題名:ざしきわらしのいる部屋    作者:上野 小夜  ---------------------------------------------  著作権について  ・本ページで公開されている作品の著作権をはじめとするすべての権利は   全て作者が保有いたします。  ・このページからダウンロードできる脚本は全て無料で読んでいただいて   結構です。ただし、舞台等で御利用の際は、作者からの上演許可を取っ   ていただくようお願いいたします。  ・必要に応じての改編等も、作者への許可の上行って下さい。  ・著作権料が発生する場合、指定された額を作者へ送金を忘ないように   お願いいたします。本作品おける著作権料は、下記に示す通りです。  ---------------------------------------------   小学校、中学校、高校、その他学生の無料公演・・無料   アマチュア劇団の公演、学生の有料公演・・・・・5000円   プロの劇団の公演・・・・・・・・・・・・・・・全チケット収入の1割     (全チケット収入の一割が5000円に満たない場合は5000円)     [2]の場合、公演の2週間前までに、     [3]の場合、公演後2週間以内にお支払いください。  --------------------------------------------- ざしきわらしのいる部屋 第3話 恋人はざしきわらし!? ざっしー(男)……ざしきわらし。寂しい人には見えない。明るい。人を楽しくしたい。 わらわら(女)……ざしきわらし。寂しい人には見えない。三人の中では一番しっかり者。でも住人には結構感情移入してしまう。 きし(女)……ざしきわらし。寂しい人には見えない。さびしがり屋。 高橋(男)……20代後半。最近、ちょっと仕事と人間関係の調子が悪い。周りの方が幸せそうに見えて仕方ない。 堂本(女)……20代後半。男の同期。最近、仕事がノってる。 小西(女)……会社の後輩。高橋に気がある? 滝沢(女)……不動産屋。いつもは無駄にキビキビ動いている。ざしきわらしが見える。 オープニング 相変わらずウノをやっているざっしー、わらわら、きし。 ざっしー 早く次の奴来ないかなー? わらわら 今回は遅いね。 きし 人気ないのかな、この部屋。 そこに鍵を開けて入ってくる滝沢。完全に飲み過ぎている。 ざっしー うっわ、酒くせ。ってかなんだよ、急に。 滝沢 いいでしょ?どうせ、今誰も住んでないんだから。 わらわら 私たちがいますけど。 滝沢 知ったこっちゃないわよ(勝手にその辺で寝始める)。 きし ざしきわらしと普通にしゃべってるし。 ざっしー あぁ、もうそんなとこで寝るなよ!あれ、滝沢指輪は? わらわら・きし バカ!!! 滝沢 指輪って何のこと?あぁ、左手の薬指にしたた奴?さっきその辺に捨ててきたけど、なんか文句ある!? ざっしー ないです、ごめんなさい。 わらわら いろいろありますよね。ざっしー、お酒持ってきて! ざっしー はいっ!(お酒を持ってくる) 滝沢 あんた一応わらしじゃないの? わらわら あなたより長生きしてますから。 きし (ぼそっと)わらわら、酒癖悪いから嫌い。 わらわら 何か言った? きし (慌てて)何でもない。 滝沢 ま、飲めるならいいや。飲んじゃえー。 わらわら ありがとうございます。ま、あれですよね。なかなかうまくいきませんよね。 滝沢 ざしきわらしに同情されてもねー。 わらわら (既に軽く酔ってる)ざしきわらしもね、いろいろあるんですよ。 滝沢 あんた、弱い? わらわら (酒をあおり)そんなことありません! 滝沢 ま、いっかどうでも。 わらわら (人の話を聞いてない)ざしきわらしもいろいろあるんです!  音楽入る。音楽に合わせて動く。滝沢、お酒を片付けてはける。高橋が入ってきて、わらわらと楽しそうに会話して出ていく。幕などに書いてタイトル「恋人はざしきわらし!?」を出す。ざしきわらし三人でダンスをする。暗転。 