題名:二十年後への贈り物    作者:上野 小夜  ---------------------------------------------  著作権について  ・本ページで公開されている作品の著作権をはじめとするすべての権利は   全て作者が保有いたします。  ・このページからダウンロードできる脚本は全て無料で読んでいただいて   結構です。ただし、舞台等で御利用の際は、作者からの上演許可を取っ   ていただくようお願いいたします。  ・必要に応じての改編等も、作者への許可の上行って下さい。  ・著作権料が発生する場合、指定された額を作者へ送金を忘ないように   お願いいたします。本作品おける著作権料は、下記に示す通りです。  ---------------------------------------------   小学校、中学校、高校、その他学生の無料公演・・無料   アマチュア劇団の公演、学生の有料公演・・・・・5000円   プロの劇団の公演・・・・・・・・・・・・・・・全チケット収入の1割     (全チケット収入の一割が5000円に満たない場合は5000円)     [2]の場合、公演の2週間前までに、     [3]の場合、公演後2週間以内にお支払いください。  --------------------------------------------- 野村由香…25歳くらい。中学生の頃いじめられていた。いじめられていて復讐をするため、タイムカプセルに作った爆弾を入れる。それから10年が経過し、結婚を控えて昔の清算をしに母校へやってくる 林田…20代前半。頭が悪い。頭が悪すぎて派遣でバイトをしてもすぐ首にされる。金がないため銀行強盗をするが、札束と間違えて伝票みたいなものを掴んで逃げてくる。 小林透…22歳くらい。バイトの警備員。やる気なし。覇気なし。使えない。 白石涼子…25歳くらい。女性Aの元同級生で野村をいじめていた。元元家が金持ちで自分に自信もあったが今は落ちぶれている 北村…30歳くらい。保身しか考えていない。金にがめつい。横領をしている。 後藤…28歳くらい。好青年。野村の婚約者。 シーン1 学校の中 冬の静かな日。閑散とした教室。そこに駆け込んでくる強盗。教室の中を見回し、誰もいないことを確かめて安心して座りこむ。ほっかむりを外す。 林田 助かった…。(持ってきた紙の束を見て)これだけか…はぁー。  落ち込む強盗。そこにやってくる野村。 野村 あの。すみません。 林田 (びくっとして明らかに怪しい感じで)は、はい。何でしょうか? 野村 (男の様子には気付かず)こちらの学校の先生ですか? 林田 (きょとんとするが)慌てて、あ、はいそうです。 野村 お仕事お疲れ様です。私、55期卒業生の野村由香と申します。 林田 あ、すみません。どうも。 野村 初めまして(名前は?という視線) 林田 (視線の意味に気付いて)あ、すみません。僕は林田と言います。 野村 林田先生ですね。今日は片づけか何かですか?もう生徒はいないんですよね。 林田 (よく事情が飲み込めない感じで)はぁ、まぁそんなところです。 野村 でも、寂しいですよね。母校がなくなっちゃうのって…。 林田 はぁ…(今、思い出したという感じで)あ、そういえばこの学校つぶれるんでしたっけ?? 野村 えっ?忘れてたんですか??この学校の先生、なんですよね… 林田 あ、いや。こうして毎日学校の整理とかしてるとねほら。つい生徒が来る様な気がしちゃって。あはははは。 野村 整理をしているのに、ですか? 林田 ま、まぁ僕の生活リズムは変わってないですし。 野村 (話をあわせる感じで)確かに、そんなもんかもしれませんね。 林田 (ほっとした感じで)そうです。そうなんですよ。それで、あなたは卒業生なんですよね?何をしにいらしたんですか? 野村 あ、私はそのタイムカプセルを探しに… 林田 タイムカプセル? 野村 はい。卒業の時に作った廃校になると聞いて取りに…。すみません、勝手に入ってしまって。