題名:ざしきわらしのいる部屋    劇団:劇団ぼるぼっくす    作者:上野 小夜  ---------------------------------------------  著作権について  ・本ページで公開されている作品の著作権をはじめとするすべての権利は   全て作者が保有いたします。  ・このページからダウンロードできる脚本は全て無料で読んでいただいて   結構です。ただし、舞台等で御利用の際は、作者からの上演許可を取っ   ていただくようお願いいたします。  ・必要に応じての改編等も、作者への許可の上行って下さい。  ・著作権料が発生する場合、指定された額を作者へ送金を忘ないように   お願いいたします。本作品おける著作権料は、下記に示す通りです。  ---------------------------------------------   小学校、中学校、高校、その他学生の無料公演・・無料   アマチュア劇団の公演、学生の有料公演・・・・・5000円   プロの劇団の公演・・・・・・・・・・・・・・・全チケット収入の1割     (全チケット収入の一割が5000円に満たない場合は5000円)     [2]の場合、公演の2週間前までに、     [3]の場合、公演後2週間以内にお支払いください。  --------------------------------------------- ざっしー…座敷童。明るい。人を楽しくしたい。でもあんまりうまくいかない。特に恋愛相談は無理。 わらわら…座敷童。三人の中では一番大人でお姉さん。きつく言いすぎて自分で若干凹む。 きし…座敷童。さびしがり屋。子供。 栗原…新入社員。仕事には真面目。ブランド大好き。悪い子ではない。 智美…友達が最近、結婚してしまい何か話が合わない、気がする。幸せってなんだろう? 理恵…合コンをたくさんして医者をゲットした。結婚して専業主婦をやっている。 滝沢…不動産屋。いつも無駄にキビキビ動いている。座敷童が決して見えない、かもしれない。 ストーカー…座敷わらしのストーカー。座敷童を追い求める 第二話 第1幕 三人で相変わらずUNOをしている。滝沢、入ってくる。 滝沢 問題ないわよね。(部屋を全体的に確認しつつざっしーにぶつかる。) わらわら あれ、滝沢さん? きし ほんとだ。じゃあ、この前の子、入居してくるんだね。 ざっしー この前の子?あー、なんか気弱そうな感じだったよな。俺、たぶんあんまり合わない。 わらわら 確かに、おとなしそうな女の子だったね。ざっしーと違って。 ざっしー どういう意味だよ!おっし、俺あっがりー。 わらわら あれ?珍しいね。ざっしーが強いなんて。 ざっしー たまにはなー。 きし うーん、私調子悪い。 ざっしー (きしのカードを見て)どれどれ、だめだなこれ。 きし わかってるよそんなこと。 ざっしー (滝沢のすぐ近くに行って)にしてもこいつ相変わらず見えないのな。 わらわら (ざっしーを見ないで)滝沢さん? ざっしー そうそうこいつ俺に恨みでもあるのかってくらいぶつかるんだよな。 わらわら うるさいんじゃない?感覚的に。 ざっしー なんだそれ!? わらわら ほら、うるさい。 滝沢 うん。OK。今度は長く続くといいんだけど。  滝沢、確認してはける。 ざっしー だって見えてない癖に。このキャリアウーマン風な感じがむかつく。絶対彼氏いないし。 きし うーん、パス。 わらわら でも指輪してるよね? ざっしー へっ? きし うん、確かにいつも同じのしてる。 わらわら あ、ウノ ざっしー マジで納得いかない!? わらわら そういうとこがざっしーは恋愛相談苦手なんだよね。はい、あーがり きし 残念。じゃあ、今回は私か……。 