題名:ざしきわらし?のいる部屋    劇団:劇団ぼるぼっくす    作者:上野  小夜  ---------------------------------------------  著作権について  ・本ページで公開されている作品の著作権をはじめとするすべての権利は   全て作者が保有いたします。  ・このページからダウンロードできる脚本は全て無料で読んでいただいて   結構です。ただし、舞台等で御利用の際は、作者からの上演許可を取っ   ていただくようお願いいたします。  ・必要に応じての改編等も、作者への許可の上行って下さい。  ・著作権料が発生する場合、指定された額を作者へ送金を忘ないように   お願いいたします。本作品おける著作権料は、下記に示す通りです。  ---------------------------------------------   小学校、中学校、高校、その他学生の無料公演・・無料   アマチュア劇団の公演、学生の有料公演・・・・・5000円   プロの劇団の公演・・・・・・・・・・・・・・・全チケット収入の1割     (全チケット収入の一割が5000円に満たない場合は5000円)     [2]の場合、公演の2週間前までに、     [3]の場合、公演後2週間以内にお支払いください。  ※本作品は作者の許可無く準上演を行うことが出来ます。  ※準上演についての詳細は、http://haritora.net/copyright.html をご参照ください。  --------------------------------------------- 「ざしきわらし?のいる部屋」 持田……30代女性。島谷、滝沢とは大学サークルの同期。小劇場で役者をやっている。周りがどんどん芝居を止めて焦りを覚えている。 島谷……30代女性。持田、滝沢とは大学サークルの同期。大手商社勤務で仕事は順調だが、上司と不倫している。 滝沢……30代女性。持田、島谷とは大学サークルの同期。不動産会社勤務。取り扱う家になぜかいつも座敷童がいるが見えないことにしている。 敷野(しきの)……座敷童。明らかに外見がおじさん。細かい性格でいちいち契約書を作成したがる。マニュアル本が好き。ざしきわらしの仕事にやる気はあるが、いかんせんおじさんなのであまり若い人の悩みに対応していない。 童(わらべ)……座敷童。やる気がない。ニート的座敷童。極力仕事をしたくない。でも、結局全ての仕事を押し付けられる苦労人。 階(きざはし)……座敷童。コミュ障。幸せにしたい気持ちはあるが接し方がわからない。 座間(ざま)……座敷童。なぜか部屋から出られる。自由なざしきわらし。 ざっしー(声のみ)……元気でやる気があるが空回りなざしきわらし。 貧乏神(声のみ)……謎の貧乏神。 第1場  敷野は隅で契約に関する本(「チンパンジーでもわかる契約書の書き方」などよくわからないタイトル)を読んでいる。滝沢と持田と島谷が飲み物とかを飲んでいる。だらだらして飲み会終わりな感じ。最初は滝沢のみ敷野が見えている。 持田 あー、けっこう飲んだなー。 島谷 ねー。 滝沢 でもだいぶ落ち着いたね。どう、新居は? 島谷 うん、悪くないよ。 滝沢 良かった。不動産屋勤めてるって言っても友達に紹介したの初めてだから。 島谷 まぁそんなにしょっちゅう引っ越ししないしね。 滝沢 そうそう。だからなんか問題あったらいつでも言ってよ。 持田 今のとこ全然大丈夫。一番おすすめなんでしょ? 滝沢 まぁ、二人にはね(意味深な笑い)いや、でも、ほぼ同時に相談来るんだもん。びっくりしたよ。 島谷 だろうね。でも、ルームシェアにしたおかげで条件はかなり良くなった気がする。 持田 だよね。 島谷 家にいる時間あんま合わないしね。 滝沢 持田、今、居酒屋だっけ? 持田 うん。もう5年くらい同じとこ。 滝沢 けっこう長いね。 持田 まぁね。芝居の本番近いときとか融通効かせてくれるし。バイトの子が年下ばっかりなのがあれだけど。 島谷 次は公演いつなの? 持田 (ちょっと気まずそうに)あー、今は特に予定ないんだよね。だから明日もオーディション。 滝沢 でもすごいよねぇ。ずっと続けてんの持田くらいじゃない?涼子も最近辞めちゃったよね。 持田 うん、涼子、結構大きな舞台出てたのになぁ。 島谷 あれは、小暮君? 持田 とっくに辞めてるよ。今や運送業しつつ二児のパパですよ。 島谷 そっかぁ。 持田 30前後で皆、急に現実に戻っていくんだよね。あーあ、私も就活して結婚とかした方がいいのかなぁ。 島谷 彼氏さんスタッフだっけ? 持田 うん、照明。 島谷 照明なら役者よりは収入になるんじゃない? 持田 まぁね。でもたかがしれてるよ。そういや島谷は最近彼氏とかいないの? 島谷 私?いないいない。前の彼氏と別れたのいつだっけ? 滝沢 前ってあの高校の同窓会で会ったっていう人? 島谷 そうそうよく覚えてるね。 持田 よく言ってたから。あれ、でももう5年前とかじゃない。 滝沢 うん、30過ぎる前には結婚するんだとか言ってたよね。 島谷 たしかに言ってたなぁ。もう33だけど。 滝沢 大学卒業してからもう10年過ぎてるんだよね。