題名:ざしきわらしのいる部屋    劇団:劇団ぼるぼっくす    作者:上野 小夜  ---------------------------------------------  著作権について  ・本ページで公開されている作品の著作権をはじめとするすべての権利は   全て作者が保有いたします。  ・このページからダウンロードできる脚本は全て無料で読んでいただいて   結構です。ただし、舞台等で御利用の際は、作者からの上演許可を取っ   ていただくようお願いいたします。  ・必要に応じての改編等も、作者への許可の上行って下さい。  ・著作権料が発生する場合、指定された額を作者へ送金を忘ないように   お願いいたします。本作品おける著作権料は、下記に示す通りです。  ---------------------------------------------   小学校、中学校、高校、その他学生の無料公演・・無料   アマチュア劇団の公演、学生の有料公演・・・・・5000円   プロの劇団の公演・・・・・・・・・・・・・・・全チケット収入の1割     (全チケット収入の一割が5000円に満たない場合は5000円)     [2]の場合、公演の2週間前までに、     [3]の場合、公演後2週間以内にお支払いください。  --------------------------------------------- ざしきわらしのいる部屋 ざっしー…座敷童。明るい。人を楽しくしたい。でもあんまりうまくいかない。特に恋愛相談は無理。 わらわら…座敷童。三人の中では一番大人でお姉さん。きつく言いすぎて自分で若干凹む。 きし…座敷童。さびしがり屋。子供。 藤井…ぱっとしない中年サラリーマン。会社の20歳下の子と付き合っている。使われている自覚はあるが、使われても好き。 栗原…新入社員。仕事には真面目。ブランド大好き。悪い子ではない。 川崎…藤井の部下。藤井のことを慕っている。 滝沢…不動産屋。いつも無駄にキビキビ動いている。座敷童が決して見えない、かもしれない。 ストーカー…座敷わらしのストーカー。座敷童を追い求める。 第1話 アッシーとざっしー 座敷童三人板付き。三人でUNOして遊んでいる。不動産屋、部屋に入ってくる。遅れて入ってくる。 アッシーと滝沢。滝沢登場と同時にざっしーに足掛けられるが滝沢は躓かない。滝沢は歩くたびにざっしーにぶ つかる。 滝沢 こちらの部屋なんかいかがですか?中野駅にも近いですし、お値打ち物件ですよ。 藤井 あ、何かいいですね。暖かい。 滝沢 暖かい?そうですね。日当たりも悪くはないですね。 藤井 そうですね。  携帯が鳴る。アッシーも携帯を探すが、なっているのは不動産屋の携帯電話。 滝沢 すみません。お客様からでして、ちょっと失礼いたします。ご自由にご覧になっていてくだ    さい。はい、中野不動産の滝沢でございます。  滝沢、いったんはける。藤井、部屋をぐるぐる見ている。座敷童三人、UNOをしながら話す。 ざっしー なあ、こいつはどっちだろ? きし 見えないっぽいよ。 ざっしー えー?まじで!?だって絶対友達いなそうなのに きし 失礼だよ、ざっしー。 ざっしー だってー  滝沢帰ってくる。 滝沢 失礼しました。どうですか?お気に召しました?後は、ご指定の条件ですと、ここから徒歩5分 のところに同じくらいのお値段でご用意できるところがございますが…… 藤井 いえ、大丈夫です。こちらにします。 滝沢 そうですか。ありがとうございます。それでは、お店の方に戻って契約をお願いしてもよろしい ですか? 藤井 わかりました。  出ていく藤井と滝沢。 きし 結局気付いてくれなかったね。 ざっしー でも住むみたいじゃん。ぶつかってこないだけましだし。 わらわら UNO。 きし あの不動産屋さんは必ずぶつかってくるよね。 ざっしー 鈍いんだよ。