ざっしー・わらわら よろしく。 きし うん。  音楽入れる。ダンス。何かタイトル布とか紙に書いて出す。「第2話 さびしわらし」。智美と理恵も ここで出てくる。音楽終わり。きしは残っている。奥からざっしーが出てくる。 第二幕 ざっしー まだ気付いてもらえないのか? きし うん。ちゃんとあいさつとかしてるんだけどなぁ。 ざっしー 全くダメな感じなのか? きし うーん、どうだろ。微妙な感じ。 ざっしー ならもっと自己主張しろよ。押しが弱いんだよ、押しが。 きし でも、気付かないなら向こうも幸せなんだし。 ざっしー まぁそうだけどお前仕事したくないだけだろ きし ざっしーと違うもん。 ざっしー 何言ってんだよ、俺はちょー仕事熱心だぞ。この前の恋愛相談も結局解決したじゃんか。 きし あれってざっしーが解決したっていうの? ざっしー うっ…… きし それにもう出て行っちゃったじゃん。 ざっしー いいだろ、あいつ出世もして喜んでたじゃないか。 きし そうだよね。見えなくなっちゃったもんね。 ざっしー それは、仕方ないだろ? ざしきわらしなんだから。 きし だからやだ。 ざっしー あー、わかったわかった。ほら、暇なら掃除でもしてろよ。  智美、理恵が入ってくる。ざっしーは雑巾を押し付けて奥に引っ込む。きしはちまちまぞうきんとかかけてい る。 きし おかえりなさい! 理恵 お邪魔します。わー片付いてるじゃん(きしにぶつかる) 智美 (照れたように)まぁ適当に座って。 理恵 ありがと。 智美 お茶出すね。あ、そういえば栗原さんは? 理恵 何か仕事忙しいみたい。取引先ついでに寄ってくれるって。 智美 そっか。理恵は?優雅な奥様生活どう? 理恵 それ聞く?聞いちゃう?(相手にふらない感じで)いやー、行ってきたよ新婚旅行ヨーロッパ一周ツアー。もうね、イタリアでワイン飲んでフランスでシャンパン飲んでスペインでシェリー酒飲んでオランダでジン飲んでスコットランドでスコッチ飲んでアイルランドでウイスキー飲んでドイツでビールかけしてきた。 きし アル中だ。 智美 すごい、満喫してるね。 理恵 うん。だってここ逃したらしばらく休み取れないって言ってたし。1週間で7か国回ってきたよ。 きし それ、がんばりすぎじゃない? 理恵 いや、あれもこれもって詰め込み過ぎたね。 智美 理恵らしいね。 理恵 でも、その後はほんとに休みなしだよ。全然帰ってこないの。仕方ないから暇つぶしに料理教室に通い始めたんだけどさ。何か金持ちの奥さんばっかりでさー。 智美 理恵もでしょ。 理恵 いや、なんていうの?深窓の令嬢的な?しかも教えてくれる料理もかたつむりのでんでん田楽とかカブトガニのかぶと煮とか(何か適当に好きなのに変えてください)よくわかんないものばっかりでさー。 きし 何かサバイバル。 理恵 どこで獲ってくるんだっていうね(笑) きし ほんとだよ。 智美 でも、なんだかんだ楽しそうだねぇ。 理恵 まぁ、がんばった甲斐はあった感じかな。智美は?最近合コンとか行ってないの? 智美 ほら、私喋るの苦手だし。そんなに結婚したいわけでもないしね。 理恵 そんなこと言ってる間に年取っちゃうよー。 きし 変な顔ー。 智美 そうだよね。 理恵 あ、じゃあウチでホームパーティーとか。私の友達とか旦那の後輩とか読んでさ。折角料理習ったし。楽しそうじゃない? 智美 (あんまり興味なさそうに)うーん。そうだね。(きしの手が見えて)あれ? 理恵 どうしたの? 智美 何かいる。 理恵 何!?また幽霊?智美そういうのすぐ言い出すから。 智美 幽霊なのかな。女の子が雑巾かけてる。 きし え? 理恵 そんなくっきりみえるの?どこ? 智美 そこ(きしを指さす) 理恵 よーし、捕獲!(自分のハンドバックとか袋とか何かで捕獲しようとする) きし わっ! 