題名:成仏は一日にしてならず2006    劇団:劇団くるめるシアター    作者:上野 小夜  ---------------------------------------------  著作権について  ・本ページで公開されている作品の著作権をはじめとするすべての権利は   全て作者が保有いたします。  ・このページからダウンロードできる脚本は全て無料で読んでいただいて   結構です。ただし、舞台等で御利用の際は、作者からの上演許可を取っ   ていただくようお願いいたします。  ・必要に応じての改編等も、作者への許可の上行って下さい。  ・著作権料が発生する場合、指定された額を作者へ送金を忘ないように   お願いいたします。本作品おける著作権料は、下記に示す通りです。  ---------------------------------------------   小学校、中学校、高校、その他学生の無料公演・・無料   アマチュア劇団の公演、学生の有料公演・・・・・5000円   プロの劇団の公演・・・・・・・・・・・・・・・全チケット収入の1割     (全チケット収入の一割が5000円に満たない場合は5000円)     [2]の場合、公演の2週間前までに、     [3]の場合、公演後2週間以内にお支払いください。  ※本作品は作者の許可無く準上演を行うことが出来ます。  ※準上演についての詳細は、http://haritora.net/copyright.html をご参照ください。  --------------------------------------------- キャスト:島田知子(女)→幽霊の女の子。はかなげ。おとなしい。      松原(男)→軽いいまどきの男子高校生。      田中(男)→真面目な男子高校生。松原の友達。      酒井美和先生(女)→新任の先生。頑張りやだけど、まだミスが多い。      寺崎先生(女)→酒井先生の一つ上の先生。酒井が入ってくるまで若くてちやほやされていたため悔しい。      ホームレス(男)→ひとなつっこいおじさん。廃校に人がくると嬉しくて仕方ない。      鎌田(男)→幽霊恐怖症の男。隣の廃校の幽霊が怖くて仕方ない。丁寧な性格。      浮遊霊子(女)→除霊がしたくて仕方ない少女。一応能力はあるらしい。      謎の少女(女)→ダークだけど知子とホームレスとは仲がよい。今の生活に満足している。 第1場 学校の中  知子、酒井がいる。険悪なムード。 知子 もういいじゃん。私がいいって言ってるんだから。 酒井 何でそうやってすぐ諦めるの!? 知子 別にいいじゃん。美和に関係ないでしょ!! 酒井 あ、そう。そうだよね。じゃあ勝手にすれば!? 知子 あぁ、勝手にしますよ!! 酒井 そ。じゃあね。  酒井、退場。暗転。 第2場 下校途中(舞台前方)   松原、田中上手から登場。歩きながら喋る、座ってもいいかも。 松原;あー疲れた。でもやっとテスト終わったなぁ。どっか遊びにいこーぜ。 田中;お前は勉強全然してないんだから、疲れないだろ?俺は疲れたからもう早く帰って寝るよー。 松原;つまんねーな。いいじゃん。何かこう開放感でわくわくしないか? 田中;いいか、確認するぞ。 松原;何だよ、急に。 田中;お前、今いくつだ? 松原;18。 田中;高校? 松原;3年生。 田中;この状況で、わかっているのにこの状況でよくそんなことが言えるな? 松原;何か、それが関係あるのか?  酒井登場。 酒井;お疲れ様。田中君、相変わらず学年トップだったわよ。頑張ってるわねー。 田中;有難う御座います。数学は得意なだけですよ。 松原;お前すげーな。 酒井;松原君、あなたいい加減進路調査表出しなさいね。寺崎先生も困ってたわよ。 松原;えー、だってどこでもいいんすよ。酒井先生代わりに適当に書いといてくださいよ。 酒井;何言ってるの、ちゃんと決めなきゃ駄目じゃない? 松原;いやー俺勉強好きじゃないしなぁ。せんせー勉強しないでも楽に入れるようなところ見繕って下さいよ。 酒井;はぁ、全く。そんなわけにいかないでしょ。  寺崎、上手から登場。 寺崎;酒井さん、 酒井;寺崎先生、お疲れ様です。 寺崎;お疲れ様じゃないわよ。今日臨時のMTあるって言ったじゃないの。 酒井;あ、すみません。うっかりしてて。すぐ戻ります。 寺崎;いつまでも学生気分でいられると周りが困るのよ。 松原;ほらほら、先生俺なんかに構ってないで早くいたほうがいいよ。 酒井;それとこれとは別でしょ。 寺崎;(二人に気づいて笑顔で)二人ともさようなら。松原君、あなた早く調査表出しなさいよ。 松原 はいはい、さよーならー。 田中 さようなら。  田中、松原何か喋りながら下手へ退場。 寺崎 全くあなたがしっかりしていないから松原君もいい加減になるのよ。 酒井;すみません。 寺崎;明日までには必ず出してもらいますからね。 酒井 でも無理矢理提出させても松原君がしっかり考えないことには意味がないんじゃないでしょうか? 寺崎 仕事できない癖に言うことは一人前ね。 酒井 すみません。 寺崎 まぁ今はとりあえずいいわ。MTに行きましょう。でも、松原君は家にも釘を刺しておいたほうがいいと思うわ よ。どうせ三社面談も知らないでしょうから。 酒井 はい。あとで電話しておきます。  酒井、寺崎、上手へ退場。 第3場 廃校の中  ホームレス、謎の少女がいる。知子入ってくる。 知子;おはようございますー。はい、お茶が入りましたよー。 ホームレス;いつもありがとね。今日はいいお弁当が見つかったんだよ。食べるかい?エビフライも残ってるよ。 知子;私は食べなくても大丈夫ですから。 少女;食が楽しめないと人生損してるわよ。 知子;私、人生終わってますし。 少女;まぁそれはそうだけど。食べてもいいじゃない。 ホームレス;まぁまぁ喧嘩しないで。ほら他にもパセリとかあるから。 知子;そういう問題じゃないんですけど。 少女;私はそんなもの食べないわよ。 ホームレス;そんなものって失礼だよ。大事な食料なんだから。 少女;はいはい、失礼しました。 知子 でも、よく毎日毎日見つけてきますねー。 ホームレス 僕の特技だからね。おいしそうなお弁当持ってる人をじーっと見つめると大体くれるよ。 知子 拾い物じゃなかったんですか!? 少女 嫌なホームレスね。そのうち親父狩りに遭うわよ。 ホームレス その時は助けにきてね。 少女 嫌。 知子 (同時に)嫌です。 ホームレス 二人とも冷たいなぁ。 少女 はいはい、じゃあ私も食べ物でも探してくるわ。 知子 じーっと見つめて奪うんですか? 少女 違うわよ。じゃあ、これご馳走様。  少女、お茶を知子に返して退場。ほのぼのと無声劇を続けるホームレスと知子。舞台手前に下手から松原、田中登場。 松原 なぁ、おまえんちどうしても駄目?? 田中 無理だって。今日は勘弁してくれよ。叔母さん泊まりに来てるんだよ。 松原 そこを何とか。物置とかでもいいからさぁ。 田中 曽根とか野村の家は?? 松原 曽根んちは親が厳しいだろ?野村も今日は無理だって。頼むよー。お前しかいないんだよ。 田中 そもそも家出なんかするからいけないんだろ? 松原 だってうるせーんだもん。大体それもこれも寺崎のせいだ!! 田中 自業自得じゃん。諦めろって。悪いけどとにかくうちは無理。明日なら平気だけど…。 松原 明日じゃ意味ないんだよ。ちくしょう、今日は野宿しかないかなぁ。 