怖っ。 持田 怖いよねぇ。あ、(スマホを見て)ちょっとごめん。 島谷 どうぞどうぞ。照明さんかな。 滝沢 だろうね。あー、でもけっこういい時間だね。そろそろ帰ろっかな。 島谷 そっか、日曜休みじゃないんだよね。 滝沢 うん。(持田の方をうかがい)長いかな? 島谷 たぶん。 滝沢 じゃあ、帰るわ。(飲み物などをみて)これ、片すよ。 島谷 大丈夫大丈夫。私たち、帰る時間かからないんだし。 滝沢 ありがと。(荷物をまとめて)じゃあ、今日はお邪魔しました。持田によろしく言っておいて。 島谷 うん、気をつけてね。 滝沢 バイバイ。  島谷、滝沢を見送る。急に静まりかえる部屋。ときどき響く持田の楽しそうな声。 島谷 (スマホを見る。ちょっとうれしそうにラインを読む。読んでへこむ)そーですか。お仕事ですか。(お仕事なのか)どーだか。 敷野 どうかしたんですか? 島谷 えっ!? 敷野 あっ!見えました!?どうも、初めまして、私、ざしきわらしの敷野と申します。以後、どうぞお見知りおきを。 島谷 はぁ!?    オープニング音楽入り、音楽に合わせて無声演技。一生懸命説明する敷野。島谷は持田を連れてくる。スマホ片手に持田が引っ張られてくるが、電話に夢中だし、敷野のことは見えない様子。滝沢に電話する島谷。滝沢はわかっている表情で笑うが相手にはしない。敷野はしきりに話しかけるが最終的に島谷は自分の部屋に入って寝る。島谷が部屋から出てくるところで音楽フェードアウト。 第2場  敷野が相変わらず契約書関係の本を読んでいる。 敷野 おはようございます。昨日はよく眠れましたか。 島谷 夢じゃないの。 敷野 残念ながら。 島谷 (あきらめたように)そう。 敷野 昨日も108回ほどご説明申し上げましたが、私、座敷童なんです。 島谷 そう。 敷野 でー、ですね、我々の仕事は寂しい人を寂しくなくすことですので、あなたを寂しくなくします。 島谷 そう。 敷野 (おもむろに服から契約書を出し)、つきましては契約書を作成したいのでこちらにご署名と押印をお願いしたいのですが…… 島谷 そう 敷野 あの、聞いてますか。 島谷 聞いてます、聞いてます。なんたって109回目の説明だからね、でも私、別に寂しくないですから。相手を間違えていると思います。不要です。 敷野 たしかに。これまでは見えてなかったんですよね。たぶん、私が見える前に電子メールか何かきましたよね。あれがきっかけではないかと。あれ、誰からですか? 島谷 余計なお世話です!大体ね、ざしきわらしって、わらしでしょ? 敷野 はい、そうです。 島谷 はい、そうです!?そのおっさん面してよく言ったな。 敷野 え、若い方がいいんですか? 島谷 そりゃおじさんよりは若い子の方がいいでしょ。しかも私、別に寂しくなんかないですから。 敷野 でも 島谷 (敷野を遮り、契約書を手に取って)大体、何この契約!?幸せになる契約!?どこの新興宗教ですか!? 敷野 ダメですか?(本を示しながら)こちらの書式を参考に一生懸命作ったんですが……。 島谷 とりあえず、うちから出てってください(言いながら強制的に敷野をつかんで家から追い出そうとする。) 敷野 (追い出されながら)ダメです、ダメです、外には出られないんですって。 SEで雷の音や吹雪の音など謎の音がする(面白い音なら何でも可)。敷野は包帯をぐるぐる巻きにして戻ってくる。 島谷 どういうこと?何で急に雷が鳴ったりするのよ。 敷野 だから、座敷童を外に出しちゃダメなんですって。そんなに私じゃだめですか? 島谷 おっさんのざしきわらしなんていやです!? 敷野 もう、みんな、わがままですね。童―。 童 呼んだ?何?またヘルプ要請? 島谷 うわ、他にもいた。 敷野 いや、ヘルプじゃなくてチェンジだそうです。 童 またかよー。俺、働きたくないのにー。 敷野 こっちでいいですか? 島谷 そういう問題じゃないんだけど。大体これも若いけどけっこう大人だし!なんかでかいし!もういいです。とりあえず出かけてきます!    島谷、外に出ていく。取り残される童と敷野。 童 敷野、お前ずるいぞー。さぼり狙いでおっさんの外見にしてんじゃないか。 敷野 そういうつもりじゃないんですけどねぇ。とりあえず私じゃダメらしいので後はよろしくお願いします(言いながらはける)。 童 はぁ、まったくいっつもこれだよ。  ごろごろと初代ゲームボーイで星のカービイ(若干古めなゲームなら何でも可)をする童。そこに、持田が帰ってくる。落ち込んで帰ってくる持田。童のことが見えてしまう。 持田 えっ!?カービイ!?てか誰!? 童 (ゲームボーイを止める) 持田 島谷の知り合い? 童 あー、見えてる? 持田 どういうこと?見えるにきまってるじゃない。いや、でもなんか薄い。(自分で言ってから)薄い!? 童 あーあ、こっちもかぁ。階―、出番だぞ。 階 (部屋の隅から顔だけ出し)何? 童 お前の担当だろ? 階 (困ったように)こんにちは。 持田 (思わず)こんにちは。って増えた?どういうこと? 階 ざしきわらし。 持田 え? 童 寂しいと見えるんだよ。 持田 は!?何言ってるの? 階 まぁ、信じてくれないなら仕方ないね。