智美 うん、確かに捕獲されてる。 理恵 そうなの?あ、確かに(袋か何かが)浮いてる。こわっ!やっぱ幽霊付きマンションなんだよ。引っ越した方がいいよー。 きし (智美に)幽霊じゃないよ。悪いことしないからほっといて。 智美 かわいそうだよー(袋を取って、机に置く)。悪い子じゃないっぽいからほっとこう。ごめんね。何の話だっけ? 理恵 そんなほっといて大丈夫な感じなの? 智美 うん、たぶん。 理恵 そこまで言うならいいけどー。これで何か変なのにとりつかれたら責任取ってよねー。 きし とりつかないよ。  理恵の着メロが鳴る。普通に20代女子っぽい選曲。 理恵 あ、沙希ちゃんだ。私駅まで迎えに行ってくるから。何とかしといてよー(机上の網を回収)。 智美 あ、うん、わかった。いってらっしゃい。 理恵 (電話に出る)はいはい。うん、今駅?迎えに行くから待っててねー。そうそう西口改札で(言いながら外に出ていく)  残る智美、隅っこにいるきし。ちょっと沈黙。 きし あの、びっくりさせてごめんなさい。 智美 ううん、こっちこそ理恵が何かごめんね。で、幽霊なの? きし 違う。私はざしきわらし。 智美 ざしきわらしってあの幸福を運んできてくれるやつ? きし うん。 智美 じゃあ、今までもずっと家にいたの? きし うん。見えなかっただけ。 智美 そうなんだ。どうして急に見えたんだろ? きし (言いにくそうに)それは…… 智美 あ、うん言いたくないなら全然いいよ。私、岡田智美。よろしくね。 きし (嬉しそうに)私、ざしきわらしのきしです。よろしくお願いします!  インターホンが鳴る。 きし あ、戻ってきたみたい。(残念そうに)じゃあ、私その辺でそうじしてるね。 智美 ごめんね。(ドアに向かって)はいはーい。 理恵 着いたよー。ほらほら。(栗原を呼ぶ) 智美 (ドアを開けながら)いらっしゃい。栗原さん。久しぶり。 栗原 お邪魔します。ご無沙汰してます。 智美 元気してた? 栗原 はい、おかげさまで。 理恵 まぁ、いいから座って座って。 栗原 理恵先輩の家じゃないですよね。 理恵 気にしない気にしない。 栗原 失礼します。 智美 (栗原に)どうぞ。 理恵 今日も休日出勤なんでしょ?大変だね。 栗原 まぁそれほどでもないですよ。 理恵 いやー、できる女は違うねー。それよりさ、お酒買ってきてるんだよね、飲まない? 栗原 ほんとお酒好きですねー。キッチンドランカーにならないでくださいよ。 きし また、お酒。 智美 (きしに)ねっ? 理恵 ならないよー。 智美 あ、じゃちょっと待っててね。コップ出すから。 理恵 よろしくー。 栗原 あ、ごめんなさい。ありがとうございます。理恵先輩、私この後会社戻るんですけどー。 理恵 じゃあ、一滴だけ。強いんだからいいでしょ? 栗原 もう、ほんとに一滴だけですよ。 理恵 わかったわかった。 栗原 でもこのマンションいいですよね。 理恵 ね。立地と広さの割にはいいよね。 栗原 そういや私の上司もここに住んでましたよ。 智美 (コップとか準備して)お待たせ。 智美、コップを配る。 理恵 ありがとう。智美は飲むよねー。 智美 わかったよー。 理恵 じゃあ、はい。はい沙希ちゃんは一滴だけね。(ちょっとだけ注ぐ)どう? 栗原 じゃあ注ぎしますよ、先輩。 理恵 ありがと。じゃあ、新しい部屋にかんぱーい! 智美・栗原 乾杯! 理恵 はー、うまい。昼に飲む酒は格別だね。 栗原 理恵先輩、おやじくさいです。 理恵 まぁいいじゃんたまにはこういうのも。そういや沙希ちゃんは?最近どうなの? 栗原 どうもこうも。仕事忙しくてそれどころじゃないですよ。 理恵 つまんないのー。 栗原 あ、でも上司と先輩が出世したのであわよくば自分もとは思ってますよ(笑) 理恵 えー。