第一幕 明転。部屋の中で掃除とかしているわらわら。そこに高橋が帰って来る。かなり疲れた感じ。 高橋 (ドアを開けて入ってくる) わらわら お疲れ様です。 高橋 はぁー、疲れた。(座る)はぁー。  高橋の携帯が鳴る。 高橋 誰かな? あぁ元村。あいつ結婚すんのか。へー。あー、ご祝儀かー。(返信しようと思って止める)後にしよ。(携帯を閉じて立ち上がるとわらわらと目が合う)えっ? わらわら ? 高橋 誰? わらわら あれ、もしかして見えてるんですか? 高橋 は? わらわら あ、ご挨拶が遅れました。私、ざしきわらしのわらわらと申します。 高橋 はぁ。 わらわら あの、怪しい者ではないのでよろしくお願いします。 高橋 ざしきわらしとか。俺、そんあメルヘンな妄想癖あったか? わらわら 妄想じゃないです。現実です。 高橋 やっぱり疲れてんのかな。(携帯を見て、堂本に電話をかける)  コール音がかかる。堂本が電話に出る。 高橋 お疲れ。 堂本 (声のみ)おーお疲れー。 高橋 そっちも仕事終わった? 堂本 (声のみ)今、ちょうど終わったとこ。もーなんかすっごい疲れた。 高橋 何か俺も疲れてさ、飲みにいかないか? 堂本 (声のみ)いいねー。ってかもう家?だったら帰りがけに酒買って行くよ。 高橋 悪いな。じゃあ、待ってるよ。 堂本 んじゃ、なんか適当に買ってくよ。 高橋 (電話を切っておそるおそる後ろを振り返る)よし、いない。 わらわら あれ、見えないんですか? 高橋 こういうときは酒でも飲むしかないよね。 わらわら まぁ、見えないならいいんですけど。  高橋がちょっと片付けとかしてるとインターホンが鳴る。 高橋 はいはい(ドアを開ける) 堂本 お疲れー、買ってきたよ。 高橋 ありがと。適当に座って。いくら? 堂本 あー、今日はいいよ。この前おごってもらったし。 高橋 いいのか? 堂本 とりあえずほら、飲もうよ(缶ビールを渡す) 高橋 じゃあ、お言葉に甘えて。 堂本 今日も一日お疲れ様。かんぱーい! 高橋 お疲れ。 堂本 いや、全くもって最近疲れるよね。ってかさ、うちの部署人辞めすぎじゃない? 高橋 確かになー。今年に入って三人だろ? 堂本 ほんとまぁ確かに労働条件よくないけどさ。あ、そうそう聞いた? 高橋 何だよ。 堂本 二係の斉藤主任も辞めちゃったじゃん?そのおかげで辛島が主任になるらしいよ。 高橋 マジで!?何、その棚ぼた。 堂本 いやー、同期最初の主任狙ってたのになぁ。 高橋 俺もてっきりお前かと思ってたよ。 堂本 まぁ、うちの係は上が詰まってるしなぁ。そっちは? 高橋 こっちも上が詰まってるし。うちは俺より、むしろ後輩の方が優秀だからな。 堂本 えー、高橋も頑張ってるじゃん? 高橋 まぁ、頑張ってはいるつもりだけどな。あーあ。 堂本 どーしたのー? 高橋 いやー、なんかこのころほんと疲れて。年かな。 堂本 まだ30前じゃん。 高橋 そうだけどさー。 堂本 あれじゃん?ときめきが足りないんだよ。彼女でも作れば? 高橋 ときめきが足りないのはおまえだろ? 堂本 私は仕事にときめいてるもん。 高橋 はいはい。 堂本 (飲み終わって)よし、じゃあ、明日もがんばりますか。 高橋 そうだな。駅まで送ってくよ。 堂本 悪いね。  音楽入る。無声演技で二人、部屋を出ていく。わらわら、空き缶の片づけをする。 第二幕 片づけをしているわらわら。そこに戻ってくる高橋。鍵をかけて部屋を見ると思いっきり 目が合ってしまう。 わらわら あ、お帰りなさい。 高橋 ……ただいま。 わらわら やっぱり見えるんですね。 高橋 いなくなったと思ったのに。気のせいじゃなかったのか。 わらわら ごめんなさい。 高橋 いや、謝られても困るんだけど…… わらわら あ、そうですよね。 高橋 君、本当に何なの? わらわら ですから、ざしきわらしのわらわらです。 高橋 本当に? わらわら 本当です。 高橋 じゃあ、ずっとこの部屋にいたわけ? わらわら えぇ、まぁ。ざしきわらしは寂しいときにしか見えないんですよ。 