(言い訳のように)受付に人もいなかったので。 林田 いえいえ、全然大丈夫ですよ。どこに埋めたんですか? 野村 いや、私たちは埋めなかったんです。埋めると文集とかが段々腐って傷むと聞いたので、資料室の戸棚に入れたんです。それが多分ここだと…。 林田 あぁそうなんですか。そういうことなら思う存分探してください。私は、ちょっと他の部屋に行きますので… 野村 すみません。何かありがとうございます。 林田 いえいえごゆっくり。  林田、そそくさと退場。野村、1人でゆっくりと部屋の中を探す。椅子に座って懐かしそうに ぼんやりする。 シーン2 舞台前方  中央では野村そのまま。上手から北村が慌ててやってくる。下手から普通に歩いてくる白石。 北村 すみません、そこの君。 白石 (ふてぶてしく)何ですか? 北村 (一瞬ひるんでから、更に偉そうに)この辺で怪しい男を見なかったかね。 白石 さぁ?怪しい男と言われましても。怪しいといえば皆怪しいでしょ。 北村 そうじゃなくて、明らかに泥棒というようなほっかむりをかぶった男をみなかったかね。 白石 そんな人いるわけないじゃないですか? 北村 仕方ないだろう!!実際にそういう男に泥棒に入られたんだから!! 白石 何なんですか?あなた。急に話しかけてきてキレルなんて大人としてみっともないですよ。大体そんな怪しい男に泥棒に入られるなんてよっぽどセキュリティが甘いんじゃないですか? 北村 ほっといてくれ。うちは銀行だ!セキュリティは万全だよ。何も盗まないですぐ逃げられたんで、逆に追えなかったんだ! 白石 何も盗まれてないならいいじゃないですか。 北村 それは、そうだが… 白石 でしょう? 北村 いや、駄目だ我銀行の威信に関わる!ここはちゃんと逮捕してだな。毅然とした態度を示さなくては… 白石 私、関係ないのでもういいですか? 北村 なっ!生意気な小娘だな。まぁ、いい。とりあえず強盗がいたら私まで連絡をくれ。私は駅前のみずな銀行の北村という。覚えておけ。 白石 はいはい。みずなに行けばいいんでしょ。あなたの名前なんていちいち覚えていられないわ。 北村 銀行じゃ駄目だ!ちゃんと私、北村のところに教えてくれ! 白石 どうして? 北村 それはその… 白石 手柄を独り占めしたいのかもしれないけど私はそんなものに貢献する気はないから。それじゃ。  上手へゆうゆうとはける白石。それを見送り、舌打ちして去る北村。 シーン3 教室の中 タイムカプセルを探す野村。そこにやってくる警備員。 小林 すみません。 野村 はい? 小林 俺、警備員なんだけどさ。お宅学校の人じゃないよね?何やってんの? 野村 あの、私すみません。ここの卒業生でタイムカプセルを探してまして… 小林 へー。今日同窓会でもあるの?そんな話聞いてなかったけどな。 野村 あ、そういうわけじゃないんです。ただ、廃校になるって聞いてその前に取りに来ようと思って… 小林 ま、俺は事件とか起こさなきゃ別にいいけど。 野村 すみません。 小林 何あんた事件起こすの? 野村 いや、起こさないです。すみません。 小林 じゃあまぁ頑張ってね。 野村 ありがとうございます。 小林 (はけようとして入り口で思い出したように)あ、そうそう近くで強盗出たらしいから気をつけてね。 野村 はっ?あの強盗って? 小林 何か銀行強盗だって。まぁ何も盗ってないし人も殺してないから大丈夫でしょ? 野村 いや、でも 小林 何かねー、明らかに強盗ってわかるほっかむりしてたらしいよ。そんなベタな強盗いまどきいないと思うんだけどね。 野村 他に特長とかないんですか?身長とか体型とか 小林 さぁ、何か人相書きも回ってきてた気がするけど忘れちゃった。ほっかむりが強烈過ぎて。じゃあ、そういうことで。 野村 えっ、あのちょっと!  小林、さっさとはける。野村、ため息をついて気を取り直して探し出す。 野村 これっ!(ダンボール箱を見つけがさごそと漁りだす。……あった!良かったぁ。  そこに通りかかる白石。 白石 資料室。懐かしい。