でもすごいじゃん!まだ三年目でしょ? 栗原 そうですね。でもうち若手の出世は早いので。女性管理職も多いですし。 智美 いいなぁ、うちなんて全然。 理恵 智美、事務系だっけ? 智美 そうそう。受注対応とクレームの処理。 理恵 クレームってけっこう多いの? 智美 ほら、うち通販だからやっぱり使ってみたら違うとか多いよ。 理恵 あー、「いつまでたっても綾瀬はるかにならないじゃない!」とか?クレーマーだよねそんなの。 栗原 理恵先輩、実はそういう電話してるんじゃないですか? 理恵 ひどーい。 栗原 でも、クレーム対応とかって一番力量問われますよね。 理恵 確かに。 智美 えー、私謝ってるだけだよ。 栗原 謝るのが一番大変ですから。私も取引先に行って謝ってばっかですよ。若いから割とおじさんには笑顔で謝れば許されますけど。 理恵 それはわかる。逆に女の人だとほんとしんどい。 栗原 理恵先輩、料理教室大丈夫なんですか? 理恵 何かね、うん。女は怖いよ。たぶん、想像通り。ま、たいていの女には負けないけどね。 栗原 いやー、優雅そうですけど全然うらやましくないですね(笑)。岡田先輩は?小説とか書いてないんですか? 理恵 そうだよ。書かないの? きし 小説?? 智美 まさか。もうそんな元気ないよ。(きしにも首を振って見せる) 栗原 そうなんですか。私、先輩の話好きですけどね。 理恵 ねー、残念。 栗原 (時計を見て)あ、じゃあ私会社戻らなくちゃいけないので失礼します。 理恵 そっか。じゃあ私も夕飯の買い物あるし失礼しよっかな。 智美 二人とも忙しいね。じゃあ、駅まで送ってくよ。 理恵 おっありがとう。 智美 (栗原と理恵が飲み物とか片付けるのを遮って)あ、いいよ。後で片付けるから。栗原さん、仕事あるだろうし。とりあえず駅行こう。 理恵 じゃあ、行きますか。 栗原 すみません。何かお気遣いいただいて。 智美 ううん。 理恵 (栗原に)で、本当にいい人いないの? 栗原 いませんよー。 理恵 本当に?    三人、出ていく。きしが出てくる。片付けをする。わらわらが出てくる。 わらわら 嬉しそうだね。 きし そんなことないよ。どうせいつかはまた見えなくなるし。 わらわら それは仕方ないよ。 きし ざっしーと同じこと言うんだね。わらわらはそれで寂しくないの? わらわら だって仕方ないもん。ちゃんと仕事しなよ? きし だから掃除してるじゃん。 わらわら 違うでしょ? ちゃんとざしきわらしの仕事をしなよ。 きし (ちょっと苛立って)わかってるよ。わらわらはどっか行ってて。 わらわら (傷ついて)わかった。じゃあね。  智美が帰ってくる。 智美 (恐る恐るな感じで)ただいまー。 きし お帰りなさい! 智美 あ、良かった。いた。 きし うん。とりあえず片付けておいた。 智美 あ、ごめんね。ありがとう。 きし ううん、ほらざしきわらしだから。 智美 ねぇ、ざしきわらしって幽霊とは違うの? きし うん。たぶん。でも幽霊を知らないからわからないけど。 智美 そっか。いつからざしきわらしなの? きし うーん、とりあえずこのマンションができてからはずっといるよ。 智美 そうなんだ。すごいね。じゃあ、色々な人に会ってるんだ。 きし ……うん、岡田さんは?OLさん? 智美 うん。でもさっきの女の子みたいに好きでやってる仕事じゃないし。ほんと食べるために働いてるって感じ。 きし そうなの?大変だね。 智美 うん。かといって理恵みたいに専業主婦になりたいわけでもないしなぁ。 きし そうなの? 智美 なんて愚痴っても仕方ないんだけどね。 きし ううん。ざしきわらしは愚痴を聞くのも得意だよ。って言ってもあんまりアドバイスできないけど。 智美 ありがとう。