高橋 俺、寂しいのか。確かにそうかも。 わらわら そうですよね。っていうのもおかしいですが、見えているならそうなんだと思います。 高橋 そっか。でも、そしたらざしきわらしっていうのも大変だな。 わらわら えっ? 高橋 だって寂しい時以外は見えないんだろ。それもちょっと寂しいよな。 わらわら …… 高橋 あ、ごめん。何か余計なこと言った。 わらわら いえ、本当のことですから。 高橋 ごめん。あ、お酒でも飲む? わらわら 結構です。それより早く寝た方がいいんじゃないですか?お仕事大変なんでしょ? 高橋 確かに。まだ水曜日か。 わらわら そうですよ。ざしきわらしの心配してる暇があったら寝てください。 高橋 そうだな。ありがとう。じゃあ、お休み わらわら おやすみなさい。  音楽入る。無声演技で高橋寝る。ざしきわらしも奥に引っ込む。高橋が部屋から出て行 く。見送るわらわら。ざっしーときしが「数日後」という紙を出す。 第三幕 ざっしー よっ調子はどうだ? わらわら 別に。 ざっしー 別にってことはないだろ!いいとか悪いとかなんかあるだろ。 わらわら そんなキレなくても… ざっしー 俺は別にって言葉は嫌いなんだ。 わらわら あ、そう。 ざっしー で、見えてるんだろ?仲良くなったのか? わらわら 普通に話せるようになったけど、何か、これでいいのかな? ざっしー 何が? わらわら 私と話して楽しくても仕方なくない? ざっしー まぁな。でも、それでさびしさが紛れるならそんなに悪いことでもないんじゃないか? わらわら そうかな。 ざっしー ま、俺難しいことわかんないから。あ、帰ってきたっぽいぜ。  高橋、入ってくる。 高橋 ただいまー。 わらわら お帰りなさい。 高橋 あー、今日も疲れた(と言いつつ若干前回より明るい)。 わらわら お仕事大変なんですよね。 高橋 うん、何かうちの主任が微妙でさ。あ、そうだ。これ、お土産。 わらわら えっ? 高橋 えっとね、桜餅とイチゴ大福。 わらわら 私にですか? 高橋 わらしってくらいだから甘い物とか好きかと思ったんだけど。 わらわら あ、はい好きですけど。 高橋 良かった。じゃあ、食べようよ。あ、お茶入れるね。  ざっしーときしが奥から顔をのぞかせる。 ざっしー いいなぁ、何かうまそうなものもらってるぜ。 きし きしも桜餅ほしい。 ざっしー わらわらー、俺たちの分は? わらわら (奥に向かって)うるさい! 高橋 どうかした? わらわら いや、何でもないです。(言いながらざっしーときしを無理やり奥に押しこむ) 高橋 はい、どうぞ(お茶とお菓子を差し出す) わらわら ありがとうございます。いただきます。 高橋 ざしきわらしって普段は何をしてるの? わらわら そうですね。掃除とかしてます。 高橋 えっ?もしかしてだからこの部屋いつもきれいなの? わらわら あ、はい一応。 高橋 そうなんだ。ありがとう。 わらわら 高橋さんは、今のお仕事長いんですか? 高橋 長いってほどでもないけど。新卒で入社してからだからもう六年目かな。 わらわら あの、ときどきいらっしゃってる方も会社の方ですよね? 高橋 堂本?そう会社の同期。あいつすごい優秀なんだけど思ったこと全部上司にも言っちゃうのが難点なんだよね(笑) わらわら 確かにすごい素直そうな方ですよね。  高橋の携帯が鳴る。 高橋 (携帯を見て)噂をすれば、堂本か。はいはい。 堂本 (声のみ)おつかれー。 高橋 お疲れ。今まで仕事してたの? 堂本 (声のみ)そうそう、今月が山場だからさ、でも疲れちゃってさー、飲み行かない? 高橋 あー(わらわらをちらっと見る)今日はごめん。学生のときの友達来てるんだよ。 わらわら えっ? 堂本 あ、そうなんだ。残念。じゃあ、またね。 高橋 うん。ごめんな。 堂本 いや、また明日もがんばろうね。 高橋 (電話を切る) わらわら 飲みにいかないんですか? 高橋 まぁ、あんまり気分じゃないし。せっかく和菓子でまったりしてるから。 