田中 それは止めとけよ。  少女、学校から出てきて二人の前を通り過ぎる。 松原 あ。ちょっと、そこのあんた。 少女 何? 松原 今その廃校から出てきたじゃん?もしかしてそこに泊まってるの?? 田中 そんなわけないだろ。 少女 そうだとしたら何かあなたに関係あるの? 松原 いや、俺今日泊まるとこなくてさ。そこもしかして泊まれるかなって。 少女 さぁ。住もうと思えばここの道路にだって泊まれるわよ。 松原 そりゃそうだけど。すっげーぼろいから無理とか、入れないから無理とかそういうことはないわけ? 少女 さぁ??それは感性の問題ね。 松原 だからそーいうことじゃなくてさー… 少女 自分で確かめればいいでしょ。若いんだから行動しなさいよ。  少女、下手に退場。 松原 (少女に)おまえもそんなに年変わらなねーだろ。(独り言のように)はいはい、わかったよ。田中、ちょっと入ってみよーぜ。 田中 は??止めとけよ。不法侵入だろ。 松原 どうせ誰も住んでないしいいって。ほらほら。  松原、田中を引っ張って学校へ入る。 松原;こんにちはー。誰かいますか?? 知子;(ドアの方に行き)はーい、おはようございます。何か御用ですか? ホームレス;珍しいね、人がやってくるなんて。 田中;なんでこんなとこに人が住んでるんだよ。 松原 先客がいたかぁ。 ホームレス うん、どうしたんだい? 松原 いやー。ちょっとわけありで泊まるとこ探しててさ。 ホームレス だったらここに泊まるといいよ。 知子 うん、部屋もいっぱいあるし。 松原 え、いいの!? 田中 止めとけよ。こんな胡散臭いところ。 松原 いいじゃん。外よりましだろ?? ホームレス 僕のお勧めは音楽室だね。夜にはベートーベンの目が光ると評判だよ。 田中 あほくさ。 松原 何か廃校って感じだな。もしかして幽霊とかもいたりして。 知子;(手を挙げて)はい、はーい私幽霊です。幽霊になって今年でちょうど10年目を迎える新人幽霊島田智子、享年15歳、夢は早く成仏することです! 松原;えっ!?まじで!?すげー。 ホームレス 因みに僕はホームレスになって今年で3年目の中堅ホームレスのひろさんです。夢は就職、住みたい家 は積水ハウスです。 田中;馬鹿だろ、おまえら。お前も何で真に受けるんだよ。明らかに嘘だろ。ほら、足もあるし。 知子;失礼な人だなー。本物です!! ホームレス;本当だよ。知子ちゃんはずーっと年取らないし。 田中;あーはいはい。 知子 何その返事?大体私たちちゃんと名乗ったんだから自己紹介ぐらいしてください。 田中 何で俺がおまえらなんかに…。 松原;そっかぁ。やっぱ幽霊は死んだ時のままなんだな。 田中;いつまでも何感心してんだよ。やっぱ帰ろうぜ。こんなとこ泊まってたらますます馬鹿になるぞ。 ホームレス;そうなんだよ。僕も彼女を見て初めて知ったよ。ここには他にも色々怖い話があってね…。 松原;へぇーどんなの? 田中;勝手にしてろ。俺は帰るからな。   田中、退場。 松原;え。おいちょっと待てよ。 ホームレス;あぁ、僕何か悪いこと言ったかな。もっと面白いこと言わなきゃいけなかったのかな? 知子;そういう問題じゃないと思いますよ。 松原;そうだよ。あいつ頭固いから気にしないでいいよ。俺今日ここ泊まってっていい? 知子;でも、ちょっと悪乗りしちゃったのも事実だし…。追っかけた方がいいんじゃないかな。 松原;ぜってー眠いだけだって。 ホームレス;でも、友達は大事にした方がええよ。 松原;そんな大事にしなくても…。(二人を見る)分かったよ、謝ってくりゃいいんだろ? ホームレス;うん。行っておいで。 知子 泊まるならどこか部屋片付けておくよ。  見送る、二人。松原、退場。二人もちょっとしてからお茶とか片付けつつ退場。 第4場 学校の前の道路(舞台前方)  隣人下手よりに立ってうろうろしている。学校の中からいらいらと歩いていく田中。遅れて出てくる 松原。学校から出てきたことにびっくりし、様子を伺う隣人。 松原 おい。 田中 ………。 松原 おい。(肩に手をかけ)おいって。そんなに怒るなよ。 田中 あまりにも馬鹿馬鹿しくてやってられなかっただけだよ。別にお前は泊まっていっていいんだぜ。 松原 お前のせいで気まずくなったんだよ。空気読めよー。 田中 おれはもうちょっとレベルの高い空気じゃないと読めないんだよ。 松原 おまえ、ほんとつまんないなー。 田中 別に面白くなろうと思ってないから。 鎌田 あの、すみません。 田中 (思わずいらっと)はい!? 鎌田 あ、いや、あの、すみません何でもないですごめんなさい人違いです申し訳ありませんでした。 田中 あ、…いや。すみません、こちらこそ。何かつい。どうかされましたか? 鎌田 あのその、こんなこと唐突に申し上げて恐縮なんですが今お二人はお隣の南第三中学校から退出してこられましたよね? 田中 はい。すみません。決して何か悪いことをしようとか思ったわけじゃないのですが。そのぉ。俺は止めろって言ったんですが…。 鎌田 いえいえ、決して非難しているわけではないのです。むしろその勇気に感服致しました。あ、申し遅れましたが私隣に住んでおります鎌田と申します。 田中 はぁ。 鎌田 あのような噂のある恐ろしい廃校にお二人だけで向かわれるなんていやはや… 松原 (遮って)お兄さん幽霊に興味あるの? 鎌田 (丁寧さをかなぐり捨てて)幽霊!?やっぱり出るんですか?ここ?そうなんですか?どうなんですか?ねぇ、あなた方見てきたんでしょう?いるんですか、いないんですか?はっきりしてください!! 田中 (迫力に押されつつも)いません。 松原 (同時に)いました。 鎌田 (喜んでいいのか怖がればいいのか困る) 田中 だからあれは幽霊じゃないだろ。 松原 だって本人が認めてたじゃないか? 田中 じゃあおまえあれが幽霊だって証拠あるか? 松原 そんな証拠あるわけないだろ。 田中 ただの子供のいたずらだ。 松原 子供が廃校でお茶飲んでるかよ。 鎌田 どっちなんですか!!ここに越してきてから私は夜も眠れないんです。毎日毎日、睡眠薬を飲み、酒を飲み、必死に羊を数えて眠る。もうこんな生活嫌なんです。 田中 ………。この学校にはホームレスが住み着いていてそこに中学生くらいの少女が遊びに来ている。それだけですよ。 松原 で、その中学生が幽霊なんです。 鎌田 ひぃ! 田中 違います。 松原 それで、幽霊とホームレスが楽しくお茶会してましたよ。今度あなたも行ってみたらどうですか? 鎌田 夜な夜なそんなおぞましい会合が開かれていたなんて…。 田中 おぞましいって…。だから違いますよ。幽霊なんてあんなもの全てプラズマですって。 鎌田 …(がたがたふるえていて人の話を聞いてない) 松原 せっかくお隣さんなら引越しそばとか持っていったらきっと喜ばれますよ。 鎌田 (聞いてない。何かを決意した目で)このまま何もしないわけにはいかないですよね。お二人とも貴重な情報提供誠に有難うございました。これでようやく私も覚悟が決まりました。 田中 はぁ、そうですか。 松原 それはどう致しまして。 鎌田 それでは私は行動を開始いたしますので失礼致します。  隣人、しっかりした足取りで下手へ退場。 田中 なんだったんだ? 松原 さぁ? 田中 変な人だったな。 松原 まぁ、眠れるといいな。 田中 俺もな。    下手から少女、登場。 少女 あなたたちいつまで人の家の前で騒いでるの?近所迷惑よ。  学校へ少女、退場。 松原 はぁ!?あいつ何様だよ!! 田中 まぁ、もっともだけどな。