題名:二十年後への贈り物    劇団:劇団ぼるぼっくす    作者:上野 小夜  ---------------------------------------------  著作権について  ・本ページで公開されている作品の著作権をはじめとするすべての権利は   全て作者が保有いたします。  ・このページからダウンロードできる脚本は全て無料で読んでいただいて   結構です。ただし、舞台等で御利用の際は、作者からの上演許可を取っ   ていただくようお願いいたします。  ・必要に応じての改編等も、作者への許可の上行って下さい。  ・著作権料が発生する場合、指定された額を作者へ送金を忘ないように   お願いいたします。本作品おける著作権料は、下記に示す通りです。  ---------------------------------------------   小学校、中学校、高校、その他学生の無料公演・・無料   アマチュア劇団の公演、学生の有料公演・・・・・5000円   プロの劇団の公演・・・・・・・・・・・・・・・全チケット収入の1割     (全チケット収入の一割が5000円に満たない場合は5000円)     [2]の場合、公演の2週間前までに、     [3]の場合、公演後2週間以内にお支払いください。  --------------------------------------------- 野村…25歳くらい。中学生の頃いじめられていた。いじめられていて復讐をするため、タイムカプセルに作った爆弾を入れる。それから10年が経過し、結婚を控えて昔の清算をしに母校へやってくる 林田…20代前半。頭が悪い。頭が悪すぎて派遣でバイトをしてもすぐ首にされる。金がないため銀行強盗をするが、札束と間違えて伝票みたいなものを掴んで逃げてくる。 小林…中学校の用務員昔からこの学校で働いている。学校に住んでいるのではないかという噂もあった。 白石…25歳くらい。女性Aの元同級生で野村をいじめていた。元元家が金持ちで自分に自信もあったが今は落ちぶれている 北村…30歳くらい。まじめだが、女に入れこみ、金に困っている。金にがめつい。横領をして いる。 シーン0 オープニング がやがやとしたM。銀行の中。舞台前方に照明。北村がいる。そこへ林田やってくる。 林田 強盗だ手を挙げろ! 北村 後藤さんですか? 林田 あ、僕は林田・・・強盗だ!手を挙げろ! 北村 あ、そういう訓練なんですね。ご苦労様です。 林田 強盗なんだ。お願いだから手挙げて!(フォークを突きつける) 北村 えっ?ちょっと!?警察、警察! 林田 呼ぶな!逃げるな! 北村 すいません。 林田 謝るな!頼むから金を出してくれよー。 北村 は、はい。(ポケットを漁り)とりあえすこれで! 林田 (思わずといった感じで)ありがとう! 北村 (思わず)どういたしまして。またお越し下さい。 林田 うん、また来る!  鳴り響くサイレンの音。林田、去る。 北村 (改めて伝票を渡したことに気付き)あ、ちょっと待って!それ違います!お金じゃないです!待ってくださーい!  大きくなるサイレン。音楽入る。音合わせで簡単なダンス。キャスト紹介的なイメージ。音が終わるとラジオの音。 ラジオ(声のみ) ニュースの時間です。今日午前10ごろ、南地区で銀行強盗が発生しましたが、何も取らずに逃げて行きました。強盗の行方はわかりませんが、ほっかむりをしており、すぐに発見される見込みです。続いて、四天製薬による抗がん剤の発見に関するニュースです。四点製薬では、先日新たな抗がん剤を発見しました。これにより、今まで不治の病と言われていた癌がほぼ100%治るうようになりました。…(フェードアウト) シーン1 学校の中 閑散とした教室。そこに駆け込んでくる強盗。教室の中を見回し、誰もいないことを確かめて安心して座りこむ。ほっかむりを外す。 林田 助かった…。(持ってきた紙の束を見て)これだけか…はぁー。  落ち込む強盗。そこにやってくる野村。 野村 あの。すみません。 林田 (びくっとして明らかに怪しい感じで伝票を落とす)何でしょうか? 野村 (男の様子には気付かず)こちらの学校の先生ですか? 林田 (きょとんとして)えっ? 野村 あ、すみません。教室にいるからてっきり… 林田 いや、違わないです!違わないです!先生です!。 野村 お仕事お疲れ様です。私、99年卒の野村由香と申します。 