あぁいう自分仕事できますみたいなやつって感じ悪いよな。 わらわら 上がり。 ざっしー えー、わらわらもう上がり!?(言いながら一枚置く) わらわら うん。……あ きし どうしたの? わらわら UNOって言わなかった。 ざっしー へっ? わらわら ざっしー、あと一枚なのに。 ざっしー あ。……あー、もうわかったよ、じゃあ俺の負けでいいよ、もう。やりますやります。幸せにすればいいんだろ!  音楽入る。ダンス。何かタイトル布とか紙に書いて出す。「第1話 ざっしーとアッシー」。 音楽の終わりで藤井が入ってきて、日常風景。普通に疲れたサラリーマン。音楽終わり。照明転換。 第二場  昼間。自宅で本を読んでいる藤井。ざっしーが何故か掃除とかしてる。わらわらが出てくる。藤井が 無声。座敷童たちは有声。 わらわら 結局気付いてくれないの? ざっしー そうなんだよー。 わらわら まぁ、さびしくないならいいことじゃん。 ざっしー それはそうなんだけどさ。 わらわら で、ざっしーは何やってるの? ざっしー 仕方ないから掃除。何か、家片付いてたらうれしいじゃん。 わらわら それって座敷童の仕事なのかな? ざっしー なんだよ、じゃあ、お前座敷童の仕事言ってみろよ! わらわら さびしい人をさびしくなくすこと ざっしー さびしくない人は? わらわら 見てればいいじゃん。 ざっしー それじゃつまんねーじゃん。 藤井 あれ?新聞?さっきここに開いて置いたような。あれ、しまったんだっけ?(新聞を読みだ      す) わらわら 困らせてどうするの? ざっしー まだ読みかけだったのか。失敗。 わらわら やることないならおとなしくしてなよ。  着メロの音(選曲は微妙な感じ)。 ざっしー よし。(携帯を開いて) わらわら どうしたの? ざっしー これですぐ読める。 藤井 (携帯を振り返り)えっ、僕開けっ放しだっけ? わらわら それ親切? ざっしー 当然じゃん。 藤井 おかしいな。 わらわら やっぱり気味悪がってるよ。 藤井 (携帯を見て嬉しそうにしている) ざっしー いいんだよ、小さな親切大きな幸せ。 わらわら それ何か違う。 藤井 よし、と。 ざっしー おっ出かけるのか?行ってらっしゃい! わらわら 仕事? ざっしー 女、女。 わらわら そうなの? ざっしー 何かメール来るとすーぐ嬉しそうに出かけてくぜー。 わらわら ふーん。彼女?でも部屋では見たことないね。 ざっしー 確かに。しかも出かけて行くときは嬉しそうなんだけど、帰ってきたときはそうでもないん だよな。 わらわら さびしいの? ざっしー んー、ちょっとそんな感じ。時々俺に気付きそうだし。 わらわら 掃除よりそっちの方が重要なんじゃない? ざっしー えー、俺、恋愛相談とか苦手だし、もしそうだったらわらわらにバトンタッチな。 わらわら やだ。 ざっしー けち。 ドアの開く音。入ってくる藤井。 わらわら あれ、早いね。それに何か凹んでない? ざっしー 確かに。 わらわら ほら。今度は座敷童の仕事しなよ。  わらわら、部屋の隅へ隠れる。 ざっしー え?あ…… 藤井 (ざしきわらしに気付いて)えっ!だれ君! ざっしー 気付いた!?見えてる?見えてる?俺、ざしきわらしのざっしー。 藤井 はっ? ざっしー (テンション高く)耳悪いの?理解力ないの?だからだから、ざしきわらしのざっしー。 藤井 僕、疲れてんのかな。 ざっしー 大丈夫大丈夫。幻覚とかじゃないから。ざしきわらしだよ。幸せ呼ぶよ。 藤井 (思いっきり目を合わせて)うん、疲れてるんだ。今日は栗原さんにも会えないし寝よ。 ざっしー えー、それはないよ。せっかく見えたのになんだよー、けちー。話聞けよー。栗原さんって誰だよ―?悪い夢見せるぞー!  藤井、ざっしーを無視して寝る。 ざっしー えー、せっかく見えたのにぃ(枕をひっくり返す)  わらわら、部屋の隅から出てくる。 わらわら 寝ちゃったの? ざっしー ひどいんだよ。