まだ何とかなりそうだし。    階は隠れる。 持田 えっ、何が? 童 ちょっ!?ちゃんと仕事しろよ。あー、でもたしかにまだいっか。じゃ。  童、普通にはけていく。 持田 ちょっとちょっと。何なの?(童を追いかけるが、戻ってきて)いない?どういうこと?疲れてるのかな。それとも幽霊とか?  そこに島谷が帰ってくる。 島谷 ただいまー。 持田 おかえり。ねぇねぇ、島谷、大学生くらいの若い男の子連れ込んだ? 島谷 はぁ!? 持田 だよねぇ。さすがにそんな若い子とねぇ。親戚の子呼んだりもしてないよね? 島谷 うん。どうしたの? 持田 (気を取り直したように)いや、大丈夫。今日、遅くなるんじゃなかったっけ? 島谷 (ちょっといやそうに)あー、その予定なくなったから。ちょっとご飯食べてきただけ。持田は?オーディションだっけ? 持田 うん。エチュードとかやってきたよ。 島谷 いいなぁ。何か懐かしい。久しぶりにやってみたいなぁ。 持田 (固い声で)そんないいもんでもないよ。 島谷 (空気を察して)そっか。趣味じゃないんだから大変だよね。 持田 うん。ま、なんの仕事でも一緒だけどね。じゃあ、私、先にシャワー使っても大丈夫? 島谷 どうぞどうぞ。行ってらっしゃい。 持田 ありがとう。  SE(ラインの音)。島谷は、部屋に残ってスマホをいじり出す。スマホとスケジュール帳と睨めっこしてため息。そこに童がやってくる。 島谷 あ、まだいた。 童 あー、あんたはやっぱり見えるのか。 島谷 (既にあきらめて)好きで見えてるわけじゃないわよ。 童 見えてるならもう少し友好的になろうぜ。俺は童。あんたがチェンジしたおっさんが敷野。 島谷 そう。 童 お姉さんの名前は? 島谷 (いやそうに)島谷。 童 じゃあ、島谷さん、何か最近悩みとかあるんじゃない? 島谷 別に。 童 俺でよければ相談に乗るよ。ってか解決しないと上に怒られるんだよ。 島谷 上って? 童 うちの業界にも色々あるのよ。俺としては毎日だらだらしてたいんだけど。 島谷 そっか。まぁどこも大変だよね。そうしたらチェンジしたら悪かったのかな? 童 まぁ、また次の担当になるだけだから。 島谷 ふーん。ずっとここの部屋にいるの? 童 外に出れないからな。 島谷 そっか。 童 まぁ、俺らのことはいいじゃん。で、引継ぎによるとラインが来てからざしきわらしが見えるようになったわけ? 島谷 (いやそうに)まぁね。 童 心当たりは? 島谷 あるけど言いたくない。 童 まぁ、言いたくないならいいけどさ。俺じゃなくても、さっきの人とかにでも相談したら? 島谷 もっと言いたくない。 童 なんでだよ。友達だろ? 島谷 友達でも言いにくいこともあるよ。持田は、彼氏とうまくいってるし。 童 あぁ、そういう系?じゃあ、あっちは?不動産屋。 島谷 滝沢は、前に彼氏の浮気で婚約破棄されてるから。それに、滝沢は正しい人だから。 童 だと何か問題ある? 島谷 不倫だから 童 えっ? 島谷 私の相手。既婚者なの。そういうの滝沢嫌いそう。 童 あぁ、そういうこと。(スケジュール帳を見て)会う約束? 島谷 今日、ドタキャンされたから。(嫌味っぽく)仕事らしいけど。 童 仕事じゃないのか? 島谷 年度末でもないのに総務がそんなに忙しいとは思えないんだよね。奥さんに買い物付き合ってとか言われたんでしょ? 童 職場の人なの? 島谷 うん。べたべただなって思ってるんでしょ? 童 まぁね。 島谷 (ちょっと笑って)正直だね。まぁ、別にいいんだけどさ。  SE(ラインの音)。 童 そういうのって楽しい? 島谷 (スマホから顔を上げず)楽しくないけど、止められもしない     SE(ラインの音)。 童 そっか。 島谷 よし。(スマホから顔を上げる)あれ?消えた? 童 (島谷のすぐ横でスマホをのぞき込み)会う約束したら見えなくなるんだな。 島谷 どこ行ったんだろ。まぁ、いっか。  島谷、はける。SE(昔ながらの電話の音)。 童 (なんかキラキラした派手な糸電話を持ってくる(裏から持ってくるか当然のように初めから部屋に置いておいても可)はい。 ざっしー 俺俺、中野のざっしー。 童 なんだお前か。 ざっしー なんだってなんだよ。その声は童か? 童 そうだけど何か用か? ざっしー いやー、昨日、敷野から電話もらったんだよ。 童 そうなのか? ざっしー 何か恋愛相談系な感じなんだけどどうしようって言われてさ。 童 あー、それ俺担当に代わったぞ。ってか敷野よりによってお前に相談したのか。 ざっしー (ちょっと怒って)それ、どういう意味だよ。 童 その二人で恋愛相談が解決する絵が見えないな。 ざっしー なんだよ、失礼だな。とりあえず、役立ちそうな本を送っておいたから、参考にしろよ、じゃ。  SE(電話の切れる音)。 童 ちょっと、敷野に代わらなくていいのか。もう。敷野―。  敷野、「図解 小悪魔になる方法」とか間違ったマニュアル本を持って現れる。 敷野 何ですか? 童 ざっしーが本送ったって(敷野の手元を見て)……もう届いてるのね。 敷野 はい、勉強しています。 童 それ、勉強になるのか。 敷野 とりあえず、恋愛にはギャップが大事らしいです。 