さて、俺いい加減帰るからな。お前どーすんだ? 松原 ああ。悪かったな、付き合わせて。折角だし俺は泊まってくよ。あのおじさんと自称幽霊の女の子も悪人じゃなさそーだし。 田中 まぁ、確かにな。でも今の子も住んでるんじゃないのか? 松原 げっ。まぁ会わないようにすりゃいいだろ。広いんだし。 田中 まぁ頑張れ。じゃ、また明日。 松原 じゃあな。  田中、下手へ、松原上手へ退場。 第5場 学校の外(舞台前方)  上手から歩いてくる酒井、呼び止める寺崎。 寺崎 酒井さん。 酒井 はい。何でしょうか? 寺崎 何じゃないわよ?今日までには進路調査出してもらわないと困るって言ったでしょう? 酒井 あ、すみません。でも松原君今日欠席なんですよ。 寺崎 知っているわ。それを何とかするのもあなたの役目でしょ。電話かけるなり、家に行くなり然るべき処置を取りなさいよ。 酒井 でも…。そんな無理矢理は。 寺崎 それにあなた結局昨日も電話しなかったでしょう? 酒井 あ…。 寺崎 松原君のご両親案の定何も知らなかったわよ。 酒井 申し訳ありません。お手数おかけして…。 寺崎 本当よ。自分のクラスぐらい自分で面倒見て頂戴。 酒井 はい。 寺崎 そんなにおびえられたら私がいじめてるみたいじゃない。これだから若い女は。 酒井 いえ、そんなつもりは全然。 寺崎 とにかく!何としてでも今日中に提出しなさいよ。  上手から通りかかる田中。 酒井 あ、田中君。 寺崎 (にっこり笑って)お疲れ様、田中君。 田中 さようなら。 酒井 ちょっと待って。松原君は今日風邪かな? 田中 松原ですか?いや、あいつは… 寺崎 昨日も元気だったからそんなことないわよね。さぼりかな? 酒井 そんな、寺崎先生決め付けないで下さいよ。 田中 まぁサボりみたいなものですよ。 寺崎 ほらね。 酒井 そっか、ありがとう。じゃあ家の方に電話してみるわ。 田中 家にも帰ってないかもしれませんが。 酒井 どういうこと? 田中 あいつ親と喧嘩したらしいので。 酒井 そうなの? 田中 まぁ、寺崎先生の電話で、親が激怒したらしいですよ。 寺崎 あら、私のせいかしら。 田中 いやー、自業自得だと思いますよ。とにかくだから家には帰ってないと思います。 酒井 どこか松原君がそういう時行きそうなところに心当たりある? 田中 昨日は廃校に泊まるって言ってましたよ。ほら、あっちにある。名前はちょっとわからないのですが…。 寺崎 南第3中学校のこと?あんなところに泊まるなんて勇気あるわね。幽霊が出るって噂じゃない。 田中 先生まで…。皆さんそういうの好きですね。幽霊なんていませんよ。 酒井 南第三中に幽霊?どんな噂なんですか? 寺崎 ありがちな話よ。学校で卒業前に死んだ女の子が夜な夜な出るとかいう。まぁもっとも私はそんなもの信じていないけど。ただの噂よ、噂。 田中 僕もそう思います。 寺崎 有難う、田中君。おかげで松原君の家に無駄足踏まずに済みそうよ。 田中 まぁ、まだいるかはわかりませんが…。それでは、失礼します。  田中、下手へ退場。 酒井 そんな話、聞いたことなかった。 寺崎 何、あなた?そんなに怖い話が駄目なの?それともお得意のかわいこぶりっこ!? 酒井 (聞いてない)三中に女の子の幽霊?? 寺崎 ちょっとあなた!! 酒井 あ、すみません。じゃあ、私松原君を探しに行ってきますね。 寺崎 それはいいけど。今日中に戻ってきなさいよ。職員室で待ってますから。 酒井 わかりました。じゃあ、いってきます。  酒井、走って退場。 寺崎 (小声で)1歳しか若くないくせに!!  寺崎、反対側に退場。 第6場 廃校  一人でいる少女。お茶を持って入ってくる知子。 知子 おはようございます。お茶が入りましたよー。 少女 あんたさ役者じゃないんだからいつでもおはようございますってどうなの? 知子 いいじゃないですか。それともいつでもこんばんはの方がいいですか? 少女 時間帯で変えようとは思わないの? 知子 時間なんて関係ないですから。 少女 まぁ、それはそうだけど。折角幽霊になったんだからもっと人生を楽しんだら? 知子 人生終わってますけどね。 少女 煩い。細かいこと気にしないの。 知子 まあどちらにせよ、こんな変化のない生活をそんなに楽しめませんよ。 少女 昨日はお客さんが来てたじゃない。あんたたちお客好きでしょ。 知子 まあ、それは…。でもたまに人が来たって皆すぐ帰っちゃうじゃないですか? 少女 それは仕方ないでしょ。それぞれの生活があるんだから。 知子 そうですよ。それぞれの生活が皆あるんですよ。でも、幽霊にはないじゃないですか? 少女 あんた意外と人に見えるんだしアルバイトとかしてみたら? 知子 無理です!!私地縛霊ですから!!大体たまに見えない店員とかすごい迷惑じゃないですか!? 少女 まぁそんなのもありじゃない?私なら嫌だけど…。 知子 とにかく、幽霊はやっぱり成仏するべきだと思うんです。 少女 そんな型にはまらなくてもいいんじゃない? 知子 きっとそうすれば何か思い出すかもしれないし。記憶がないのって思ったより気持ち悪いんですよ。全部忘れてればまだいいのに。何か思い出しそうで出せなくてすっきりしないんです。 少女 思い出せないようなことなんてきっと大したことじゃないわよ。 知子 それは、そうかも知れませんが。でも、大事なことだってあるかも。 少女 かもしれない。でもそれは思い出せないんだからわからないでしょ。ほら、悩むだけ無駄よ。外は夏よ。海でも行って来たら? 知子 (じとっとした感じで)だから、私ここから出られないんですけど!! 少女 (しまったという顔。咳払いをして)学校のプールがあるわよ。 知子 ヤゴと藻がいっぱい浮いてますけどね。 少女 おじさんに頼めばきっと掃除してくれるんじゃないかしら?じゃあ、私はちょっと出かけてくるわ。ソフトクリームでもお土産に持ってくるわよ。  少女、退場。 知子 だから私は食べませんって!!…はぁ。  お茶を片付けて退場。 第7場 学校の前(舞台前方) 上手から歩いてくる少女、下手から来て声をかける酒井。 酒井 ごめんなさい。今あなた三中から出てきたわよねここらへんで高校生ぐらいの男の子見なかったかしら? 少女 あぁ、馬鹿そうなのが一人泊まってるわよ。多分まだ中にいるんじゃないかしら? 酒井 本当??どうもありがとう。 ホームレス登場。 ホームレス どうしたんだい?どちらさん?? 少女 あぁ、おじさん。この人あの高校生に用があるみたいよ。 ホームレス 松原くんに? 酒井 あの、こちらに住んでいらっしゃるんですか? ホームレス うん。もちろん無許可だけどね。 少女 余計なこと言わないで。 酒井 はぁ。 ホームレス よかったら上がっていかない?お茶ぐらい出すよ。 少女 ナンパみたいな誘い方しないでよ。それにどうせお茶を入れるのは知子でしょ? 酒井 知子!? ホームレス 知り合いかい?知子ちゃんなら中にいるよ。まぁとりあえず入るといいよ。 酒井 本当に知子がいるんですか?でもそんなわけ。 少女 気になるなら自分の目で確かめればいいじゃない? 酒井 そうですよね。じゃあ、お言葉に甘えてちょっとお邪魔します。 ホームレス どうぞどうぞ。汚いとこだけどね。  酒井、ホームレス学校へ退場。少女下手へ退場。 第8場 廃校  酒井、ホームレス入ってくる。 ホームレス 遠慮しないで入っちゃってよ。 酒井 ご親切に有難うございます。それで知子は? ホームレス うーん、いないねぇ。どっかで休んでるのかな? 