全然、聞いてくれるだけで十分だよ。 きし 私も久しぶりに人と話して楽しいし。 智美 何か友達とお泊りなんて修学旅行みたいだね。あ、ざしきわらしにはそういうのないのか きし 話には聞いてるよ。まくら投げとかUNOとかやるやつでしょ? 智美 普通トランプだと思うけど。あ、じゃあトランプでもやる? きし UNOがいい! 智美 二人で? きし うん! 智美 じゃあ、やろっか。 きし うん!  まったりとした音楽入る。二人でUNOをやってぐだぐだ話しながら寝る。暗転。明転。音楽続けたまま、きしが朝ごはんとか作っている。変なご飯なので困惑しながら食べる。仕事の準備をしてあげて出ていく。ここで1週間くらい経過させていので要検討。きしが掃除をしている。わらわらが出てくる。 第三幕 わらわら 大丈夫なの? きし 何が? わらわら だから仲良くしても仕方ないってわかってるでしょ? きし 智美ちゃん楽しそうだよ。 わらわら 智美ちゃん、ね。 きし 何か文句あるの? わらわら あんたと仲良くして楽しくてもしょーがないでしょ! きし いいじゃん。楽しければ別に。 わらわら 私たちと違ってずっとここにいるわけじゃないんだからさ。 きし わかってるよ、そんなこと。  智美が帰ってくる。 智美 ただいまー。あれ、お友達? わらわら ほらー。もう私も見えるようになってる。 きし ……… わらわら 私のこと見えるんですね。 智美 はい。私、岡田智美です。こんにちは。 わらわら どうもこんにちは。(奥を見て)ざっしー。 ざっしー (ゲームボーイとかやりながらやる気なく)何、呼んだ? わらわら もう少しやる気出してよ!しかも古い! 智美 あっ、もう一人いるんだ。こんにちは。 ざっしー げっ。見えるの? わらわら 見えるみたい。 ざっしー きし、またかよ。 きし ……。  気まずい沈黙を破るように、智美の携帯が鳴る。 智美 あ、ごめんねちょっと電話。(電話を取って)理恵、どうしたの? ざっしー この人。俺ら全員見えるじゃん?相当寂しくなってるよね。 わらわら 家でざしきわらしが待ってるから楽しいって一般的にはどうなの? きし 一般的とか関係ないじゃん。大体さ、寂しいと何がだめなわけ? ざっしー うわ、逆ギレかよ。 わらわら きしは自分が寂しいだけじゃん。 きし …… ざっしー 気持ちはわかるけどさー、それじゃだめだろ? 智美 (電話を切って)今から理恵来るみたい。みんな、捕獲されないように気を付けてね。 ざっしー じゃあ、俺ら引っ込んでようぜ。ほら、きしもさ。 智美 ごめんね。  ざっしーがきしを連れて奥へ行く。 わらわら お邪魔しました。私たち見えないところにいますので。  智美、何となくちょっと片付けとかする。している間にインターホンが鳴る。 智美 はいはい。 理恵 やっほー。元気? 智美 もー、いきなり来るんだもん。 理恵 いやー、旦那が急に今日は帰れないっていうから智美ならたぶんいると思って。 智美 理恵、さりげに失礼だよね。 理恵 えー。 智美 まあいいや。とりあえずお茶でも出すからその辺座って。 理恵 どうもー。だって智美、メールの返信率悪いしさ。 智美 ごめん。何かねーメール打つの遅いから後でとか思ってそれで忘れちゃうんだよね。 理恵 メールなんて適当に返せばいいのに。 智美 その適当が難しいんだよね。 理恵 まぁ智美はそんな感じだよね。それじゃ仕事も大変でしょ? 智美 うーん、そうなのかなぁ。 理恵 自分のことでしょ? 智美 まぁそうだけど。 ドアを連打する音がする。 智美 あれ、何だろ?ちょっとごめんね。はーい。(ドアを開ける) ストーカー (方位磁石を持って)やっぱりここだと思うんだけどな。 理恵 ちょっと、何よ!不法侵入? ストーカー あ、失礼しました。