わらわら ……そうですか。 高橋 あ、ごめん。飲みに行った方が良かった?俺、邪魔? わらわら まさか、家主に邪魔とかないですよ。むしろ私の方が居候みたいなもんですし。 高橋 だってそっちの方が長く住んでるわけだから。 わらわら そういう問題ですか? 高橋 うん。 わらわら はぁ、お気遣いありがとうございます。あ、お茶とお菓子ごちそうさまです。 高橋 お粗末さまでした。 わらわら じゃあ、私片付けておきますよ。これくらいはやらせてください。ざしきわらしですから。 高橋 ありがとう。じゃあ、今日も疲れたし休もうかな。 わらわら そうしてください。おやすみなさい。 高橋 お休み  音楽入る。寝て起きて会社に行く高橋。見送って若干憂鬱そうなわらわら。そこにきし がやってくる。 第4幕 きし おつかれー。 わらわら あぁ、きし。 きし どうしたの?元気ないね。 わらわら うーん、あのさ、チェンジしない? きし えっ?わらわらがそんなこというの珍しいね。 わらわら うん、まぁ。 きし どうしたの? 何か嫌な事あった? あ、今はやりのセクシャルハラスメントと か? わらわら 違うよ。全然。高橋さん、いい人だし。 きし じゃあ、いいんじゃん? わらわら でも、このままじゃダメな気がする。  そこに帰って来る高橋。急いで隠れるきし。 高橋 ただいまー。 わらわら お帰りなさい。 高橋 あれ、今誰かいなかった? わらわら え?気のせいじゃないですか?最近、早いですね。 高橋 うん、何かほら家に帰って話し相手がいるっていいね。 わらわら …… 高橋 あ、ごめん。俺が勝手に話しかけてるだけで、迷惑? わらわら そんなことは全然ないんですけど。  高橋の携帯が鳴る。 高橋 あ、ごめん。(携帯を取る)もしもし。 堂本 (声のみ)お疲れ!いやー、ようやくあのプロジェクト終わったよー。 高橋 お疲れ様。良かったな。 堂本 (声のみ)いやー、すっきりすっきり。でさ、飲みに行っていい?ってかお酒も 買っちゃった。 高橋 (わらわらをちらっと見るが仕方ない感じで)相変わらず強引だな。わかったよ。 堂本 (声のみ)よしっ。あ、今日はかわいい後輩も一緒だから部屋片付けとけよ。 小西 (声のみ)ちょっと、先輩。そういうこというの止めてください! 高橋 (聞こえないふりで)わかったわかった。じゃあ、待ってるよ。  高橋、電話を切る。 高橋 ごめん。また堂本来るから騒がしくなるけど。 わらわら あ、全然ほんと私のことは気にしないでください。(冗談めかして)むしろほら、人間のお友達を大事にしてくださいよ。 高橋 ごめんね。あ、ほら金平糖買ってきたんだ。良かったら奥で友達と食べてたら? わらわら えっ?知ってたんですか? 高橋 うん、何となく。ときどき声がするから。他にもざしきわらしがいるんでしょ? わらわら あ、はい。  インターホンがなる。 高橋 ごめんね。 わらわら あ、じゃあ私奥に行ってます。  高橋、ドアを開ける。 堂本 いやー、疲れたよ。 高橋 お疲れ様。(小西を見て)後輩ってやっぱり小西さんか(笑)。 小西 すみません。私で。 高橋 いや、全然そういうことじゃなくて。堂本になつく後輩って小西さんくらいだよなと思って。 堂本 それ、どういう意味ですかー? 高橋 言葉通りの意味だよ(言いながらグラスを持ってくる) 堂本 ありがと。お酒を注ぐ。 小西 あ、私やりますよ。 堂本 大丈夫、大丈夫。そんなに気使わなくていいから。 高橋 (堂本に注いでもらって)ありがと。じゃあ、お疲れ様!小西さんもこいつの下でほんとお疲れ様。 小西 いえ、私は全然。堂本先輩にもよくしていただいてますし。 堂本 ちょっと、うちの後輩困らせないでよ。 高橋 普段、お前が困らせてるんじゃないのか。佐藤課長、マジ使えないよね。とか聞こえる声で同意求めたりして。 小西 そんなことは、たまにありますけど。 堂本 だって、本当に使えないんだから仕方ないじゃん。そっちこそ、最近急に付き合い悪くなって大丈夫なの? 