかあります? 野村・住谷 ないです。 美樹 ですよねぇ。ヒモ、ですもんね。 野村・住谷 はい。 美樹 じゃあ、先にルームメイト募集ですかねぇ。それで落ち着いたらそのあとにって感じですかね。 野村 そうすると、雇用保険切れちゃいますかね。 美樹 野村さん、完全にうちをあてにしてますね。 野村 はい。他にこんな勤め先ないですから。 美樹 とりあえず他もご検討ください。 野村 迂闊なとこ受けるとあっさり採用されちゃうんですよね。 美樹 嫌味ですか!? 住谷 私は、今のところ生活に困っていないので大丈夫です。 美樹 あれ、住谷さん働いてましたっけ? 住谷 通販で結構売れてまして。黄色の招き猫とか黄色の豚とか黄色の盆栽とか黄色のいわしとか。 美樹 それは霊感商法なのでは? 住谷 大丈夫です。金運アップとしか言ってませんし、価格も良心的ですから。 野村 あぁ、それなら大丈夫ですね。 美樹 大丈夫なんだろうか。でも、お金困ってないなら何でヒモなんですか。 住谷 通販なんていつまで売れているかわからないじゃないですか。だったら家事をしてお金を頂いて、で、片手間に通販やった方がいいかな、と。 野村 なるほど。 美樹 堅実なんだか適当なんだか。  そこに詩織が帰ってくる。 詩織 ただいまー。 美樹 おかえりー 詩織 あぁ、まだお酒飲んでる感じね。じゃあ、お茶、冷蔵庫入れとくね。 美樹 ありがとう。 野村 さてさて、お酒もだいぶいただきましたし、私もそろそろ失礼しますね。 住谷 じゃあ、私もお暇いたします。 美樹 今日は遅くまでありがとうございました。ヒモの件は、色々調整してまたご連絡しますね。 野村 ぜひ、お待ちしています。 住谷 私もお待ちしております。 美樹 ではでは。ここで失礼します。  野村、住谷帰っていく。 詩織 嵐のあとの静けさ。 美樹 さて、片づけますか。 詩織 うん。とりあえずお菓子片しちゃうね。 美樹 よろしく。  詩織、一旦はけて戻ってくる。 詩織 ねぇ、美樹。 美樹 ん? 詩織 私、やっぱり独立するわ。 美樹 うん、知ってる。 詩織 ありがとう。  優しい音楽入る。片づけてはける二人。暗転。 第8場  明転。音楽FO。詩織と住谷と美樹が机を囲んでいる。 住谷 (マンションの図面かチラシを見ながら)とりあえず今年は北東と西南は良くないですよ。 詩織 じゃあ、これとこれは外して。 美樹 詩織そういうの信じる人だっけ? 詩織 いや、意外といい物件あって迷っちゃって。全部見に行くのも大変だしこういうのもありかなって。 美樹 そういうことね。 住谷 お二人とも風水をなめちゃいけませんよ。風水は中国古来の奥義ですからね。諸葛孔明だって風水師ですからね。 美樹・詩織 (興味なさそうに)はいはい。 住谷 まぁ信じないのは自由ですけど。今日は、面接ですか? 美樹 そうそう。お金はらってくれる人の方ね。 詩織 ルームメイトね。まともな人いるのー? 美樹 さすがに今回はまともな人しか求めてないよ。 住谷 でも、ハローワークで募集してましたよね。 詩織 え、また?ってか仕事じゃないじゃん。 美樹 ヒモに付随して募集してもらった。 詩織 できるの?そんなこと。 美樹 ごり押しした。 詩織 かわいそうに。 美樹 まぁいいじゃん。(履歴書を持ちながら)こうして無事応募も来たわけだし。  そこに荷物を持って菜々子がやってくる。 菜々子 これでやっと最後ですね。 美樹 あ、片づけ終わったんだ。 菜々子 いやー、大変ですね。引っ越しって。詩織さんも覚悟した方がいいですよ。 詩織 知ってますー。 美樹 詩織の部屋の方が菜々子よりやばいよね。物多すぎでしょ。 詩織 仕方ないでしょ。あー、しかも事務所の引っ越しもあるからなぁ。 菜々子 締め切り前じゃなければ手伝ってもいいですよ。 詩織 ほんと?お願いするかも。 菜々子 はい。 詩織 よろしくね。 菜々子 (ちょっと仕切り直した感じで)じゃあ、これまで色々お世話になりました。また、これからも仲良くしてくださいね。 美樹 もちろん。 詩織 引っ越しも手伝ってもらわなきゃだしね。 住谷 引っ越し祝いにこれもどうぞ(謎の黄色い絵を渡す)。 菜々子 あ、ありがとうございます。(バッグに入らない)………かさばりますね。 住谷 ちゃんと飾ってくださいね。 美樹 飾らなくていいと思うよ。じゃあ、ほら池田さん待ってるんでしょ。 菜々子 はい。じゃあ、また。 詩織 また。 美樹 またねー。  菜々子、はける。見送る三人。 美樹 はあ。 詩織 やっぱ寂しいもんだね。 美樹 ま、でもいつでも会えるからね。 詩織 そうだね。 住谷 そういえば、面接はそろそろ来るんですか。 美樹 あぁそろそろかな。 住谷 今日はどんな人ですか? 美樹 まずはねー、この人(履歴書を二人に渡す。)すぐ来るからこの辺片すよー。(言いながらマンションのチラシとかを部屋にはける) 住谷 20代、男性、英会話教師 詩織 ん?(履歴書を見て)野田三郎?写真は若いけど。 住谷 これって。 詩織 ですよね?  インターホンがなる。 美樹 (部屋から出てきて)はーい。(二人を見て)あれ、どうしたの? 住谷 いえ。 詩織 いえ。  インターホンがなる。 美樹 はーい、(玄関に走っていってドアを開ける。)また!? コミカルな音楽入る。やっぱり野村が入ってくる。サングラスをかけているが、みんなに文句を言われ外す。とりあえず土下座で押し切ろうとする。美樹がどうしようか考える。インターホンが鳴った感じでみんな玄関に注目。修二も入ってくる。相変わらずハイテンションで何らかの指導をし始める。修二が二人をつれだす。 外では、菜々子を待っている池田。そこへやってくる菜々子。コンパスを持つ住谷と詩織が駆け抜ける。修二から逃げてきた野村と美紀が池田、菜々子に隠れる。修二は気づかず、走り抜けていく。最後はみんなでダンスして幕。  ---------------------------------------------   以上、いかがでしたでしょうか?   よろしければ下記のページより、感想を御記入下さい。   もちろん、叱咤激励なんでもかまいません。   作者の方の励みにもなりますので・・・    http://haritora.net/bbs/?type=13037   また、下記ページから作品の評価登録も可能です。(要登録)    http://haritora.net/critic/member/look.cgi?script=13037  それでは、今後とも『はりこのトラの穴』をよろしくお願いいたします。