童 島谷の悩みそういうんじゃないから!  コミカルな音楽入る。音楽に合わせて無声演技。首をかしげながら帰る敷野。ごろごろする童。島谷がやってきて相変わらずスマホをいじっている。童が何か話しかけて島谷はうっとうしそうにする。持田が呼びに来て島谷と出ていく。童はゲームボーイがゲームオーバーになってはける。そこに、持田がやってくる。 第3場 持田 (気合を入れてスマホを見る)よし。(ページを繰っていく)あぁやっぱりダメかぁ。あーあ。  SE(インターホン) 持田 あ。はーい。  持田、はける。滝沢と戻ってくる。 滝沢 お邪魔しまーす。 持田 どうぞどうぞ。そこ座って。 滝沢 ありがとう。島谷は今日も仕事? 持田 たぶん。最近課長になったらしいし、夜もなかなか帰って来ないよ。 滝沢 商社の課長かぁ。付き合いとか多そう。 持田 まぁ、デートかもしれないけど。 滝沢 あれ、島谷彼氏いたっけ? 持田 いないっていうけどいると思うんだよなぁ。なんとなく。 滝沢 まぁ、一緒に住んでるとそういうのはわかるかもね。 持田 私の中ではめっちゃ年下のヒモかめっちゃ年上の妻子持ちと付き合ってる。 滝沢 どっちもありそう。じゃあ、不倫に一票。 持田 でしょ?じゃあ、私ヒモで。 滝沢 わかったらちゃんと教えてよ(笑)。 持田 うん。 滝沢 で、本題なんだけどさ。 持田 うん、どうしたの?仕事中なんだよね。 滝沢 いや、うちで営業の子が再来月辞めることになってさ。代わりに持田、どうかな、と思って。 持田 私が?不動産の営業?? 滝沢 うん、初対面の人と話すの得意でしょ? 持田 苦手じゃないけど。私、何も資格とかないし。正社員経験すらないよ。 滝沢 バイトでもずっと同じ仕事続けていけるんだから大丈夫だよ。 持田 でも、ふつうに採用活動すればもっと若い子すぐ見つかるんじゃない? 滝沢 まあ、新卒は新卒で本部から定期的に送り込まれてくるしさ。自由にできる採用枠はなるべく中途で取ってるのよ。 持田 そうなんだ。年齢高くてやりにくかったりしない? 滝沢 そんなの結局人によるから。ほら、今回の契約、私と一緒に担当した人いたでしょ? 持田 うん、あの人、結構かっこいいよね。 滝沢 あの人、元ホストなんだけど、やっぱりトークがうまいんだよね。 持田 ホストなんだ。何か、納得(笑)。 滝沢 そんな感じだからさ。持田も全然いけると思うのよ。 持田 でも、やっぱり芝居の直前とかが厳しい気がする。 滝沢 うーん、その問題はあるよね。正社員なら有給は使えるし、実際みんな使ってるからそれは問題ないんだけど。 持田 そうなんだ。勤務時間は? 滝沢 原則9時5時だけど、人による。仕事ある人と物件回るときって朝とか夜とか多いから、それに合わせて働いたりもする感じ。 持田 その辺は融通効かせていいんだ。 滝沢 うん。ちなみに、(パンフレットを渡しながら)後で読んでくれればいいけど、保険とか年金とかももちろん全部つく。 持田 うーん。それはちょっと魅力的だなぁ。 滝沢 まぁ、すぐに返事してというわけでもないから。絶対なしじゃないなら、ちょっと考えてみてくれない? 持田 いつまでに返事すればいい? 滝沢 うーん、1か月以内かな。ダメなら新しい人探さなきゃいけないし。 持田 わかった。 滝沢 じゃあ、私、店舗戻らないといけないから。 持田 うん、お疲れ様。わざわざありがとう。 滝沢 いえいえ、また島谷も一緒に飲みにとかいこう。 持田 じゃあね。  滝沢去る。持田、見送って戻ってくる。そこに階が見える。 持田 あ、また出た。 階 あ、こんにちは。 持田 こんにちは。君、何なの?幽霊?でも、今日は薄くないね。 階 あの、この前も言ったんですけど、僕、ざしきわらしです。 持田 ざしきわらしってあの妖怪の? 階 妖怪なのかな。まぁそんなもんです。 持田 ふーん、じゃあいいやつなんだ。 階 はい。あの、疑わないんですか。 持田 まぁ、君、泥棒にも見えないし。そういうこともあるかなって。 階 そうですか。 持田 で、ざしきわらしなら何か幸せにしてくれないの? 階 はい。したいんですが、どうしたら幸せになりますか? 持田 吉田羊みたいな売れっ子女優になりたい。 階 ……それはちょっとハードルが高いです。 持田 ダメじゃん、妖怪。 階 そんな万能じゃありません。何かちょっと寂しく思うこと、ありませんでしたか? 持田 どういうこと? 階 普段、僕らに気づかないときは割と幸せなはずなんです。 持田 あー。 階 何ですか? 持田 なんていうか、でも、それざしきわらしに言ってもなぁ。 階 だめですか? 持田 いや、いい加減、いい年だし、夢とか言ってないで働くべきなのかなって思うのよ。(スマホに意識を向け)オーディションもまた落ちたし。 階 働いてないんですか? 持田 いや、働いてるんだけど。そうじゃなくて!いわゆる正社員的な? 階 はぁ。さっきの話ですか? 持田 聞いてたんだ。滝沢も働くべきだって思ってるんだよね、きっと。一緒に劇団やってたメンバーも結婚したり、就活したりどんどん減っちゃってさ。でも、ここで辞めたら辞めたでさ、この10年なんだったんだって感じじゃん。