林田 あ、すみません。どうも。 野村 初めまして(名前は?という視線) 林田 (視線の意味に気付いて)あ、すみません。僕は林田と言います。 野村 林田先生ですね。今日は片づけか何かですか? 林田 (よく事情が飲み込めない感じで)はぁ、まぁそんなところです。まったく、ほらうちの生徒は片づけをしないから。 野村 でも、寂しいですよね。 林田 はぁ… 野村 今日でこの校舎ともお別れですね。 林田 は? 野村 (驚いて)違うんですか?今日から立ち入り禁止になるって聞いたんですけど。 林田 えっ?(今、思い出したという感じで)あ、そういえばこの学校つぶれるんでしたっけ?? 野村 えっ?忘れてたんですか??この学校の先生、なんですよね… 林田 あ、いや。こうして毎日学校の整理とかしてるとねほら。つい生徒が来る様な気がしちゃって。あはははは。 野村 整理をしているのに、ですか? 林田 ま、まぁ僕の生活リズムは変わってないですし。そんなことより、あなたは卒業生なんですよね?何をしにいらしたんですか? 野村 (ちょっと慌てて)あ、その私はそのタイムカプセルを探しに… 林田 タイムカプセル?この部屋に? 野村 はい。確か資料室に入れたと思うんです。すみません、勝手に入ってしまって。(言い訳のように)受付に誰もいなかったので。 林田 あぁそうなんですか。そういうことなら思う存分探してください。私は、ちょっと他の部屋に行きますので… 野村 すみません。ありがとうございます。 林田 いえいえごゆっくり。  林田、そそくさと退場。林田が去ったのを確認してから、辺りを窺い、捜索開始。伝票を拾い、 タイムカプセルの方に突っ込む。 シーン2 舞台前方  中央では野村そのまま探している。上手から北村が慌ててやってくる。下手から急いでやってくる白石。 北村 あの、すみません。 白石 何ですか?私、急いでるんですけど。 北村 この辺で怪しい男を見ませんでしたか? 白石 さぁ?怪しい男と言われましても。怪しいといえばあなたも怪しいでしょ。 北村 そうじゃないんです!その、明らかに泥棒というようなほっかむりをかぶった男を見かけませんでしたか? 白石 そんな人いるわけないじゃないですか? 北村 いたんですよ!(キれて) 白石 何なんですか?あなた。急に話しかけてきてキレルなんて大人としてみっともないですよ。 北村 申し訳ございません。 白石 わかればいいんですけど、何、強盗に入られたわけ? 北村 はい、私が務めている銀行が強盗に入られまして…。 白石 まずいじゃない。預金とか取られたわけ? 北村 いえ、そういうわけでは…。取る暇もなくさっさと逃げたので。 白石 はっ?銀行に入って何も取らなかったの?じゃあ、いいじゃない。 北村 あぁ、はい。 白石 何、歯切れが悪いわね。 北村 いや、そのやっぱりうちも銀行なのでそういうことがあると信用にかかわるので、その強盗は逮捕しないとですね… 白石 私、関係ないみたいだし、もういいですか?。 北村 あぁっ!そんなこといわないでください。見つけてくれたら謝礼出します! 白石 ……いくらですか? 北村 えっ? 白石 そこ重要なとこでしょう? 北村 えーとですね 白石 決めてないの?ほんとは出す気ないんじゃないの? 北村 それは、その…じゃあ。5000円で 白石 安い! 北村 じゃあ2000円で! 白石 何で下がってるのよ! 北村 えーと、どうしようかなぁ 白石 じゃあいいわよ、もう5000円で 北村 ありがとうございます! 白石 で、どこに連絡すればいいの? 北村 あ、私は駅前のみずな銀行の北村といいます。 白石 わかったわ。見つけたらみずなに行くわよ。 北村 それじゃ駄目です!ちゃんと私、北村のところに来てください! 白石 どうして? 北村 それはその… 白石 手柄でも独り占めしたいのかもしれないけど、私には関係がないから。それじゃ。  上手へはける白石。それを見送り、とぼとぼと去る北村。 シーン3 教室の中 タイムカプセルを見つけた野村。爆弾を客に見せる。物を確認しようとしているところににやっ てくる小林。 小林 誰かおるんか? 野村 はい?(慌てて爆弾をタイムカプセルに戻す) 小林 お嬢さん、見ない顔だね。 野村 (テンパッて)あ、すみません。私ここの卒業生で、その。 小林 そうかい。言われてみれば見たことのある顔だな。卒業生がどうしたんだ急に? 野村 (気まずそうに)あ、すみません。