高橋 そうか。 堂本 だって、若手で花見に来ない奴とかレアでしょ。意外とみんなチェックしてるよ。 高橋 あー、あんまり気分乗らなくてさ。 堂本 ほんと年じゃないの?大丈夫? 小西 桐谷君も心配してましたよ。最近、高橋先輩全然係りの飲み会に来ないけどどうしたんだろって。 高橋 そんな目で見られてるのか、俺。 堂本 で、実際どうなのよー。もしかして彼女でもできた? 小西 あ、そうなんですか? 高橋 違うって。何か疲れたまってるから一人の時間でも増やしてリフレッシュしようかと思って。 堂本 ふーん、ならいいけど。あんまり目つけられないようにしときなよ。めんどくさいから。 小西 先輩、リフレッシュってなんか趣味とかなさるんですか? 高橋 あー、俺無趣味だからな。 堂本 無趣味とかマジつまんない。 高橋 うるさいなー。あ、強いて言うなら最近甘い物買うのに凝ってる。 堂本 は?そんなに甘い物好きだっけ? 高橋 いや、そうでもないんだけど今まで食べてなかったから逆に? 小西 甘い物は疲れたときにいいですよね。私、ときどきケーキホールで買っちゃいます。 堂本 まじで?それ一人で食べるの? 小西 ええ。 高橋 悪い。俺のはここまでストイックな趣味ではないわ。 小西 えー、食べませんか? 高橋 食べないです。 堂本 あ、もうこんな時間か。小西ちゃん終電早かったよね。 小西 あ、意外にいい時間ですね。 高橋 じゃあ、駅まで送ってくよ。 堂本 悪いね、いつも。あ、そうだ高橋、早く出欠出してよ。 高橋 出欠? 堂本 ほら、辛島の出世祝い飲み。あんた以外、返信来てるんですけどー。 高橋 あーー、忘れてた。後で予定確認してメールするよ。 堂本 もー。え、ってか雨降ってるんだけど。傘ないし。 小西 先輩、私二本傘ありますよ。 堂本 マジで。気が利きすぎだよー。  話しながら出ていく三人。高橋が電気を消す。外は雨。わらわらは話の途中から奥から 顔を覗かせて聞いている。 第5幕 暗い部屋で考え事をするわらわら。外は雨の音。帰って来る高橋。 高橋 ただいま。 わらわら あ、お帰りなさい。 高橋 あ、ごめんね。電気つけてくれて良かったのに(言いながら電気をつける。)。 わらわら あ、全然お気になさらず。 高橋 そっちこそ元々の住人なんだから気を遣わなくていいよ。堂本とかうるさかったでしょ。ごめんね。 わらわら いえ、お二人とも高橋さんのことを心配してるんだと思います。 高橋 そんなに心配しなくてもいいのにね。わらわらと喋ってるの楽しいし。 わらわら それは、違うと思います。 高橋 えっ? わらわら やっぱり、私なんかより同期の方とかと仲良くした方がいいと思います。 高橋 どういうこと? わらわら 本当はわかってるんじゃないですか。私は、ざしきわらしですよ。 高橋 …… わらわら すみません。出過ぎたことを言いました。お休みなさい(逃げるように奥へ行く) 高橋 ……。お休み。  音楽入る。無声演技で寝て、起きて、仕事に行く。奥の部屋から突き飛ばされてくるざ っしー。ふてくされた顔で掃除とかしてる。高橋がお菓子を持って帰って来る。 第6幕 高橋 ただいまー。あれ? ざっしー おう、おかえりー。 高橋 君は? ざっしー 俺、ざしきわらしのざっしー。よろしく。 高橋 あ、うん。よろしく。あの、 ざっしー (遮って)わらわらに強制チェンジされちゃってさ。 高橋 へっ?チェンジってどういうこと? ざっしー いや、俺もよくわかんないんだけどさ。私じゃだめだからざっしーよろしくってヒステリー起こされちゃってさ。あいつ怒ると怖いんだよねー。 高橋 そうなんだ。 ざっしー (高橋の袋を見て)あ、それ和菓子?食っていい? 高橋 (投げやりに)どうぞ。 ざっしー おー、ありがと。あんたいいやつだな。  高橋の携帯が鳴る。 ざっしー おっ、メール来てるぜ。 高橋 わかってるよ(いいながら携帯を開く) ざっしー (携帯を後ろから覗き込んで)へー、今度ご飯でも行きませんかってデートのお誘い? 高橋 うるさいな。 