(野村を見て)あら、こんにちは。先生ですか? 野村 (白石の顔をみてはっとする)…いえ、そういうわけでは。 白石 じゃあ、卒業生ですか? 野村 えぇ、まぁそうです。 白石 奇遇ですね。私も卒業生なんですよ。 野村 …そうなんですか。 白石 普段は忘れてても母校が廃校になるって聞くと寂しいですよね。 野村 そうですね。 白石 中学校なんて一番いい時代でしたしね。(野村の抱えているダンボールに目を止め)それ…うちのクラスの? 野村 あ、そのどこかのクラスのタイムカプセルみたいですね。色々見てたら見つけちゃってしまった方がいいですよね。 白石 …あんた、もしかして野村? 野村 ……… 白石 そっか、野村かぁ、元気してた?相変わらず泣きそうな顔してんのね?大丈夫?会社でもいじめられてるの? 野村 楽しくやってます。 白石 ふーん。何やってるの? 野村 弁護士事務所で働いてて… 白石 へー、弁護士先生ってわけ?偉くなったもんねぇ。 野村 まだ、司法試験受かってないから弁護士じゃないけど… 白石 じゃあアルバイト? 野村 契約、だけど。アルバイトといえばアルバイト、かな。白石さんは? 白石 私は毎日楽しくやってるに決まってるでしょ?くだらないこと聞くんじゃないわよ。 野村 ごめんなさい。 白石 あーあ、何か白けちゃった(と言いながらも楽しそうに)野村がいるんじゃゆっくりできないし、また後で来るわ。 野村 あの、それなら私が… 白石 いいわよ。私、別にあなたをいじめてるわけじゃないし。失礼するわ。じゃあね。  意気揚々とはける白石。取り残される野村。タイムカプセルを抱えてへこむ。 シーン4 学校の前 下手から出てくる後藤。上手から急いで出てくる北村。 後藤 すみません。 北村 何だね。今、忙しいんだが… 後藤 あの、この辺に桜中学校ってありませんか? 北村 (面倒そうに)ああ、それなら次の角を左に曲がったところにあるよ。 後藤 ありがとうございます。ああ、あとこの女性を見ませんでしたか?(財布から写真を出す) 北村 いや、知らんな。 後藤 そうですか。ありがとうございました。 北村 ああ、そうだ君。この男を見なかったか?(すっごい下手な強盗の似顔絵を見せる) 後藤 (すごい困ったように)いやー、ちょっと会ったかどうかよくわからないですね。 北村 何!?分からない!?分からないってどういうことだね! 後藤 いや、その… 北村 何だね!はっきり言いたまえ。 後藤 いやー、ちょっとその絵では 北村 私の芸術が分からないのか!?  そこに下手からコンビニの袋を持って通りかかる警備員。 北村 (警備員に)君、この男を見なかったか? 小林 ん?俺? 後藤 ですからその絵では… 小林 ああ、見た見た。さっきいたよこんな奴。 後藤 ええー!! 北村 (自慢げに)ほら、分かる人間には分かるのだよ。で、どこで見たんだ? 小林 えーとね、ガッコウ。さっきガッコウの中ふらふらしてたよ。 北村 ガッコウ? 小林 桜中学校だよ。 北村 何で止めないんだ!!こいつは、銀行強盗だよ! 小林 えっ?マジで。だって銀行強盗はほっかむりしてるって… 北村 いつまでもしてるわけないだろう!!ああ、さっさと探さなくては…  北村、2人を置いてさっさと上手へはける。 後藤 あの、強盗っていうのは…? 小林 あぁ、何か銀行強盗が出たらしいよ。 後藤 大変じゃないですか!!それが今、桜中学校に?? 小林 そうらしいね。 後藤 そうらしいねって。ちょっと急がないと駄目ですよ。  後藤に追い立てられるように警備員もやや急ぎ足で上手へはける。 シーン5 教室の中 タイムカプセルを漁ってぼうっとしている野村。そこに強盗が部やってくる。部屋のどこかにか くれようとするが野村に気付かれる。 野村 あ、先ほどの林田先生…? 林田 あぁ。まだいらっしゃったんですね。 野村 ええ、おかげさまでタイムカプセルも見つけました。 林田 そうですか。良かったですね。 野村 はい。ありがとうございます。 