勝手に入って。(話題を無理やり切り替えるように)あ、用務員の小林さんですよね? 小林 わしのことを覚えておったか。感心じゃのー。お、お嬢さんも、やっぱり見たことがあるぞ。えーと…そうだな。思い出した!10年前に卒業した野村さんか。 野村 えっ!?すごい。何でですか? 小林 まぁ、日々生徒の顔を覚えるくらいしか仕事がないからな。わしの唯一の特技だよ。 野村 いえ、本当にすごいと思います。私なんて地味な生徒だったのに…(爆弾に目をやる) 小林 ……確かにそうじゃったな。で、今日はどうした? 野村 あ、その… 小林 どうした? 野村 (言いにくそうに)そのタイムカプセルを探しに… 小林 タイムカプセル?同窓会でもやるのか? 野村 いえ、そういうわけじゃないんですけど。(言い訳がましく)もうこの学校にも入れないと思ったらその前に片付けないとと思って… 小林 (勝手に納得して)そうかそうか。大事な思い出だからな。見つけてあげた方がタイムカプセルも喜ぶだろう。わしはその辺でシダ植物でも取ってるから適当に探してくれ。 野村 ありがとうございます。(タイムカプセルの方にすかさず戻る) 小林 (出ようとして入り口で思い出したように)あぁ、忘れていた。この近くで強盗が出たらしいから気をつけてな。 野村 はっ??(慌てる) 小林 銀行強盗じゃよ。物騒な世の中になったもんじゃの。 野村 強盗ってそんな!?つかまってないんですか? 小林 そうらしいな。まぁ何も盗ってないし人も殺してないから大丈夫じゃよ。 野村 えっ、そういう問題じゃ… 小林 あぁ、そうだ。明らかに強盗ってわかるほっかむりしてるらしいから、見かけたら気をつけるんじゃぞ。 野村 えっ、あのちょっと! 小林 今日は何を食べようかのー。鉄棒の下の草も大分育って来たからな…(適当なせりふでお願いします!)  小林、さっさとはける。野村ため息をついて、再び爆弾を手に取る。  そこに通りかかる白石。 白石 (野村を見て)失礼します。こんにちは。先生ですか? 野村 (白石の顔をみてはっとする)…いえ、そういうわけでは。 白石 じゃあ、卒業生ですか? 野村 えぇ、まぁそうです。 白石 私もですよ。奇遇ですね。 野村 …そうなんですか。 白石 今日でこの校舎ともお別れですもんね。 野村 それでわざわざいらっしゃったんですか? 白石 ええ、最後だと思うと色々懐かしくて… 野村 そうですか。 白石 貴方は違うんですか? 野村 私はこの学校にいい思い出がないですから。 白石 ……そうですか。(話題を変えるように)あ、これ…うちのクラスの? 野村 あ、これどこかのクラスのタイムカプセルみたいですね。色々見てたら見つけちゃって…駄目ですよね。人のクラスのですもんね。しまった方がいいですよね。 白石 …あんた、もしかしてモグラ? 野村 …… 白石 そうよね?モグラよね? 野村 ……野村です。 白石 そっか、モグラかぁ。相変わらず暗いのね。 野村 そんなことありません。 白石 ふーん。最近どうしてんの? 野村 結婚するんです。 白石 えっ? 野村 結婚するんです。この秋に。 白石 ふーん、あんたと結婚するような物好きいるんだ。 野村 そうみたいですね。 白石 仕事は? 野村 弁護士事務所で働いてます。 白石 へー…… 野村 白石さんは?お家大変だったんでしょ?大丈夫? 白石 あんたには関係ないでしょ? 野村 (若干おびえて)ごめんなさい。 白石 あーあ、せっかく学校に来てもモグラがいるんじゃゆっくりできないんだけど。 野村 あ、ごめんなさい。私、出ます。 白石 ありがとう。しばらく戻ってこないでね。 野村 ……  無言ではける野村。白石、野村が出て行くのを見て満足そうにほほ笑む。 シーン4 学校の中  そろそろと戻ってくる林田。 白石 今度こそ先生ですか? 林田 今度こそ? 白石 いえ、こちらの話です。で、先生ですか。 林田 はい、保険の先生です。 白石 そうなんですか。私、卒業生の白石といいます。 林田 あー、今日はなんか卒業生の多い日ですね。じゃあ、ゆっくり校内見学でもしていってください。ちょっと、僕はここの掃除をしたいのですが… 白石 あ、そうなんですか。じゃあ、失礼します。 林田 ありがとうございます。  白石、去る。 林田 ふー、いなくなったか。さて、多分この辺で落としたような…(部屋の中を捜す)  そこにとおりかかる小林。 小林 誰かおるんか? 林田 にゃー。 