このあたりでざしきわらし様を見ませんでしたか! 理恵 はぁ!? 智美 (理恵と同時に)えっ? ストーカー (智美に)その顔は!?何か知ってらっしゃるんですね。 智美 知りません!(と言いつつ部屋の奥を見てしまう) ストーカー なるほど!そちらにいらっしゃるんですね。ざしきわらし様―。  滝沢、入ってくる。 滝沢 失礼します。やっぱりまた、あなたですか? ストーカー また邪魔しに来たのか、女。我々はざしきわらし様を愛し敬う… 滝沢 (遮って)これ以上騒ぐならまた通報しますよ? ストーカー すみませんでした。(とぼとぼ出ていく) 滝沢 大変、失礼いたしました。 理恵 ちょっと、何よ今の!? 滝沢 申し訳ございません。どうもこの辺にざしきわらしが住んでいると信じていらっしゃるようでして。 理恵 はぁ!? 滝沢 住民からたびたび苦情があって、警察にも連絡しているのですが、何分悪さをしていくわけでもないので、警察でも説教程度で済んでしまうんですよ。 智美 ざしきわらしが見たいんでしょうか? 滝沢 そうなんじゃないんですか?まぁ、そんなものいるわけないですよね。ちょっと頭がおかしいんです。気にしないでください。本当にお騒がせいたしました。失礼いたします。  滝沢、出ていく。 理恵 何だったの今の?ざしきわらし?意味わかんない。智美、塩ないの塩。まいといた方がいいよ。 智美 えー、そんな大げさな。 理恵 まぁ智美がいいならいいけど。あ、そうだ来月の15日暇? 智美 えーと、日曜だよね。(スケジュール帳を見て)暇だけど。 理恵 じゃあさ、この前言ってたホームパーティーしようよ! 智美 だから私は合コンは別に… 理恵 そういうと思ってー。とりあえず合コンじゃなくて普通にサークルの同窓会な感じでどう?沙希ちゃんの代にも声かけてもらってて結構集まりそうだよ。 智美 同窓会? 理恵 久々でしょ。ほら、瀬戸君も海外転勤になっちゃうし。宮田さんも結婚して地方行っちゃうらしいし会えるときに会っとかないとね。 智美 たしかに久しぶりだねぇ。 理恵 でしょ?ま、私も正直ちょっと暇でさ。せっかく家広いんだし、料理もだいぶできるようになったし、いいかなって。だから15日空けといてよ。 智美 うん。わかった。 理恵 あ、そうそうせっかくの同窓会だからさ、ちゃんと新作も書いてきてよね。 智美 えー、今更ー?だって5年以上書いてないよ。 理恵 いいじゃん。どうせ身内ばっかりなんだから。 智美 そうだけど。理恵も書くの? 理恵 うん。今なら何かほら大人の恋愛小説とかかけそうじゃない? 智美 えー、理恵、得意なのホラーじゃん。 理恵 だからこそ新境地を目指すんだよ。いいじゃん智美はお得意のファンタジーでさ。 智美 この年でファンタジー? 理恵 えー現実を知ったからこそのファンタジーとかきっとあるって。 智美 何それ。また理恵は適当なこと言って。 理恵 じゃあ、私も一緒に内容考えてあげるからさ。ってかさ、お酒とかないの? 智美 私、家じゃ飲まないからないよー。 理恵 仕方ないなー。じゃあ、飲みに行くか。  理恵、さっさと立ち上がって出ていく。智美、苦笑しながらも一緒に出ていく。適当に会話しながら。 暗転。数日後。 第4幕 きしが寂しそうに一人でUNOをしている。智美が帰ってくる。 智美 ただいまー。 きし (すごくうれしそうに)お帰り! 智美 あれ?きしちゃん何か薄くなってない? きし えっ?(慌てて)そんなことないよ。良く見て!よく見て! 智美 うーん、(よーく見る)あれ、確かにいつもどおりだ。気のせいかな。 きし そうだよ。今日、楽しそうだね。いいことあったの? 智美 そうかな? きし (さびしそうに)うん、すごい楽しそう。 智美 今日、同窓会だったんだけどね、久々に小説書いたのが結構好評でさ。 