林田 (言い訳がましく)それでですね、申し訳ないんですが次はこの部屋の整理をしたいので場所を移っていただけないでしょうか?そのタイムカプセルは持っていっていただいて結構ですから。 野村 あ、そうなんですか。すみません。それは邪魔をしてしまいまして… 林田 いえ、大丈夫です。ただ、あの何分緊急事態なので速やかに… 野村 緊急事態? 林田 いや、それはその…  そこにやってくる北村。 北村 おい、見つけたぞ銀行強盗! 林田 うわっ! 野村 銀行強盗?  遅れてやってくる警備員と後藤。 後藤 由香ちゃん!? 野村 後藤さん?何で? 後藤 だって君が最近全然会ってくれないから… 野村 そうじゃなくて何でここが! 後藤 何となく、最近由香ちゃんよく卒アルとか見てたし。 野村 …それより銀行強盗って… 小林 さっき言ってたじゃん?間抜けな強盗の話。それがそいつだって。 野村 えっ? 林田 そうだよ。間抜けで悪かったな!!(野村にフォークを突きつける)それ以上近づいたらこの女刺すからな。 野村 ちょっと!!えぇ!? 後藤 由香ちゃん! 北村 おい、その女はどうでもいいから伝票を返せ。 後藤 どうでもいいってどういうことですか!? 林田 (白石に)おい、お前それ以上近づくな。ほんとに刺すからな。 小林 おっさん。止めた方がいいって。 北村 頼むっ、あれだけは返してくれ! 林田 なんなんだよ、お前!(じりじりと教室の隅に下がる。タイムカプセルの箱の近くにいく) 野村 あー!!もう煩いっ。全員私から離れて!!!そうじゃないとこの爆弾に火つけるわよ!! 全員 はっ? 野村 爆弾よ、爆弾。 後藤 由香ちゃん?どうしたの? 小林 爆弾って…冗談きついなお姉さん。 野村 冗談じゃないわよ。(ダンボールから怪しい爆弾を取り出す) 北村 ふん、なんだそんなもの。 野村 言っとくけど正真正銘の時限爆弾よ。昔、サイトで作り方調べて一生懸命作ったんだから。 小林 (後藤に)すっげー。お前の彼女元爆弾魔らしいぜ。 後藤 失礼なことを言わないでくれ。由香ちゃん、そんな怖い冗談止めてよ。 野村 (ダンボールの中からライターを取り出し)残念だけど、冗談じゃないの。私、卒業前に爆弾を作ったのよ。それで同窓会のときには全部壊してしまおうと思ったのよ。ガッコウも。同級生も。 後藤 本気なの? 野村 …うん。こんな私と結婚なんかしたくないでしょ?こんなこと知られたくないから一人で処理しようと思ったのに!何で来たのよ。もういいから皆、出てって! 小林 やべぇ。何かマジっぽいな。出よーぜおっさん。  小林、呆然としている北村を連れて退場。 野村 出てってよ!お願いだから!  野村を見つめてから出て行く後藤。取り残された林田。気まずい空気。 林田 …あのさ、何で爆弾なんて作ったんだ? 野村 あなたこそ何で強盗なんてしたんですか? 林田 いや、質問したのこっちなんだけど… 野村 ばくは… 林田 わかった!話すよ。って言っても大した話じゃないし。何か俺昔から何やっても要領が悪くてさ…バイトとかすぐクビになるんだよ。 野村 そうなんですか? 林田 最初はコンビにのバイトやったんだけどさ、レジとかさっぱり覚えられなくてさ1週間で18万くらい誤差出しちゃってさ。 野村 それは相当ひどいですね。 林田 やっぱりそうなのか。それで、次は商品の並び替え担当になったんだけどさ、俺数字良く見間違えるんだよ。で、賞味期限が切れたものがよく残ってて1週間に7回クレームがついちゃってさ 野村 毎日ですね。 林田 そうなんだよ、まいっちゃうよ。で、次は商品の搬入に回されたんだけどさ、俺あんまり力ないからすぐに物落としちゃってさ、1週間でコーラの瓶を150本割ったらクビになった。 野村 ひどいですね。 林田 そうだろっ!俺頑張ってるのにひどいよな! 野村 いえ、あなたが。 林田 えっ!?そうか? 野村 はい、予想以上です。それはもう要領悪いっていうレベルじゃないと思います。悪意があると思われても仕方ないですよ? 林田 そうかぁ…(ちょっと凹む) 野村 あ、なんかすみません。