小林 おお、そうか。猫か。じゃあ今度ねこじゃらしでも…(適当に続けてはけてから戻ってきて)ってこら!年寄りを馬鹿にするな! 林田 あ、すみません。まさかだませると思わなくて。 小林 お前、見ない顔だな。 林田 保険の林田です。 小林 ん?保険の先生はもっとひげ面だったような。 林田 えーと、あのちょっと道に迷って。そのー… 小林 そんなわけないじゃろ。 林田 すみません。行くとこないんです。 小林 何だ、若いのにホームレスか? 林田 まぁ、そんなもんです。 小林 そうか、かわいそうにな。じゃあしばらくここに住むか? 林田 ここに? 小林 ここはいいぞ。カブトムシの幼虫とかを取ってくれば食うもんには困らないし、風呂はプールに入ればいいから快適じゃ。 林田 まさか、じいさんホームレスなのか? 小林 たわけ。わしはれっきとした用務員だ。勤続50年。皆勤賞だぞ。 林田 勤続50年っていくつだよ。 小林 秘密だ。気にしてることを聞くでない。 林田 悪い。 小林 わかればいいんじゃ。じゃあとにかくわしはシダ植物を取ってくるから。それまでヤゴと一緒にプールにでも入っておれ。 林田 入らねぇし!おい、これ食えるのかよ! 小林 煮ると結構いけるぞ。料理してやるからおとなしく待っておれ。 林田 俺、別に食べるなんて一言も… 小林 (話を聞かずに出ようとして)あ、そうそうさっき近くで強盗が出たらしいから注意するんだぞ。 林田 ………(小林の足音が去ってから)俺?  すぐに照明転換。中では、部屋の中を捜索し始める林田。 シーン5 学校の前 上手から出てくる白石。下手から急いで出てくる北村。小林もすぐに出てきてうろうろ。 北村 すみません。 白石 何?またあんた? 北村 強盗の人相書きを作りました!(すっごい下手な強盗の似顔絵を見せる 白石 何これ? 北村 えっ? 白石 これでわかるわけないでしょ!!下手すぎ。 北村 そんなに下手ですか?私の絵… 白石 こんな下手な絵、見たことないわよ! 北村 そんな…(逆ギレして)私はこれでも一生懸命書いたんだ!! 白石 大人の癖に逆ギレしないでよ。煩いわねぇ。 北村 それは君が…(以下、適当に怒っている) 小林 うーむ。昨日、この辺に生えてたおいしそうなシダ植物は既に取られてしまったのか? 白石 露骨に不審者ね。あれじゃないの? 北村 違います。この絵と全然違うじゃないですか!それくらいわかってください。 白石 だから、それじゃわからないって言ってるでしょ!? 北村 もういいです。(小林に)そこの方 小林 ん?わしか? 北村 この男を見ませんでしたか? 白石 不審者に聞く気?大体その絵でわかるわけ… 小林 (白石を遮り)ああ、見た見た。 白石 えー!? 北村 (うれしそうに)あなたはわかってくれるんですね。で、どこで見たんですか? 小林 うちの学校じゃよ。家がないからと2階の資料室にもぐり込んでおった。 北村 学校って? 小林 桜中学校じゃよ。 北村 わかりました!ありがとうございます! 白石 ちょっと、抜け駆けは許さないわよ!    北村、勢いよくはけていく。小林、白石を引き止める。 小林 待つんじゃ! 白石 何?私急いでるんだけど。 小林 一体あの男がどうしたんじゃ? 白石 あーもう銀行強盗らしいわよ。 小林 何っ!?それは本当か。悪いやつには見えんかったがのう。 白石 あ、そ。大体、あんた何なのよ?ホームレス? 小林 何!?ここの卒業生のくせにわしをしらないだと!? 白石 知らないわよ。大体、何で私が卒業生だって知ってるわけ? 小林 わしは卒業生の顔なら全部覚えておる。 白石 どこまで本当だか。 小林 疑うのか?10年前に卒業した白石さん? 白石 えっ? 小林 会社の再建は進んでおるのか?お主も苦労しておるようじゃのう。 白石 ……あなたもしかしてストーカー? 小林 わしはいじめっこになんか興味はないわ。 白石 何の話よ? 小林 わかっておるくせに……まぁ、よい。わしには関係ないことじゃ。そんなことより5000円がほしいなら急いだ方がいいんじゃないのか? 白石 別に、5000円に釣られたわけじゃ 小林 そうか。じゃあ、わしが5000円をもらって来ようかのー。  白石 ちょっと、待ちなさいよ! 小林 さーて、わしもさっさとシダ植物を取って戻るか。 シーン6 教室の中  林田伝票発見。そこに、足音を立ててやってくる北村。林田、廊下をのぞき、急いでダンボー ルに隠れる。