人の話全然聞いてくれないの。 わらわら でも最初ってそんなもんじゃない? ざっしー まぁ、そうだけど。くやしいから枕ひっくり返しといた。 わらわら やめなよ、そういうことするの。悪夢見るよ。 ざっしー いいじゃん。たかが夢だろ。 わらわら まったく。はぁ。 ざっしー でも、やっぱり女だな。 わらわら 栗原さん? ざっしー たぶん若い女だぜ。何かよく色々なものたかられてる。 わらわら たかられてるって(笑) ざっしー いや、ほんとほんと。証拠見せるよ。ほらほら。 わらわら もう、人のメールを盗み見るのは良くないよー。 ざっしー そうだよな、個人情報だもんな。あ、ほらほら(財布を持ってくる)このレシートがさー わらわら 財布はもっとよくないよ! ざっしー だって気付いてくれないしつまんなかったんだもん。(財布を片付ける) わらわら 気付かないのはいいことでしょ? ざっしー (ちょっと寂しそうに)まぁな。 わらわら (気を使って)あ、じゃあとりあえず起きるまでUNOでもしてる? ざっしー うん、そうだな。じゃあ、俺きしも呼んでくるー。 きし なーに?UNOするの? ざっしー やろうぜ。 きし やるやるー。 ざっしー じゃあとりあえず順番決めようぜー。最初はグー、じゃんけんぽい!  ほんわかした音楽入れる。三人楽しげにUNOをやる。それから楽しげに家の片づけとかする。靴屋の妖精さん的な。夜→翌朝。藤井起きてくる。わらわらときし、ざっしーにがんばってとか言いながら去っていく。 藤井 はぁー、やな夢だった。 ざっしー だからね、昨日も言ったけど俺ざしきわらしのざっしー。 藤井 わかった。君、近所の子供なんでしょ?ここは他人の家だからね。遊んじゃいけないよ。 ざっしー だから違うって。物分り悪いなー。ざしきわらしを邪険にすると碌なことがないぞ。 藤井 はいはい、わかったわかった。そういう遊びが流行ってるのかな?とりあえずうちからは出て行ってね。  藤井、無理やりざっしーを追い出す。 ざっしー ちょ、ちょっと待って。俺、座敷童だから外出るのまずい、ほらまずいって。 藤井 (聞いてない)わかった、わかった。  きしとわらわらがびっくりして出てくるが、藤井には見えない。 藤井 はい、これでよし、と  藤井、ざっしーを追い出して鍵をかける。安心して新聞とか探しだす。 わらわら・きし あー!!! きし ざっしー追い出されちゃった。 わらわら ほんとだね。 きし 大丈夫かな? わらわら だめだと思う……。 ざっしー (外から)何とかしてくれよー。あいつ、のろっちゃえよー。 わらわら しょーがないなあ。もう。はい。 藤井 えっ。(急にこける。) きし いじめていいの?わーい(雑巾を投げる) 藤井 痛っ?(雑巾を拾って)おっかしいなぁ。どこから飛んできたんだろ。はぁ、もう(新聞を読みだす) わらわら えい。 藤井 (自分で新聞を破いてしまう)えぇ、どうしたんだろ?僕? ざっしー 開けてよー。開けてくれないと呪い続けるぞー。 藤井 ……まさか。 きし 早く開けなよ! わらわら 開けないともっと呪うよ。 藤井 本当に?(鍵を開ける) ざっしー (妙に疲れた感じで入ってくる)あー、助かった。(きしとわらわらに)ありがとう。 藤井 誰に言ってんだよ? ざっしー(藤井に)ほーら、だから碌なことがなかっただろう。 藤井 いや、だってそんなまさか。だ、だいたいざしきわらしってずっといるんじゃないのか?急に出て来るなんて怪しいじゃないか。 ざっしー ずっといたよー。見えないだけで。 藤井 見えない? ざっしー さびしくない人には見えないんだよ。おじさん今寂しいでしょ? 藤井 …… ざっしー 栗原とかいう女の子にもてあそばれてるんでしょ? 藤井 別にもてあそばれては……何、君ストーカー? ざっしー だれがおじさんのストーカーなんか 藤井 僕も君にストーカーされるのなんて嫌だよ! ざっしー 失礼だなー。 藤井 どっちが!? ざっしー もー、めんどくさい。