ちょっと言い過ぎました。 林田 あ、いやいいんだ。で、あんたは何で爆弾なんか? 野村 楽しい話じゃないですよ? シーン6 学校の外 わたわたと出てくる後藤、北村、小林。 後藤 元はと言えばあなたのせいですよ!あなたが余計なことをするから! 北村 なっ!私はただ、我が銀行の伝票を取り戻そうと… 小林 どーでもいいからめんどくさいし通報しよーぜ。 後・北 止めてくださいっ!・止めてくれ! 小林 何だよ、2人してだってそれが普通だろ?強盗に爆弾だぜ。俺たちには何もできねーよ。 後藤 だってそれじゃあ由香ちゃんが逮捕されちゃうじゃないですか!? 小林 だって仕方ないだろー?  下手からふらりとやってくる白石。 白石 随分、騒がしいわね。何かあったわけ? 北村 あぁ、お前さっきの生意気な…何でもないわっ!お前に話すことはない! 白石 全く、失礼ね。そんな態度じゃ強盗を見つけても教えてあげないわよ。 小林 おねーさん、強盗はもう見つかったからいいんだよ。それで今中学に強盗と爆弾持って立てこもっててさぁ 後藤 ちょっと! 白石 何それ?中学って桜中学? 小林 そうそう。大変なんだよもう。 白石 じゃあ早く通報すればいいじゃない? 北村 それは駄目だ! 後藤 止めてくださいって! 小林 この2人がうるさくてさ。(北村に)ってか何でお前まで反対するわけ? 北村 それは、その… 白石 このおっさん、いやに自分で捕まえることにこだわってるのよねぇ?もしかして強盗に何かまずいものでも盗られた? 北村 (わかりやすく図星を指された感じで)そんなわけないだろう!! 後藤 ちょっと!そうだったんですか!?だからあんなに伝票って! 小林 伝票…?裏の伝票、的な? 北村 違うっ! 白石 つまり、横領? 北村 違うって言ってるだろ!名誉毀損で訴えるぞ! 小林 いいけど、とりあえず通報しないとなー、諸々。 白石 そうねー。 北村 止めろっ!分かった!いくら払えばいいんだ?10万ずつ出そう。それでいいか? 小林 けちだなー、おっさん横領してんだろ?もっと金あるだろう? 北村 分かった!30でどうだ?その代わり伝票取り戻すのも手伝ってくれよ? 小林 ま、いっか。とりあえずそれで。お姉さんもいい? 白石 まぁ、私はお金に困ってないから別にいくらでもいいけど? 小林 その割にはものほしそーな顔してるけど? 白石 うるさいわねっ! 後藤 ちょっと!そんなことしてる場合じゃないですよ。 北村 うるさい。君だって通報されずに済んだんだからいいだろう。むしろ、半額はらってほしいくらいだ。 後藤 大体、あなたのせいで… 北村 とにかくもう一度さっきの部屋に行くぞ。少しは落ち着いているだろう。いいか、伝票の返還が最優先だからな? 小林 はーい。お姉さんもいこーぜ? 白石 いいけど、私は危ないことはしないわよ? 後藤 ちょっと…あなた方!  北村、小林さっさと上手へ。白石若干楽しそうに上手へ。後藤も後を追う。 シーン7 教室の中 野村と強盗。しんみりとした感じ。 野村 つまんない話でごめんなさいね。 林田 いや、何か俺こそ悪いこと聞いちゃったな。あ、そうださっきの奴は誰だ?彼氏か? 野村 そう、来年の3月に結婚する予定だけど 林田 だけど? 野村 いや、こんなこと起こしちゃったらそれも無理じゃないかな(淡く笑う) 林田 いや、大丈夫だって。人間失敗くらいあるって。  そこにやってくる北村と小林。 北村 おい、いい加減もういいだろう。 林田 げっ!銀行のおっさん。 野村 さっきから思ってたんだけどあれ誰なんですか? 林田 俺が強盗入った先の多分中途半端に偉い奴。俺、伝票しか取ってないのにすげー剣幕で追ってくるんだよ。 北村 そうだ、その伝票だ。返せっ! 小林 それ返したら見逃してくれるってよー。 北村 こら、わしはそんなこと。 小林 まぁ、いいじゃん。ね? 北村 …そうだな。仕方ない。伝票を渡せば見逃そう。 林田 本当か?そうしたらもう追ってこないか? 小林 うんうん、絶対追わない追わない。