酒井 どこにいるかわかりませんか? ホームレス 3年B組かなぁ…。 酒井 じゃあ、2階ですよね?ちょっと私見てきます。 ホームレス まぁそんな慌てないでも、その内来るだろうからちょっと待ってなよ。 酒井 はい。あ、そうだ。松原君は?? ホームレス うーん、今朝はまだ見てないなぁ。音楽室に泊まってたからちょっと見てこようか? 酒井 すみません。お手数おかけして…。 知子、登場。 知子 おじさん、また誰か来たの?? 酒井 知子!? 知子 え? 酒井 ごめんね。ごめんね。あの時ほんとにごめんね。そんなつもりじゃなかったの!!つい言い過ぎちゃっただけ。ねぇそれが恨みでまだここにいるの?? 知子 あの、どなたですか?私のこと知ってるんですか? 酒井 知ってるって…。知子私のこと覚えてないの?? 知子 はい。ごめんなさい。私、昔のこと名前しか覚えてなくて…。何か知っているなら教えてもらえませんか?? 酒井 そんな。私だよ。酒井美和だよ。知子いつも私に勉強教えてくれてたじゃない!? 知子 そう、なんですか…。 酒井 敬語なんて使わないでよ。私たち同級生でしょ。3年のときほら知子そこの席で私が斜め前で授業中に手紙回したりしてたじゃん!!ねぇ覚えてないなんて嘘でしょ!! ホームレス まぁまぁ。落ち着いて落ち着いて。 酒井 ごめんなさい。つい。 知子 私が思い出せないから…友達だったんですよね??ごめんなさい。ごめんね。 酒井 むしろ謝らなきゃいけないのは私だよ。 ホームレス ほらお茶でもどうだい?拾い物で悪いけど(飲みかけのペットボトルを渡す)。 酒井 有難うございます(反射的に受け取ってからペットボトルを見て)…やっぱり結構です。 ホームレス まぁ遠慮しないでぐぐっと飲んじゃってよ。 酒井 はぁ。(ペットボトルを開け匂いを確認して飲まずに置く)あのさ、やっぱり幽霊なのよね? 知子 はい。 酒井 実は生きててずっとここに住んでるだけとかそんなことはないの? 知子 私ずっと何も食べないで平気ですから。 ホームレス 僕の差し入れも食べないもんねぇ。 酒井 それは幽霊じゃなくても食べないんじゃ…。 ホームレス 結構おいしいよ。 知子 あの、嫌じゃなかったら昔の話してくれませんか??もしかしたら思い出すかもしれないし。 酒井 そうだよね。うん。えっと、じゃあさ、いつも目玉焼きにソースかけてたの覚えてる?? 知子 えっ??目玉焼き?? 酒井 うん、そう。あれって必給食時間とかに論争になるじゃん。ほら、ソースか醤油かって。知子目玉焼きにソースかけるのにすごいこだわり持っててさ、普段大人しいのに立ち上がって熱く語りだしちゃって。それで、「目玉焼きはソースを求めてるの。この相性のよさは誰にも邪魔できないの!!」とかなんとか…  酒井が喋っている途中で松原登場。 松原 お早うー。ったくおじさん、あそこの部屋何にも出ないじゃん。徹夜で見張ってたのに。 ホームレス うーん、幽霊が引越しちゃったのかなぁ。 松原 えー、そんなわけ(酒井を見て)先生!? 酒井 松原君。 松原 何で先生がここに??もしかして寺崎の差し金? 酒井 何の話だったっけ?あぁ、そうそう進路よね、進路。ごめんね、松原君。先生今取りこんでるから書いて教卓に提出しといてくれるかな?(知子の方に向き直り)それで、えっとどこまで話したっけ? 知子 先生? 松原 はぁ??ちょっとせんせー。 ホームレス あの人、知子ちゃんの知り合いらしいよ。 松原 ええ!!まじで!?  ホームレス、廊下に手招きして窓ガラスのところで無声で状況説明。 酒井 そうだ。それで、私が1回くらい醤油かけてみたっていいじゃんって言った時も… 知子 あの、先生なんですか? 酒井 あ、うん。まだ成り立てだけど。 知子 いいですよね。先生って。ごめんなさい。話の腰を折って。続きお願いします。 酒井 ………。    沈黙を破って霊媒少女登場。鎌田は窓ガラスに張り付いている。 浮遊 ナウマクサンマンダバザラダンカン。。エロイムエッサイム、エロイムエッサイム・・・我は求め訴えたり・・・成仏しなさい!!(知 子以外の誰かに向かって) 酒井 えっ!? 知子 何なんですか?あなた急に。 浮遊 しぶといわね。それにこんなにたくさんいるなんて聞いてないわよ。 ホームレス また、お客さんかい?最近にぎやかで嬉しいね。 松原 いや、あれは話しかけない方がいい類じゃね? 浮遊 臨兵闘社開禅律斉善、おいきなさい。  少女、登場。 少女 うるさい。 浮遊 くっ。次から次へと。ここは一旦引くわ。 少女 はいはい、二度と来ないでね。頭痛くなるから。 松原 病院連れてった方がいいんじゃないか? ホームレス まぁまぁ折角だから、お茶でも飲んでいかないかい。 知子 えぇ!! 少女 おじさん…。 松原 絶対やばいってその子。 浮遊 そこまで熱心に引き止めるなら飲んであげないこともないわよ。 少女 誰も引き止めてないけど。 酒井 あの子、知り合いなの? 知子 いえ、見たこともないです。 ホームレス 知子ちゃん、悪いんだけどお茶入れてきてくれる? 知子 ほんとにお茶出すんですか?………まぁいいですけど。ちょっと待っててくださいね。 酒井 じゃあ、私も何か手伝うよ。 知子 いえ、いいですよ。お客さんですし。 酒井 私が手伝いたいの。 知子 じゃあ、お願いします。  知子、酒井、退場。 ホームレス 知子ちゃんの入れるお茶は絶品だよ。ところで君名前は何て言うんだい? 浮遊 浮遊霊子。業界では有名な一流霊媒師よ。 松原 だっせー名前。 浮遊 あなた、さっきから煩いわね。成仏させるわよ。 松原 俺は人間。 浮遊 嘘つきなさい。私は騙されないわよ。 少女 幽霊と人間の見分けも付かないなんて使えない霊媒師。 浮遊 あなたも地獄に落ちたいの? 少女 あなたの呪文じゃ、絶対無理よ。 浮遊 生意気な!後悔しても遅いわよ。 少女 どうぞ。ご自由に。 ホームレス まぁまぁ、僕が怖い話でもしてあげるから皆仲良くしてよ。 少女 そういう問題じゃないと思うけど。  知子、酒井登場。 知子 はい、お茶が入りましたよー。どうぞ(浮遊に差し出す) 浮遊 あら、どうも。(飲む)本当においしいわね。あなたは成仏させないであげてもいいわよ。 知子 えっ!?成仏させられるんですか?? 浮遊 当然よ。私が祓えない霊なんていないわ。だいたいそのためにここに来たんだもの。あなたさっきの呪文で気付かなかったの? 知子 だっててっきり子供のお遊びかと…。 浮遊 あなた、お茶はおいしいけど失礼ね。この私に向かって子供のお遊びですって!!私は正真正銘の美人一流天才霊媒師よ!! 少女 さっきより長くなった。 知子 ごめんなさい。じゃあ、本当にできるなら、あの………私を成仏させてください!! 酒井 えっ!?何で。 ホームレス 知子ちゃん…。 知子 私、ずっとここにいて………。もう疲れたんです。ここから出られないし、何でここにいるのかもわからないし。だったらやっぱり幽霊なんだし成仏した方が正しいのかなって。 酒井 そんな!?折角会ったんだから、そんなこと言わないでよ。 松原 先生…。 少女 別に幽霊だから成仏しなくちゃいけないなんて決まりはないじゃない。 知子 それはそうですけど…。でも。 浮遊 いい心がけじゃない。大丈夫よ、すぐに楽にしてあげるから。 酒井 ちょっと、ちょっと待ってください!!まだ、思い出話も終わってないし、もしかしたら記憶だって戻るかもしれないじゃないですか!?そんな簡単に成仏するなんて言わないでよ。 