俺で気に入らないならチェンジする?わらわらー、きしー。  わらわらときしが出て来ない。 ざっしー (再度)わらわらー、きしー!  ざっしー、カーテンを開けると、わらわらときしがガチでUNOに夢中になっている。 わらわら ドロツー! きし ドロフォー! ざっしー、カーテン閉める。 ざっしー …じゃあ俺で。で、おじさん悩みは何―?大体わかるけど話せばすっきりするかもよ。 藤井 いや、別に。そんな悩んでるっていうほどでも。 ざっしー もう諦め悪いなー。 藤井 大体君がざしきわらしというのを信じたわけでもないし、  チャイムの音が鳴る。 ざっしー あ、ちょうどいいや。これでわかるって。出てみなよ 藤井 どういうこと?(言いながら出る)はい。  ストーカーがダウジングを持って立っている。 ストーカー おかしいな。このあたりなんだけどな。(今更藤井に気付いて)失礼します!この辺でざしきわらし様を見ませんでしたか? 藤井 はっ? ストーカー 日本の絶滅危惧種ざしきわらし様ですよ。われわれはざしきわらしを愛し敬うためにこうしてざしきわらし様を探しているのです。 ざっしー またこいつか。 藤井 われわれって? ストーカー よくぞ聞いてくれました我々は宗教団体ピースざしわらフレンズ…(なんか適当に団体の嘘くさい説明をしている) ざっしー 早く帰してくれよ、こいつ。 藤井 君を探してるんじゃないの? ざっしー そうだよ。ストーカーなんだよ。でも俺のこと見えないんだよ。 藤井 そんなわけないでしょ。(ストーカーを遮って)ここにいますよ。 ストーカー ここ?ここ? ざっしー やめてくれ。 藤井 ここですよ、ここ。 ストーカー ここ?    ストーカー、ざっしーにぶつかる。 藤井 だからそこ。えっ見えないんですか? ざっしー だから言っただろ! ストーカー ま、まさか!ここにいらっしゃるんですか!?(ひれ伏して祈りだす) ざっしー ほらー、めんどくさい感じになったー。 藤井 確かに。 ざっしー ざしきわらしは外に言ったって言えよ。そうすれば出ていくから。 藤井 わかった。(ストーカーに)あのー、ざしきわらしさんは出て行ったみたいですよ。 ストーカー 何ですと!いずこへ? 藤井 (適当に)あっちです。 ストーカー ありがとうございます。それでは、我々はこれで失礼します!  ストーカー出ていく。 藤井 ほんとだったんだね。 ざっしー (無駄に得意げに)だから言っただろ?で、悩みは? 藤井 あ、うん悩みってほどでもないんだけど。 ざっしー なんだよ、はっきりしないなぁ。 藤井 いや、そんなこといわれても。あ、そうだざしきわらしって何飲むの? ざっしー 何でも飲めるよ。 藤井 そう。じゃあ、せっかくだからお酒でも飲む? ざっしー お! 藤井 お供えものって大体お酒だよね。(お酒を準備して入れながら話す) ざっしー (横柄に)悪いね。そっちは? 藤井 僕は朝から飲むのはなぁ。 ざっしー いいじゃん、休みなんでしょ? 藤井 まぁそうだけど。いや、僕はお茶でいいよ。 ざっしー ノリ悪いなー。 藤井 はいはい、乾杯!……で、何からかな。でも大体わかってるんでしょ?僕が栗原さんに貢いでるのをこのエロオヤジいい年して身の程わきまえろよ、この人間のクズがぁとかって思ってるんでしょ? ざっしー いや、別に。そこまでは。 藤井 まぁねー。どーせ、20歳も下の子にほいほいバッグとか買ってるんだからばかだよね。 ざっしー 酔ってる? 藤井 ん、お茶だし。 ざっしー わかってるよ。 藤井 でもね、栗原さんいまどき珍しいくらい会社できちんとしてるし、仕事もちゃんとできるしいい子だよ。 ざっしー いい子は上司に物たからないと思うよ。 藤井 そうだよね。でも、たかられてないのに最初にあげたのは僕だから。 ざっしー そういうもん? 藤井 うん、うれしかったんだよね。 ざっしー 何が? 藤井 仕事手伝ってくれたから。 