今から正社員やったってずっと働いてる人に生涯年収とかで勝てるはずもないし。 階 負けちゃうんですか? 持田 そりゃそうでしょ。でも、バイト先の若い女の子とかに「すごい、夢があるっていいですね」とか思ってもないこと言われるのにも少し疲れてきちゃってさ。 階 思ってないんですか。 持田 思ってないの!ってか君、人の話聞くの下手だな。相槌が下手! 階 ごめんなさい。あの、チェンジしますか? 持田 そういうのあるの? 階 敷野―。童―。チェンジだって。 持田 ……誰も出てこないけど。 階 あれ、おかしいな。チェンジ―。 持田 君、いじめられてない? 階 チェンジ!!!  変な音楽がかかる。座間が外からやってくる。 階 あ! 座間 呼んだかい!?レディー!?僕を求めてるのは君かい!? 持田 だれ、こいつ?変質者? 相変わらず間違った恋愛マニュアル本を読みながら敷野も出てくる。 敷野 何ですか。階、何、座間なんか呼んでくれちゃってるんですか。騒がしい。 階 ごめん。でも、チェンジって言ってるのに誰も来てくれないから。 敷野 そうですか。本に集中していて気づきませんでした。(本を指しながら)なかなか興味深いですよ。 座間 おい、君たち、呼んでおいて無視するんじゃないよ!で、レディー君の悩みは何だい? 持田 えっと 座間 (答えを待たずに)何々、樹々希林みたいな個性派女優になりたい!? 持田 何も言ってないし、だいぶ年齢層上がったな。 座間 じゃあ、僕がお手本を見せてあげよう。階、何かお題を出して。 階 えっと、じゃあ、相対性理論(お題はなんでも可)。   座間、謎の相対性理論のエチュードをしているが、外野は無視している。 持田 相対性理論!?あんたもなんつーお題出してんのよ!! 階 えっじゃあ、どうしよう。形而上学とか? 敷野 いえいえ、ここは逆に小悪魔とかじゃないですか。 持田 どれも違うと思う。(座間を見て)でもハート強いなぁ。やっぱり役者ってこれくらいじゃないとダメなのかな。 階 何か、違うと思うよ。これができても樹々希林にも吉田羊にもなれないよ。 敷野 これはいつまで続くんですかね。 階 座間、もういいと思うよ! 持田 終わらないね。(おもむろにクラップをする) 座間 あれ?もう終わりですか。どうですか、私の形而上学を取り混ぜた小悪魔的相対性理論は? 持田 全部取り入れてたの!? 座間 (唐突に)はっ!?またどこかで誰かが僕を呼んでいる!じゃあね、レディー。芝居だって仕事だって好きにやればいいんだよ。  座間、はける。音楽フェードアウト。 持田 何だったの、あいつ? 階 座間。 敷野 私たちは家から出られないんですが、あれはなぜか出られるのです。 階 あと、こっちはうちの敷野。 持田 おっさんじゃん。 敷野 はい、それが何か? 持田 ざしきわらし? 敷野 イエス、アイアム。 持田 (階を見て)やっぱり君でいいや。 テンションの低めの音楽入る。音楽に合わせて無声演技。首をかしげながら帰る敷野。滝沢から渡されたパンフレットを見て少し話す持田と階。出ていく持田。見送る階。島谷がやってきてスマホをいじっているところに持田もやってくる。 第4場 持田 今日は休み? 島谷 うん。そっちは稽古? 持田 うんまぁ。ワークショップ的な?バイトもあるけど。 島谷 あぁ。そういやあれ、どうすんの滝沢のとこの仕事。 持田 まだ迷ってる。 島谷 私はありだと思うけどね。やってみてダメなら辞めてもいいんだし。 持田 でも、紹介で入ったら簡単に辞められないよ。 島谷 どうしても辞めたいときは仕方ないよ。 持田 でも…… 島谷 よくも悪くもたいていの仕事は代えが効くから。 持田 そんなもん? 島谷 うん。自分がいなきゃ回らないなんて思ってるやつは大体勘違いだし。 持田 あー、それはわかるかも。……島谷はさぁ、仕事楽しい? 島谷 うーん、どうだろ。つまんなくはないけど、楽しいかって言われると困るな。 持田 そっか。意外。 島谷 何?仕事にやりがい感じてると思ってた? 持田 うん、いつも忙しそうだし。 島谷 まぁね。でも、何だろ、そこまで仕事にこだわりないし、別に違う仕事でも同じコスパで働けたらいいと思う。 持田 そんなもん? 島谷 そんなもんだよ。だからさ、ちょっと持田とかうらやましいんだよね。 持田 私が? 島谷 うん。私、そんなに一つのことにこだわれないから。 持田 それ、ばかにしてるの? 島谷 いや全然。ほんとにいい意味で。 持田 ほんとー? 島谷 だからさ、やりたいことあるなら他のことはそのために利用すればいいと思うんだよね。 持田 …… 島谷 滝沢だって、持田が芝居やってるのわかってて言ってきてるんだし。やってみて両立しなかったら辞めてもいいじゃん。 持田 そっか。  SE(ラインの音) 島谷 (思わずラインを見てちょっと嫌な顔をする) 持田 あ、そろそろ行かなきゃ。ありがとう。考えてみる。 島谷 行ってらっしゃい。 持田 行ってきます。  持田、出ていく。 島谷 (持田が出ていくのを確認してからラインを開いてため息をつく)はぁ。  そこに童が出てくる。 童 また、ドタキャン? 島谷 (スマホから顔を上げず)キャンセルじゃないです。