北村、部屋をのぞくが気付かずに去る。そこに入ってくる野村。タイムカプセル から爆弾を取り出す。解除しようとする。物音をたててしまう林田。 野村 誰!? 林田 あ、 野村 あ、ああ先ほどの。林田先生…?どうしたんですか? 林田 ああ、色々ありまして… 野村 色々? 林田 その、片づけてたら段ボールがふってきちゃって 野村 それで、段ボールに入って遊んでたんですか? 林田 ……ええ、まぁ。 野村 ……そうですか。 林田 あなたこそずいぶん長いこといらっしゃいますね?タイムカプセルは見つかったんですか? 野村 ええ、まぁ。 林田 (野村の持っている物を指し)あ、それですか? 野村 あ、これはその…だれかのです。 林田 そうなんですか? 野村 そうなんです。林田先生も片づけ大変そうですね。何かお手伝いしましょうか? 林田 いえ、結構です。そちらこそ、タイムカプセルを探すのを手伝いましょうか? 野村 いえ、結構です。(話題を変えるように)でも、こんな時期に異動なんて大変ですよね? 差し支えなければ、次はどちらへ行かれるのですか? 林田 はい? 野村 いえ、別の学校へ異動されるのかな、と 林田 あぁあぁあぁあぁ、そうですよね。異動します。異動します。 野村 どちらへ? 林田 そうですね。あの、八王子の方です。 野村 それはまたずいぶん遠いですね。 林田 いや、でも元々私はその辺の中学の出身だったもので…なじみはあるんですよ。 野村 そうですか。じゃあ何かよかったですね。   遠くから足音が聞こえてくる。そこにやってくる北村。 北村 あ、いた!伝票を返してくれ! 林田 げ!出た! 野村 え? 北村 お嬢さん、そいつは銀行強盗だから危ないですよ。 野村 銀行強盗? 林田 何でもないなんでもない。こいつ頭がおかしーんだ。 北村 違います!さっき、その男がうちの銀行に刃物を持って押し入ったんですよ。 野村 えっ?えっ?  遅れてやってくる小林。 小林 野村さん、危ないぞ。そいつがさっき言ってた銀行強盗じゃ離れなさい。 野村 どっちですか? 小林 そっちじゃ。小さい方が間抜けな強盗じゃ。 野村 本当に?先生じゃなかったんですか? 林田 ……そうだよ。間抜けで悪かったな!!(野村にフォークを突きつける)それ以上近づいたらこの女刺すからな。 野村 ちょっと!!えぇ!? 北村 あー、止めてください。血が出ます!痛いです! 林田 (北村に)おい、お前それ以上近づくな。ほんとに刺すからな。 小林 若いの。そんなことするもんじゃない。 北村 止めてください!伝票だけ返してくれればいいんです!  白石、入ってくる。 白石 ちょっと、じいさん待ちなさいよ! 野村 白石さん!? 白石 野村? 林田 何だ、知り合いか? 白石 強盗?何、あんた人質? 小林 白石さんや、そういう言い方は… 野村 何でここに… 林田 誰だよ?お前! 北村 それより伝票! 白石 馬鹿じゃないの?あいかわらずどんくさいわねえ。 野村 (小さい声で)うるさい。 小林 2人ともやめるんじゃ。 白石 やっぱモグラはモグラねえ。陽の当らない人生がお似合いよ。  野村 うるさい!私は人質なんかじゃない!全員私から離れて!!!そうじゃないと爆発させるわよ!! 全員 はっ? 野村 爆弾よ、爆弾。 林田 爆弾? 白石 つまんない冗談やめなさいよ。 野村 冗談じゃないわよ。(手でもて遊んでいた爆弾をかかげる。)言っとくけど正真正銘の時限爆弾よ。サイトで調べて一生懸命作ったんだから。 北村 冗談でしょう。 野村 残念だけど、本気です。……私、卒業前に爆弾を作ったんです。 小林 何でまた… 野村 理由はその人に聞いたらどうですか? 白石 ……何よ?私のせい?モグラが勝手に… 野村 (遮って)私は野村です!モグラじゃない! 全員 ……(沈黙) 小林 野村さん、その爆弾は本気か? 野村 はい、残念ながら。だから、もう私にかまわないでください! 小林 そうか……(北村、白石に)出るぞ。 北村 いや、私は伝票が… 野村 出てってよ!お願いだから! 北村、びくっとして逃げる。小林、呆然とする白石を連れてはける。 林田 …あのさ、何で爆弾なんて作ったんだ? 野村 あなたこそ何で強盗なんてしたんですか? 林田 いや、質問したのこっちなんだけど… 野村 ばくは… 林田 わかった!話すよ。って言っても大した話じゃないし。何か俺昔から何やっても要領が悪くてさ…バイトとかすぐクビになるんだよ。 