ね、おねーさんたちもそうだよね?  白石、後藤教室に入ってくる。 白石 私は、元々そんなけちな強盗なんかに興味はないわよ。 野村 白石さん!? 白石 野村!あんた、何人質!? 野村 ……… 後藤 知り合いなの? 白石 馬鹿じゃないの!?相変わらずドンくさいわね。 小林 おねーさん、急に元気になったね? 白石 だってこいつ昔からいじめられっこで今じゃ人質かぁ。人間変わらないわよねえ。 林田 もしかしてさっきの話のクラスメートって… 野村 そう。この人。 白石 何の話?私の愚痴でも言ってたわけ? 野村 別に…そんなの今更言っても仕方ないし。 白石 あることはあるんだ? 野村 別に。それに私、人質じゃないから。 白石 はっ?その状況で何言ってるの? 小林 逆だよ、逆。 白石 何が? 小林 さからさー、あっちのお姉さん爆弾魔だったらしくて。あのお姉さんが爆弾持って立てこもってて強盗が人質にされてるの。 白石 何馬鹿なこと言ってるのよ。こいつに爆弾なんか作れるわけないでしょ? 後藤 さっきから失礼な人ですね。あなたに由香ちゃんの何が分かるんですか? 白石 分かるわよ。同級生だもの。あなたこそ誰? 後藤 後藤といいます。野村由香の婚約者です。 白石 はい?本気?あの女と? 野村 後藤さん! 小林 あー、何か幸せそうで良かったね。 北村 そんなことどうでもいいから伝票返せ! 白石 (逆ギレして)伝票くらい取ればいいじゃない!?こんな女に爆弾なんか作れるわけないでしょ!!!(無理矢理爆弾を奪い取る) 全員 あー!!! 「起動しました5分で爆発します」とか何とか機械的な音が入る。「カチコチ」と変な音が鳴 り出す。 野村 起動しちゃった… 小林 おい、勘弁してくれよー。 北村 本気で爆発するのか!? 林田 ちょっと、おい、爆発とか冗談だろ。 野村 冗談じゃないんです。本気で作ったんです。すごい、本当に動いた。 後藤 由香ちゃん、感心してる場合じゃないよ。止めて! 野村 そんな、止める方法なんて覚えているわけないじゃない。もう作ってから10年も経っているのよ! 林田 おいー、作った奴責任持てよ! 野村 そんなこと言われましても… 白石 (持ってる爆弾を見つめ)ちょっと!?本気?本気でこれ、爆発するの? 野村 …多分 白石 冗談じゃないわよ、はい(北村に押し付ける) 北村 わしはまだ死にたくないっ!(小林に押し付ける) 小林 あんた、婚約者だろ責任取れよ(後藤に押し付ける) 後藤 由香ちゃん、何とかして(野村に押し付ける) 野村 えーと、どうしましょうこれ?(林田に押し付ける) 林田 俺に渡すなー。元はと言えばお前が(白石に押し付ける) 北村 誰でもいいから何とかしてくれっ!!!  音楽に合わせて皆で爆弾を押し付けあう。何か、投げたりしまったりめちゃくちゃな感じ。ダンスも入れる。最後は、爆弾が破裂する音で暗転。 シーン8 教室の中  呆然とする全員。 白石 爆発ってこれだけ…? 小林 なんだよー、おどかすなよ。音だけじゃねーか。 野村 そんな、そんなわけ… 北村 全く、びっくりさせるんじゃない!! 後藤 良かったぁ… 林田 そうだよなぁ、中学生に爆弾なんて作れるわけないよなぁ…。 野村 そっかぁ、そうですよね。そんなもんですよね。 白石 何なのよびくびくして損したわ。全く。 後藤 これで良かったんじゃない?帰ろう。 野村 こんな使えない爆弾作ってたネクラ女でもいいの? 後藤 帰ろう。 野村 うん。 後藤 じゃあ、お騒がせしました。すみません。 野村 本当にご迷惑をおかけしてすみませんでした。(林田に)話を聞いてくれてありがとうございます。 白石 ちょっと、こんだけ騒ぎ起こしといてのうのうと帰るつもり!? 野村 ……それは、 後藤 ちょっと、あなた 野村 (後藤を遮り)そうです。もう私は中学生じゃないし白石さんと同じクラスでもないんだから関係ないと思います。失礼します! 白石 はぁ!?何それ!! 野村 あの頃、毎日「死ねばいいのに」って思ってた。私、こう見えて図太いんですよ。