知子 だってここに一人でいるの結構寂しいんですよ。昔みたいに生徒がいっぱいいればまだいいですけど、こんなに人がいっぱいいるのも久しぶりだし。また一人になるの怖いんです。だったらいっそ成仏したほうが… 酒井 でもさ、もうちょっともうちょっと何か試してみてもいいじゃん。折角会えたんだもん。それくらい。 ホームレス そうだよ、意外とひょんなことで記憶が戻るかもしれんよ。 浮遊 ちょっと、皆さん何言ってるんですの?折角この子が成仏する気になったっていうのに。 松原 お前さー。ちょっと黙ってなよ。 浮遊 なっ!?誰がお前ですって!?この浮遊霊子にむかって失礼な。 少女 別にここにいてもその先生とかに遊びにきてもらえばいいじゃない? 知子 でも、思い出せないの申し訳ないし… 酒井 そんなことないよ!!悪いのは知子じゃないもん。いつでも来るよ。 知子 でも…。 浮遊 ちょっと勝手に話を進めないで下さる?私はここに除霊しに来たのよ。だから、あなた方が何と言おうと除霊するわよ。 ホームレス ちょっと君黙っててよ。 浮遊 なっ!!あなたまで私にそのようなことを… 酒井 (浮遊を無視して)じゃあ、今日中に記憶が戻らなかったらこの子にお願いするっていうんじゃ駄目?もう何やっても駄目で本当にどうしようもないなら、それで知子が望むなら、成仏するのも仕方ないかもしれないよ。でも、せめて、チャンスを頂戴!! 知子 じゃあ、今日中はこのままでいます。それでも駄目だったら、(浮遊に)お願いしてもいいですか? 浮遊 もちろんよ。おいしいお茶に免じて夜中まで待ってあげてもいいわ。今更記憶なんて戻らないと思うけど。まぁ除霊するのを楽しみにまってるわ。でも、他の連中には容赦しないわよ。 少女 あなた、黙ってなさいよ。ちょっとこの女連れていっとくわ。煩くて適わないもの。(浮遊の腕をつかむ) 浮遊 ちょっとあなた、どこまで無礼ですの!!私は天下の霊媒師浮遊霊子…    少女、浮遊を廊下に突き飛ばす。 少女 ただ、私も記憶が簡単に戻るとは思えないけど。まぁ、頑張ってみたら。 浮遊 ちょっと何するのよ…    窓ガラスの後ろを引っ張られていく浮遊。 松原 やっと静かになったな。でもさー、記憶取り戻すなんて啖呵切ってたけど、心辺りあるの?先生。 酒井 全然…。どうしよう、松原君。 松原 いやー、俺に聞かれても。 知子 今までも思い出そうと努力はしたんですが、どうしても思い出せなくて…。 ホームレス まぁ今回は友達がいるんだし上手くいくかもしれんよ。 松原 とにかく何かやってみよーぜ。俺も手伝うよ。おもしろそうだし。 ホームレス もちろん僕も手伝っちゃうよ。 酒井 二人とも有難う。 知子 有難う。  少女、鎌田を連れて登場。 少女 そういえば、さっきからずうっとこの人覗いてたわよ。 松原 あっ。 鎌田 あ、昨日はお見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありませんでした。 少女 そうそうあの勘違い女はしばらく出てこれないから安心して。  少女、退場。 鎌田 (知子に)あの、申し訳ありませんでした。私が除霊を依頼したのです。幽霊が隣に住んでると思うと怖くて怖くて…もうグッスミンを飲まなくても眠れるようになりたくてつい!でもまさか幽霊にもそんな悩みがあるなんて考えてもみませんでした。本当に申し訳ありません。 知子 え、いえ、むしろこちらこそ。怖がらせててすみませんでした。 ホームレス お隣さんかぁ、じゃあいつでも遊びにくるといいよ。 松原 ほらー、俺の言ったとおりじゃないっすか。 鎌田 許して頂けるのですか?有難うございます。 酒井 あのそういうことでしたら依頼主のあなたから除霊を止めさせることはできないのでしょうか? 鎌田 いえ、それが浮遊さんは大変除霊がお好きな方でして、頼まれてなくても除霊をしに来るような人なのです。ですから、一度依頼してしまった場合のキャンセル料は1億円とも言われています。 酒井 そんな!? 松原 ってかあれマジで除霊とかできるの? 鎌田 はい、多分。私も詳しくはないのですが、その手の業界では結構評判のようで。 酒井 じゃあ、明日になったら本当に知子は成仏しちゃうの? 知子 いいじゃないですか。それで。私が納得しているんですし。 鎌田 あの、こんなことをしてしまったのに大変恐縮なのですがもしよろしければ私にも記憶を取り戻すお手伝いをさせて頂けませんか? 酒井 有難うございます。私は考えも何もなくて…手伝ってくれる方は多いほうが助かります。 鎌田 友達思いのあなたに感動しました。微力ながらお手伝いさせていただきます。 ホームレス じゃあ、円になって作戦会議しようよ。 知子 何かいいですね、そういうの。  皆、円になって座りなおす。 酒井 じゃあ、今日の議題はどうやったら知子の記憶が直るか。はい、意見ある人は手挙げてね。 ホームレス ホームルームみたいでわくわくするね。 鎌田 懐かしい感じですよね。 松原 はーい、やっぱ記憶を取り戻す方法っていったら電気ショックとかじゃん? 知子 いや、それはちょっと… 松原 だって幽霊だし痛くないっしょ。 知子 でも何か電気は流れそうな気が… 酒井 それにどうやって電気ショックなんて与えるのよ。 松原 コンセントと水があれば感電くらいできるぜ。 ホームレス ここもう電気流れてないと思うよ。 松原 ちぇっ。記憶喪失って言ったらショック療法だと思うんだけどなぁ。 鎌田 でも、それはありますよね。あの失礼ですが何で死なれたのでしょうか?お若いのに…事故とか病死とか… 知子 ……… 酒井 ……… 鎌田 いえ、思い出したくないのなら結構なのですが事故だったらそれを再現してみるとかどうでしょう? 知子 あぁ、違います。思い出したくないんじゃなくてそれも思い出せないんです。(酒井に)あの、どうしてですか? 酒井 事故だよ。学校のすぐ前の道で車に… 鎌田 申し訳ありません辛いことを… 酒井 いえ。 ホームレス でもそれじゃあ、再現は難しいね。知子ちゃん学校の敷地から出られないもんね。 鎌田 あ、そうですよね。 ホームレス うーん、じゃあまた別の案かぁ。 酒井 もっと平和なのにした方がいいのかな。じゃあ、学校ツアー。 知子 はぁ…。 松原 そんなんで戻るかー? 酒井 昔の私たちの教室とか見に行こうよ。後、音楽室とか理科室とかさ。ほら、行こう。 知子 え、でもそんなの私ここに住んでるんだから見慣れていますし… 酒井 (遮って)とりあえず時間ないんだから早くしないと。 知子 えぇー。  酒井、知子を引っ張ってはける。 ホームレス ん、ホームルームはもう終わりかい?早いなぁ。 松原 せんせー元気だねぇ。 鎌田 記憶、戻るといいですねぇ。 松原 無理じゃん。さっきもせんせーとあの子話してたけど、何にも思い出してなかったし。 鎌田 そうですか…。 松原 でも、さっきソースかけた目玉焼きの話しかしてなかったからそのせいかもしれないけど。 鎌田 は?? 松原 いやなんか凄い好きらしいよ。あの幽霊が。 鎌田 それはいいかもしれませんね。 ホームレス どういうことだい? 鎌田 ですから、昔好きだった料理とかってきっかけにならないでしょうか? 松原 試してみる価値はあるかもな。 鎌田 ですよね!!じゃあ。私はちょっと家で作ってきます。  鎌田、退場。 松原 行っちゃった。俺はどーするかなぁ。おっさん何か考えある? ホームレス うーん、じゃあ、僕は記憶を思い出す料理を作ってあげよう。 松原 え、そんなのあんの?