ざっしー 部下だろ? 藤井 それはそうだけど、ほら僕ぱっとしないし、出世もそんなにしてるわけじゃないし。けっこうみんな平気で仕事押し付けて帰るんだよね。でもさ、栗原さんは違ったから。 ざっしー ブランドねらいじゃないの?(酒が無くなった事に気付き、棚に取りに行く) 藤井 違うって。だって僕がブランド買ってくれそうにみえる? ざっしー (じろじろ藤井を見ながら)見えない。 藤井 でしょ?僕だって自分の分はわきまえてるつもりだよ。 ざっしー それがなんで貢ぐ君になってるの? 藤井 貢ぐ君って君意外と古いね。 ざっしー まぁほら、ざしきわらしだから。 藤井 そういうもん?たまたまね、その日栗原さんの誕生日だって聞いたからさ、プレゼント買ってあげたんだよねー。 ざっしー それってセクシャルハラスメントじゃない?大丈夫? 藤井 うるさいなー。とりあえず、それで栗原さんも喜んでくれて。で、何となくそのまま食事行って。それからかなぁ。悪いことしてるわけじゃないのに、何となくごはん食べに行くたびに後ろめたい気がしてプレゼント買っちゃって。ご飯ももちろんこっち持ち。 ざっしー 貢ぐ君じゃなくてめっしーか。 藤井 だから古いね、君。 ざっしー それはわかったよ。で? 藤井 で?も何もそれ以上でもそれ以下でもないよ。強いて言うなら段々栗原さんにドタキャンされる回数が増えたくらいかな。 ざっしー ……言い忘れてたんだけどさ。 藤井 どうしたの? ざっしー 俺、恋愛相談は苦手なんだよね。 藤井 今更!? ざっしー そうだな。じゃあメールで聞いてみよう。僕は君の貢ぐ君ですか?めっしーですかって。(言いながら携帯を取りに行く) 藤井 やる気ないでしょ!えっ?幸せ運んでくれるんじゃないの? ざっしー いや、凹んでる感じで送れば意外とぐっとくるかもよ。ほら、「僕って君のめっしーですか?」って。はい。 藤井 ちょっと!(携帯を奪って)あー、本当に送っちゃったの!? ざっしー (けろっとして)だって聞いてみなきゃわかんないじゃん。 藤井 そういう問題じゃないよー。あー、どうしよ、送り間違いだって送ろうかな ざっしー (携帯を奪い返して)だめだって。返信待とうぜ。あ、来た。 藤井 何だって!? ざっしー めっしーってなんですか?今、取り込み中なのでまた連絡します。だって。 藤井 もう、栗原さん困ってるじゃないか!? ざっしー うーん、めっしーはやっぱり今の子に通じないのか。うーん、じゃあ、次は具合の悪いふり作戦。 藤井 はっ? ざっしー だから高熱で寝込んでるんだけど一人暮らしで食料もなくて困ってます的な?きっと心配してきてくれるぜ。 藤井 全部嘘じゃないか。 ざっしー いいか。恋愛には駆け引きが必要なんだよ。わらわらが言ってたぜ。 藤井 あー、もう帰れよー ざっしー 俺ん家だよ!  携帯の着メロが鳴る。微妙な感じの選曲。 藤井 あーもー携帯!(電話に出て)藤井です。どうしたの?……うん。うん。そっかぁそれはまずいね。 ざっしー 何がまずいんだよ。(携帯を奪ってスピーカーモードにする) 川崎 (声のみ)だから今からお客様のところに謝罪に伺うのですが、AB企画さんもともと今回納期をすごい気にされてたじゃないですか? 藤井 確かに何回も念押しされてたからねぇ。私も一緒に謝りに行くからちょっと待っててくれる?着替えてすぐに行くよ。麹町の3番出口に10時半でいいかな? 川崎 (声のみ)ありがとうございます!僕らのミスですみません。 藤井 いや、あそこが倒産するとは思わなかったし。仕方ないよ。仕入れの目途もついたなら謝り倒すしかないでしょ。 川崎 (声のみ)ほんとすみません。じゃあ、麹町に10時半でお待ちしてます。 藤井 うん、じゃあ急いで行くよ。何かあったらまた連絡して。 川崎 (声のみ)はい、失礼します。 ざっしー (ジャケットを渡して)何かトラブル? 藤井 うん、ちょっといっぱい謝ってくる!あ、ごめん。