野村 そうなんですか? 林田 最初はコンビにのバイトやったんだけどさ、レジとかさっぱり覚えられなくてさ1週間で18万くらい誤差出しちゃってさ。 野村 それは相当ひどいですね。 林田 やっぱりそうなのか。それで、次は商品の並び替え担当になったんだけどさ、俺数字良く見間違えるんだよ。で、賞味期限が切れたものがよく残ってて1週間に7回クレームがついちゃった。 野村 毎日ですね。 林田 そうなんだよ、まいっちゃうよ。で、次は商品の搬入に回されたんだけどさ、俺あんまり力ないからすぐに物落としちゃってさ、1週間でコーラの瓶を150本割ったらクビになった。 野村 ひどいですね。 林田 そうだろっ!俺頑張ってるのにひどいよな! 野村 いえ、あなたが。 林田 えっ!?そうか? 野村 はい、予想以上です。それはもう要領悪いっていうレベルじゃないと思います。悪意があると思われても仕方ないですよ? 林田 そうかぁ…(ちょっと凹む) 野村 あ、なんかすみません。ちょっと言い過ぎました。 林田 あ、いやいいんだ。で、あんたは何で爆弾なんか? 野村 …… 林田 いや、言いたくないなら別にいいんだけどさ。あ、じゃあ今は何やってるんだ。 野村 弁護士事務所で働いてます。 林田 (無邪気に)へー。頭いいんだな。 野村 でも、司法試験受かってないですし。 林田 (よくわかってない感じで)そうなのか。 野村 そうなんです。わかってないでしょ? 林田 ばれたか。 野村 (ちょっとくだけた感じで)わかりやすすぎる。 林田 やっぱり? 野村 でね、秋に結婚するんだ。 林田 へっ?マジで?おめでとう! 野村 ありがとう。 林田 でもさー、それならこんなことしてる場合じゃないだろ。大体なんで今更… 野村 だって、校舎壊すのに爆弾出てきたらまずいでしょ?本当は20年後まであけない予定だったのになぁ。 林田 でも、出てきたってだれが作ったかなんかわかんなかったんじゃないのか? 野村 もう終わりにしたかったのかもね。 林田 え? 野村 何か昔のこと気にするとかそういうの? 林田 ふーん。 野村 わかってないでしょ? 林田 ばれたか。 野村 しつこい。さて、どうしようか? 林田 俺に聞かれても。忘れてるかもしれないけど俺、強盗だよ? 野村 ですよね。うーん、困った。 林田 俺も困ってるよ。 シーン7 学校の外 わたわたと出てくる北村、小林、白石。白石は終止無言。 北村 なんなんですか!?あれは一体!強盗だけじゃなく爆弾って…非常識ですよ! 小林 わしもびっくりしたわ。まさか、野村さんがのう。 北村 昔の生徒なんですか?責任とってくださいよー。 小林 そんなこと言われてものう…ほら、白石さんや何とかしてくれ。 白石 そんなこと今さら言われたって… 小林 悪い事したら謝るのが筋じゃろうて! 白石 そんな昔のこと忘れたわ。 北村 とにかく!貴方がたの学校のことなんですから、何とかして下さい! 白石 うるさいわねー。警察呼べばいいでしょ。 小林・北村 たわけ!・だめです!だめです!とにかくだめです! 白石 じいさんはわかるとして、なんであんたがそんなキレるのよ? 北村 いや、その… 白石 ずーっと思ってたんだけど、あんた何か盗られたの? 北村 はい?何のことでしょうか? 白石 何も取られてないにしては必死すぎるのよねぇ… 小林 確かにそうじゃな。 白石 でしょう? 北村 ……実は、その、伝票を盗まれまして。まぁ、再発行すればいいのですが、一応盗られているのは事実ですし…その、あの… 白石 もしかして、脱税? 北村 なっ!違います!!横領です!あっ! 小林 横領じゃと!? 白石 やっぱり… 北村 あー、違います!違います!前言撤回します! 北村 (小林に)とにかく! そんなことより爆弾です!お二人とも何とかしてくださいよ! 小林 わかった、わかった。まぁ横領は後回しじゃ。白石さん、謝ってくるんじゃ。 白石 何で私が?横領が先でしょ? 北村 じゃあ、10000円あげますから。 白石 あんた、馬鹿にしてんの? 小林 もらえるもんはもらっておけ。困ってるんじゃ炉? 白石 放っといてよ! 北村 よし、じゃあ行くぞ。  二人に連行される白石。 シーン8 教室の中 野村と林田。割合くつろいだ雰囲気。 林田 いや、何か大変だったんだな。 野村 ごめんね。何かつまんない話しちゃって… 林田 いや、あいつが悪いんだよ。 野村 もう昔のことだから。 林田 でも、ずっと気にしてたわけだろ? 