1時間遅らせるだけ。 童 ふーん。娘とゲームでもして盛り上がってるんじゃん。 島谷 (スマホから顔を上げ、結構本気で)うるさいよ。あんた、だれの味方なの? 童 別にだれの味方でもないけど 島谷 ざしきわらしのくせに。 童 そうだよ。 島谷 じゃあ、幸せにしてよ。 童 俺にどうしろと。 島谷 わかんない。 童 俺はあんたから見えなくなりゃ仕事終了でハッピーなんだけど。 島谷 そのためには、私が幸せになるしかないじゃない。 童 そうなんだよなぁ。 島谷 使えないなぁ。 童 無茶いうなよ。 島谷 もう、他にもっと使えるやついないの? 童 ほかねぇ。  座間登場の音楽がかかって、座間が出てくる。 童 (座間に気づいて焦って隠しながら)いないな! 島谷 そうなの? 童 うん、いないいないいない! 島谷 何かちょっと見えるんだけど。 童 気のせい、気のせい。 島谷 (一応納得したように)そうお。  童が座間を追い払い、座間が帰る。 童 (安心して)ふー。 島谷 やっぱ何かいたよね? 童 いや、大丈夫。ほら、そろそろ待ち合わせ場所行った方がいいんじゃないか。 島谷 まだ大丈夫だと思うけど。 童 まぁ、天気もいいんだし、ついでに買い物でもすればいいじゃん。 島谷 確かにね。じゃあ、行って来ようかな。 童 おー、行ってらっしゃい。  島谷、出ていく。童、見送った後、ちょっと考えてから糸電話を取る。  ぷるるる、ぷるるるという電話の待機音。 貧乏神 はい、こちら、ポッケの小銭も吸い取っちゃうあなたの街の貧乏神です! 童 悪い、間違えた。  電話を切る。もう一度かける。 ざっしー もしもし、俺、中野のざっしー。 童 あー、またお前か。わらわらかきしは? ざっしー 今、二人でストリートファイター2やってる。 童 どれくらいで終わる? ざっしー 終わらない。 童 は? ざっしー あいつら死ぬほど負けず嫌いでさ、負けた方が絶対もう一勝負っていうんだよ。もうかれこれ3日もやってるんだぜ。 童 暇だな。 ざっしー 暇なんだよ。うちの住人見えないからな。 童 お前はやらないのか? ざっしー あれ、二人までしかできないしな。 童 はぶられてんのか。 ざっしー うるさい。俺は、星のカービイで満足してるんだ。 童 まぁ、面白いからな。 ざっしー おう!で、どうした? 童 いやー、この前の敷野の相談の続きだったからいいや。 ざっしー 何だよ、俺じゃ不満なのか! 童 うん。 ざっしー そんなこというともう本送ってやらないからな。 童 いいよ ざっしー (駄々っ子のように)そんなこというなよー。俺にも役に立たせろよー。暇なんだよー。 童 あー、めんどくさい。じゃあ、何かいい案あるか。 ざっしー あるあるある! 童 言ってみろよ ざっしー そいつ滝沢の友達だろ? 童 滝沢ってあの不動産屋の? ざっしー そうそう、あいつ、うちの物件も担当だから。 童 へー ざっしー で、滝沢見えるんだよ。 童 は?俺らが? ざっしー そうそう。 童 話しかけてきたことないけど。 ざっしー まぁ、今がどうか知らないけどとりあえず見える。だからさ、滝沢に相談しても引かれないぜ。 童 なるほど。たまには役立つこというな。 ざっしー だろだろ?もっとほめてほめてほめてほめてほめて!  童、電話を切る。ぷーぷーぷーという電話の切れている音。そこに相変わらず恋愛系の変な本を読んで敷野がやってくる。 敷野 ざっしーですか? 童 そうそう。 敷野 向こうまで声が響いてましたよ。 童 あいつはいつでも騒がしいからな。(本を指して呆れたように)それ、役に立つのか? 敷野 勉強になりますよ。童にも貸しましょうか? 童 俺はゲームボーイでいいや。そうだ、続きやらないと。 敷野 残念ですね。  童、はける。敷野は行儀よく本を読んでいる。そこに、持田が落ち込んで帰ってくる。 持田 ただいまー。あ、出た。おじさん。 敷野 どうも。敷野です。階、呼んできましょうか。 持田 え、いいよ。わざわざ悪いし。 敷野 そうですか。でも、あなたの担当は階なので。何か元気もなさそうですよ。 持田 あー、ちょっとワークショップが微妙で。 敷野 ワークショップ? 持田 何というか稽古体験とオーディション兼ねてるようなの。 敷野 知りませんでした。次は演劇を勉強しないといけませんね。 持田 別にいらないと思うよ。というかざしきわらしって担当とかあるの? 敷野 はい。まぁ、私はなぜかすぐチェンジされるので担当を持っていないことが多いですが。 持田 そりゃあ、おじさんだからなぁ。 敷野 ダメですか? 持田 ダメじゃないけど、ざしきわらしのイメージではない。 敷野 そうですか。 持田 ねぇ、ざしきわらしって姿形とか変えられないの? 敷野 変えられますよ。でも、別に積極的に変えたくはないですね。チェンジされたからって死ぬわけでもないですし。 持田 強いね。 敷野 そうですか? 持田 うん。 敷野 細かいことを気にしすぎですよ。あなたも島谷さんも。 持田 島谷? 敷野 島谷さんも見えてますからね。 持田 そうなんだ。悩みとかあるなら言ってくれればいいのに。 敷野 あなたも別に言ってないんじゃないですか。 持田 それは……。