お酒片付けといてくれない?あとついでに掃除と洗濯もよろしく。 ざっしー わかった。行ってらっしゃい。……ざしきわらしの使い方間違ってないか?  音楽入る。ざっしー、片付けして待ってる。きしも出てきてお手伝いする。終わったらきし帰る。 第3場 夜 ざっしー、板付き。わらわらが出てくる。 ざっしー あ、わらわら。 わらわら どうしたの? ざっしー やっぱり恋愛相談だったんだけどさ、 わらわら (遮って)チェンジしないよ ざっしー ちぇっだめか。 わらわら だーめ。ちゃんと最後まで責任もって引き受けなさい。大体あの人、私の事見えないじゃない。 ざっしー そうだけど、じゃあ、聞いていい? わらわら 何? ざっしー 恋愛を成功させるにはどうしたらいいんだ? わらわら 範囲広すぎだよ。うーん、きしは? きし (カーテンからちょこっと出てきて)ハプニングとか? わらわら あー、吊り橋効果みたいな? きし うん。わくわくドキドキ感は重要だよね。 ざっしー わくわくなー。 わらわら それだけじゃないと思うけど。タイミングとかもあるし。 ざっしー あー、わかんねー。難しいな。 ドアの開く音。帰ってくる藤井と川崎、栗原。 わらわら ま、頑張ってね。 きし がんばってねー。  わらわら、きし引っ込む。 藤井 汚いとこで悪いけど。 川崎 すみません。お邪魔しまーす。 栗原 お邪魔します。 ざっしー おかえり、なぁなぁ俺考えたんだけど 藤井 (ざっしーが見えてない)ちょっと待っててね。去年の資料が確かあっちにあぁ、二人とも座っててくれる? ざっしー 何の資料? 栗原 私探すの手伝いましょうか? 藤井 あぁ、大丈夫大丈夫。ほら、この資料。役に立つかわからないけどよかったら使って。 ざっしー あれ、また見えてないのか? 川崎 ありがとうございます。助かります。すみません。 藤井 にしても今日は本当にお疲れ様。 川崎 とんでもないです。係長の責任じゃないのにほんとすみません。僕が悪いんです。 栗原 いえ、元はといえば私の案件ですから。 川崎 あ、いえ、栗原の責任じゃないんです。 ざっしー 栗原さん、こいつか! 藤井 まぁまぁよくあるトラブルだし解決できたんだからいいじゃない。ほら、外寒かったし温かいお茶でもどう?座って座って。 川崎 失礼します 栗原 あ、私入れますよ。 藤井 いいよいいよ、私の家だし。栗原さんも朝から謝りどおしで疲れたでしょ。 栗原 すみません。 ざっしー よーし、タイミングハプニング吊り橋効果(藤井に足をかける) 藤井 はい、どうぞ。おっとと(ざっしーに引っかかりそうになって持ち直す)。 栗原 大丈夫ですか? 藤井 大丈夫大丈夫。ちょっとなんかにつまづいちゃって。 ざっしー おっ心配してるいい感じだ。 川崎 いや、でも今回は反省しました。 ざっしー 何がだよ。 川崎 不況不況って言っても自分の取引先が倒産するとは思ってなかったです。 ざっしー そんな暗い話やめようぜ。 栗原 そうですね。 藤井 そんなもんだよね。はい、どうぞ(お茶を勧める) 川崎 いただきます。 栗原 いただきます。 藤井 どうぞ。(言いながら自分で注ぐ) ざっしー よし、(手を添えて注ぎ続ける) 栗原 えっ、係長こぼれてますよ。本当に疲れてるんじゃないですか?大丈夫ですか? ざっしー そうだもっと心配しろ! 川崎 あ、拭きますよ。布巾どこですか。 藤井 あぁ、ごめんね。おかしいなぁ。自分で拭くから大丈夫。(拭きながら)でもAB企画さんも許してくれて良かったじゃないか。普段の栗原さんの付き合い方がいいからだよ、きっと。 栗原 そんな、私は全然。 川崎 あ、でも確かに栗原は頑張ってますよ。新しい仕入れ先にすぐ話つけたのも栗原ですから。 ざっしー すごーい。 栗原 自分のミスですから当然です。 川崎 じゃあ、明日もがんばらないとな。ごちそう様です。 栗原 あ、私もごちそう様です。 ざっしー あっ、もう帰っちゃう! 