野村 ……うん。……はい、暗い話はおしまい!それより、どうしよっか? 林田 そうだなー、どうしようかぁ。 野村 なんかごめんなさい。変なことに巻き込んで。 林田 大人しく謝った方がいいんじゃないか? 野村 でも…白石さんには謝りたくない。 林田 気持ちはわかるけど、これ犯罪だろ。 野村 あなたに言われたくないわよ。爆弾作ってるより、強盗の方が罪重いわよ。 林田 すみません。 野村 はぁー  そこにやってくる北村と小林,、白石。廊下の外で押し付け合い。 北村 さあ、がんばってください! 小林 ほら、行くんじゃ。 白石 いやだってば!  突き飛ばされる白石。 野村 出ていっていただけますか? 小林 ほら、謝るんじゃ。 北村 お願いしますよー。私のためにも。 白石 うるさい。 野村 出て行っていただけますか? 白石 偉くなったもんね、モグラのくせに 野村 別に?そんなつもりじゃ 白石 ……ねえ嘘なんでしょ?? 野村 まだ認めてくれないんですか? 白石 馬鹿でドンくさいあんたに爆弾なんて作れるわけない。 野村 作れちゃったんですよ、それが。 白石 ばかいってんじゃないわよ。大体なんで爆弾なんて… 野村 貴方のために作ったんです。 白石 私の? 野村 はい、大嫌いな貴方のために。〈爆弾をおしつける〉 白石 ちょっとやめてよ。 野村 信じてないなら受け取ればいいじゃないですか? 白石 何よ、こんなもの! 全員 あー!!! 「起動しました5分で爆発します」とか何とか機械的な音が入る。「カチコチ」と変な音が鳴 り出す。 野村 (若干嬉しそうに)起動、した。 小林 爆発するのか?吹っ飛ぶのか? 北村 ちょっと私まだ死にたくないです。 林田 おい、爆発とか冗談だろ。 野村 (勢いよく)冗談じゃないんです。本気で作ったんです。すごい、本当に動いた。 小林 野村さん、すごいのはわかったから止めとくれ。 野村 そんなこと言われても覚えているわけないじゃないですか!? 林田 おいー、作った奴責任持てよ!(野村に渡す) 野村 えーと、どうしましょうこれ?(小林に渡す) 小林 元はといえば、お前さんがイジメなんてするから(白石に渡す) 白石 そんな昔のことで冗談じゃないわよ、はい(北村に渡す) 北村 私、部外者ですから!(小林に押し付ける) 小林 だれでもいいからなんとかしてくれ!!!  音楽入る。音に合わせて、皆で爆弾を押し付けあう。最後は、爆弾が破裂する音で転換。 シーン9 教室の中  呆然とする全員。 白石 爆発ってこれだけ…? 林田 なんだよー、おどかすなよ。音だけじゃねーか。 小林 全く、寿命が30年縮んだわ。 林田 じーさん、死ぬなよ。 小林 わしは、150まで生きる予定じゃ。 林田 言ってろよ。 北村 しかし、中学生に爆弾なんて作れるわけないですよねぇ…。 野村 ……そっかあ、そうですよね。はぁ。 小林 これでよかったんじゃないのか? 野村 …… 小林 みんな死んだ方が良かったか? 野村 いえ、そんなことは。 小林 そうじゃろ。 野村 (首をふる)あの、本当にご迷惑をおかけしてすみませんでした。 小林 気にするでない。 林田 まぁ、結果オーライだって。皆生きてるからな。 北村 私は何もオーライじゃないですが…。 小林 まぁ良かったじゃないか。 野村 (林田に)あの、話を聞いてくれてありがとう。 林田 あんま気にすんなよ。ほら、婚約者もきっと待ってるぜ。 小林 おー、野村さん結婚するのか。じゃあ結婚式にはぜひよんどくれ。(わいわい) 白石 ちょっと、こんだけ騒ぎ起こしといて何めでたしめでたしみたいな空気になってるのよ!?ぜんぜん良くないでしょ!これ、犯罪よね!?殺人未遂じゃないの!? 野村 ……それは、 小林 白石さんや… 野村 (小林を遮り)そうかもしれませんね。 小林 えっ? 野村 でも、他のだれに言われてもいいですが、白石さんに言われる覚えはありません。もう私は中学生じゃないし白石さんと同じクラスでもないんです。だから、あなたにえらそうなこと言われたくない!! 白石 はぁ!?何それ!! 野村 あの頃、毎日「死ねばいいのに」って思ってた。私、こう見えて図太いんですよ。「死ねばいいのに」ってそればっか。「死にたい」と思ったことは一度もなかった。 白石 いつの話よ!? 野村 その、いつの話に縛られているのはどっちですか?あの頃はそんなに良かったですか?今は、そんなに駄目ですか? 白石 それは。 