やるじゃん、おっさん。 ホームレス マグロの頭にはDHAという物質が入っていてそれが記憶にいいんだよ。 松原 それちょっと違くね? ホームレス 似たようなものだよ。じゃあ、僕はマグロの頭を探してくるね。近所のお寿司屋さんの裏とかにあるかなあ。  ホームレス、退場。 松原 んー何かいい考えないかなぁ。  松原退場。 第9場 高校の前(舞台前方)  寺崎、いらいらと登場。 寺崎 あの女いつまでかかってるのよ。全く私をいつまで待たせれば気が済むの。(携帯電話を出し)もしもし、夜分遅く申し訳ありません。私高田馬場高校で進路担当をさせて頂いております寺崎と申しますが…あ、帰っていらっしゃらない。そうですか、有難うございます。(電話を切る)はぁやっぱりまだ廃校にいるのかしら。(もう一度かける)もしもし、夜分遅く申し訳ありません。私高田馬場高校で…あ、田中君?うんそう寺崎です。松原君から連絡とか…ないわよねぇやっぱり。そうなのよ、まだ戻ってこなくて。うん、有難う。学校行ってみるわ。(携帯を切る)仕方ないわねっ。  寺崎、退場。  教室内に酒井、知子を引っ張って戻ってくる。 酒井 駄目?思い出さない?? 知子 はい。というか、こんなに走ったの久しぶりなんで疲れたんですけどちょっと休んでもいいですか? 酒井 ちょっとね。もう時間ないんだから頑張らないと。 知子 そんなに頑張らなくてもいいのに…。 ホームレス手に何か持って、登場。 ホームレス やぁ、いいところに戻ってきたね。ちょうどいいものが出来たところなんだよ。 酒井 何が出来たんですか? ホームレス マグロの目玉ジュースだよ。ほら、頭にいいって言うじゃないか。 酒井 それと記憶とはちょっと違うような…。それに何か凄い匂いがするんですけど…。 ホームレス そうかい?まぁそんなこといわずに理科室にあるからおいでよ。 酒井 理科室?? ホームレス あぁ、うん。ビーカーとフラスコでね、ちょちょっと。 知子 あんまり食べたくないんですけど…。 ホームレス まぁまぁ折角だから。  ホームレス、知子を引っ張って退場。 知子 うーん、じゃあ行って見るだけですよ。 酒井 私もちょっと気になるかも。  松原、登場。 松原 あれ、誰も戻ってきてないか? 遠くから、知子の声 知子 まずいって、ちょっとおじさん。これは人間の食べ物じゃない。 ホームレス 幽霊だから平気だよ。  知子、教室に走りこんでくる。 知子 無理、あれは絶対無理。 松原 どうした?  酒井登場。 酒井 食べてみたら効果あるかもしれないじゃない(ちょっと楽しそうに) 知子 楽しんでません? 松原 おじさん、そんなに得体のしれないもん作っちゃったわけ? 知子 あれは、本当にありえない!! 松原 何か嫌な予感はしたよなぁ。なぁそれよりやっぱ記憶喪失といったらショック療法だろ? 知子 でもそれはさっきやっぱり無理って方向に… 松原 いや、事故は無理でも用は衝撃があればいいわけだろ?そこの階段の一番上から落ちれば結構衝撃あると思うんだぜ。 知子 嫌です!! 酒井 知子、わがままだよー。 松原 ほら、せんせーもこう言ってるし。 知子 やるのは私なんですよ。 酒井 でももうとにかく何でもやってみないと。 松原 そうそうじゃあ、さっさといこーぜ。  知子、二人に引きずられていく。鎌田怪しい皿を持って登場。 鎌田 あれ誰もいませんねぇ。折角、産地直送ヨードラン光の特製目玉焼きが出来たてなのに。  派手に階段を落ちる音 知子 きゃー。痛い、痛い痛いって。  皆戻ってくる。知子、頭に包帯を巻いて戻ってくる。 鎌田 どうしたんですか? 知子 …(不機嫌そう)。この人たちが無理矢理階段から。 松原 ショック療法だよ。どう?何か思い出さない? 知子 いいえ、全く。 松原 おっかっしいなぁ。そもそもいたくないだろ、幽霊なんだから。 知子 痛くないって分かってても怖いんですって。君も幽霊になればわかるよ。 鎌田 そうですかぁ、残念でしたねえ。それはそうと作ってきましたよ。  知子 (皿を見て、嫌な予感がしつつも)なんですか?それ。 鎌田 ソースをかけた目玉焼きですよ。お好きだと伺ったもので…。 酒井 それ、目玉焼き? 鎌田 どうですか?お詫びの気持ちを込めて厳選食材を使って作りましたよ。我ながら素晴らしい出来だと思うのですが…。 松原 いやー、俺はちょっと食べたくないかなぁ。 知子 絶対食べませんよ!!だってそれあからさまにおかしいじゃないですか!! 鎌田 まぁ、そんな遠慮なさらずにどうぞ召し上がって下さい。(皿を差し出す。)  浮遊、登場。  浮遊 あの女はどこ!? 酒井 あ。 鎌田 あの、浮遊さん、今回の依頼なんですが… 浮遊 (遮って、鎌田に迫る)うるさいわね。あの冷めたガキはどこよ。私をロッカーに閉じ込めるなんてふざけた真似してくれてただじゃ済まないわよ。 酒井 あの子、そんなことしてたんだ。 鎌田 いえ、あの知りません。今までこれを作っていたもので。 浮遊 (松原に)あなたは?? 松原 知るわけないだろ。 浮遊 そうね。(知子に詰めより)あなた知ってるんじゃないの仲間でしょ。 知子 いえ、知りません。 浮遊 本当に?嘘をつくと為にならないわよ。 知子 本当です。 浮遊 …(じーっと見つめる一歩一歩詰め寄る)。 知子 (後ろに下がりながら)本当に知りませんから。 酒井 本当ですよ。知子、ずっと私と一緒にいましたから。 浮遊 仕方ないわね!!他をあたるわ。  浮遊、早歩きで退場。 知子 はぁ、殺されるかと思いましたよ。 酒井 あの子人として大丈夫なのかしら?? 松原 駄目だろ。 鎌田 でも、あれで結構儲けているようですよ。でも目玉焼きを横取りされなくて良かったですよ。 酒井 それはさすがにあの子でもしないと思いますけど…。  鎌田 さぁ早く。冷めないうちに召し上がって下さい。 知子 いや、急におなかの調子が…  鎌田 まぁそんなことおっしゃらずに(一歩詰め寄る)  ホームレス、皿を持って登場。 ホームレス ほら、ちょっと塩コショウを足して見たんだ。どうだい?僕の料理の方がおいしそうだろう。(皿を持ってつめよる) 知子 無理ったら、無理。 鎌田 いや、こちらですよ。(同じく詰め寄る) 知子 それも無理! 酒井 (客フリで)さぁ、今夜のご注文はどっち!? 知子 どっちもいやー!!!!!  暗転。 第10場 教室  ぐったりしている知子。それを囲むように皆もいる。 酒井 知子、大丈夫?? ホームレス おかしいなぁ。何で気を失っちゃたんだろう。 鎌田 そちらのマグロに何か変なものが混ざっていたのではないでしょうか。 ホームレス そんなことないよ。 松原 まぁ、二人のせいだってことは確実だよな。 酒井 どうしよう?もうあんま時間がない。何か他にないかな?松原君も何か考えて。  田中登場。 田中 うわ、何かいっぱいいるし。いつまでも何やってんだよ。こんなとこで。 松原 お、ちょうどいいところに。なぁ記憶喪失ってどうやったら治る? 田中 はぁ?何だよ唐突に。ってか先生まで何やってるんですか?寺崎先生探してましたよ。 松原 今、せんせーの邪魔すんなよ。かわいそーだから。 田中 いつもめいわくかけてんのはお前だろ? 酒井 (聞いてない)記憶喪失には何が利くと思う?ちなみにショック療法とマグロ料理と思い出話は実験済みよ。 田中 はぁ。全く話の流れが読めないのですが…。 松原 しょーがねーな。面どーだけど一から説明してやるよ。 ホームレス 僕もわかりやすく説明しちゃうよ。  