だって、島谷とか芝居応援してくれてるし。仕事も忙しそうだし。私だけ愚痴とか言いにくいよ。 敷野 島谷さんも同じなんじゃないですか? 持田 え? 敷野 まぁ、わからないですけどね。(本を意識して)私も島谷さんの心理は勉強中なので。 持田 そうなの? 敷野 はい。一応、元担当なので。では、もうすぐ読み終わるので失礼しますね。持田さんもそろそろバイトの時間では? 持田 あ、うん。ありがとう。行ってくる。 敷野 行ってらっしゃい。  持田はける。敷野も本を持ってはける。入れ替わりに島谷が暗い顔で帰ってくると童が出てくる。 童 おかえり。 島谷 (不機嫌そうに)ただいま。 童 どうかしたか? 島谷 やっぱり早くになんか行くもんじゃない。 童 え? SE(ラインの音) 島谷 待ち合わせ場所の近くで買い物してたよ。奥さんと子供と仲良く手繋いで? 童 何か、悪かった。 島谷 (スマホを一瞬見て)悪いよ。もうちょっとタイミング遅ければみなくて済んだのに。 SE(ラインの音) 童 悪かったって。 島谷 何とかしてよ。  SE(ラインの音) 童 切ればいいじゃんそんなやつ。 島谷 わかってるよ、そんなこと! 童 悪い。 島谷 ……(スマホを見て返そうか返さないか迷っている。) 童 あのさ、とりあえず滝沢とかに相談してみたら? 島谷 だから、それはちょっと 童 あいつら、ざしきわらし見えてるぜ。 島谷 は 童 あと、不倫してるからってどうのこうの言わないと思う。 島谷 …… 童 だからさ、不幸な者同士で相談でもしたらいいんじゃないか? 島谷 うるさいよ。  島谷、自室へ戻る。残る童。そこにやってくる階。 階 話したら持田さんも解決するかな。 童 かもな。 階 結局、僕たち役に立ってないけど。 童 仕方ないだろ。あいつら人間だし。 階 (ちょっと寂しそうに)そうだね。  そこにすがすがしい表情でやってくる。 敷野 ようやく、全部読破しました!これで島谷さんの悩み相談はばっちりです。 階 まだ読んでたんだ。 童 敷野、遅いよ。  コミカルな音楽入る。音楽に合わせて無声演技。敷野は本を階に進めて渡して帰る。本を渡された階は、童に渡そうとするが、童は受け取らず帰る。階は困って本を眺めて帰る。持田がやってきて仕事のパンフレットを見てやろうかどうしようか迷っている。島谷がやってきて一緒に出ていく。近くで飲んで、滝沢と3人で帰ってくる。 第5場 持田 ただいまー。 島谷 誰もいないけどね。 持田 いるかもよ。 滝沢 お邪魔しまーす。 島谷 どうぞ。 滝沢 ありがとう。  三人で部屋に座る。 持田 あー、お腹いっぱい。 島谷 おいしかったね。安かったし。(滝沢に)お茶とか飲む? 滝沢 ううん、とりあえず大丈夫。 持田 あー、今週またオーディションかぁ。 島谷 いい役もらえるかもよ。  持田 もう、最近落ち続けてそんな希望が持てない。 滝沢 狙ってるのどんな役なの? 持田 後輩にめっちゃ厳しい先輩社員。忙しすぎるだけでほんとはいい人、的な。 島谷・滝沢 (微妙な感じの)あー 持田 似合わないって思ったでしょ? 滝沢 まぁね。 持田 5、6年前までは大学生の役とかいけたんだけどなぁ。最近、そういうのか小さい子供のいるお母さんの役とかばっかりでさ。 島谷 そんな年だよねぇ。 持田 でも、どっちも自分と違いすぎてよくわかんないんだよね。 滝沢 職場では先輩でしょ。 持田 でも向こうは正社員だから。 島谷 やっぱり滝沢のとこで働けば? 持田 そうだねぇ。 島谷 (滝沢に)別にオーディションとか決まったら辞めても大丈夫なんでしょ? 滝沢 まぁ、やめたいときはしょうがないよね。 持田 そんなもん? 滝沢 だって、辞めなそうな人取ったって、人間関係とか介護とか辞めるときは辞めるじゃない。 島谷 まぁ、そういうの織り込み済みでやってくのが会社だよね。 滝沢 そちらさんみたいに大手じゃないけどね。(持田に)だから、興味持ってくれてるならやったら? 持田 ありがとう。そうだね。うん、やってみる。ちょっと、具体的な日程とかはバイト先と相談してもいい? 滝沢 それはもちろん。 島谷 あー、何かいいなぁ。新しいことしたいなぁ。 持田 何それ? 滝沢 たしかに、なんかさ、大学卒業するとあんま変化ないよねぇ。転職とか結婚とかすれば別なんだろうけど。 持田 島谷、結婚とかしないの? 島谷 だから(いないってと言おうとして、ちょっと止まって)、不倫だから。 持田 あー、そっちかぁ。 滝沢 私の勝ちかな。 島谷 何それ? 持田 いや、島谷が絶対に認めない彼氏は不倫かヒモだろうと思って。 滝沢 私は不倫に一票入れてたから。 島谷 そんなもん? 持田 何が?不倫が? 島谷 結構、今、勇気言ったんだけど。滝沢とか怒るかと思った。 滝沢 別に、人のことでは怒んないよ。勧めもしないけどさ。 持田 でも、なんで急にいう気になったの? 島谷 なんでだろ。何か限界なのかもね。まだ、好きだけど、疲れちゃった。 滝沢 うちの元ホストの社員紹介しようか。とりあえずほめてくれるよ。 島谷 あー、そういうのちょっといいかも。 持田 いいの? 島谷 何かね、奥さんと子供優先されるのに慣れすぎて自己肯定感が下がってる。 