ざっしー これ、この前来てた若い子でしょ?意外とモテるんじゃんー。  そこに鳴る携帯。 高橋 (ざっしーに若干いらっとしながら)はい、もしもし。 堂本 (声のみ)お疲れー。昨日は、ごめんね。急に。 高橋 いや、いいよ。別に楽しかったし。 堂本 (声のみ)直接はあんまり言ってなかったけど、小西がほんとにあんたのこと心配してたからさ。 高橋 え? 堂本 (声のみ)いや、たまに資料とか渡しに行っても心ここにあらずな感じで受け取るし、最近どうしたんでしょうかねって。 高橋 …… 堂本 (声のみ)だめだよー。後輩を心配させちゃ。 高橋 気を付けるよ。 堂本 (声のみ)お宅の部署の無駄に優秀でかわいげのない後輩と違うんだからさ。 高橋 あいつの話をしないでくれ。テンションが下がる。 堂本 (声のみ)はいはい、ま、でもそういうわけで昨日押しかけたのは私のせいだけじゃないんです。 高橋 結局、言いたかったのはいい訳か。 堂本 (声のみ)はい、そうです!それだけ。あと、小西はいい子だから。じゃあ、お疲れ(言うだけ言って電話を切る)。 高橋 おつか…ってもう切れてる。 ざっしー いつも来てるお姉さん?あの、お姉さん騒がしいよな。 高橋 そうだな。 ざっしー ま、皆から心配されてていいことだ。ってわけで俺いらないな。ごちそーさま。  言うだけ言って、奥にはけるざっしー。 高橋 えっちょっと!はぁ。……わらわらは?  音楽入る。携帯を眺めてメールを返信する。考える男。しばらくしてパソコンを立ち上 げる。何か検索とかしている。そのまま寝てしまい、朝になってあわてて会社に行く。ざ っしーが出てきて片づけをする。きしが「数日後」と幕を出す。 第7幕 わらわらがちょっと出てくる。 わらわら 調子はどう? ざっしー んー、順調って言っていいのかな? わらわら 何それ? ざっしー あいつ引っ越すっぽいよ。 わらわら えっ?何で? ざっしー さぁ? わらわら あんたがうざいんじゃないの? ざっしー マジで!?ガーン、ちょっと聞いてみるわ。 わらわら そうならきしに代わりなよ。 きし 何何―。ざっしー、また嫌われたの? ざっしー うるせーよ、俺がいつ誰に嫌われたんだよ!勝手に嫌われもんにすんなよ。 きし ざっしーはデリカシーがないからなぁ。  そこに帰って来る男。わらわらときしが急いで隠れる。男はちょっとそれを見るが見て 見ぬふりをする。 ざっしー おー、お帰り。 高橋 ただいま、君は相変わらず元気だね。 ざっしー おう。お菓子ないのか? 高橋 ないよ。 ざっしー 残念。 高橋 (少し笑って)今日はこれから片付けなきゃいけないからね。 ざっしー なんでだ?もう引っ越すのか? 高橋 うん、もう部屋も決まってるし。明日には引っ越すよ。 ざっしー そっか。なぁ、何か俺悪いことしたか? 高橋 違うよ。わらわらはもちろん、君と喋るのも楽しかったよ。 ざっしー よかったー!!俺、嫌われもんじゃない! 高橋 うん、でもそれじゃやっぱきっとだめだからさ。 ざっしー ? 高橋 俺、ここにいるとここにずっといたくなっちゃうから。 ざっしー それって悪いことか? 高橋 うん、少なくともわらわらはそう思ったんだと思う。 ざっしー そっか。じゃあ、きっとそうなんだな。 高橋 君は、単純だね。 ざっしー だって俺よりわらわらの方が頭いいんだから、わらわらの言うことの方が正しいんだよ。で、引っ越し準備か。俺も手伝うぜ。 高橋 ありがとう。じゃあ、さっさと片付けるか。  音楽入る。二人でばたばたと片付ける。あからさまに段ボールの止め方とかが雑なざっ しー。苦笑しながら一緒に片付ける高橋。時々見守るわらわら。そのまま疲れて眠る二人。 暗くなる。わらわらがこそこそ出てきて雑な段ボールとかを直してあげる。高橋の近くに 行くが声はかけない。高橋は起きているが寝たふりをしたまま「ありがとう」と一言言う。 第8幕 明るくなる。インターホンが鳴る。慌てて起きる高橋。堂本と小西がやってくる。 堂本 おはよう。