松原、ホームレス廊下で田中に状況説明。 知子 (やっと起き上がり)はぁ死ぬかと思いましたよ、何ですか、これ!? 鎌田 死んでいるのですから平気なのでは? 知子 そういう問題じゃありません!! 酒井 ショックで何か思い出したりしない? 知子 いいえ、まったく。というかこれショック療法だったんですか!? 鎌田 やはりもう少し激しい衝撃が必要なのでしょうか? 知子 もう結構です!!  少女、登場。 少女 ほら、やっぱり無理だったでしょ。もうあきらめなさいよ。 酒井 嫌です!! 少女 私のお勧めは余生を楽しく過ごすことよ。 知子 余生って私死んでますけど…。でも、そうですね。やっぱりそれが正しい気もします。 酒井 そんな!まだあきらめるには早いよ。 知子 でも… 少女 もし、やっぱりまだ成仏したくないって言うならあの女は何とかしとくわよ。 鎌田 出来るのですか? 少女 出来ないことは言わないわ。 知子 いえ、もういいです。 少女 そう。じゃあ好きにすれば。天国にいけるといいわね。 鎌田 その言い方はちょっと…。 酒井 そんな!あなたも友達なら止めて下さいよ。 少女 しょうがないじゃない。私には知子の意見を変える権利も力もないもの。 酒井 だからってそんな…  浮遊、登場。 浮遊 (酒井のせりふを遮り)時間よ。 少女 ほら、お迎えも来たじゃない。 酒井 もう時間!? 浮遊 (少女に)あなた、こんなところに!!まぁいいわ。私は約束は守る女だもの。まずはあなたを成仏させてあげるわ。その後たっぷりと先ほどのお礼をしてあげるから待ってなさいよ。 少女 礼には及ばないわよ。 浮遊 人の好意は受け取るものでしてよ。 少女 除霊するんじゃなかったの? 浮遊 煩いわね。もちろんすぐやるわよ。 知子 お願いします。 鎌田 あの、やっぱり依頼を取り消すわけには… 浮遊 いかないわよ。 知子 もう、いいですから。 酒井 何で皆そんな簡単に諦めるの!?おかしいよ。まだわかんないじゃん。 浮遊 外野は黙ってなさい。気が散るじゃないの。何か最後に言い残すことはあるかしら? 知子 (少女に)意外と楽しかったです。ここでの生活も。おじさんにもそう伝えておいて下さい。 少女 わかったわ。 酒井 そう思うのなら何で…。 知子 (遮って)思い出せなくてごめんなさい。でも、私は所詮幽霊だし島田知子は10年前に死んだんです。だから、私のことは忘れてください。 酒井 そんな!! 浮遊 もういいかしら。 知子 はい。 浮遊 極楽浄土へ行けることを願っているわ。ナウマクサンマンダバザラダンカン。ナウマクサンマンダバザラダンカン(適当に何か唱えて祈り続ける) 酒井 何で、何で知子はそんな簡単に諦められるの!!私にはわからない。 知子 別にいいじゃないですか!?あなたには関係なしでしょう。 酒井 それは、そうだけど。友達じゃん!!関係あるよ!! 知子 最後くらい気持ちよく成仏したいんです。ほっといてよ!! 酒井 そう、そうだよね。じゃあ、勝手にすれば!! 知子 だから勝手にしてるじゃん!! 酒井 あ、そう。勝手にすれば。 知子 あ!!(倒れこむ) 酒井・鎌田・少女・浮遊 えっ?? 酒井 ちょっとどうしたの?成仏しちゃったの? 浮遊 違うわ。成仏したら消えるものこんな風にならないわ。 知子 頭が…痛い。 鎌田 大丈夫ですか? 知子 思い出した!! 少女・鎌田 えぇ!! 酒井 思い出したの!? 浮遊 そんな!! 知子 うん。何でずっと思い出せなかったんだろ?馬鹿みたい。こんな簡単で大事なこと…。 酒井 良かったぁ。………私、ずっと知子に謝りたかったんだ。けんかして、ノートも返せないまま死んじゃうなんて思わなくて。すっごい後悔して… 知子 それは私も同じだよ。気付いたら死んでここにいて、何も覚えてなくて…。最初は誰も私の姿も見えなかったしどうしたらいいのかわからなくて。それから、3人で暮らすようになってもずっと何かすっきりしなかった。美和に謝ってなかったから。だからお互い様だよ。 酒井 うん。 知子 何か、すごいすっきりした。体まで軽くなった気分。  少女、ホームレス、松原、鎌田教室に入ってくる。 少女 じゃあ、あなたもきっと外に出れるわよ。 知子 本当ですか!? 少女 後で試してみれば? ホームレス 知子ちゃんよかったねぇ。 鎌田 そうですね。 田中 俺まだ今一状況把握できてないんだけど。 松原 今説明しただろー。 田中 おまえらの説明よくわかんねぇんだよ! 鎌田 私が説明しましょうか。 田中 すみません。お願いします。  鎌田、田中を連れて退場。 ホームレス でも君たち何でけんかしたの?仲良さそうなのに。 酒井 あれ、何でだっけ? 知子 美和が目玉焼きにしょうゆかけて食べさせたから。 酒井 そうだっけ? 知子 そうだよ。まったく美和はふざけてばっかりいるから。もう嫌い。 酒井 そーだ、思い出した!!それで、私が知子は真面目すぎてつまらないのよって。 知子 そうそう。だから、あんたみたいに何にも考えてないやつに言われたくないわよ。 酒井 うるさい、このがり勉!!  二人、笑い出す。 少女 くだらない。 酒井 確かに今考えると下らないよねぇ。 知子 ほんと。何であの時すぐに謝らなかったんだろう。 松原 そんなしょうもないことでけんかしてたの?大人げねー。 知子 だって中学生だったもん。 酒井 大体あなたたちだって大差ないじゃない。 松原 俺らにとってはあれくらい普通なの。あ、だから田中が帰ったときあんな心配してたわけ? 知子 多分ね。あの時はわからなかったけど…。 少女 それでこれからどうするの?成仏するの? ホームレス 知子ちゃんが成仏しちゃうと寂しいねえ。 知子 いえ、いいです。せっかく地縛霊を卒業したんですしもっと幽霊ライフを楽しみます。 少女 そ。いいんじゃない。 酒井 じゃあ、私たちの学校に来ない?それなら毎日寂しくないし。 松原 お、いいんじゃん。いっそ酒井せんせーの代わりに授業やったら?そっちの方がしっかりしてそうだし。 酒井 松原君。 知子 いいの?すごい嬉しいけど…。私なんかがいたら怖がられないかな。 酒井 大丈夫よ。怖がる子がいたら私の友達だって紹介してあげるから。 松原 いや、それはまずいんじゃない。 ホームレス まぁ、どこに住むにしてもたまにはここにも顔出してね。 知子 それは、もちろん。二人が寂しくない程度には戻ってきますよ。 少女 私は別に寂しくなんかないわよ。まぁでもたまにはお茶くらい入れに来なさいよ。 松原 素直じゃないねー。 少女 偉そうな口聞かないで。  寺崎、いらいらと入ってくる。 寺崎 酒井さん!! 酒井 はい?…あっ!!すっかり忘れてた。 寺崎 忘れてた!? 酒井 あ、いえ。(時計を見る)その、まだ今日ですし…。 寺崎 私確かに今日中に、と言いましたけど何も日付が変わるまで待たせなくてもいいんじゃないかしら。今が何時だかわかってるの!? 酒井 (時計を見て)11時半です。 寺崎 正確な時間なんて聞いてないわよ!!私は何度もあなたの携帯にも電話したのよ!!全くこれだから若い教師は… 酒井 すみませんでした!あの、でも松原君も見つけましたしすぐ書かせますので。 寺崎 (松原を見て)あら、松原君気付かなかったわ。ダメよ、ちゃんと家に帰らんなきゃ。(知子を見て)そっちの子も。あなた中学生じゃないの??親御さんが心配してるわよ、きっと。 松原 誰のせいだと思ってるんだよ!!ってかじゃあ進路調査表書かなくてもいいんだよな? 寺崎 あら、田中君は自業自得だって言ってたわよ。