藤井 じゃあ、明日もよろしく。あ、駅まで送っていこうか? 川崎 大丈夫ですよ。この辺は僕らも詳しいですから。 栗原 はい、この辺取引先多いですよね。…じゃあ失礼します。 藤井 お疲れ様。 栗原 あれ、私の靴 川崎 あれ、どうしたんだろ? ざっしー (ざっしーくつを持ってうろうろしながら)どうだ。これで帰れないぞ。 藤井 どうしたの? ほんとだないね。どこ行ったんだろ?おかしいな。あれ、靴、浮いて、(ざっしーのしわざということにきづいて)あー。 栗原 どうしたんですか、係長? 藤井 何でもないんでもない。(ざっしーをかばいながら靴を奪い取る)あったよ。靴。ほら。 川崎 あれ、ほんとですね。でもどうして部屋の中に? 藤井 あ、うち玄関雨漏りするから汚れちゃまずいと思って部屋の中に入れたんだった。ごめんごめん、すっかり忘れてたよ。 栗原 そうだったんですか?ありがとうございます。 川崎 でも、今日晴れてますよ。 藤井 いや、これから雨になるって聞いたからさ。ほら、念のため。 栗原 さすが、きっちりしてますね。 藤井 いや、そんなことないよ。ほら、じゃあ、今日は遅くまでお疲れ様。気をつけて帰ってね。 川崎 はい、資料ありがとうございます。お茶もごちそうさまでした。 栗原 失礼します。 ざっしー また来てね。 藤井 (ドアを閉めて)お疲れ様。ふぅ。……あー、もうざっしーは?(きょろきょろする) ざっしー いるよー、いるって。(いろいろ変な動きをする) 藤井 わっ出た! ざっしー ずっといたけどな。 藤井 やっぱりさっきのお茶とかって! ざっしー そう俺、栗原さんに心配してもらってよかっただろ? 藤井 うん、君本当に恋愛相談苦手なんだね。 ざっしー うっ、これでも一生懸命やってるんだぞ。 藤井 分かってるよ。栗原さん、普通でしょ? ざっしー そうだな。普通に真面目そうな子だな。 藤井 そうなんだよ。だからそれ以上でもそれ以下でもないんだよね。 ざっしー あんたさ、意外と部下から頼られてるんだな。 藤井 そうでもないけど。 ざっしー 俺、確かに恋愛相談苦手だけどさ、さっきの見てたらそのままでいいんじゃんって思った。 藤井 そのままって? ざっしー うーん、よくわかんないんだけどやっぱりいい上司と部下?(笑) 藤井 (残念そうに)やっぱそうかぁ。 ざっしー うん、でも別にブランドもんとかあげなくてもちゃんと信頼されてるならいいんじゃん? 藤井 (さびしそうに)そうだね。じゃあ、中途半端だったし飲み直すか? ざっしー 明日も仕事だろう。 藤井 意外と強いから大丈夫 ざっしー 言ったな。ざしきわらしに勝てると思うなよ。 藤井 はいはい。お疲れ様。じゃあ、かんぱーい! ざっしー かんぱーい!  音楽入れる。エンディング。音合わせで楽しげに飲む二人。結局ざしきわらしがつぶれる。音かけたまま朝。 ざしきわらしその辺に潰れてる。 藤井 あぁ、よく飲んだ。(目の前にいるのに)あれ、いない。ま、いっか。またくるな。きっと。  お酒をコップに入れて無駄にお供えもの風に祈ってみたりする。ジャケットを羽織って出ていく。 藤井 行ってきます。 ざっしー …いってらっしゃい…  お酒とざしきわらしになるべく光を当てつつ暗転。  ---------------------------------------------   以上、いかがでしたでしょうか?   よろしければ下記のページより、感想を御記入下さい。   もちろん、叱咤激励なんでもかまいません。   作者の方の励みにもなりますので・・・    http://haritora.net/bbs/?type=9713   また、下記ページから作品の評価登録も可能です。(要登録)    http://haritora.net/critic/member/look.cgi?script=9713  それでは、今後とも『はりこのトラの穴』をよろしくお願いいたします。