「死ねばいいのに」ってそればっか。「死にたい」と思ったことは一度もなかった。 白石 いつの話よ!? 野村 その、いつの話に縛られているのはどっちですか? 白石 えっ。 野村 あの頃は世界が学校しかなくて、そこでいじめられてるのがすごく辛かった…でも、今は違うでしょう? 白石 ……… 野村 私、ここに来て良かったです。爆弾も片付いたし、白石さんと会っても大丈夫だってわかって少し自信が付きました。ありがとうございます。 白石 ……… 後藤 由香ちゃん、気は済んだ? 野村 うん。 後藤 じゃあ、僕らは失礼します。あ、9月に結婚式を挙げるので良かったら皆さん来て下さい。  野村、後藤退場。 小林 大丈夫かー?そんなにへこむなよ。 白石 別にへこんでなんて… 小林 大方今自分がうまくいってないから人の幸せそうな顔見てむかついたとかそんなんだろ。 白石 なっそんなわけない 北村 あー、確かに不幸そうだな。お金にも釣られたしな。あれか落ちぶれた元お嬢様ってとこか。 白石 失礼ね!私は別にお金がほしかったわけじゃなくて 林田 ま、あれだ。お金は大事だよな 白石 〈林田に〉うるさい!強盗風情に慰められたくないわよ! 北村 そうだ!忘れていた!強盗!! 林田 あっ…すみません!もうしません!許してください。 北村 全く、君のせいでとんだことに巻き込まれた。早く盗んだものを返したまえ! 林田 でも、俺、これしか…(伝票を取り出す) 小林 よーし、もーらいっ! 林田 へっ? 北村 あっ!?何をする!! 小林 だってこれ奪い返したら金くれなそーじゃん? 北村 いや、それはその… 白石 何?あんた騙す気だったわけ? 林田 はっ?どういうこと?これそんなに大事なものだったのか? 小林 どーなんだよ。このおっさんにだけな。なー?おっさん。 北村 分かった。今、金を払う。だからそれを返してくれ。 小林 よーし。じゃあ、このおっちゃんからお金もらってうまいもんでも食いにいこーぜ。ほら、不幸そうなおねーさんもそっちの強盗もさ。 林田 俺もいいの!? 白石 何であんたらと。 小林 まぁいいじゃん。いいじゃん。 北村 お前ら人の金だと思って!! 小林 だって人の金だもん。あ、そーいやさ。おねーさんはタイムカプセルに何入れたの? 白石 私? 小林 そ。まさか爆弾じゃないでしょ? 北村 意外とくまさんのぬいぐるみとかなんじゃないか? 林田 好きな奴の写真とか。 白石 そんなわけないでしょ!! 小林 じゃあ、何なんだよ。 白石 なんだっけ?ちょっと待って(タイムカプセルを漁る)あ、この袋だ見覚えがある。 林田 何だ何だ、何が入ってるんだよ? 白石 うーん、株券? 全員 株券!? 白石 何よ?何か文句あるの?思い出したわよ。ちょうど父親が株にはまっててもらったんだけどよくわかんいから入れといたのよ。どーせ今じゃ紙くずね。 北村 ちょっと待て!!それ○×製薬の…? 白石 あぁ、そうね。 北村 馬鹿!!!お前ら知らんのか!!その会社先週癌の特効薬を発見 全員 えー!!! 白石 じゃあ、これ… 北村 かなりの価値になっているはずだ。 林田 金!(株券に飛びつく) 白石 ちょっと強盗! 林田 だって強盗だし! 小林 待てっ!俺もほしい。 北村 私だって!いや、その前に伝票! 白石 何言ってるの!私の!  株券をめぐって大騒ぎする4人。はずみで爆弾に手が触れる。 「再起動します。5分後に爆発します」というアナウンス。 音楽入る。 全員 またっ!? 白石 どーせまたフェイクでしょ! 北村 多分な。 小林 でも、多分なんだよねー。 林田 やばくね? 白石 もう爆弾はいやー!!  全員、爆弾を押し付け合いつつ爆弾を奪い合う。前方にはラブラブな後藤と野村。その絵を残しつつ幕。  ---------------------------------------------   以上、いかがでしたでしょうか? 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