うわー、絶対寝起きでしょー。 高橋 昨日、結構荷造り遅くまでかかってさ。 小西 お邪魔します。 高橋 小西さんまでごめんね。休みの日に。 小西 いえ、私は堂本先輩についてきただけですし。 堂本 ってかきれいになくなったわねー。じゃあ、あの段ボールだけ積めばいいのね。 小西 私、持っていきます。 高橋 ありがとう。これが軽いかな。(小西に渡す) 堂本 私も持つよ? 高橋 じゃあこれ。ってか車ありがとな。 堂本 いーえー、どーせ今日両親も使ってないし。この荷物なら引越し屋頼むほどでもないでしょ。 高橋 助かった。何かお昼いいもんおごるよ。 堂本 やった。じゃあ、これも持ってちゃお(もう一つ荷物を持つ)。あんたは忘れ物ないか最終チェックちゃんとしなさいよ。  堂本、小西部屋を出ていく。高橋、名残り惜しむように部屋を見渡してから去る。 高橋 (入口のところで)元気でね。  ドアが閉まる。暗転。 エンディング 明転すると、滝沢、ざっしー、きし、わらわらが机を囲んでいる。わらわらが一人で飲ん でしゃべっていて、滝沢は寝ている。ざっしー、きしは困っている。 わらわら そんなこんなですよ。 滝沢 …… わらわら 滝沢さん!?あなたにしゃべってるんですよ! ざっしー 滝沢、3時間くらい前から寝てるぜ。 きし うん、きしも眠い。 わらわら あー、もうこれだからざしきわらしなんかやってらんない。 ざっしー それはなんか違うだろ。 わらわら 滝沢さん!?せっかく愚痴を聞いてあげようと思ったのに。 きし 愚痴ってるのはわらわら わらわら 何かいった!? きし ごめんなさい。 ざっしー あー、もう朝だぜ。いい加減寝ようぜ。滝沢とわらわらのせいでろくでもない夜だった。 わらわら 滝沢さーん、朝ですよー。 滝沢 ん?6時か。あー、よく飲んだ。 わらわら あれ、意外としゃきっとしてるんですね。つまんなーい。 滝沢 あんたが飲み過ぎなだけでしょ。私は次の日残らない性質なの。 わらわら で、わかりました?ざしきわらしもいろいろ大変なんです。 滝沢 こいつ、飲ましちゃだめね。 ざっしー 珍しく同館。 きし うん。 滝沢 (バッグを持って帰り支度を始めながら)あ、そうそう。 ざっしー あ? 滝沢 このマンション、取り壊すことになったから。  音楽入る。 ざっしー は? 滝沢 だから、このマンション、取り壊すの。 きし え? ざっしー どうして? わらわら へ? 滝沢 ほら、この部屋も次々と引っ越すし地主が嫌になっちゃったんじゃない。マンショ ン取り壊して駐車場にするって。だからもうすぐなくなるわよ。じゃあ、そういう ことで。  言いながらさっさと出ていく滝沢。パニックになる三人。 ざっしー どうする? きし どうしよう! わらわら どうしようって言っても。  三人、顔を見合わせて。 三人 引っ越そう! ざっしー どこ行こうか? きし 今度はもっと広い部屋がいいな。 わらわら 広い部屋に住んでいる人はきっと寂しくないよ。 ざっしー そんなことねーだろ。 きし あ、あとシステムキッチンの家とか。 わらわら システムキッチンに住む人が美味しい料理を作るとは限らないと思うよ。 きし そうだけど。 ざっしー ま、とりあえず行こうぜ。家探しの旅へ!  音楽大きくなる。三人楽しそうに出ていく。幕。  ---------------------------------------------   以上、いかがでしたでしょうか?   よろしければ下記のページより、感想を御記入下さい。   もちろん、叱咤激励なんでもかまいません。   作者の方の励みにもなりますので・・・    http://haritora.net/bbs/?type=10022   また、下記ページから作品の評価登録も可能です。(要登録)    http://haritora.net/critic/member/look.cgi?script=10022  それでは、今後とも『はりこのトラの穴』をよろしくお願いいたします。