野村 あの頃は世界が学校しかなくて、そこでいじめられてるのがすごく辛かった…でも、今は違うでしょう? 白石 ……… 野村 私、ここに来て良かったです。爆弾も片付いたし、白石さんと会っても大丈夫だってわかって少し自信が付きました。ありがとうございます。 白石 ……… 北村 あの、私の伝票は…? 林田 たぶん、これは黙ってた方がいい空気だ。 小林 そうじゃ。空気を読むんじゃ。 野村 それじゃ、私は失礼します。皆さん、本当にご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。 小林 幸せになるんじゃぞ。 林田 フォークつきつけて悪かったな。(わいわい)  野村、一礼して退場。 小林 白石さん、あまり気を落とすでないぞ。 白石 ホームレスのくせに同情しないでくれる!? 林田 俺もうまくいってないからわかるんだけどさー、何かさ、きっといいことあるよ。 白石 強盗に励まされたくありません!! 北村 そうですよ、ほら、人生お金だけじゃないですし。 白石 横領してた人にも言われたくないわよ!!! 北村 いえっ!だからそれはあなたの勘違い……。あ、そうだ伝票です! 林田 あっ…すみません。 小林 おい、それを返しちゃだめだぞ。こいつは、銀行の金を横領してるんだ。 林田 そうなの!?そりゃ悪いやつだな! 北村 えっ!違います! 小林 大方、チリ人妻にでも貢いだんじゃろ。横領と言えば、チリ人に貢いでると相場が決まっておる。 北村 いや、その、それは、その… 小林 もういい加減素直に認めたらどうじゃ。 北村 すみません!出来心で…あの、今日のことはすべてなかったことにするんで返してください!……あの、焼肉くらいでよければおごります! 小林 よっしゃー。 林田 まじで!?やったー。えっ?杖は? 小林 そんなのファッションじゃ! 小林 久しぶりの牛肉じゃ!(白石に)よし食いにいくぞ! 白石 うるさいわね!何で私が牛肉ごときで! 林田 まぁたまにはいいじゃんいいじゃん。 小林 そうだよ。だって肉じゃぞ。ほら、いくぞ。 林田 (タイムカプセルに目を止め)何かいいもんでも入ってんの? 小林 そういえば、おまえさんはタイムカプセルに何入れたんだ? 白石 は? 小林 おまえさんだって入れたじゃろ。楽しかった思い出をな。 林田 意外とくまさんのぬいぐるみとかだったら面白いよな。後は、好きなやつの写真とか… 白石 (遮って)そんなわけないでしょ!! 林田 じゃあ、何を入れたんだよ? 白石 ……なんだっけ?ちょっと待って(タイムカプセルを漁る) 林田 何だ何だ、何が入ってるんだよ? 白石 うーん、株券? 全員 株券!? 白石 何よ?何か文句あるの?思い出したわよ。ちょうど父親が株にはまっててもらったんだけどよくわかんいから入れといたのよ。どーせ今じゃ紙くずね。 北村 ちょっと待ってください!!それ○×製薬の…? 白石 あぁ、そうね。 北村 ホントですか!!えっ?皆さん、知らないんですか!その会社、先週癌の特効薬を発見… 全員 えー!!! 白石 じゃあ、これ… 北村 かなりの価値になっているはずです。 林田 金!(株券に飛びつく) 白石 ちょっと強盗! 林田 だって強盗だし! 北村 (隙をついて取り)これがあれば、チリ人妻と! 小林 (北村から奪い)たんぱく質5年分! 白石 (小林から奪い!)ちょっと何言ってるの!私の!  株券をめぐって大騒ぎする4人。はずみで爆弾に手が触れる。 「再起動します。5分後に爆発します」というアナウンス。 全員 またっ!?  音楽入る。全員、爆弾を押し付けあいつつ株券を奪い合う。爆弾を教室の真ん中に置き、株券を奪って逃げる強盗。追う3人。残る爆弾。幕。  ---------------------------------------------   以上、いかがでしたでしょうか?   よろしければ下記のページより、感想を御記入下さい。   もちろん、叱咤激励なんでもかまいません。   作者の方の励みにもなりますので・・・    http://haritora.net/bbs/?type=7672   また、下記ページから作品の評価登録も可能です。(要登録)    http://haritora.net/critic/member/look.cgi?script=7672  それでは、今後とも『はりこのトラの穴』をよろしくお願いいたします。