滝沢 そういうときこそ元ホストですよ。普通にいい人だから飲み行こうよ。 島谷 うん、行く行く。 持田 そういや、不倫相手の役もけっこう募集あるんだよね。今度から島谷意識していくわ。 島谷 それもどうなの? 滝沢 いやいや、見たいでしょ(笑) 島谷 えー(笑) 滝沢 あーあ、明日も仕事だしそろそろ帰ろっかな。 持田 そっか。じゃあ、また改めてするね。 滝沢 了解。いつからこっち来れるか確認しといて。あとは、元ホストの予定聞いてまた連絡するよ。 島谷 楽しみにしてるよ。じゃあ、今日はありがとう。 滝沢 こちらこそ。おじゃましました。 島谷 じゃあ、気をつけて。 持田 バイバイ。 滝沢 バイバイ。  滝沢、去って、静かめな音楽かかる。持田、島谷もはけたままで会話。 持田 お風呂入る? 島谷 先どうぞ。  島谷戻ってくる。童がやってくる。   童 ほら、案外誰も引かないだろ。 島谷 そうだね。何か、今日薄くない? 童 あー。俺、薄い? 島谷 うん、薄い。 童 いいこといいこと。じゃあ、俺、任務完了かも。 島谷 いなくなっちゃうの? 童 いらないんだろ。 島谷 まぁね。でも 童 いないとちょっと寂しい? 島谷 そんなことないです。 童 だな。ま、適当にやってるからどうしてもダメならまた見えるよ。 島谷 そうだね。バイバイ。 童 バイバイ。 島谷 ……いなくなっちゃった。  島谷、出ていく。童は残ったまま。 童 いなくなってないんだけどな。  階が出てくる。 階 任務完了? 童 あぁ。 階 お疲れ様。  持田が出てくる。 持田 島谷―、そっちに私のバッグあるー?(部屋を見渡して)あった、あった。  持田、出ていく。 童 お前もお疲れ。 階 うん。 音楽大きくなって二人ともはける。島谷と持田が机にプレゼント(敷野に演劇関係の本、童にゲームボーイアドバンス、階にルービックキューブ)を置く。童がそれを発見し、階と敷野を呼んできて3人で見えなくなったことをちょっと寂しく思いながら、プレゼントを喜びながらはける。暗転。音楽フェードアウト。滝沢と持田が入ってくる。 第6場 滝沢 お邪魔しまーす。 持田 どうぞどうぞ。店長こちらにお座りください。 滝沢 ありがとう。 持田 島谷、店長来たよー。  童がゲームボーイアドバンスを持ってやってくる。人が来たことを確認して隅でごろごろする。 島谷 (声のみ)すぐ行くー。 滝沢 で、来週から一人でお客さん案内できるんだよね? 持田 はい!でも、わからないことあったら店に電話させていただきますが。 滝沢 それはむしろそうして。ってかいつまでそのしゃべり方なの? 持田 止め時を探ってた(笑)ところで、滝沢さー、何でこの部屋紹介したの? 滝沢 何でって? 持田 何か出るから? 滝沢 やっぱり見えてたんだ。 持田 うん、島谷もみたい。もういなくなっちゃったけど。 滝沢 そっか、よかったね。    スマホの着信がなる。 持田 あ、ごめん!ちょっとだけ電話!  持田、出ていく。 滝沢 (童を見て)ちょっと新型になったの? 童  やっぱり見えてたんだ。 滝沢 まぁね。 童 ざしきわらしのいる部屋に住めばいいのに。 滝沢 別に、寂しくないから。 童 でも見えるんだろ。 滝沢 寂しいとしても、何か悪い? 童 え? 滝沢 別にいいじゃない。たまに取引先に行けばあなたとかざっしーとかとしゃべれるし。 童 そっか。じゃあ、これからもこの部屋をよろしく。 滝沢 よろしく。 童 (ゲームボーイと本を示して)あと、これ島谷さんと持田さんにお礼言っといて。 滝沢 了解。  そこに島谷が戻ってくる。 島谷 だれとしゃべってるの? 滝沢 ざしきわらし。アドバンスやってるよ。ありがとうって。 島谷 そっか、よかった。あまりにも旧型のやってたから。 童 前のやつの忘れものだからな。 滝沢 アドバンスもけっこう古いけどね。 童 (衝撃という顔) 島谷 まぁね。でも、見えるのちょっとうらやましい。 滝沢 見えない方が幸せで正しいらしいけど? 島谷 別にそもそも私正しいことしてないし。 滝沢 たしかに。あれだったら見えると思うんだけど…。 童 ちょっと待てよ、まさか!たしかにあいつは見える!たぶん、見えるけど。 滝沢 (童に向かって)座間にチェンジで!  コミカルな音楽かかる。座間が入ってくる。童と敷野と階が逃げ回る。島谷はびっくりしている。持田は何かエチュードをさせたり楽しく遊んでいる。軽くダンスをして幕。  ---------------------------------------------   以上、いかがでしたでしょうか?   よろしければ下記のページより、感想を御記入下さい。   もちろん、叱咤激励なんでもかまいません。   作者の方の励みにもなりますので・・・    http://haritora.net/bbs/?type=15458   また、下記ページから作品の評価登録も可能です。(要登録)    http://haritora.net/critic/member/look.cgi?script=15458  それでは、今後とも『はりこのトラの穴』をよろしくお願いいたします。