きし そうなんだ。良かったね。 智美 そうなの。サークルのとき全然話したことない宮田さんとかに褒められて結構うれしかった。 きし そうなんだ。 智美 やっぱり久々に書くのもいいね。あれ、やっぱり今日きしちゃん薄いよ?大丈夫? きし あのね。 智美 どうしたの? きし 私、智美ちゃんが寂しい時しか見えないんだよ。 智美 えっ? きし だからね。私、智美ちゃんが寂しい時しか見えないの。今たぶん楽しいから見えないの。 智美 そうなの? じゃあ、楽しいと見えなくなっちゃうの? きし だって、寂しい時に寂しくないようにするのがざしきわらしの仕事だから。 智美 でもきしちゃんが見えなくなったら寂しいよ。 きし でもたぶん薄くなってるってことは私がいなくても大丈夫なんだよ。 智美 そんな。 きし そういうもんなの。仕方ないってみんないうよ。 智美 だって、そんな。 きし でもね、幸せになってくれるのがうれしくないわけじゃないんだ。でも、やっぱりせっかく友達になったのに見えなくなっちゃうのも寂しいの。 智美 私、頑張って見るよ! 見えないときは集中すればきっと見えるよ。さっきも見えたもん。 きし いいよ。無理しないで。小説書いてるとき智美ちゃん楽しそうだったし。趣味でもいいじゃん。書きなよ。    私、見えなくても応援してるから。 智美 きしちゃん……。 きし じゃあ、私寝るから。じゃあね。ほら、携帯なってるよ。 智美 あ、瀬戸君からメール。 きし お休み。 智美 (なんと声をかけたらいいかわからなくて)お休み。  寂しげな音楽入れる。暗転。 第5幕  音楽つないだまま翌日。明転。智美起きて仕事に行く。きしは相変わらずそうじとかしている。智美はきょろきょろするが見えない。仕方なく出かける。 智美 行ってきます。 きし 行ってらっしゃい。  ざっしーに押されて、わらわらが出てくる。 わらわら 見えなくなったの? きし うん。 わらわら いい傾向じゃない。 きし ……そうだね わらわら ほら、ざっしーと三人でUNOでもしようよ。 きし いい。 わらわら そんなに掃除してもこの部屋きれいだよ? きし いいの。ほっといて。 わらわら きし。 きし 学習能力ないと思ってるんでしょ? いいよ。凹んでるの!ほっといて!  音楽つないだままか入れる。掃除してるきし。帰ってくる智美。小さめに音楽かけたままセリフ。 智美 ただいまー。(きょろきょろするが見当たらない)  携帯が鳴る。きしが持ってくる。 智美 (携帯が動いて不思議に思うが見えず)きし、いるの? きし いるんだけどなぁ。 智美 いなくなっちゃったのかな。(携帯を開く)あ、(嬉しそうに返信する)  智美、ちょっとバッグとか片付けながら携帯に夢中。わらわらが出てくる。 わらわら おとなしく見守ろうよ。 きし 見えないね。 わらわら うん。見えてないよ。 きし だからざしきわらしって嫌い。 わらわら いいじゃん。私とざっしーはずっといるよ。 きし うん。 わらわら 次の人入ってきたら私が担当でいいからさ。 きし うん。  智美、何か書き始める。わらわらがきしを慰める。暗転。音楽あおって下げる。 第6幕 数日後。明転。きしとわらわら、智美が家で適当に過ごしている。理恵がやってくる。インターホン。 理恵 お邪魔しまーす。相変わらずきれいだね。 智美 そうかな? まぁ、妖精さんがいるから(笑) 理恵 妖精さん?あ、この前の小説の話? 智美 うん。 理恵 智美のが一番良かったよー。さびしがり屋の妖精さんの話。もっと書けばいいのに。 智美 うーん。この前のは元ネタがあるから書けただけ。 理恵 元ネタ? 智美 うん。うちの幽霊さん? 理恵 えっ!?それまだいたの? 智美 実は。 理恵 じゃあ今もいるの? 