まあ今日はもう仕方ないわね、明日まで待ってあげるわ。その代わりしっかり考えるのよ。 松原 はいはい。 寺崎 酒井さん、あなたには言っておかなければならないことがたくさんありそうね。 酒井 本当に申し訳ありませんでした。 寺崎 世の中謝って済む問題だけじゃないのよ。ここでは何だから職員室まで来てもらえるかしら。 酒井 はい。 寺崎 じゃあ、松原君も早く帰りなさいよ。 酒井 じゃあ、知子ごめん。また明日。松原君今日はおうち帰りなさいね。 知子 うん。気をつけてねー。  寺崎、酒井退場。 松原 頑張ってねー、せんせー。(酒井に) 知子 あの先生怖いね。高校の先生? 松原 うん。でも生徒には甘いから。  田中、鎌田登場。 田中 今、寺崎先生来なかった? 松原 来たよー。っで酒井せんせーが拉致られてった。 田中 あぁ、やっぱりな。だから言ったんだけどなあ。 松原 ってかおまえ寺崎に余計なこと言っただろ? 田中 聞かれたことに答えただけだよ。 松原 そーじゃなきゃあいつがこんなとこに来るわけねーもん。 田中 お前が廃校に泊まるなんて大人気ないことするからだろ?いい加減家帰れよ。 松原 ちぇっ。結構楽しかったんだけどなあ。 ホームレス いつでも会いにくるといいよ。 少女 (田中に)それで状況は飲み込めたの? 田中 この人のおかげでな。(松原とホームレスに)ったくお前らの説明は無駄に動きだけ多いから。 ホームレス 無駄じゃないよ。動きは必須だよ。 知子 ちょっとそれが多すぎるんじゃあ…。 鎌田 さて、もうこんな時間ですし私もそろそろ帰りましょうかね。ここで会えたのも何かの縁ですし皆さん良かったらうちにも遊びに来てくださいね。(知子に)もちろんあなたも。 松原 幽霊恐怖症は治ったわけ? 鎌田 ええ。お蔭様ですっかり。いやー幽霊って素敵ですね。 少女 もちろん世の中には怨霊もいるんだけど…。 知子 余計なこと言わないでくださいよ。折角理解ある人が増えるって言うのに。 少女 事実を言ったまでよ。 鎌田 大丈夫ですよ。きっと怨霊も話せばわかってくれます。では、私はこれで失礼します。 田中 話してもわかんないから怨霊やってるんじゃないのか?? 松原 極端だよなー、あの人。  鎌田、退場。 松原 (知子に)どうする?ついでだから、高校でも案内しよーか。 知子 えっ、帰らなくていいの? 松原 へーきへーき。なぁ。 田中 駄目だろ。これで学校で寺崎先生に会ったら雷落ちるぞ。 松原 ばれなきゃいいんだよ。 知子 でも、おうちには帰ったほうがいいよ。 田中 ほら、この子もこう言ってるじゃん。 松原 こんな時間に帰ったらまた文句言われるだろ?今日はお前んち泊めてくれよ。明日は帰るからさ。 田中 ったくお前は。仕方ねーな。 松原 よし、じゃそーいうわけで。お前も一緒に行くぞ。 田中 わかったよ。でも明日は提出してやれよ。そうしないと酒井先生が殺されるぞ。 松原 あー、さすがにそれはかわいそうかもな。じゃあ、考えるの手伝ってくれよ。詳しいだろ?そういうの。 田中 まぁ、お前よりはな。 知子 本当に案内なんてしてて大丈夫? 松原 だいじょぶ、だいじょぶ。歩きながら考えるって。じゃ、また遊びに来るよ。 ホームレス うん、待ってるよ。 松原 でもさー意外。お前が、幽霊話を信じるなんて。 田中 うっせーな。しょうがないだろ。こんだけたくさんに説得されたら。 松原 まぁおれは一瞬で本物だってわかったけどね。 田中 それは何にも考えてないだけだろ。  二人、適当に喋りながら退場。 知子 (ホームレスと少女に)あの、ありがとうございました。また、ちょくちょく遊びに来ますね。 ホームレス うん、待ってるよ。 少女 はいはい、さっさと追っかけたほうがいいんじゃない?置いていかれるわよ。 知子 はい、じゃあ行ってきます!  知子退場。 ホームレス すっかり静かになっちゃったねえ。 少女 祭りの後の静けさね。 ホームレス 知子ちゃんに行って欲しくなかったんじゃないかい? 少女 そんなことないわよ。 ホームレス ずっと彼女のだって気付いて持ってたんだろう。 少女 買いかぶりすぎよ。おじさん寂しいならどこか引っ越せば? ホームレス いや、僕は結構ここが気に入っているからね。君こそ成仏しなくていいのかい? 少女 私もこう見えてここが気に入っているのよ。 ホームレス 知子ちゃんも遊びに来るかもしれないしね。 少女 それは関係ない。  浮遊、登場。 浮遊 あなた方、どれだけ私をコケにすれば気が済むの? 少女 あ、まだいたんだ。 ホームレス 元気だねえ。 浮遊 当然でしょう?私見かけた幽霊は絶対成仏させる主義なの。特にあなた、私をロッカーに閉じ込めた罪は重いわよ。 少女 一生ロッカーに閉じ込められてれば良かったのに。 浮遊 何ですって。 少女 ああ、うるさい。私もう寝るからおじさんその子よろしく。 浮遊 あなた人を馬鹿にしているんですの!? ホームレス まあまあ、落ち着いて落ち着いて。君も今日はもう帰りなよ。それともここに泊まるかい? 浮遊 こんな汚いとこ私が泊まる訳ないでしょ!! ホームレス 残念だねぇ。部屋はいっぱいあるんだけど…。 浮遊 全く調子が狂うわね。仕方ないわ。今日のところはこの辺で勘弁して差し上げますわ。また来ますから。次は容赦しなくってよ。 ホームレス うん。また来るといいよ。  浮遊、退場。 ホームレス さてと、僕も寝ようかな。  ホームレス、退場。 第11場 通学路(舞台前方)  松原、田中登場。 松原 っつーか、まだ寝みーんだけど。 田中 誰のせいだと思ってんだよ!!何の関係もないのに夜中まで付き合わされたこっちのことも考えろ。 松原 悪かったって。でもおかげで助かったよ。ありがとな。 田中 うわ、おまえがお礼言うなんて気持ち悪っ。 松原 ったく人が珍しく素直に言ってやったのに。  酒井、登場。 酒井 おはよう。田中君、松原君。昨日は有難ね。 田中 俺は何もしていませんから。 松原 いーえー。 酒井 でも、ちゃんと提出はしてね。 松原 はーい。でないと、寺崎せんせーにまた怒られちゃいますもんね。(カバンからプリントを渡す) 酒井 そういうこと言わないの。プリントを見て、しっかり書いてるじゃないの。見直したわ。 田中 そりゃー徹夜で付き合わされたのに書けてなかったら俺も凹みますよ。  寺崎、登場。 寺崎 酒井さん。今日こそは提出してね。 酒井 はい、今松原君が提出してくれました。 寺崎 (ちょっと拍子抜けして)あら、そう。お早う、二人とも。松原君、今度から提出物は早めにね。じゃあ、あなた達も早く行かないと遅刻するわよ。  寺崎 早歩きで退場。 田中 うわ、確かにやばい。急がないと遅刻するぞ。 松原 えっ、俺疲れてるから走るの無理。 酒井 駄目よ。急がないと。  3人騒がしく退場。BGM。ここからマイム。 教室内に少女とホームレス登場。和やかな感じ。そこに浮遊登場。3人で騒がしい感じ。 知子舞台前方に登場。人を待っている感じ。寺崎が退場したのと反対側から登場し急ぎ足で退場。知子はそれを見守る。 松原、田中、酒井も退場と反対側から急ぎながら登場し、知子に挨拶して和やかな感じで退場。笑顔で見守る知子。暗 転。 終わり。  ---------------------------------------------   以上、いかがでしたでしょうか? 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