智美 たぶん。(さびしそうに)でもわかんない。見えなくなっちゃったから。 理恵 なんで? 智美 寂しくないから。 理恵 ふーん。(机の上の原稿用紙に目を止め)何それ、新作? 智美 あ、それは違う。手紙だからだめ。 理恵 何?ラブレター? 智美 違うよ。それも妖精さん宛て。 理恵 ふーん。怪しい。  理恵、智美二人で無声でしゃべっている。 わらわら ねぇ、あれって。 きし 私宛て? わらわら 読もうよ。 きし でも。 わらわら (持ってきて)ほら。 きし うん。(読んでいる) 理恵 またやろうよ。ホームパーティー。今度こそ合コンでさ。 智美 それはやっぱいいや。 理恵 えー、出会い求めていこうよ。 智美 よく考えたら私別に今のままで特に問題ないし。 理恵 えーつまんない。 智美 理恵が暇なだけでしょ。 わらわら 何て書いてあったの? きし 内緒。 わらわら そう。でも良かったね。 きし 何で? わらわら 何となく。嬉しそうだから。 きし でもちゃんと喋れたらもっと嬉しいけどね。 わらわら それは仕方ないでしょ。 きし 分かってるけど。……ねぇ、わらわらは引きずらないの? わらわら 何を? きし いろんなこと。 わらわら 覚えてるよ? きし そっか。 理恵 そうそう。あんたんちお酒ないから今日はちゃんと持ってきたよ。 智美 私が悪いみたいに言わないでよ(笑) 理恵 一人暮らしなのに酒がないなんて。 智美 そんなこと言われても(言いながらコップを持ってくる) 理恵 あれ、何で三つ? 智美 ん?だから妖精さんの分。 理恵 徹底してるねー。あの話続編あるの?今度は妖精さんが幸せになる話がいいな。 智美 そうだね。私もそれがいいな。(言いながらコップを横に一つ置く、きしが受け取る) 理恵 じゃあ、とりあえず今日もよくわからないけど乾杯! 智美・きし 乾杯!  音楽入れる。和やかな絵を残しつつ暗転。理恵、智美奥に隠れる。 エンディング ざしきわらし三人がきゃっきゃしてる。滝沢入ってくる。 ざっしー 次はどんなのが来るかな? きし 私パスだからね。 わらわら 私やるからいいよ。さびしい人だといいな。 滝沢 また、次の入居者探さないと。何か難あるのかしら、この部屋。 ざっしー うわ出た! 滝沢!  何かざっしーが攻撃するが滝沢交わす。 わらわら ざっしーやめなよ。大人気ないよ。何年生きてるの? ざっしー 年は関係ない!こいつことあるごとにぶつかってくるんだもん。 きし ほっとこうよ鈍感なんだよ。 わらわら そうそうそういう人間もいるよ ざっしー そうだな。鈍感、デリカシーがない!絶対将来お局って言われる! 滝沢 (思わず)余計なお世話だ。(振り返って滝沢と目が合う) ざっしー えっ? わらわら 見えてるの? きし まさか。 滝沢 (開き直って)あーもういつも三人でうるさい!だからすぐみんな引っ越しちゃうんだよ! ざっしー・きし・わらわら いた。さびしい人! 滝沢 うるさい!  どたばたとした音楽入れる。滝沢をバカにする座敷童たちと怒る滝沢。バタバタしたまま幕。  ---------------------------------------------   以上、いかがでしたでしょうか?   よろしければ下記のページより、感想を御記入下さい。   もちろん、叱咤激励なんでもかまいません。   作者の方の励みにもなりますので・・・    http://haritora.net/bbs/?type=9732   また、下記ページから作品の評価登録も可能です。(要登録)    http://haritora.net/critic/member/look.cgi?script=9732  それでは、今後とも『はりこのトラの穴』をよろしくお願いいたします。